全てを失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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絶望

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「今街にいる方は全員こちらに避難してください!外は危険ですのでどうか出ないようにしてください!!」

レステンクール領の街の中、アルマンの声が住民達の中で響き渡る。
彼らが指定した大きな広場には既に多くの人達で溢れかえっていた。

まだ被害そのものは出てはいないが、それでも住民の心は不安でいっぱいだろう、それは人々の表情を見れば明白だ。

不安が少しでも小さくなるためにお互いに抱きしめている者、泣いている子供をあやすように、抱っこをして落ち着かせる者、また状況が分からず周りの人に聞くもの....少なくともいつもの平和な街の光景ではないであろう。

それを眺めてアルマンは今も何もせずに見守っている領主、マエルの方に向かう。

「一応、一通りは避難は完了したと思いますが...これからどうしましょうか?」

顔色は万全とは言えない、寧ろ悪いと言ってもいい。
クマは前よりもはっきりと目の下にできており、威厳ある領主の象徴の服はヨレヨレに、髪もジーク程ではないが乱れており、傍から見たら心配になるほど。

そんな状態のマエルは彼に目を向けると、決意を込めたようにアルマンに言い放つ。

「そうだね....なら、そろそろ行こうかな?」

「?どこにですか父上?行くなら僕も一緒に」

「あぁ、アルマンはここに居てくれ....私は、戦場に行ってくるよ」

その言葉にアルマンは驚きで声が出ないのか、一瞬だけ絶句してしまったが、すぐに正気を保つように表情に変え、彼に問い詰める。

「父上、それは危険です。どうか、考え直してください」

「う~ん....それは、ちょっと承諾しかねるかな?」
いつも通りに見せる飄々とした態度に苛ついてしまう。なぜそのような危険なことを....!そんな言葉を言おうとした時、マエルは語りだす。

「みんながここを守るために死守してるのに、領主である私が何もしないわけにはいかないでしょう?」

「ですがそれは...!」

「それに...アクセルはマリアを守るために自分を犠牲にした...私達に、ここを託すように....」

アクセルという名前が出てアルマンは....何も言うことが出来なかった。
彼は混沌の魔女という伝説の存在と相まみえて、戦って生き残った。
それほどの実力があるにも関わらず、彼は大切な存在のために、その力は使わず、自ら毒を飲むというまさに仰天的な行動をした。
自分だけなら生き残れるのにだ。誰かのために彼は彼自身を蔑ろにしたのに何故自分は民のため、人のために行動できないのだろうか?

少なくともアクセルの行動で影響を受けたのは、彼が意識不明な状態で悲しんだ彼女ら三人だけではない。


「私も、息子みたいに誰かのために動きたいんだ」

....この領主もまたアクセルに影響された一人でもあるのだから。




舞台は戦場に移る。
未だに終戦が終わらない様子のレステンクール領の防衛戦。
普通であれば盗賊や魔物ごときにここまで時間がかかることなど彼らならばあり得ないこと。

だが、彼らのコンディションは最悪と言ってもいい。その理由は二つあった。

その一つてして、ジークによる鍛錬の影響。
彼らはこの戦いが起こるまで、休む間もなくずっとジークと剣を交じり合っていた。
また彼女の鍛錬はいつもやっている模擬戦や体力や頑丈な身体を作るためのトレーニングよりも何十倍厳しい。それに彼女の容赦の無さがプラスされた結果、彼らは万全な状態を作れずにいた。

そしてもう一つは―――

「はぁあっ!」
ジークの操る二つの刃が魔族の首を打ち斬らんとしようと迫ってくる。
だが、レイドールは特に焦ることなく、冷静に自分の片手であり、武器である鋭い爪で受け止めた。

するとレイドールはもう片方の爪を一点に力を集中させ、彼女の心臓部位を貫き通そうとするが、彼女は触覚の鋭さから自らの危機を感じ、レイドールの身体を蹴り飛ばし、後ろに退避。

ジークの力強い蹴りを喰らい顔を顰めるレイドールだが、すぐに自分の背中にある黒い光を放つ翼を広げ、、宙にとどまり体勢を整える。

体勢が整った所で空に舞い上がり、対するジークもレイドールを追うべく魔法を発動させる。

「飛行《フライ》」

そう唱えた途端、地面に面していた脚は宙に浮かび、その勢いで空に駆け上がる。
空を舞う彼女の姿はまさに精霊、ジークの姿を見てレイドールは笑みを深めた。

「ほほう、その状態でここまで来ますか。流石ですね」

意味深な言葉を吐きながらも、彼は空中戦を始めようかと宣言しているかのように、ジークと向き合い、自分の方に向かっている彼女と激突する。

互いに攻守攻防。ジークは精霊と化したその動きで自在に飛び回り、レイドールの背中にある翼を狙おうと背後を取り、その鋭い太刀筋で真っ二つにしようとする。

だが、彼の口元が弧に浮かび上がる。その動きを見切ったかのようにジークが剣で襲いかかる前に後ろに振り向き、攻撃を避けながら彼女の懐に入りこみ、自分の渾身の拳をお見舞いする。

「がぁっ...!」

運悪くみぞおちに入ったのだろう、流石のジークもその痛みに顔を歪め、魔法の制御を怠ってしまう。そしてレイドールはその勢いのままお返しと言わんばかりに蹴りを一発食らわす。その攻撃でジークは地面に激突、そのまま追い打ちを食らわすべく、衝突により出来た煙にそのまま突っ込む。

ジークはなんとか立て直そうとしたが、急に身体がよろめき出す。

(な、なんだ?さっきまで動けていたのに、急に身体が....!)

それだけじゃない。立とうとすると、力が抜け、目眩が発生し、身体が拒否するかのように頭痛が生じ始める。

「ッ!」
すると、自分の第六感という本能が働き、思う通りにいかない身体でなんとかその場から離れる。すると突然、何かが衝突したような強烈な爆発音が自分のいた場所から聞こえた。

煙でよく見えないが、おそらくあの魔族が自分に仕掛けた攻撃なのだろうとジークは頭痛が生じる頭でなんとか思考する。だが、考えるだけで精一杯だ。少しでも意識を他の所に向けたらすぐに気が失いそうになるほど、彼女は身体が危機に反していた。

そして煙が開け、その中心にさっき戦ったであろう魔族の姿が見える。

「いやはや、流石ですね。魔族間で噂が出るほどの実力....これほど感極まることは数百年ぶりですよ....ですが」

レイドールの目がジークを捉える。そこにいたのはとても残念そうな、表情をしていた戦闘狂である。

「どうやら効いてきたようですね....本当に残念です」

目の前にいる敵の言葉に疑問が浮かぶ。

どういうことだ?そんな疑問を予想していたかのように、レイドールは哀愁を漂わせながら答える。

「おそらく自分の身体の異変にそろそろ気づいたかと思います...いえ、正確には分かっていたけど隠しきれなくなったと言いましょうか」

「ど、どういう、こと、だ…?」

「簡単なことですよ。貴方の体内に入っている魔法薬が発動したんですよ」

「この戦いが始まるまで、ずっと違和感を感じませんでしたか?いつもよりも調子に出ない。何故身体の調子が悪いと……」

レイドールの言葉にジークは……的を全て的確に射たんじゃないかと思うくらい当てはまった。

領に帰った後の調子は悪かった。だが、マエル様の息子であり自分の大事な人である彼の遺言とも言っていい言葉を胸にそんな変化は心の隅に置いていたのだ。

「だ、だが……はぁ…はぁ…わ、私は、そんなもの……」

「おや?気づきませんでしたか?貴方、帰った時には既に摂取したと聞いたのですが……どうやら何も知らないようですね」

ふむ…と顎に手に考えるレイドール。そして
魔法薬について考えるジーク。まさか…と彼女は嫌な予感を感じ、顔を青ざめる。

「その様子だと気づいたようですね?その通り。今までの者達全員……飲まれていますよ」

そう、これがウィンドブルムが今までよりも数段力が発揮することが出来ない理由である。

そもそもこんな素人にジークが率いるウィンドブルムが負けるはずがないのだ。だが、魔法薬によりその実力は衰え、盗賊や他の魔物と同程度の実力になってしまった。
それほどまでに魔族の作る魔法薬は強力なのだ。

「今回は単純な効果ですよ。弱体化です。えぇ、しかしここにいる人達は効き目が悪かったのですが……その方が私的には嬉しかったのですが……」

そう言いながらゆっくりと彼女の命をその自慢の鋭い爪で狩らんとしようと近づいてくる。

(くそっ…駄目だ…!さっき無理矢理身体を動かしたせいで……う、動けない…!!)

悶えながらもなんとか立とうとするジーク。だが、魔法薬の効果が強まった状態で身体を動かした反動で動けなくなる。

そうしている間に常にも目の前まで近づいてきた自分の命を刈り取る魔族。せめて心は屈しないように目だけを向け、睨みつく。

「いや本当に素晴らしい精神です。身体は屈しようともせめて心だけは負けないその姿勢……まさに、人間の鏡のような存在ですよ」

「だから、残念です……さようなら舞姫《ワルキューレ》」

そしてその爪を自分に突き刺そうとする。

最後に最愛の主人とその息子であるアクセルのことを思い出し、目を閉じるジーク。

ガキンッ!!

瞬間、金属のような物同士が激突したような
音が聞こえる。

「っ!何やられてるのよっ!!」

聞き覚えのある声に気づき、目を開けるとそこには……別の所にいるはずの人物、マリアの姿があった。

正直、今のはまぐれよ。そう言いたかったが…今の彼女にはそんな余裕は皆無に等しい。

「…わ、悪いわね……こんな、惨めな格好見せちゃって……」

らしくない弱々しい姿に目を見開くマリア。だが、彼女もそこまである余裕はあまりなく……


「オラァア!」

空からドデカい声が聞こえたと思ったら、急に地響きがなり響いて、その場が揺れ始める。

見ると、そこにはレイドールとは対照的な筋肉質な体型に、赤色の肌が目立つその異形な姿。額にはツノが二本生えており、ぎらっと光る鋭い目つき。翼は彼を象徴するような紅色の巨大な翼。

「はっはー!見つけたぞ!!マリアァア!!」

ラゴイスタの姿がそこにはあった。
くっ…!という苦し紛れの声を出して再び構え出す。

(途中で、みんなの様子を見てみたけど…ジークみたいに動けなくなる人が多いみたいね……幸い、相手の攻撃がなにかで防いでくれるおかげなのか、まだ戦力は減ってはいないけど……さっさとこいつらを片付けないと……!)

自分たちが今、とてもピンチである事を後ろにいる彼女を見て明白だと理解して、無理を承知で声を掛ける。

「あんたまだ動ける?動けないならこのまままとめて私がやるけど!!」

「……面白い、冗談ね」

魔法薬に犯されながらもゆっくりと、そして確実に立ちあがろうとしているジーク。

「…わた、しがやらな、きゃ……あの人の、想いを、無駄に、しないように…!」

その姿を見て、レイドールはほほぅ…!と感心したような声を出して、その隣にいたラゴイスタは疑念に満ちた表情で眺める。

「おい、あれって舞姫《ワルキューレ》か?今にも死にそうに見えるが。」

「えぇ。彼女も魔法薬の影響を受けているんですよ……しかし、凄いですね」

彼らが話している間に、彼女はなんとか立ち上がり、マリアに並び立つように少しずつ歩いていき、彼らと向き合う。


「………お願いだから、脚だけは引っ張らないで頂戴ね」

「………そっちこそ、すぐに倒れるんじゃないわよ」

お互いがお互いを煽りながらも、確かな信頼を寄せながら二人の持っている三本の刃が彼ら貫き通すように向ける。

「いいですねぇ…!えぇ、流石は私が認めた人間!!もっと私にその力を見せてください!!」

「へへっ…よく分からねぇが、このまま戦いを楽しもうぜ!まだ何も終わってねぇからよ!!」

その闘志、気迫を真っ向から受けて、その勝負の土俵に堂々と聳え立つように構え出す二体の魔族。



そんな二人と二体が激突する時、時間は刻一刻と進んでいた。







その戦場に向かうように、数百の騎士が迫って来たのだ。それを率いるのは勿論……彼らの因縁の相手、ゼノロア・ペレクである。


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