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責任
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目の前にいる彼女の様子を見て俺は驚きを隠せずにいた。
普段のナーシャは少し抜けてる所はあるが、常に笑顔を絶やさず、佇まいを崩さない。まさに貴族として完璧な印象だった。
だが、今の彼女はそれとはほど遠い。
俺を見て驚いてるのか、表情は唖然としており、疲れているようにハァハァと息を上げている。
それによく見ると、少し髪が乱れており、顔色を少し悪い。疲れが取れてないように見えてしまう。
「あ、アクセル...様」
すると、ナーシャが持っていた得体のしれない液体が入った瓶がするりと彼女の手から落ち始める。
「うおっ!」
流石にそれを落としてはいけないと思った俺はソファに座った状態から彼女の方に向かい、今にも地面に衝突しそうな瓶を落とす前になんとかキャッチする。
あ、危ねぇ...!なんか床にこぼしたらとんでもない予感がしたけど助かった...ん?でもこれって....。
そう思っていると瓶を掴んでない手を誰かが握りしめてきた。
その人物、ナーシャのその行動にどうしたんだと聞こうとした時、今も俯いた状態で表情が見えないまま、彼女はぽつりぽつりと語り始める。
「....なにを、しているんですか……?
どうして、こんな所にいるんですか?危険かもしれないんですよ?」
ナーシャの言葉からは密かに怒りを帯びていた。アクセルこと俺の行動に非難しているのか、それともその時何も出来なかった自分に対する怒りなのか....そのまま言葉を発する。
「……確かに貴方はお強いかもしれません...その志は誰よりも固く、折れることのないものかもしれません.....ですが...!」
「...貴方の命は一つしかないのですよ!?」
俺の方を見たナーシャの顔は....涙でぐしゃぐしゃになっていた。
それに今度は俺の方が呆気に取られてしまった。
そして、彼女はその発言でタガが外れたのか、声を荒げる。
「なぜ自ら毒を飲まれたのですか!?どうしてそのことを誰にも言わなかったのですか!?そうしたら、我々だって動けていたのに...!貴方に危険な目に遭わせなかったかもしれないのに...!あの時だってそうじゃないですか!レド・ペレクに殴られたのにもかかわらず、貴方は我々に頼らず、全部一人でなんとかしようとして....私達は貴方の飾りですか?それともお邪魔なのですか?」
だんだんとその声は弱々しく、最終的には風で吹き飛ばされそうな声になっていた。そして俺の身体にナーシャは身を寄せて、その弱々しい声のまま彼女は呟いた。
「お願いです...もう、あんな無茶はしないでください....貴方の命はもう貴方だけのものじゃないから....!」
悲観に帯びた彼女の声に俺は心を締め付けられてしまった。
...これは、悪いことしたな。
いや確かに他の人よりかは大事にされてるなとは思ったけど...まさかここまでとは...
その様子に申し訳無さを感じながらも、ナーシャに声を掛ける。
「....心配、かけましたね。」
「っ!本当に....!本当に、そう、ですよ....!!」
そして何かが切れたように、俺の服に顔を埋めながら彼女は自分の弱さを他人に見せないように声を殺して泣き始めた。そんな彼女を子供をあやすように俺は目の前にある頭を撫でながら、静かにその言葉を告げた。
「ただいま戻りました...ナーシャ」
◇
あの後、彼女が落ち着くまで少し時間がかかった。
ただ親に自分の醜態を見られて流石にいたたまれないのか、顔を真っ赤にさせて俯きながらこちら側に座っている。
隣ではぽつぽつ...と何を言っているか分からないくらいの声量で呟いている。
その様子にバレロナ様は...少し顔を顰めているように見える。
「ハ、ハハ...何やらお楽しみな様子でよろしいことで....」
な、なんかさっきのナーシャとは違う怒りを声から感じてしまう....あれ?なんでだ?さっきからこの部屋がとてつもなく寒い気が....
「...まぁそれは、この件が終わった後に話し合おうか、アクセル君?」
「は、はい...」
....もしかして彼の中で俺はとんでもない地雷を踏んでしまったかもしれない。
何故か俺の身体中が冷や汗で止まらず、そしてバレロナ様の顔が般若にしか見えなくなってしまった....どうしよう、素直に怖い。
そう思っていると彼はため息を吐きながら、切り替えるように真剣な表情で話始めた。
「...先日、神童が動いたことにより、私達はペレクの奴らに加担している者たちの一掃を始めた。」
「ッ...それはまた、大変なことになりましたね」
なるほど...神童ということはこうなったアルマン兄上が原因か。それで証拠が見つかった事により、カロナイラ家も動き始めたと....。
「とぼけなくてもいい。君はそのことについて話すためにこちらへ出向いたのではないのかな?」
そう言って彼は本題を話してくれ、とでも言っているかのように目を細める。
……どうやら、こちらのことは相手には筒抜けのようだ。
これ以上、誤魔化しても無駄だと思った俺は、その要求をバレロナ様に言い放った。
「この度の件、ペレク家の後始末を私たち、レステンクール家に任せてはいただけないでしょうか?」
その言葉に、バレロナ様は目つきを変え、さっきまで俯いてたナーシャは目を見開きながらこちらを見てきた。
「……その言葉、承知の上という事でいいのかな?」
声色は他の人よりも優しいが、内容はそうではない。それもそうだろう、もしこれが失敗でもしたら全責任を全部俺たちに来るということだ。
それも王国の反乱の可能性のある事案だ。
きっと失敗でもすれば、おそらく相当重い責任を背負うことになる。
だが、俺はそんなのまるで恐れてないかのように、表情を変えずに彼に返事をする。
「えぇ、その認識で構いません……強いて言えば、全責任を私、アクセル・アンドレ・レステンクールが取りたいのですが……それは、メンツの都合上よくありませんね」
その言葉にもはや呆れているのか、頭を抱えながらバレロナ様は俺に返す。
「そういう問題ではない。そもそも成功する保障がないのだ。いくら英雄《ブリュンヒルデ》がいるからってそう簡単に承認するわけには……」
…まぁそうだろう。そんな簡単に承認なんてすれば、失敗した時、王国の信頼にもひびが割れることとなる。だから、これには彼も慎重に進まなければならないのだ。
「…ジークリンデ・オルバドス」
だから、彼を納得させるための切り札を使うことにした。俺がその名前を言うと、バレロナ様は目を見開き、こちらをまじまじと見ている。ナーシャはその名前になんの意味が分からないのか、首を傾げている。
「…ジークリンデ……嘗て世界でも名を馳せた伝説の冒険者……舞姫《ワルキューレ》」
「えっ?それってあの舞姫《ワルキューレ》なのですか?」
その名は知ってるのか、ナーシャも反応を見せる。
それもそのはず。彼女の剣舞はこの世界でも特定の者達の中でひっそりと語り継がれている、少し有名な話だ。それは物語の元となるほどにだ。
確かに、実際に見てあれは一つの芸術と言ってもいいのでかもしれい。
「……それに、その名前は我らにとっても関係ではない話……オルバトス家、数十年前までこの国の貴族のトップに君臨していた家名……まさかその名前をここで聞けるとはな」
だが、一体なんの関係が?と訴えかけるように再び俺の方を見てきたのでそれに答えるように俺は口を開く。
「ジークリンデ・オルバドス…それは我らレステンクール直属の騎士団、ウィンドブルムを率いる団長の名前……つまり、舞姫《ワルキューレ》は私たちの所にいるのです」
「なっ…!」
流石に予想できなかったのだろう、先ほどよりも見開いている。だが、それも束の間。バレロナ様は何かを思い出したのだろうか手に顎を置いて、考え始める。
「…まさか、今回護衛したあの長い金髪の女性は……妙に面影があると思ったら……あのジークだとは……」
どうやら、彼女のことを思い出したようだ。その様子を見つつ、俺は彼に話し続ける。
「彼女達なら、いくらペレクの連中が勢力を上げようとも意味はないはず。それを貴方がよく分かっているのではないのですか?」
その発言にバレロナ様は彼女らの戦闘を思い出している。
舞姫《ワルキューレ》であるジークはその圧倒的な剣舞と技術の前に悉く潰されていく。いくら相手が多いからといって、彼女にとってはそれは無意味に等しいと言っていいだろう。実際、魔物の大量発生による「魔物の大祭り」も彼女は何度も一人で対処してきた。
英雄《ブリュンヒルデ》と呼ばれるマリア。
彼女はその圧倒的なパワーと底がしれない忍耐力で敵を殲滅していった。彼女がそう呼ばれ始めたきっかけとなる魔物、古龍の一体である「ナーガ」を単独で数時間という長期戦を巡って見事勝利を納めたのだ。
その戦歴と自分が見た光景を思い出したのだろう。そのせいか、俺の発言は妙に説得力が増している。
「…確かにあの二人が共闘するのであれば、この件も無事、対処出来るかもしれん…」
上手くいったか…そう思った瞬間、隣にいるナーシャが思い出したかのようにバレロナに何かを伝え始めた。
「お、お待ちくださいお父様!今回の件、もしかすると危険かもしれません!」
「どうしたのだナーシャ?そんな声を荒げて……」
バレロナ様がそう言うとナーシャは自分の手元に持っている不気味な液体の入った瓶を俺たちが見えるように机に置く。
「……ある貴族の屋敷から出てきた物です」
「ん?確かに妙な気配を感じるが、これが一体どうしたというのだ?」
するとナーシャは自分の胸に手を置いて深呼吸をしながら、その液体の概要を俺たちに伝えた。
「………これは……魔法薬です」
「なんだと…!?」
……あぁ、そういえばそうだったな。
魔法薬と言えば、人間の国では持つことが禁止されている物だ。何故ならこれがあると言うことは即ち、多種族との何かしらの交渉をしてると言ってるようなものだからだ。
妙に見覚えが会ったと思ったら道理で....。
「……それにお父様…これは……」
ナーシャが何かを言おうとした瞬間、それを遮るように…いや彼女がそれを待っていたかのようにドアが開かれる。
「失礼します…ナーシャ様、ご命令通りにこれを持ってきました」
入ってきたのは騎士のような格好をした一人の女。そいつがナーシャに一枚の紙を渡していた。
「ありがとうございます。それでは貴方は私が来るまで外で待機をしていてください」
「分かりました」
すると、それだけ渡して、一瞬俺を見て目を見開いたがすぐに切り替え、部屋を出ていった。
「お父様、こちらをご覧ください」
「……まさかとは思うが……」
彼は一粒の汗を流して、騎士によって渡された紙と机においてある魔法薬を交互に見て比べている。
「………ナーシャ。これは本当なのか?」
「はい.....予想が正しければ.....この一件、おそらく魔族が関連していると思われます」
その単語を彼女の口から改めて聞いた瞬間、バレロナ様が息を飲んだように見えた。そしてそのまま目を閉じて落ちつかせるように深呼吸をしながら、俺に向き合い告げる。
「アクセル君。悪いが....」
「お言葉ですが」
だが、俺は彼の言おうとしている言葉を遮る。悪いが、そんなことを言うためにここに来たんじゃない。裏に魔族が絡んでることを彼らが知るのは、王都の様子を見てから考え済みだ。だから今、俺がやるべきなのは......。
「私はそれを含めて、武力行使の権限をもらいに来たんです、バレロナ様」
.....この戦いというフィールドを味方につけること。
さて....彼らをどう納得させるか。
そんなことを考えながら、俺は彼らと向き合うのだった。
そして舞台は戦場に移ることとなる。
普段のナーシャは少し抜けてる所はあるが、常に笑顔を絶やさず、佇まいを崩さない。まさに貴族として完璧な印象だった。
だが、今の彼女はそれとはほど遠い。
俺を見て驚いてるのか、表情は唖然としており、疲れているようにハァハァと息を上げている。
それによく見ると、少し髪が乱れており、顔色を少し悪い。疲れが取れてないように見えてしまう。
「あ、アクセル...様」
すると、ナーシャが持っていた得体のしれない液体が入った瓶がするりと彼女の手から落ち始める。
「うおっ!」
流石にそれを落としてはいけないと思った俺はソファに座った状態から彼女の方に向かい、今にも地面に衝突しそうな瓶を落とす前になんとかキャッチする。
あ、危ねぇ...!なんか床にこぼしたらとんでもない予感がしたけど助かった...ん?でもこれって....。
そう思っていると瓶を掴んでない手を誰かが握りしめてきた。
その人物、ナーシャのその行動にどうしたんだと聞こうとした時、今も俯いた状態で表情が見えないまま、彼女はぽつりぽつりと語り始める。
「....なにを、しているんですか……?
どうして、こんな所にいるんですか?危険かもしれないんですよ?」
ナーシャの言葉からは密かに怒りを帯びていた。アクセルこと俺の行動に非難しているのか、それともその時何も出来なかった自分に対する怒りなのか....そのまま言葉を発する。
「……確かに貴方はお強いかもしれません...その志は誰よりも固く、折れることのないものかもしれません.....ですが...!」
「...貴方の命は一つしかないのですよ!?」
俺の方を見たナーシャの顔は....涙でぐしゃぐしゃになっていた。
それに今度は俺の方が呆気に取られてしまった。
そして、彼女はその発言でタガが外れたのか、声を荒げる。
「なぜ自ら毒を飲まれたのですか!?どうしてそのことを誰にも言わなかったのですか!?そうしたら、我々だって動けていたのに...!貴方に危険な目に遭わせなかったかもしれないのに...!あの時だってそうじゃないですか!レド・ペレクに殴られたのにもかかわらず、貴方は我々に頼らず、全部一人でなんとかしようとして....私達は貴方の飾りですか?それともお邪魔なのですか?」
だんだんとその声は弱々しく、最終的には風で吹き飛ばされそうな声になっていた。そして俺の身体にナーシャは身を寄せて、その弱々しい声のまま彼女は呟いた。
「お願いです...もう、あんな無茶はしないでください....貴方の命はもう貴方だけのものじゃないから....!」
悲観に帯びた彼女の声に俺は心を締め付けられてしまった。
...これは、悪いことしたな。
いや確かに他の人よりかは大事にされてるなとは思ったけど...まさかここまでとは...
その様子に申し訳無さを感じながらも、ナーシャに声を掛ける。
「....心配、かけましたね。」
「っ!本当に....!本当に、そう、ですよ....!!」
そして何かが切れたように、俺の服に顔を埋めながら彼女は自分の弱さを他人に見せないように声を殺して泣き始めた。そんな彼女を子供をあやすように俺は目の前にある頭を撫でながら、静かにその言葉を告げた。
「ただいま戻りました...ナーシャ」
◇
あの後、彼女が落ち着くまで少し時間がかかった。
ただ親に自分の醜態を見られて流石にいたたまれないのか、顔を真っ赤にさせて俯きながらこちら側に座っている。
隣ではぽつぽつ...と何を言っているか分からないくらいの声量で呟いている。
その様子にバレロナ様は...少し顔を顰めているように見える。
「ハ、ハハ...何やらお楽しみな様子でよろしいことで....」
な、なんかさっきのナーシャとは違う怒りを声から感じてしまう....あれ?なんでだ?さっきからこの部屋がとてつもなく寒い気が....
「...まぁそれは、この件が終わった後に話し合おうか、アクセル君?」
「は、はい...」
....もしかして彼の中で俺はとんでもない地雷を踏んでしまったかもしれない。
何故か俺の身体中が冷や汗で止まらず、そしてバレロナ様の顔が般若にしか見えなくなってしまった....どうしよう、素直に怖い。
そう思っていると彼はため息を吐きながら、切り替えるように真剣な表情で話始めた。
「...先日、神童が動いたことにより、私達はペレクの奴らに加担している者たちの一掃を始めた。」
「ッ...それはまた、大変なことになりましたね」
なるほど...神童ということはこうなったアルマン兄上が原因か。それで証拠が見つかった事により、カロナイラ家も動き始めたと....。
「とぼけなくてもいい。君はそのことについて話すためにこちらへ出向いたのではないのかな?」
そう言って彼は本題を話してくれ、とでも言っているかのように目を細める。
……どうやら、こちらのことは相手には筒抜けのようだ。
これ以上、誤魔化しても無駄だと思った俺は、その要求をバレロナ様に言い放った。
「この度の件、ペレク家の後始末を私たち、レステンクール家に任せてはいただけないでしょうか?」
その言葉に、バレロナ様は目つきを変え、さっきまで俯いてたナーシャは目を見開きながらこちらを見てきた。
「……その言葉、承知の上という事でいいのかな?」
声色は他の人よりも優しいが、内容はそうではない。それもそうだろう、もしこれが失敗でもしたら全責任を全部俺たちに来るということだ。
それも王国の反乱の可能性のある事案だ。
きっと失敗でもすれば、おそらく相当重い責任を背負うことになる。
だが、俺はそんなのまるで恐れてないかのように、表情を変えずに彼に返事をする。
「えぇ、その認識で構いません……強いて言えば、全責任を私、アクセル・アンドレ・レステンクールが取りたいのですが……それは、メンツの都合上よくありませんね」
その言葉にもはや呆れているのか、頭を抱えながらバレロナ様は俺に返す。
「そういう問題ではない。そもそも成功する保障がないのだ。いくら英雄《ブリュンヒルデ》がいるからってそう簡単に承認するわけには……」
…まぁそうだろう。そんな簡単に承認なんてすれば、失敗した時、王国の信頼にもひびが割れることとなる。だから、これには彼も慎重に進まなければならないのだ。
「…ジークリンデ・オルバドス」
だから、彼を納得させるための切り札を使うことにした。俺がその名前を言うと、バレロナ様は目を見開き、こちらをまじまじと見ている。ナーシャはその名前になんの意味が分からないのか、首を傾げている。
「…ジークリンデ……嘗て世界でも名を馳せた伝説の冒険者……舞姫《ワルキューレ》」
「えっ?それってあの舞姫《ワルキューレ》なのですか?」
その名は知ってるのか、ナーシャも反応を見せる。
それもそのはず。彼女の剣舞はこの世界でも特定の者達の中でひっそりと語り継がれている、少し有名な話だ。それは物語の元となるほどにだ。
確かに、実際に見てあれは一つの芸術と言ってもいいのでかもしれい。
「……それに、その名前は我らにとっても関係ではない話……オルバトス家、数十年前までこの国の貴族のトップに君臨していた家名……まさかその名前をここで聞けるとはな」
だが、一体なんの関係が?と訴えかけるように再び俺の方を見てきたのでそれに答えるように俺は口を開く。
「ジークリンデ・オルバドス…それは我らレステンクール直属の騎士団、ウィンドブルムを率いる団長の名前……つまり、舞姫《ワルキューレ》は私たちの所にいるのです」
「なっ…!」
流石に予想できなかったのだろう、先ほどよりも見開いている。だが、それも束の間。バレロナ様は何かを思い出したのだろうか手に顎を置いて、考え始める。
「…まさか、今回護衛したあの長い金髪の女性は……妙に面影があると思ったら……あのジークだとは……」
どうやら、彼女のことを思い出したようだ。その様子を見つつ、俺は彼に話し続ける。
「彼女達なら、いくらペレクの連中が勢力を上げようとも意味はないはず。それを貴方がよく分かっているのではないのですか?」
その発言にバレロナ様は彼女らの戦闘を思い出している。
舞姫《ワルキューレ》であるジークはその圧倒的な剣舞と技術の前に悉く潰されていく。いくら相手が多いからといって、彼女にとってはそれは無意味に等しいと言っていいだろう。実際、魔物の大量発生による「魔物の大祭り」も彼女は何度も一人で対処してきた。
英雄《ブリュンヒルデ》と呼ばれるマリア。
彼女はその圧倒的なパワーと底がしれない忍耐力で敵を殲滅していった。彼女がそう呼ばれ始めたきっかけとなる魔物、古龍の一体である「ナーガ」を単独で数時間という長期戦を巡って見事勝利を納めたのだ。
その戦歴と自分が見た光景を思い出したのだろう。そのせいか、俺の発言は妙に説得力が増している。
「…確かにあの二人が共闘するのであれば、この件も無事、対処出来るかもしれん…」
上手くいったか…そう思った瞬間、隣にいるナーシャが思い出したかのようにバレロナに何かを伝え始めた。
「お、お待ちくださいお父様!今回の件、もしかすると危険かもしれません!」
「どうしたのだナーシャ?そんな声を荒げて……」
バレロナ様がそう言うとナーシャは自分の手元に持っている不気味な液体の入った瓶を俺たちが見えるように机に置く。
「……ある貴族の屋敷から出てきた物です」
「ん?確かに妙な気配を感じるが、これが一体どうしたというのだ?」
するとナーシャは自分の胸に手を置いて深呼吸をしながら、その液体の概要を俺たちに伝えた。
「………これは……魔法薬です」
「なんだと…!?」
……あぁ、そういえばそうだったな。
魔法薬と言えば、人間の国では持つことが禁止されている物だ。何故ならこれがあると言うことは即ち、多種族との何かしらの交渉をしてると言ってるようなものだからだ。
妙に見覚えが会ったと思ったら道理で....。
「……それにお父様…これは……」
ナーシャが何かを言おうとした瞬間、それを遮るように…いや彼女がそれを待っていたかのようにドアが開かれる。
「失礼します…ナーシャ様、ご命令通りにこれを持ってきました」
入ってきたのは騎士のような格好をした一人の女。そいつがナーシャに一枚の紙を渡していた。
「ありがとうございます。それでは貴方は私が来るまで外で待機をしていてください」
「分かりました」
すると、それだけ渡して、一瞬俺を見て目を見開いたがすぐに切り替え、部屋を出ていった。
「お父様、こちらをご覧ください」
「……まさかとは思うが……」
彼は一粒の汗を流して、騎士によって渡された紙と机においてある魔法薬を交互に見て比べている。
「………ナーシャ。これは本当なのか?」
「はい.....予想が正しければ.....この一件、おそらく魔族が関連していると思われます」
その単語を彼女の口から改めて聞いた瞬間、バレロナ様が息を飲んだように見えた。そしてそのまま目を閉じて落ちつかせるように深呼吸をしながら、俺に向き合い告げる。
「アクセル君。悪いが....」
「お言葉ですが」
だが、俺は彼の言おうとしている言葉を遮る。悪いが、そんなことを言うためにここに来たんじゃない。裏に魔族が絡んでることを彼らが知るのは、王都の様子を見てから考え済みだ。だから今、俺がやるべきなのは......。
「私はそれを含めて、武力行使の権限をもらいに来たんです、バレロナ様」
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