全てを失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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罪と想いを背負いし者

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「全速前進だ!そのまま戦場に突っ込め!!」
一人の騎士の掛け声が周りにいる……ペレク家全員の騎士に聞こえるように声を上げる。そしてそれに応えるように少しずつだが、着々と前進する。

「…これでいいのですか?合図はまだ出ていないと思うのですが……」

一人の男が自分達の領主であるゼノロアに声を掛ける。それに対して、彼は特に何も気にしてないように話す。

「ふんっ、あんな野蛮な奴らの言うことなど、聞くに足らん。それに……奴らも同時に潰せればこちらからしたら好都合だ」

その答えで納得したのだろう。その男はその後特に何も言わずに戦場に向かう。

「さぁ…ここからは我々のターンだ。悪く思うなよ、魔族共よ」

ニヤリと口元を孤に結んだゼノロアは誰もいないにもかかわらずそう言い放ち、自分の勝利に自惚れながら彼もまた進んでいく。





舞台はまたまた戦場に移る。

「いくわよっ!」
先手必勝。最初に動いたのは自身に魔法をかけ始めるマリアであった。

「魔力活性:身体強化《フィジカルブースト》!」

そのまま自分と戦っていた相手、ラゴイスタにさっきまでとはまるで別人の様な動きで突撃する。

「はぁああっ!!」
二体はマリアのその変化に驚きを隠せなかったのか、一瞬呆気に取られる。ラゴイスタはマリアが近づいた事で正気を取り戻し、なんとか腕で彼女の渾身の一撃を防御する。

「ぐっ…!こいつ、まだ力を隠してるのか……!!」

言っていることと矛盾してるようにギラリと相手に歯が見えるほど彼は笑みを浮かべ、マリアのその勢いある攻撃に吹き飛ばされる戦闘狂。

「私も混ぜてくれませんか?」

そう言い放ち、優雅にマリアの背後にとり、爪を突き刺そうとするレイドール。

だが、横から稲妻のような電撃が目の前を通り過ぎる。そして気づいた時には自分の腕が無くなっていた。

「…貴様の相手は、まだ私のはずだが?」

「……くくっ、そうでしたね。すっかり彼女に感化されましたが…」

自分が戦っていた相手……ジークに腕を斬られたのにも関わらず、特に取り乱さない。それもそのはず、その腕はいつの間にか元通りになっているのだから。

「貴方も、私が認めた存在の一人。最後までぜひお相手を…!」

「ほざけ。浮気性の男になど、興味がないわ」

お互いに煽り文句を言った直後、再び激突する。

「…私も参戦すれば、早く終わるとは思うけど……そんな暇は無さそうね」

マリアはそう言って構え始め、剣先に力を集中させる。自分の積み上げた経験、何度も行った緻密な魔力操作、今まで鍛えてあげてきた肉体。それら全てが集まり、吹き飛ばされたであろうラゴイスタの方向にそれは向けられる。

空間は歪み、剣は白く輝く。
その名は——


「次元一閃!」

彼女がそう叫び、剣を振り下ろした途端、剣に集中していた力が一気に放出。それは飛ぶ斬撃とでも表現してもいいように、光の速さを上回る程のスピードでラゴイスタに迫る。

その攻撃に反応できなかった彼はそのまま自身の身体を抉り取られる。遠くに居たにも関わず、一瞬にして届いた彼女の斬撃。

その技術、力。それに対して驚愕の二文字が彼の頭から離れない。

(なんだ今の斬撃……!反応が出来なかった……それにこの切れ味……噂は当てになんねぇな)

その言葉は彼女を貶しているのではない、逆なのだ。その噂はマリアを過小評価しているに過ぎなかった。実際に戦っている自分には分かる……こいつは、自分が思っている以上の「強者」であると。

ラゴイスタは自分の身体を再生しながら、今戦っている相手を再認識し、そしてそれが自分の期待以上だと分かると無意識に口を歪んだ。

「はっはぁ…コイツはぁ…面白くなって来たじゃねぇか!!」

今度は自分の番だと言っているかのように数キロはあった距離を一瞬にして詰め寄せ、魔力で強化した自慢の拳で叩きつける。

マリアはそれに対して直接受けるのは得策ではないと考え、自身の愛剣の軌道に織り混ぜ合わせながら軽やかに受け流す。

(っ!なんて馬鹿力なの…!?)


受け流しただけなのに剣から伝わる振動が相当な物だと分かり、顔を顰めるマリア。だが、そんな暇はないと考えて再び相手の身体を斬るべく、腹あたりに目掛けて剣を振るう。

ガンッ!

そんな鈍い音と共に跳ね返されるマリアの剣。身体には当てたはずだが、そこには無傷のままのラゴイスタがいた。
その頑丈な身体が剣の切れ味を弾き返したのだ。

「かっったいわね!!ほんとにどうなってるのよ!?魔族の身体って!!」

本格的に本気を出し始めたラゴイスタはマリアの姿を認識するとニヤリと笑みを浮かべ、その豪快たる拳で彼女目掛けて殴り続ける。

マリアもさっきみたいに剣で受け流したり、避けたりしているが、如何せん体格差がありすぎて一つ一つの攻撃に対応しきれない。

「お返しだぁああ!」

その結果、見事に直撃を貰ってしまう。
マリアは「ぐぅぅ…!」という苦痛の声を出して、さっきのラゴイスタのように吹き飛ばされてしまい、受け身も取れずにそのまま転がってしまう。

「もういっぱぁつ!!」

自身の自慢の翼を広げ、そのまま低飛行で近づきマリア目掛けて巨大な拳をお見舞いしようとする。

だが、それは不発に終わる事となる。

「はああ!!」

突如として自身の翼が疾風のごとく近づいてきた者に斬られる。そのせいで空中でのコントロールを失ってしまう。

「なっ…!」
ラゴイスタも流石に不意打ちには対応することは出来ず、そのまま地面に激突してしまった。

「……これで、貸し一ね」

マリアの隣に立ち、そう言い放つ舞姫《ワルキューレ》…‥ジークは挑発を込めるように今も地面に伏している彼女を眺めて言う。

「……いいえ」

それに対してマリアは否定をするようにジークの前に立ち上がってから剣を振り、彼女を狙っていたであろう魔法を真っ二つに斬る。

「おや、不意打ちにしては良かったと思いましたが……どうやら不発に終わりましたかね」


トントンと軽く地面を叩きながら向かっている魔族、レイドールがそう言いながらジークにやられたであろう傷を再生し始めてる。

「これで、貸しなしよ」

少しだけ勝ち誇ったかのように口角を上げ、後ろを見るマリア。その様子にため息を吐き、さっきのご機嫌な様子とは一変し面白くなさそうに目を細めるジーク。

「つまらないわね。あんた、周りから空気読めない女と思われてるんじゃないかしら?」

「失礼な事言わないで頂戴。負けそうになった所を助けてもらったのはどこのどいつよ?」


「「……は?」」

いくら力を合わせたって犬猿の仲が消えるわけではない。目だけを相手に向け、お互いに睨み合い火花がバチバチと飛んでいる。

その様子にも関わらず、ドォン!と地面が鳴り響く音が聞こえる。よく見ると二体の魔族が再び再集結したらしい。

「…この喧嘩は、こいつらが終わってからね」

「…言われなくても分かってるわよ」

自分達の相手はあのヤバい奴らだと……ここで負ければこの戦いは確実に負けると考え、目を鋭くさせ、構える。
前を見ると、傷付けたはずの身体は何事も無かったかのように塞がっている。どうやら再生しきれない程の攻撃をしないと倒せなさそうだ。

「……ふふふっ、とても楽しいですよ、お二人とも。我々をここまで本気にさせるなんて……いつぶりでしょうか?」

「あぁ…!久しぶりに心が踊るぜ……あの弱々しい人間もたまには役に立つのだな。そのおかげでマリアは生き残ったんだからな」

弱々しい人間……ラゴイスタのその言葉で彼女らが浮かべる人物は……紛れもない、「彼」である。

「……アクセルが、どうしたのよ?」

その言葉からは…激しい怒りと動揺が感じられた。自身のせいで毒を飲んでしまったアクセル。落ちたら死んでしまうかもしれない薔薇の道を彼は通ってるのだ。
…そんな彼の話題はマリアにとっても、また汗を大量に流し、動悸が激しく見られるジークにもまた禁句であった。

「いやはや貴方のような強者が私達の丹精こめた毒にやられるなど、さぞ勿体無い」

すると今度はその隣にいるレイドールが自分達の功績だと言ってるように話し始める。

「流石の俺もあれは苦労したぜ。不慣れな毒の精製をあの頭がイかれた奴と一緒にやったからな。だが、あれは自信作だぜ」

その一つ一つの単語に嫌な汗が流れる。
そんなはずない、だって彼女は言ったのだから、アクセルは無事だと…彼は、生きているのだと。

だが、彼らの一つ一つの言葉は…‥確実にマリアの心を削っていた。

「そ、そんなはずないわ……あ、アクセルが死ぬなんて……そんなの…!」

だが、現実は残酷だ。それを突きつけるように彼らは言い放つ。

「ふむ……あの狂人が作るものがどれも素晴らしいものですからね。欠陥品を作るなんてありえません」

「あれ飲んで俺も死にかけたからな……なら多分あの雑魚も死んだだろ」





「…………黙りなさい」

すると、拳を握り締め、身体を震わしているジークが先ほどよりも鋭い目を彼らに向け、剣を向ける。


「あのお方が…死んでしまった。それを……否定する気はないわ……だが、私達のために自分の死を厭わなかったアクセル様の侮辱だけは……それだけは許せない」

ジークの表情の気迫に彼らはつい後退りしてしまう。さっきの動揺していた姿など初めからなかったように彼女の顔には鬼が宿っていた。

「……マリア、そこに座っているなら私がこの塵どもを片付けるわ……あんたはどうする?」

アクセルが死んだという事実に立ち上がる気力が無くなってしまったマリア。そんな彼女に言葉は届かない。

「……………………そう、それがあんたの答えなのね」

そう言うと、彼女は自分の身体が魔法薬に犯されているにも関わらず、それを感じさせないような動きを見せ、本来の力の真価を発揮させるためにその単語を詠唱する。

「……魔力活性:身体強化《フィジカルブースト》」

彼女の染み付いている一箇所一箇所の魔素が全て活性化し、自分の身体が軽やかになるのを感じたジークはその勢いで一歩、踏み外す。

「「っ!!」」
二体は自分たちの後ろにとてつもない寒気を感じ、振り向くがそこには誰もいない。

「どこを見ているのかしら?」



「……貴様らの相手はこの私一人だ」





「そんな……アクセルが……死んだ……」

マリアはその単語だけは聞きたくなかった。アクセルという存在。それは彼女にとっての生きる意味であり、守るべき存在であり……自分の愛する存在。

一時期はローレンスにより、立ち直ることは出来た…それはアクセルがまだ生きているという可能性があったのと自分のために奮闘してくれた彼の想いを無駄にしないためであった。

だが、それは再び打ち砕かれることとなる。


「…い、行かなきゃ……」

今も目の前で瞳に光を宿していないジークが一人で戦っている。その加勢を……なのに動けない。一番万全なのは自分のはずなのに……身体が鎖に繋がれたように動けない。

——お前が殺したんだよ、マリア。


「ッ!ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい…!」

剣を落とし、身体に力が抜け、自身の頭を抱えて聞こえないはずの声に謝り続けるマリア。

「ッ!い、今なら……!死ねぇええ!!」

そこに運悪く彼らの戦いに身体を動かすことが出来ずに見守っていた盗賊の一人がマリアに近づき、自身の剣でその命を奪おうとする。

「ぁ」

気づいた時には時すでに遅し。
その時思い出される数々の走馬灯。
今まで、何のためにここまで強くなったのか……一体何のために自分は他人を犠牲にしてまでここまで来たのか……もう、分からなくなってしまった。

そんなことを考えてる暇もなく、剣が目前まで自分の所まで迫った時…誰かが自分のことを庇うように抱きしめてきた。


「………ぇ?」

それは……今まで自分が見たことがない光景。




「ぐぅっ…!?だ、大丈夫、かい……マリア?」


そこにいたのは……ここにはいないはずの人物、マリアの父マエルであった。

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