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動き出す悪役
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ナーシャとアクセルが鉢合わせになる少し前。
ここ、王都にある神殿では、未だアクセルが目を醒さずにいた。それは既に息をしてないかと疑うぐらい綺麗に横たわっている。
そもそも毒を取り込んでまだ生きている事自体、奇跡としか言いようがない。
そんな人物、この世界では存在しないのだから。
だが、彼らが呼ぶ「奇跡」は再びアクセルに降りかかる。
◇
——起きろ。
……声が、聞こえる。なんだ…?まだ、寝たいんだけど……。
ぼんやりとしている意識で聞き覚えのあるような声に呼びかけられる。
——お前にはまだやるべき事があるはずだ。
やるべきこと....?なんかあったか?それにそんなの.....。
そんなのあるはずがない....あの時俺は確かに死んだ。あの薄暗い、誰もいない路地裏で....。
――お前は一体、なんのためにここに来た?
.....なんでって....それは.....それは......
...思い出した.....確か俺は....あの大好きな小説の世界に飛ばされて...でもそれは....
――俺の、大切な家族を守ってくれるんだろ?
ッ!?
一気に頭の辺りから痛みが生じ始める。それも尋常ならない程のだ。まるでお前はここにいるべきではないと誰かが訴えているような....俺は.....。
――戻ってこい。お前はまだ.....
―――お前はまだ、眠るときじゃないぞ「アクセル」
瞬間、暗闇とも表現できる真っ暗な空間にほんの少しの光が生じ、時間が経つにつれて、だんだん広がってきている。そして辺りが暖かい光で包まれた瞬間、俺の頭の痛みはすんっと消え、ぼんやりとした記憶を思い出すことになる。
「...あぁ、そうか....俺はまだ、ここで止まるわけにはいかないんだ」
―――それが....
「それが....」
「「俺の選択なのだから」」
◇
「...んん....ここ、は....」
目を開けると.....見覚えのない天井がある。どこかデジャブを感じてしまうこの空気に少し眉を顰めてしまう。そして、俺は時間が経つに連れて、どんどん意識がはっきりとしていった。
「...どうやら....成功した、みたいだな」
そう呟きながら、俺はその万全とは言い切れない身体を少しずつ起こして、倦怠感や痛みを感じながらも最終的にはベットから立ち上がる。
「...全身に虚無のエネルギーを回して、毒を少しずつだが、存在そのものを消す...正直、自分でもめちゃくちゃなことしてるのは承知の上だったが....賭けには勝ったみたいだ」
そう言いながら、前世で患者服ともいっても言いその服を脱ぎ捨て、収納ボックスに入れてあった服に着替える。
庶民らしくもない、だからって貴族らしくもないその中途半端な服...鎧か?
深い黒に覆われた少しだけ刺繍されてある、貴族らしさを放つレザーアーマーに、それに調和するような色合いを持ち、シルクを使っているため肌触りがよく、動きやすさを重視した紺色の布ズボン、そして動きを妨げないスタイルの肩から垂れ下がる緑色のマントは少なからず貴族の威厳を保つのには十分なものであった。
「本当ならもう少し、庶民みたいなものの方が良かったんだけどなぁ...」
王都ラスティアにいる間、カリナに念のためと渡された予備用の服装達....俺のことを考慮してくれたのか、あの重苦しい貴族のコートではなく、まだ庶民にもたまに見られるような、そんな服。
その用意周到さに相変わらずの優秀さを感じつつも、動き始める。
「....さて、じゃああいつらに連絡.....あっそうだ、俺からだとまだ出来ないんだったな...」
ローレンスとユニーレに連絡をしようと風通信を使おうとしたが...如何せん、まだ完璧には習得できていない。そもそもあの魔法、空間魔法前提で使用できる無茶苦茶な技だ。相手の位置が理解できるかつ、卓越の技術があることでできる技だと後で知った。
....え?じゃああいつらはどうやって位置を特定してたんだ....考えないようにしとこう。
「....というか、これバレない方がいいんだよな?」
この世界で唯一毒に生き残った男...うーん下手したら人体実験させられる可能性があるから怖いな...仕方ない。
「どこか、人気のない場所にでもワープするか....」
その呟きと共に未だ万全ではない状態で、魔法を使い、この部屋から出ていった。
「アクセルくーん、失礼しますね~....あれ?」
誰かに見られたような気がしたが....まぁいいだろう。
◇
「...と、ここか....」
ひとまずどこか人気のない場所に移動したんだが....ここ、記憶が間違ってなければ確か、カロナイラ家の近くだったよな.....ちょうどいい。バレロナ様にも少し用が会ったんだから、まずはそこに向かうとしよう。
「出来れば王都をすぐにでも出て自分の領に行きたい所だけど、それは彼にこのことを報告してからだな」
そう言いながら、倦怠感を感じつつ、しっかりとした足取りで歩き始め、そこから移動し始める。路地裏を出ると、いつも通り....とは少し言えない、か?
周りをみると、なぜか騎士達が様々な所をあちこち駆け回ってる。
その様子に疑問を抱いてしまう。すると、周りの声が聞こえ始める。それに耳を傾けることにして、情報を集めることにした。
「おい、そっちは?」
「あぁ。あらかた、ここら一帯の貴族の家については、調べ尽くした。しかしそのほとんどが全員グルだったからな....これだと今調べる所もおそらく....」
「変なこと言うな。だが、ここまで奴らが王都を侵食していたとは...急ごう。ナーシャ様に早く報告せねば。」
そう言いながら、またどこかに行く騎士たちの光景を見ながら俺はその集めた情報を元に少し整理する。
....どういうわけか、ペレク家と繋がっている奴らが発覚したらしい。
だが、数日で動いているとなるとまだ全員は特定できていない....どうやったかは知らないが....尚更カロナイラ家の屋敷に向かわないと....。
原作とは違う出来事に少し動揺したが、そもそもナーシャ自体本来ならここにいるはずのない人物だ。それぐらいの変わりようなら、まだ対応できる。
「...こっちも少し急ぐか」
◇
「ふむ....」
ここ、カロナイラ家の屋敷に一人の男、バレロナが机と向き合っていた。
机にあるのは一つの紙。たかが一枚の紙と思われるがその書かれている内容とは....
「武力行使の承認に....特別部隊の出撃許可....」
それは、国家転覆を目論む者による緊急処置、国家安全保障の一つである武力行使について書かれたものだ。
この国、イメドリアは貴族たちや民衆達の反乱に万が一を備え、この国家安全保障を制定した。
その中にある内政安定の対策の一つとして挙げられるのが先ほどの武力行使である。
本来ならばこれは他国との戦争、被害により使われる外交関係が悪化するリスクのある内容だが、それを国内の反乱に適用。
そして、その武力行使が承認され、戦力として送り込まれるのが「王都ラスティア特別部隊」
この世界でも多くはない技術の「異能」を主に中心に戦闘をする、謎多き部隊。
その実力は流石と言わざるおえなく、その部隊が相手で生き残った者はこの世に存在しないと言われるほどだ。
そんな部隊にペレク家率いる裏切りの貴族の所へ出撃させようととバレロナの友、オルデリングは申した。
ただこれは戦力の減少、王の側近である宰相に恩を売ること、そもそも貴族が関連してなく、より民に不安を増大させられる可能性……様々なリスクがあったため、この承認をバレロナは出来ずにいた。
「…はぁ、全く余計なことをしおってペレク家の奴等め……色々大目に見てはいたが…今回ばかりはこちらも承知しないぞ……だが、あいつもあいつだ。何勝手に武力行使に出ようとしている、そのリスクだって大きいだろうに……」
そんな鬱憤を一人寂しく誰にも聞かれないように呟いたその時、ドアからノック音が聞こえた。なんだと思い、特に何もやましい事はないのでそのまま答えることにする。
「入りたまえ」
「失礼します、旦那様」
そこにいたのは、この屋敷の執事であり、自分の右腕と称しても良い人物、バルタザールがそこにはいた。
「バルタ、一体どうしたのだ?今は特に何もないはずなのだが…」
「それが…」
するとバルタザールも少し困惑をしているのか、少し歯切れを悪くしている。その様子におかしいと思っていると、彼は息を吐いて、それを伝えた。
「………アクセル様が、こちらに赴いています」
「な、なんだと…!」
その内容には驚くしかなかった。あのカップから検出された毒はこの世界でも中々に強力な物だ。正直、もう死んでいてもおかしくない程だ。
だが、それを飲んでも尚、彼は生きてこちらに向かって行ってるのだから驚愕しないわけがない。
奇跡だ…そう思いながらも、アクセルを招くように、バルタザールに命令する。
「今すぐに出迎えよう。バルタ、悪いがアクセル君をここへ連れてきてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
動くにはそう大した時間はかからなかった。
バレロナは彼が来るまでに準備をし、バルタザールは門に待っているアクセルを迎えるべく、すぐに来た通路を往来した。
◇
「やぁ、アクセル君。まさか生きているとはね。これはマエル殿にすぐに報告せねばな。さぁさぁ、そこに座ってくれ」
そんな言葉と共に俺は、執事のバルタザールさんにエスコートされて、バレロナ様であろう部屋の中にあるソファの上へと座る。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
そして、いつの間にか用意していた紅茶の入ったカップを置かれて、俺は少し唖然としてしまった。
まさか、ここまでしてくれるとは……それにいつの間にか準備を…‥油断ならない相手だ。
と、そう思ってるうちに執事のバルタザールさんはすぐに消え失せ、この部屋には俺とバレロナ様の二人になった。
「こうして、君と一対一で話すのは始めてかな?」
「えぇ、色々忙しかったこともあるでしょうし…」
そんな会話が終わり生まれたのは沈黙の空気……そんな空気を破るべく、始めに声をかけたのは俺……ではなく、バレロナ様だ。
「……君が、あの時ナーシャを助けてくれた騎士様かな?」
「ぶふぅっ!」
飲みかけていた紅茶を吐きかけてしまう。し、仕方ないだろ!何故いきなりこんな事を話したのか、それに騎士様って……一体どれだけ聞かされたんですか?
そう思いながらもなんとか、姿勢を整えて彼に答える。
「……はい、彼女の言った事が間違えでなければ」
「……そうか」
すると彼は手に膝を置いてこちらへと頭を下げてくる。それは日本でいう土下座といっても過言ではないくらいに綺麗だ。そんな光景を見て俺はつい驚いてしまった。
「ありがとう……改めてお礼を言わせてくれ。君がいなかったらもしかしたらナーシャはここにいなかったのかもしれない」
前もナーシャに同じこと言われたな…とそんな呑気に考え、前みたいに取り乱したりはせずに冷静に彼に答える。
「頭を上げてください。助けてと呼ばれたのでそれで助けただけですから。それにそんなの当たり前のことですよ」
その言葉に目の前にいるバレロナ様は少し苦笑じみた表情をしていた。
「君は大した人間だ」
まさか、そんな立派な人間ではないという思いで彼に答える。
「いえ、バレロナ様程ではありませんよ」
その言葉に彼は微笑みつつも、本題に入ろうと早速彼に話そうとした。
「さて、まず——」
バンッ!
そんな轟音にも負けない、ドアの音に俺もバレロナ様に驚いてしまう。
そしてその音を出した犯人なのだろう、その人がこちらを凝視しながら、いつもよりもか細い声でその名前を言い放った。
「……アクセル……様?」
「… な、ナーシャ様?」
俺の名前を呟いた人物……ナーシャは信じられないような物を見たかのような、そしてこの時を待ち望んだような表情をして、俺の方をジッと見ていた。
ここ、王都にある神殿では、未だアクセルが目を醒さずにいた。それは既に息をしてないかと疑うぐらい綺麗に横たわっている。
そもそも毒を取り込んでまだ生きている事自体、奇跡としか言いようがない。
そんな人物、この世界では存在しないのだから。
だが、彼らが呼ぶ「奇跡」は再びアクセルに降りかかる。
◇
——起きろ。
……声が、聞こえる。なんだ…?まだ、寝たいんだけど……。
ぼんやりとしている意識で聞き覚えのあるような声に呼びかけられる。
——お前にはまだやるべき事があるはずだ。
やるべきこと....?なんかあったか?それにそんなの.....。
そんなのあるはずがない....あの時俺は確かに死んだ。あの薄暗い、誰もいない路地裏で....。
――お前は一体、なんのためにここに来た?
.....なんでって....それは.....それは......
...思い出した.....確か俺は....あの大好きな小説の世界に飛ばされて...でもそれは....
――俺の、大切な家族を守ってくれるんだろ?
ッ!?
一気に頭の辺りから痛みが生じ始める。それも尋常ならない程のだ。まるでお前はここにいるべきではないと誰かが訴えているような....俺は.....。
――戻ってこい。お前はまだ.....
―――お前はまだ、眠るときじゃないぞ「アクセル」
瞬間、暗闇とも表現できる真っ暗な空間にほんの少しの光が生じ、時間が経つにつれて、だんだん広がってきている。そして辺りが暖かい光で包まれた瞬間、俺の頭の痛みはすんっと消え、ぼんやりとした記憶を思い出すことになる。
「...あぁ、そうか....俺はまだ、ここで止まるわけにはいかないんだ」
―――それが....
「それが....」
「「俺の選択なのだから」」
◇
「...んん....ここ、は....」
目を開けると.....見覚えのない天井がある。どこかデジャブを感じてしまうこの空気に少し眉を顰めてしまう。そして、俺は時間が経つに連れて、どんどん意識がはっきりとしていった。
「...どうやら....成功した、みたいだな」
そう呟きながら、俺はその万全とは言い切れない身体を少しずつ起こして、倦怠感や痛みを感じながらも最終的にはベットから立ち上がる。
「...全身に虚無のエネルギーを回して、毒を少しずつだが、存在そのものを消す...正直、自分でもめちゃくちゃなことしてるのは承知の上だったが....賭けには勝ったみたいだ」
そう言いながら、前世で患者服ともいっても言いその服を脱ぎ捨て、収納ボックスに入れてあった服に着替える。
庶民らしくもない、だからって貴族らしくもないその中途半端な服...鎧か?
深い黒に覆われた少しだけ刺繍されてある、貴族らしさを放つレザーアーマーに、それに調和するような色合いを持ち、シルクを使っているため肌触りがよく、動きやすさを重視した紺色の布ズボン、そして動きを妨げないスタイルの肩から垂れ下がる緑色のマントは少なからず貴族の威厳を保つのには十分なものであった。
「本当ならもう少し、庶民みたいなものの方が良かったんだけどなぁ...」
王都ラスティアにいる間、カリナに念のためと渡された予備用の服装達....俺のことを考慮してくれたのか、あの重苦しい貴族のコートではなく、まだ庶民にもたまに見られるような、そんな服。
その用意周到さに相変わらずの優秀さを感じつつも、動き始める。
「....さて、じゃああいつらに連絡.....あっそうだ、俺からだとまだ出来ないんだったな...」
ローレンスとユニーレに連絡をしようと風通信を使おうとしたが...如何せん、まだ完璧には習得できていない。そもそもあの魔法、空間魔法前提で使用できる無茶苦茶な技だ。相手の位置が理解できるかつ、卓越の技術があることでできる技だと後で知った。
....え?じゃああいつらはどうやって位置を特定してたんだ....考えないようにしとこう。
「....というか、これバレない方がいいんだよな?」
この世界で唯一毒に生き残った男...うーん下手したら人体実験させられる可能性があるから怖いな...仕方ない。
「どこか、人気のない場所にでもワープするか....」
その呟きと共に未だ万全ではない状態で、魔法を使い、この部屋から出ていった。
「アクセルくーん、失礼しますね~....あれ?」
誰かに見られたような気がしたが....まぁいいだろう。
◇
「...と、ここか....」
ひとまずどこか人気のない場所に移動したんだが....ここ、記憶が間違ってなければ確か、カロナイラ家の近くだったよな.....ちょうどいい。バレロナ様にも少し用が会ったんだから、まずはそこに向かうとしよう。
「出来れば王都をすぐにでも出て自分の領に行きたい所だけど、それは彼にこのことを報告してからだな」
そう言いながら、倦怠感を感じつつ、しっかりとした足取りで歩き始め、そこから移動し始める。路地裏を出ると、いつも通り....とは少し言えない、か?
周りをみると、なぜか騎士達が様々な所をあちこち駆け回ってる。
その様子に疑問を抱いてしまう。すると、周りの声が聞こえ始める。それに耳を傾けることにして、情報を集めることにした。
「おい、そっちは?」
「あぁ。あらかた、ここら一帯の貴族の家については、調べ尽くした。しかしそのほとんどが全員グルだったからな....これだと今調べる所もおそらく....」
「変なこと言うな。だが、ここまで奴らが王都を侵食していたとは...急ごう。ナーシャ様に早く報告せねば。」
そう言いながら、またどこかに行く騎士たちの光景を見ながら俺はその集めた情報を元に少し整理する。
....どういうわけか、ペレク家と繋がっている奴らが発覚したらしい。
だが、数日で動いているとなるとまだ全員は特定できていない....どうやったかは知らないが....尚更カロナイラ家の屋敷に向かわないと....。
原作とは違う出来事に少し動揺したが、そもそもナーシャ自体本来ならここにいるはずのない人物だ。それぐらいの変わりようなら、まだ対応できる。
「...こっちも少し急ぐか」
◇
「ふむ....」
ここ、カロナイラ家の屋敷に一人の男、バレロナが机と向き合っていた。
机にあるのは一つの紙。たかが一枚の紙と思われるがその書かれている内容とは....
「武力行使の承認に....特別部隊の出撃許可....」
それは、国家転覆を目論む者による緊急処置、国家安全保障の一つである武力行使について書かれたものだ。
この国、イメドリアは貴族たちや民衆達の反乱に万が一を備え、この国家安全保障を制定した。
その中にある内政安定の対策の一つとして挙げられるのが先ほどの武力行使である。
本来ならばこれは他国との戦争、被害により使われる外交関係が悪化するリスクのある内容だが、それを国内の反乱に適用。
そして、その武力行使が承認され、戦力として送り込まれるのが「王都ラスティア特別部隊」
この世界でも多くはない技術の「異能」を主に中心に戦闘をする、謎多き部隊。
その実力は流石と言わざるおえなく、その部隊が相手で生き残った者はこの世に存在しないと言われるほどだ。
そんな部隊にペレク家率いる裏切りの貴族の所へ出撃させようととバレロナの友、オルデリングは申した。
ただこれは戦力の減少、王の側近である宰相に恩を売ること、そもそも貴族が関連してなく、より民に不安を増大させられる可能性……様々なリスクがあったため、この承認をバレロナは出来ずにいた。
「…はぁ、全く余計なことをしおってペレク家の奴等め……色々大目に見てはいたが…今回ばかりはこちらも承知しないぞ……だが、あいつもあいつだ。何勝手に武力行使に出ようとしている、そのリスクだって大きいだろうに……」
そんな鬱憤を一人寂しく誰にも聞かれないように呟いたその時、ドアからノック音が聞こえた。なんだと思い、特に何もやましい事はないのでそのまま答えることにする。
「入りたまえ」
「失礼します、旦那様」
そこにいたのは、この屋敷の執事であり、自分の右腕と称しても良い人物、バルタザールがそこにはいた。
「バルタ、一体どうしたのだ?今は特に何もないはずなのだが…」
「それが…」
するとバルタザールも少し困惑をしているのか、少し歯切れを悪くしている。その様子におかしいと思っていると、彼は息を吐いて、それを伝えた。
「………アクセル様が、こちらに赴いています」
「な、なんだと…!」
その内容には驚くしかなかった。あのカップから検出された毒はこの世界でも中々に強力な物だ。正直、もう死んでいてもおかしくない程だ。
だが、それを飲んでも尚、彼は生きてこちらに向かって行ってるのだから驚愕しないわけがない。
奇跡だ…そう思いながらも、アクセルを招くように、バルタザールに命令する。
「今すぐに出迎えよう。バルタ、悪いがアクセル君をここへ連れてきてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
動くにはそう大した時間はかからなかった。
バレロナは彼が来るまでに準備をし、バルタザールは門に待っているアクセルを迎えるべく、すぐに来た通路を往来した。
◇
「やぁ、アクセル君。まさか生きているとはね。これはマエル殿にすぐに報告せねばな。さぁさぁ、そこに座ってくれ」
そんな言葉と共に俺は、執事のバルタザールさんにエスコートされて、バレロナ様であろう部屋の中にあるソファの上へと座る。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
そして、いつの間にか用意していた紅茶の入ったカップを置かれて、俺は少し唖然としてしまった。
まさか、ここまでしてくれるとは……それにいつの間にか準備を…‥油断ならない相手だ。
と、そう思ってるうちに執事のバルタザールさんはすぐに消え失せ、この部屋には俺とバレロナ様の二人になった。
「こうして、君と一対一で話すのは始めてかな?」
「えぇ、色々忙しかったこともあるでしょうし…」
そんな会話が終わり生まれたのは沈黙の空気……そんな空気を破るべく、始めに声をかけたのは俺……ではなく、バレロナ様だ。
「……君が、あの時ナーシャを助けてくれた騎士様かな?」
「ぶふぅっ!」
飲みかけていた紅茶を吐きかけてしまう。し、仕方ないだろ!何故いきなりこんな事を話したのか、それに騎士様って……一体どれだけ聞かされたんですか?
そう思いながらもなんとか、姿勢を整えて彼に答える。
「……はい、彼女の言った事が間違えでなければ」
「……そうか」
すると彼は手に膝を置いてこちらへと頭を下げてくる。それは日本でいう土下座といっても過言ではないくらいに綺麗だ。そんな光景を見て俺はつい驚いてしまった。
「ありがとう……改めてお礼を言わせてくれ。君がいなかったらもしかしたらナーシャはここにいなかったのかもしれない」
前もナーシャに同じこと言われたな…とそんな呑気に考え、前みたいに取り乱したりはせずに冷静に彼に答える。
「頭を上げてください。助けてと呼ばれたのでそれで助けただけですから。それにそんなの当たり前のことですよ」
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まさか、そんな立派な人間ではないという思いで彼に答える。
「いえ、バレロナ様程ではありませんよ」
その言葉に彼は微笑みつつも、本題に入ろうと早速彼に話そうとした。
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バンッ!
そんな轟音にも負けない、ドアの音に俺もバレロナ様に驚いてしまう。
そしてその音を出した犯人なのだろう、その人がこちらを凝視しながら、いつもよりもか細い声でその名前を言い放った。
「……アクセル……様?」
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