全てを失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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未来を変える悲劇の悪役

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戦場は時間につれて激戦と化していた。
地面を突き刺す太陽の光は雲で覆われ、ここら一帯には血と死臭の臭いを漂わせ、魔物の声と人間の声の雄叫びや叫び声でいっぱいだ。

天を戦場としているローレンス達もそれは同じであった。

「…まだ倒れないか。そのトカゲ、妙に固すぎないか?」

ローレンスはそう言い放ち、再び自信の作ったであろう巨大な鋼鉄の槍の数々をその魔族が乗っているワイバーンに放つ。

ワイバーン達はその数多の槍を自分の持っている飛行能力で身軽に避けたり、当たりそうにならば自身のブレスを吐いて相殺する。

だが、完全に防げることはなく、自身の身体、顔、翼には沢山の傷跡が残っている。
だが、特に生き絶える様子はない。

「……さてはそのトカゲ共、貴様らが何か仕組んだんじゃないのか?」

普通のワイバーンならこの攻撃で既に動けない程のダメージを負うはず。なのにどれだけ異能による物量攻撃をしても倒れない。
いくらユニーレとの分裂で異能の性能が落ちたからと言ってそれはありえないのだ。

案の定、ローレンスの言葉は当たっていたらしく、魔族のの口元が歪んだのがそれを物語っていた。

「こいつらは我らが長年かけて完成させた最高傑作だ。あの普段いるような劣化品と比べられては困る」

「最高傑作だと…?」

その言葉に疑問を思いつつも魔族の言葉に耳を傾ける。

「生物には力を抑えるためにリミッターというものがある。このリミッターというものを超えれば自分たちの中にある生命力を使い、さらなる力を得られることができる」

「……そのワイバーンにあるリミッターを外したということか?」

「察しがいいではないか。だが少し違う。そのリミッターを我らの研究で作られた魔法薬で破壊。生命力が著しく減ることにはなるが、強力な兵の完成だ」

その説明にローレンスは顔を顰める。
生物を用いる実験、それは人間もやっていることだから否定は出来ない。
だが、生物をまるで物のように扱う彼らのその外道さに改めて嫌悪感が湧き出る。

「貴様ら、その言葉の意味を分かってるのか?言っていることが正しければもうそやつらは後が長くないのだぞ?」

「だからどうしたというのだ?そんなもの、また作ればいいだけの話」

その言葉を聞いて…やはり、どんなに時間がかかっても、外道は外道なのだなとローレンスは思ってしまう。

「……貴様らの目的はなんだ?何故、このようなくだらん事に加担している?」

そして、改めてその疑問が溢れ出る。
普通なら魔族は人間を実験道具や物としか見ていないはず。そんな彼らが、それもこんな大勢協力する理由がローレンスには検討もつかないのだ。

「……貴様に教える道理がないな。我らの目的は常に崇高的で偉大なるお方のため。我らの目的を易々と教えるとでも?」

「……かの魔王、ナグロライトのためというのか?」

「ナグロライト?そんな魔族だけの王などの為ではない。我らにはもっと崇むべき……」

そう言おうとした瞬間、下の方で何処からか雄叫びが聞こえる。お互い、その様子を見るべく下を見ると……

「なっ…!」

ローレンスは驚愕の表情を浮かび上げる。
自分達と盗賊、魔物、魔族の戦いの中に、第三勢力である数百以上の騎士の集団が戦場に向かおうとしているのだ。

「……チッ、あの愚図が。余計なタイミングで…!」

それはあの魔族達の方も同じく予想外だったのか顔を険しくさせた。まさか独自で行動するとは思わなかったのだろう。

(まずい…!あの集団が戦場に参戦すれば、流石の我でも守りきれん!!)

そう考え、今すぐに自身の魔法と異能でその集団を消そうとローレンス。

その魔法は、数々の物が放たれ……何かに当たり相殺される。
ぐっ…!と声を出し、おそらく彼女の攻撃を妨害したであろう者に目を向ける。

「…貴様が焦った姿、初めて見たぞ」

その魔族の言葉と今も歪んでいるその表情を見て、ローレンスの予想は当たることになる。

「邪魔するでないっ!」

再び異能の力である物量攻撃を仕掛け、彼らに当てようとする。しかし、彼らはそこから動きもせず、そのまま棒立ちになっている。

なんだ…?という違和感が拭えないまま自分の攻撃が彼らに直撃する……煙が晴れるとそこにはおそらく傷を負ってないであろう姿があった。

「……そなたらの誰かの仕業だな」

心中焦りながらもそれを見せないように至極冷静に答える。彼らは笑みを浮かべたまま黙っているが、おそらく異能の力だろうと予想する。

(くそっ!よりにもよってこんなタイミングで……!)

「さぁ、再びこの戦いを始めようではないか?」

その言葉と共に再び、彼らは激突する。





「な、なんで……?」

マエルに庇われてそんな言葉しか出なかった。
どうやってここまで来たの?どうしてこんなところにいるの?なんで私を庇ったの?

彼女の頭の中で駆け巡る疑問の数々。
それに対してマエルはただ一言だけ、その言葉を彼女に対して呟く。

「…む、娘が…命懸けで戦ってるのに…親である自分が……命を懸けないわけには、いかないよ」

その言葉は…使命でもなんでもない、親なら持っているであろう愛する子供のためのもの。
それを理解した時、彼女の顔は顰め、悲痛に歪める。自分にはそんな価値なんてないのに…アクセルを殺したであろう自分にそんな優しさは要らないのに……そんな感情を食いしばった口元から出ないように必死に抑える。

「わ、私は……だ、大丈夫、だから……だから、父様は…!」

「マ、リア」

今も痛みで苦しいだろう、彼の護衛である騎士に倒された盗賊の攻撃は少なくともマエルには致命的であった。

だが、そんな事、娘の為ならばどうってことないとでも言ってるのか、彼の手は震えながらもゆっくりと彼女の頬に当たる。

「…君は、強い子…だ……アクセルとは違う……何かを背負って……生き、ている……それは、素晴らしい、ことだ……でも……もし、私の、親の、願いを聞いてくれる、なら……聞いて、欲しい」

彼はマリア見続けてきた。何かを背負って、使命に駆られて……それがなんなのか、分からなかった。少なくとも自分達ではどうする事も出来ないことだと分かり、そんな何も出来ない自分に苛立ちを覚えた。
親であるはずなのに……マエルは彼女を、マリアを見捨てようとした。

だが、アクセルの行動で彼のそんな考えは覆すこととなった。
もしかしたら何か知っているのかもしれない。彼もまた何かを背負って生きていた。

だが、一つだけなら分かった。彼の背負っているその根底にあるものは大切な人を守るため。
アクセルは自分の身を犠牲にして、マリアを守った。大事な姉のために、自分のことなどまるで考えてないかのように。

そこからマエルは思ってしまった。重要なのは、大切な人のために行動すること、自分の身すら犠牲にして、その人達の幸せを守ること。

そんな至極単純で、親ならば持っているであろう物を彼はあの日、あの時のアクセルの行動を見て理解できた。

だから、今も苦しんでいるマリアに寄り添おうと決めた。それが彼女の迷惑に、苦痛になるものであろうとも。


「ま、りあ…」
今も悲痛な表情を浮かべる娘に、今も苦しんでいる娘に、自分の宝物とでも言ってもいい娘に、マエルは告げる。


「どうか、幸せに……なって、くれ……」

それだけ呟いて、マエルは力尽きたように彼女の頬に触れていた手を地面につき、目は生気を失ったかのように黒く濁る。


「……と、とうさま?」

彼女の言葉にマエルは反応しない。
そんなの認めない、聞きたくないとでも言ってるかのように彼女は慣れない笑みを浮かべもう一度声を掛ける。

「とうさま……とうさ、ま………おとう、さん…!」

いつぶりに呼んだであろうその呼び名。だが、反応しない。その不吉な事実に……マエルの死亡という物が現実だと理解したくないようにマリアは縋り付く。

「おとうさん!ねぇ、起きてよっ!おとうさん!!おとうさん!!!」

その声は、虚しく届いて欲しい者には届かない。生きてて欲しかった、私なんか見捨ててみんなで……幸せに生きて欲しかった。
あぁ……なんで忘れていたのだろう。
私はただ、この人たちを守りたかっただけなのに、それだけなのに……そんなことすら、私は守れない。

「……てよ…」

その時、彼女は……今までずっと封じ込めてきたであろうその言葉を、行動を暴走させる。

「誰か、助けてよ…!助けてよ!!私のことはどうなってもいいから…!おとうさんを助けて!!」

誰でもいい、私の大切な人を救って欲しい。
子供のように喚こうが構わない。ただまた笑ってて欲しい。
もう一度だけ、たまに見せるその優しい笑顔を浮かべて欲しい。例えそれで自分の命が燃え尽きようとも構わないから。





「はぁ……はぁ……はぁ……」

既に魔法薬によって体力が限界に近いであろうジークは血まみれになりながらも、自身の支えとなる二本の脚で踏ん張り、効果が切れかけている魔法付与《エンチャント》の剣を構え続ける。

「…お、驚きました……まさか、ここまでやろうとは……」

身体を再生しきれず、あちこちが傷でボロボロになっているレイドールが彼女の底力に驚愕している。

「な、なぁ…?あいつに魔法薬効いてないんじゃないか?俺でもあれを投与しながら戦うならもう動けないはずなのに……倒れる様子がねぇぞ?」

同じく、身体がボロボロであるラゴイスタが珍しくそんな弱気な言葉を吐く。
しかし、その言葉を蹴散らすようにレイドールは首を振り、言葉を繰り出す。

「いいえ、それはあり得ません……ただ彼女が化け物だっただけですよ」

冷や汗を流しながら、ジークを見ながら呟く。彼とてここまでやるとは思わなかったのだ。強者であることは確か……だが、マリア同様、彼女もまた噂を当てにしてはいけない人物だということを彼らは認知せざるおえない。


「…ですが……」

レイドールのその言葉と共におそらく動かないであろうジークの身体に反撃をこめて腹部に深い蹴りを入れる。

「がはぁっ…!」

ジークは身体に限界が来た事で反応が出来ずにそのまま吹き飛ばされる。

(…あぁ、くそ…力が入らない……でも、ここで負けるわけには…!)

一瞬、らしくもないもない弱気な事を考えてしまったが、それ消すように心の中で奮い立たせ……るはずであった。

目に入ってしまったのだ…誰かに助けを求め、叫んでいるマリアとそれを守るように戦っている護衛の姿……そして、彼女に抱えられている…自分の敬愛する人物……マエルの姿を。

「ッ!マエル様っ!!」

自分でもどこに秘められたいのか分からない力を引き出し、すぐに彼女達に近づく。

「マエル様…!マリア!一体どういう……!」

「っ!ジーク!お願い、助けて!!」

ジークが全部言い終わる前にマリアはいつもの自分に対する生意気な態度とは裏腹に彼女に縋るように声を荒げる。

「おとうさんが……おとうさんが…!」

「くっ…!」

その様子からマエルが危険な状態ということが目に見えて分かった。

すぐにでも彼を安全なところに連れて行きたいジークだが、周りを見れば魔物と盗賊でいっぱいだ。それをなんとか護衛であろう者たちがなんとか抑えてるが………時間の問題だ。

それに前方からはどんどん近づいているであろう二体の魔族。
その大量の集団から二人を守るのは……今の彼女では難しかった。


(……私はまた…守れないのか…!アクセル様に託された物を無碍にして……あのお方の想いを……私は……!)


「……覚悟を決めなさい、ジークリンデ・オルバドス」

もはやここからは自分自身との勝負。弱い自分を捨てるかのように今にも溢れ出るその想いを呟いた言葉により抑え、全力を出しきれないその身体を鼓舞するように歩き出す。

「…マリア、そのまま走りなさい」

「えっ…な、何言ってるのよジーク!」

その言葉からは……まるで自分が犠牲になるからお前は逃げろとでも言ってるようであった。

「このままではマエル様も、貴方もここで野垂れ死ぬわ。そうなる前にすぐにでも…」

「…なんでよ」

自分にはそんな生きる価値などあるわけないのに…自分には守られる価値なんてどこにもないのに…ジークの言葉によってその想いは溢れ出る。

「なんでよ…!私は別にそんな生きるべき人間じゃない!!それなのにどうしてみんな、そうして私のことを……!
私が身代わりになる!そうすれば…」

そう言い終える前に……ジークは彼女の唇に指を添える。その表情は…とても穏やかに見えた。

「…貴方と一緒に居て、とても楽しかったわ。こんな独りぼっちの私に寄り添ってくれた……それだけで貴方が生きていい理由になる」

それだけ言って今度こそ背を向けるジーク。

「……生きなさい、マリア。貴方はまだ、ここで終わるべきではないわ」

「あっ…‥ジーク!!」

彼女はそこに行かせないように手を伸ばすが、その前にジークはその手を取らないように歩き出す。

「あっ……貴方まで……私を……」

何度も見た光景のはずだ。それなのに…いつも以上に痛い。自分のために大切な人達が葬り去っていく。
アクセルも、マエルも……ジークでさえも…。

「う、ゔぅ……」

動かない……このままだと、死んじゃう……でも……広がりすぎた心の傷が、深すぎて身体が動けない。

「だれか……だれか、たすけてよぉ…」

自分には許されるはずがない発言を再び呟いて彼女は父を抱きしめる。





(これで、よかったのだろうか?)

後悔はないはずだ、大切な人物のために命を懸ける。
自分にとってはこれ以上の幸せなどないはずなのに……すっきりしないこの気持ちは一体……

「……あぁ、そうか」

——ジークには幸せになって貰いたいからね。

「……アクセル様のお言葉、守れなかったからかな?」

ここで思い出すのはいつもアクセル様のことだ。何故だか、分からない。でも彼のことを思い出すと、心が暖かくなる。

……もし叶うならば、もう一度会いたい。

そんな叶うはずのない願いを胸にしまい、再び前を向ける。

「……お一人だけ、ですか」

どうやら二体がここまで着いたようだ。後ろを見ると…マリアはまだ動けてない。
何をやってるのだか…でもそんなの些細なこと。彼女が動けるまで時間を稼げればいい話。


「……遺言だけなら、聞いておいてやるぜ」

ラゴイスタはさっきの好戦的な表情とは裏腹に少しだけ真剣な表情をしながらジークに問いかけるが、彼女はその言葉に「ふっ」と鼻で嘲笑う。

「死ぬことを計画に入れるバカがどこにいる?」

そう言い構え始めた瞬間……二体の魔族が自分の目の前まで迫ってきているのが、分かった。

(……今、逝きますね……アクセル様)

心の中で敬愛する人物の名前を呟いて……ジークは目を瞑る。
















































想いは、巡り巡る。
何かのために命を賭けて繋いできた物は決して無駄にはならない。

どんなに辛いことであっても、諦めければ……希望を捨てなければ、それは報われることとなるのだ。

「ッ!……この、気配……!」

空を戦場としている少女は待ち望んだ気配を察知し——


「……ぇ?」

死にかけの父を抱きしめている一人の女性はその姿を目撃して、目から一筋の雫が零れ落ち——


「……あ、れ?なんで、私……?」

そして今、二人の命を守るために、自身の命を燃やそうとした一人の騎士は自分の状況が分からず混乱し……そして、自分を抱えているであろう人物に目を向ける。


「……………………………………ど、どうして?」

そこにはもう会えないと思っていた人物が……齢十三でありながら自分とそう大して身長が変わらず、あの幼かった印象は消え失せ、男らしさが増した……自身の、大切な人物である彼がいる。


「みんなには、辛い思いをたくさんさせちゃったな」

「俺の我が儘のせいで、本来負うべきではない責任をお前達に背負わせてしまった」

「許さなくてもいい。これは俺の罪だ……ただもし、願ってもいいなら、こんな罪を背負う俺と一緒に戦って欲しい」

それは本来《原作》の道を捻じ曲げ、それにより苦しませてしまった人達に対する懺悔。
だが、それは彼の決意。これから起こるであろう、始まるであろう本来とは異なる原作の道を一緒に歩いて欲しいという彼女達への願い。

「……誰だ?」

急に現れた人物に驚きながらラゴイスタは冷や汗をかいて目の前にいる…死んだはずである人物に問う。

その問いに対して彼は……アクセルはこれから抗い続けるであろうこの世界を敵に回すかのように宣言した。
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