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アナザーエピソード 〜ジークリンデ〜
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生を受け、この世に舞い降りたときには、私はもう他の人とは違うんだと、直感的に理解できた。
それを自覚したのは五歳のときだ。
まだ自分がオルバドスの貴族で、他の貴族に屋敷に赴いた時に偶然、貴族のまだ幼いであろう年齢にちょっかいを掛けられたのだ。
といっても同年代であったがな。
「おいお前、今暇だろ?せっかくだから相手してやるよ」
そこにいたのは、木の棒らしきものを持った貴族らしくないヤンチャな男の子。
チャンバラごっこであろうか?普通幼い女に野蛮なことをさせるのだろうかとも思ったが、今思えばそれが彼なりの気遣いだったのだろう。
渡されたもう一つの木の棒を手に持ち、乗り気ではなかったが仕方なく、付き合うことにした。
正直、これで治らない傷跡でもついたらどうしようとか考えてしまう。それもそのはず、この時に私は普通のか弱い女の子であったから。
そして、そのチャンバラごっこが開始した時だ。
(......え?)
彼の動きが......突如として動きがスローモーションに変化した。
いや彼だけではない。鳥の動き、目の前にいる彼の表情の変化、風の音....様々な動きや音、何もかもが遅く思えたのだ。
(ど、どういうこと......?なんでこんな遅く....)
だがそう考えてる内にもだんだんと近づいてきているので、私は彼の脚を軽くその棒で叩いてみたのだ。
「うわあっ!」
すると大袈裟な反応をして、そのまま地面に転ぶ男の子の姿が目に見えてしまった。
大丈夫?と声を掛けた所、その子は自分の脚を痛そうに抑えて大泣きしてしまったのだ。
私はどうすればよいか訳も分からずそのまま棒立ちになってしまう。
その後、子どもの泣き声が聞こえたであろう、私の両親や相手の貴族達がこちらに来て、大騒動になってしまった。
この時はまだ、ただの子供遊びだとお互いそう理解して解散した。
だが、そこから始まったのだろう、私の異変が。
その出来事が影響したのか、私は剣を振るうことが好きになった。
毎日のように振り続け、時には父に頼み、格上相手の訓練だって参加した時だってあった。
そのくらい私にとって剣とは人生を語る上でかけがいないものになったのだ。
だが、女が、それも貴族の淑女がそんな野蛮なことをするのは間違っていると、周りからは言われ、疎まれ、そして王都にあるエルトライト学園を通う頃には、既に一人になっていた。
最初こそ寂しかった思いがあったが、成長するにつれてそういうもんだということを理解し、自分の生きがいである剣を黙々と一人で降り続け、学園を過ごしていった。
そこから親の反対を押し切り、やっとの思いで自分の夢でもあった騎士団に入団することができた。
このときにはもう、親は私を見限っていたのだろう、私を見る彼らの目が諦めとどこか軽蔑が込められていた。
独りに慣れていた私だが、流石に親にそのような目線を向けられたことに一瞬だが心が締めつけられた。だが、それは騎士の仕事をすることでだんだんと忘れていった。
騎士団での私の待遇は変わらなかった。
始めこそ、今まで積み上げてきた技術や経験で他の者たちを圧倒して
凄いともてはやされてはいたが、女という偏見や自信に対する妬み、嫉妬が混ざり合い、ここでも私は誰とも交流を持たず、独りになっていった。
結局、どんな所にいようとも変わらない。ずっと独りなのだと....そう思っていた。
でもそれはある出来事から大きく変化することとなる。
その日はオルバドスが主催のパーティーがあった。
どうやらこのオルバドス家が貴族として誕生してから五十年ということでの開かれたパーティーだ。
このときのオルバドスは貴族のトップとして君臨していたため、その会場には公爵から男爵まで幅広く集まっていたのだ。
私もその家の人間としてこの時は騎士としてではなく淑女としてドレス姿でパーティーに参加した。
なんで私がこんなことを…そう思ってしまった。たとえ自分が貴族の者として戻っても何も変わらない。
そうではないか。今も私を見る目は誰だって興味がなさそうに、酷い時は少し軽蔑を込められて見られるだけ。
強くなろうが、それは彼らに悪い感情を目覚めさせるきっかけに過ぎない。
仲間がいたらどれだけ楽しいのだろうか、高めあうライバルがいたらどれだけ強くなれるだろうか、誰かのために守れるのならどれだけ幸せだろうか………私にはそれがない。
……こんなパーティー、私には無意味だ。
そんな時だ、誰かに見られてることに気がついたのは。
元々五感が鋭かったので、その視線はずっと感じていた。なんだと思い、そっちを向くと……そこには、一人の白髪の男性がいた。
他の貴族たちの当主と比べると若く見える。
どこか掴みどころがない……その目を見れば見るほど堕ちていきそうな、そんなミステリアスな人物。
ただ、私はその人物からの視線を悪く思わなかった、寧ろとても心地よかった。
嫉妬や妬みといった醜い視線とは違う、純粋で心を癒してくれるような、暖かい視線……そんな物を彼は私に向けてくれた。
一体誰なのだろうか?
そんなことを考えてる間にも時間は刻一刻と進んでいた。
会場によるダンスパーティー、主催者の父である一言、貴族らしい会話の数々…様々な事が繰り広げられた。
そして、そんなパーティーを終わりを迎えようとした時、事件は起きた。
「な、ない……ここに置いてあったアクセサリーが……!」
貴族令嬢が声をあげたことでこのパーティーに一つの波乱が幕を上げた。
どうやらテーブルに置いてあったネックレスが無くなったらしい。周りの反応を見ると、どこかに落としただけだろ。そんな見え見えな思いが目に見えて分かった。
だが、私には偶然ながら見えてしまった。
おそらくそのテーブルに置いてあったであろうネックレスを奪い取った人物を。
遠くであったが、元々五感が鋭い私はそれを見るのは容易かった。
だから声を掛けた、そこの人が奪ったのではないかと。
だが、周りからの私の評価は最悪と言っても良かった。その証拠に私に対する彼らの目線が馬鹿にしてるような…疑惑でいっぱいであった。
分かっていた、誰もそんな言葉耳に傾けないことなどいないことなど、とうの昔に知っていた。
そんな、諦めの感情を出した時、彼が現れた。
「では、調べないといけませんね」
「えっ……?」
その時現れたのは……私のことを見つめていた人物である白髪の男性であった。
「で、ですがマエル殿……この者の言葉など……」
そこにいた一人の貴族がそんなことを言うが、私は信じてくれる人が存在するとは思わず、つい呆気に取られてしまう。
どうして……?頭の中で彼に聞いた時、それに応えるように彼は……マエルという人は当たり前のように言った。
「オルバドス家のご令嬢様が見たと言ったんです。それならば無碍にするわけにはいかないでしょう?」
その答えに……私は、近くでないと見えないぐらいの薄い涙を流してしまった。
その後、私の言ったとおり、指摘した人物が懐に持っていたらしく、無事この一波乱は幕を閉じた。
私はその出来事が終わった後、マエルさんを街の隅々まで探したが……彼はどこにもいなかった。どうやら帰ってしまったらしい。
………初めてだった。私の言葉を真っ先に信じてくれた人物は。
その時、いつも通りに動く心臓が、ドキッ!とまるで波打つように鼓動が早くなるのを感じた。
あぁ…そうか、私はあの人に…心を打たれたのだなと、この時の私は実感した。
そして、彼を探すべく、私は今所属している騎士団をやめ、自由に行動するため冒険者となった。その時には親からはもう絶交宣言を喰らってしまったが……それでも良かった、あの人が見つかるのならば。
私があの人について知ってるのはマエルという名前だけ。
だからマエルさんの居場所や家名など、彼のことなど全く分からなかった。
普通なら情報収集など彼の手がかりを得るためにそういうことをするだろうが、私は何を思ったのか、何もせずにただあちこちを探し回った。おかげで探すのにもとても苦労を掛けた。
でも諦めずに、彼に仕えたいという思いからマエルさんの治める場所......レステンクール領にたどり着くことができた。
そして、彼を見つけた時、私は自分の心が踊るのを感じてしまう。
やっと見つけた...!すぐにでもあのときのお礼を言いたい、話したいという想いに任せて近づいた時......それを見てしまった。
マエルさんの隣に......とても幸せそうに笑っている女性の姿と子供の姿が。
この国では一般的には一夫多妻制は認められている。この世界での子供を増やすためだ。
だから別に彼が誰といようがどうってとこなかったはずなのに......その幸せそうな空間に割り込める気がしなかった。
胸が締め付けられる思いを感じた私は彼らに気づかれないようにそっとその場を離れた。
涙が出た。あの時みたいな嬉し涙ではない、胸が悲鳴を上げてるような、心にポッカリと穴が空いたような......そんな感じたくもない物とともに出た....悲痛の涙。
馬鹿だなと思った。だってあんな魅力的な人物、周りが放っておくはずがないではないかと。
あぁ.....とても、とても苦しい。こんな思いするなら彼と出会わなければと良かったとも思ってしまう。
違うそうではない、私は彼を支えるために来たのに、そんなこと思ってるはずがない。頭の中で自分の言ってる事を否定する。
もう......分からなくなってしまった.....自分の本当の想いが。
自分の想い、気持ちが分からず、そんな自分にまた抑えきれない涙を誰にもいないような場所で拭いてる時......とても幼い、でも彼のような暖かい空気を思わせる声が聞こえた。
「あ、あの......」
その声に反応するように私は振り向くとそこにいたのは―――
◇
「あ、アクセル様....どう、して......?」
視界がぼやけて見えない、ただ確かに聞こえる。毒で犯され、亡くなってしまったはずの声が......自分の敬愛する人物の声が耳に入る。
走馬灯の見すぎでついに幻聴が聞こえたのだろうか......その疑惑を消してくれるように再び彼は声を掛けてくれた。
「ごめんね。辛い思いさせちゃったね......ちょっと時間がかかった」
「そ、そんなの......!」
貴方が生きててくれたら……!でもその言葉が喉に詰まって出ない。溢れ出す感情が私の言いたい事を阻害してくる。
(……良かった、ちゃんと心臓も動いている。体温も…‥温かい。幻覚じゃないんだ……アクセル様………)
命をかけて自分達のために行動してくれた……本当ならたくさん言いたいことがある。でも今の私には………
「……申し訳、ありません」
………やっとの思いで出た言葉は、彼に対する非礼。私の言葉に対して、アクセル様はただ黙っている。
「…守れません、でした……貴方のお言葉……託して、くれたのに……約束……果たせません、でした」
最初に彼に言う言葉は自分自身の非礼ではないはずなのに、辛くて、苦しくて、悔しくて
そんな感情が無意識に言葉に出てしまう。
「ソフィア様は、どこに行ったか……分からなくて……マエル様、は……マリアを守るために……その、まま……」
ボヤけていた視界は目から溢れ出る涙によりさらに見えづらくなり、自分の弱さから彼が羽織っているマントをシワが出来るほどの力で握りしめてしまう。
「……悔しい、です……貴方が命をかけて守ってくれた物を……私、は……わたしは……!」
「……ジーク」
その時、響いた彼の包んでくれるような、あの時のマエル様と同じような暖かくて…優しい音が聞こえた。
アクセル様は溢れ出る涙をもう片方の手で私の目を拭き……そこにあったのは、軽蔑や嫌悪が含んでいたあの時の私を囲んでいた表情ではなく、マエル様みたいに私の中に唯一光を与えてくれたような表情。
「……よく、頑張ったね」
「ッ!?」
あぁ……貴方もそんなことを言ってくれるのですね?どんなに不格好で、無愛想で、ずっと独りだった私にも……アクセル様は、私がずっと欲しかった言葉を……くださるのですね?
「後は任せて」
アクセル様が私にそう言うと、今も涙が溢れ出しそうな私の顔に掌を置く。
「……こ、これは…?」
すると、今まで魔法薬により弱体化された身体……吐き気、頭痛といった症状がなくなり…‥限界に近かった身体は動けるほどに回復する。
「うん、良さそうだ。さて次は……」
彼はそれだけ言うと……私から離れ、いつの間にか近くにいたであろう二人の方を向いた。
「ぁ……あ、アクセル………?本当に、アクセルなの?」
その言葉からは驚きと戸惑いの感情が籠っていた。目は頬に涙をこぼしながらも光が宿り、口元を震わせながらマリアはアクセル様に聞いてくる。それに対して彼は少し苦笑しながら答える。
「うん、姉さん。偽物でも幻覚でもなんでもない。正真正銘、貴方の弟のアクセルですよ」
「ッ!……あ、あぁ……ほんとに……ほんとに……!」
それが本物のアクセル様だと知ると、マリアは柄にも合わず、マエル様を抱きしめながら
彼を凝視し、顔を歪ませていた。
だが、その表情は先ほどのような絶望に染まった顔ではなく……彼が生きててくれている事実から出る希望に満ちた表情であった。
「……父上」
すると彼はマリアから目線を外し、呆れたようにため息吐きながら、マエル様に近づいて、手を添える。
「……俺は貴方も助けると決めたんですよ。それにこのまま帰ると……母上が悲しみます……だから」
「しっかりと戻ってきてください。あなたには、まだまだやる事があるんですから……父さん」
するとマエル様の胸の辺り添えたアクセル様の掌から光が放ち、その光がマエル様の身体に吸い込まれていくように吸収されていく。
その現象にさっきまでアクセル様の姿を見て、顔を歪ませていたマリアも、彼に抱き抱えられたという事実に少し顔が熱くなっていた私も目を奪われていた。
「…………ゲホッ!」
「ッ!おとうさん!!」
その神秘的な現象には驚きが隠せずにいた。なんと先ほどまで死にかけであった…もしかしたら死んでいたかもしれないマエル様がまるで息を吹き返したかのように、正気を取り戻したのだ。
「……あ、あく、せる……?ここは?」
「そんなことはいいから今は黙っててください。ほら、まだ傷自体は治ってないので……と、そろそろ来たかな」
彼はアクセル様の姿に弱々しくも信じられないと思ったのか目を見開き、そんなことを聞くが、アクセル様は傷だらけの彼を一蹴し、
何かを確認するようにどこかを見つめていた。
「……ッ!アクセル様ッ!」
すると、どこからか彼と同年代だと思われる声が聞こえる。目をやるとそこには馬に乗った青い髪の少女の姿があった。
「一体どこにいっていたんですか!?探したんですよ!!」
「すみませんナーシャ。でも少し頼んでもいいですか?父を街まで送って欲しいのです」
そんなやりとりをしながら、アクセル様は馬とマエル様が離れないようにロープのようなもので縛りつけている。
「マエル様…!これは……背中の傷が深いですね」
「出来れば僕も同行したいのですが、今は席を外せません。頼まれてくれますか?」
「……分かりました。なら私はこのまま領地に向かい、アルマン様のサポートを」
「助かります」
どうかご無事で…!ナーシャ様がアクセル様にそう言うと、彼女はマエル様の治療とアルマン様のサポートをすべく、馬に乗ってこの場から離れて街に行った。
「……さて……随分とお利口に待っててくれてたじゃないか……魔族共」
さっきの包んでくれるような優しい声とは裏腹に深く、激しく、滲み出るような憎悪が感じ取れるほどの声で呟き、アクセル様は今も冷や汗をかきながら見守っていた二体を見る
「……ありえません。この世界の人間が毒を……それも我らの傑作とも言える物を……」
そのうちの一体、レイドールは隠しきれない激しい動揺を見せ、そんなことを呟いてる。
「まぁ確かに、あれは効いたよ。正直、死ぬかと思った……だが、俺は生きてる。結局それだけだろ?」
「くっ…!どんな手段を使った!ただの人間があれを飲んで生き残るなんて……!」
「どっちでもいいだろ?お前らに教える義理なんてねぇよ」
いつもと違う……たまに出る彼の本性であろう口調で二体の魔族を追い詰めている。
そこに得体の知れない物を感じたであろうレイドールとラゴイスタはすぐに歯を噛み締めながらすぐに構え出す。
「……やりますよラゴイスタ。あれは、今ここで消さなければいけない……それくらいの迫力が……」
「分かってる!くそっ、まさかこんなガキがマリアとジークよりも強いなんて……!!」
そこにはいつもの戦闘狂らしく口元を三日月に歪めている姿はなく、目の前の敵をここで始末しなければならないという使命感が今の彼らを支配しているように見えた。
「二人よりも強い…?おいおい、お前らそれは誤解だ」
彼がそう呟いている間も真っ先に殺さんとばかりに目の前まで近づいている二体を前に何かを信じているように抵抗もせず、ただ目を閉じているアクセル様。
……やはり貴方は——
「マリアとジークは、俺よりもずっと強いぜ?」
——変わったお人だ。
私はすぐに自分の全力で戦える様に即時に身体能力《フィジカルブースト》、魔法付与《エンチャント》をかけ、彼に近づいている二体の魔族のうちの一人、レイドールに斬りかかる。
「霹靂《へきれき》狂飆!」
「火雷神《ひらいしん》!」
マリアも彼を守るべく動いたのだろう。
同時に彼らに攻撃を仕掛ける。
自然の力であろう雷と嵐を二本の剣に具現化し、悉くを滅ぼし尽くす嵐のようにその高速かつ乱れた剣舞で攻撃を繰り返し、一つ一つの斬撃に大地を揺るがす雷鳴の一撃を入れていく。
そしてマリアはもう一体の魔族、ラゴイスタにその巨体とも言える肉体に青白く変化した炎と豪雷ともいえる雷鳴が融合した一本の剣で天災の如く、周囲を焼き消す一閃を繰り出した。
「ぐぅぅっ!?」
「ぐはぁっ!?」
私たちの技を受けた二体は不意打ちを食らったことで堪えることができずにそのままそれぞれ左右に吹き飛ばされていく。
「……貴方の方がお強いでしょう?アクセル様」
私は先ほど言った彼の言葉に苦笑が溢れてしまう。私たちに気を使ったのだろうか?そんな思いが見え隠れしてるように見えた。
「い~や、僕は何も嘘は言ってないね」
だが、それを否定するようにアクセル様は顔を振りながら笑みを浮かべている。
「……その言葉が嘘でないのなら……ここは私達に任せてはいただけませんか?」
「……貴方に託された想いを無駄にしないために……もう一度、私にチャンスをください」
「……もう一度も何も」
私の言っていることがおかしかったのか、アクセル様は口元を綻ばせながら、それを否定してくれるように言ってくれた。
「ジークの想いは無駄になってないし、僕にもちゃんと伝わってるよ。生きててくれてよかった」
「……ほんとうに貴方は」
本当ならば許されざることなのに……そんな欲しかった言葉を聞いて私は嬉しく感じてしまう。
「……アクセル」
すると今度はマリアが声を震わせながら声をかけている。アクセル様は彼女の背中を眺めていた。
「……私、本当は怖いの……これがまた、夢なんじゃないかなって……私にそんなチャンスがあるのかなって……胸が、苦しいの……」
「……姉さん」
「……でもお願い。もう一度だけ、貴方を守らせて。たとえ、これが夢でもいいから……私は……アクセルを…!」
「……なら僕も貴方を守りますよ。いえ、貴方を守らせてください……マリア姉さん」
アクセル様のその発言に、彼女はビクッと身体が跳ね、ゆっくりと振り向き……ぎこちない、下手な笑顔を浮かべていた。
「……うん……うん!私、ちゃんと守るから……!これが終わったら貴方に話したいことがあるから……!だから……絶対に生きて、アクセル!!」
「えぇ……必ず、生きて帰ります」
それだけやり取りをして、アクセル様はまるで待っているであろうもう一人の人物に会うべく、飛行《フライ》を使って空に飛んで行った。
「……マリア、あんたはもう大丈夫なの?流石にここから戦線離脱するのはだめよ。私の身がもたないわ」
「……そっちこそ大丈夫なの?さっきまで身体ボロボロだったじゃない。今のうちに回復でもしておいたら?」
「余計なお世話よ。それに……今の私は負ける気がしないわ」
「…‥同感よ」
そして、何度も戦ってきた相手が少しずつこちらに歩いてくるのが見えた。私たちはこれが彼らとの最後の戦いだと認知し、隙を見せないように、構え出す。
「やってくれましたね……貴方達……!」
「邪魔するとはいい度胸じゃねぇか。来いっ!今度こそ捻り潰してやる!!」
相手の咆哮にも私たちは怯まない。
彼が生きているという事実が私たちを強くさせる。彼がそばにいてくれれば……負ける気がしないのだから。
「いくわよ、ジーク!!」
「えぇ、マリア!!」
——アクセル様、貴方は言いましたね。
私に出会えて良かったと。
……それは、こちらのセリフです。
マエル様がきっかけではありましたが……私にはたくさんの仲間が、友達が出来ました。
それはあの時、あの路地裏で私を支えてくれた幼い貴方が居てくれたから……今の私がいるのです。
私こそ言わせてください。
貴方と出会えて、本当に良かったと。
それを自覚したのは五歳のときだ。
まだ自分がオルバドスの貴族で、他の貴族に屋敷に赴いた時に偶然、貴族のまだ幼いであろう年齢にちょっかいを掛けられたのだ。
といっても同年代であったがな。
「おいお前、今暇だろ?せっかくだから相手してやるよ」
そこにいたのは、木の棒らしきものを持った貴族らしくないヤンチャな男の子。
チャンバラごっこであろうか?普通幼い女に野蛮なことをさせるのだろうかとも思ったが、今思えばそれが彼なりの気遣いだったのだろう。
渡されたもう一つの木の棒を手に持ち、乗り気ではなかったが仕方なく、付き合うことにした。
正直、これで治らない傷跡でもついたらどうしようとか考えてしまう。それもそのはず、この時に私は普通のか弱い女の子であったから。
そして、そのチャンバラごっこが開始した時だ。
(......え?)
彼の動きが......突如として動きがスローモーションに変化した。
いや彼だけではない。鳥の動き、目の前にいる彼の表情の変化、風の音....様々な動きや音、何もかもが遅く思えたのだ。
(ど、どういうこと......?なんでこんな遅く....)
だがそう考えてる内にもだんだんと近づいてきているので、私は彼の脚を軽くその棒で叩いてみたのだ。
「うわあっ!」
すると大袈裟な反応をして、そのまま地面に転ぶ男の子の姿が目に見えてしまった。
大丈夫?と声を掛けた所、その子は自分の脚を痛そうに抑えて大泣きしてしまったのだ。
私はどうすればよいか訳も分からずそのまま棒立ちになってしまう。
その後、子どもの泣き声が聞こえたであろう、私の両親や相手の貴族達がこちらに来て、大騒動になってしまった。
この時はまだ、ただの子供遊びだとお互いそう理解して解散した。
だが、そこから始まったのだろう、私の異変が。
その出来事が影響したのか、私は剣を振るうことが好きになった。
毎日のように振り続け、時には父に頼み、格上相手の訓練だって参加した時だってあった。
そのくらい私にとって剣とは人生を語る上でかけがいないものになったのだ。
だが、女が、それも貴族の淑女がそんな野蛮なことをするのは間違っていると、周りからは言われ、疎まれ、そして王都にあるエルトライト学園を通う頃には、既に一人になっていた。
最初こそ寂しかった思いがあったが、成長するにつれてそういうもんだということを理解し、自分の生きがいである剣を黙々と一人で降り続け、学園を過ごしていった。
そこから親の反対を押し切り、やっとの思いで自分の夢でもあった騎士団に入団することができた。
このときにはもう、親は私を見限っていたのだろう、私を見る彼らの目が諦めとどこか軽蔑が込められていた。
独りに慣れていた私だが、流石に親にそのような目線を向けられたことに一瞬だが心が締めつけられた。だが、それは騎士の仕事をすることでだんだんと忘れていった。
騎士団での私の待遇は変わらなかった。
始めこそ、今まで積み上げてきた技術や経験で他の者たちを圧倒して
凄いともてはやされてはいたが、女という偏見や自信に対する妬み、嫉妬が混ざり合い、ここでも私は誰とも交流を持たず、独りになっていった。
結局、どんな所にいようとも変わらない。ずっと独りなのだと....そう思っていた。
でもそれはある出来事から大きく変化することとなる。
その日はオルバドスが主催のパーティーがあった。
どうやらこのオルバドス家が貴族として誕生してから五十年ということでの開かれたパーティーだ。
このときのオルバドスは貴族のトップとして君臨していたため、その会場には公爵から男爵まで幅広く集まっていたのだ。
私もその家の人間としてこの時は騎士としてではなく淑女としてドレス姿でパーティーに参加した。
なんで私がこんなことを…そう思ってしまった。たとえ自分が貴族の者として戻っても何も変わらない。
そうではないか。今も私を見る目は誰だって興味がなさそうに、酷い時は少し軽蔑を込められて見られるだけ。
強くなろうが、それは彼らに悪い感情を目覚めさせるきっかけに過ぎない。
仲間がいたらどれだけ楽しいのだろうか、高めあうライバルがいたらどれだけ強くなれるだろうか、誰かのために守れるのならどれだけ幸せだろうか………私にはそれがない。
……こんなパーティー、私には無意味だ。
そんな時だ、誰かに見られてることに気がついたのは。
元々五感が鋭かったので、その視線はずっと感じていた。なんだと思い、そっちを向くと……そこには、一人の白髪の男性がいた。
他の貴族たちの当主と比べると若く見える。
どこか掴みどころがない……その目を見れば見るほど堕ちていきそうな、そんなミステリアスな人物。
ただ、私はその人物からの視線を悪く思わなかった、寧ろとても心地よかった。
嫉妬や妬みといった醜い視線とは違う、純粋で心を癒してくれるような、暖かい視線……そんな物を彼は私に向けてくれた。
一体誰なのだろうか?
そんなことを考えてる間にも時間は刻一刻と進んでいた。
会場によるダンスパーティー、主催者の父である一言、貴族らしい会話の数々…様々な事が繰り広げられた。
そして、そんなパーティーを終わりを迎えようとした時、事件は起きた。
「な、ない……ここに置いてあったアクセサリーが……!」
貴族令嬢が声をあげたことでこのパーティーに一つの波乱が幕を上げた。
どうやらテーブルに置いてあったネックレスが無くなったらしい。周りの反応を見ると、どこかに落としただけだろ。そんな見え見えな思いが目に見えて分かった。
だが、私には偶然ながら見えてしまった。
おそらくそのテーブルに置いてあったであろうネックレスを奪い取った人物を。
遠くであったが、元々五感が鋭い私はそれを見るのは容易かった。
だから声を掛けた、そこの人が奪ったのではないかと。
だが、周りからの私の評価は最悪と言っても良かった。その証拠に私に対する彼らの目線が馬鹿にしてるような…疑惑でいっぱいであった。
分かっていた、誰もそんな言葉耳に傾けないことなどいないことなど、とうの昔に知っていた。
そんな、諦めの感情を出した時、彼が現れた。
「では、調べないといけませんね」
「えっ……?」
その時現れたのは……私のことを見つめていた人物である白髪の男性であった。
「で、ですがマエル殿……この者の言葉など……」
そこにいた一人の貴族がそんなことを言うが、私は信じてくれる人が存在するとは思わず、つい呆気に取られてしまう。
どうして……?頭の中で彼に聞いた時、それに応えるように彼は……マエルという人は当たり前のように言った。
「オルバドス家のご令嬢様が見たと言ったんです。それならば無碍にするわけにはいかないでしょう?」
その答えに……私は、近くでないと見えないぐらいの薄い涙を流してしまった。
その後、私の言ったとおり、指摘した人物が懐に持っていたらしく、無事この一波乱は幕を閉じた。
私はその出来事が終わった後、マエルさんを街の隅々まで探したが……彼はどこにもいなかった。どうやら帰ってしまったらしい。
………初めてだった。私の言葉を真っ先に信じてくれた人物は。
その時、いつも通りに動く心臓が、ドキッ!とまるで波打つように鼓動が早くなるのを感じた。
あぁ…そうか、私はあの人に…心を打たれたのだなと、この時の私は実感した。
そして、彼を探すべく、私は今所属している騎士団をやめ、自由に行動するため冒険者となった。その時には親からはもう絶交宣言を喰らってしまったが……それでも良かった、あの人が見つかるのならば。
私があの人について知ってるのはマエルという名前だけ。
だからマエルさんの居場所や家名など、彼のことなど全く分からなかった。
普通なら情報収集など彼の手がかりを得るためにそういうことをするだろうが、私は何を思ったのか、何もせずにただあちこちを探し回った。おかげで探すのにもとても苦労を掛けた。
でも諦めずに、彼に仕えたいという思いからマエルさんの治める場所......レステンクール領にたどり着くことができた。
そして、彼を見つけた時、私は自分の心が踊るのを感じてしまう。
やっと見つけた...!すぐにでもあのときのお礼を言いたい、話したいという想いに任せて近づいた時......それを見てしまった。
マエルさんの隣に......とても幸せそうに笑っている女性の姿と子供の姿が。
この国では一般的には一夫多妻制は認められている。この世界での子供を増やすためだ。
だから別に彼が誰といようがどうってとこなかったはずなのに......その幸せそうな空間に割り込める気がしなかった。
胸が締め付けられる思いを感じた私は彼らに気づかれないようにそっとその場を離れた。
涙が出た。あの時みたいな嬉し涙ではない、胸が悲鳴を上げてるような、心にポッカリと穴が空いたような......そんな感じたくもない物とともに出た....悲痛の涙。
馬鹿だなと思った。だってあんな魅力的な人物、周りが放っておくはずがないではないかと。
あぁ.....とても、とても苦しい。こんな思いするなら彼と出会わなければと良かったとも思ってしまう。
違うそうではない、私は彼を支えるために来たのに、そんなこと思ってるはずがない。頭の中で自分の言ってる事を否定する。
もう......分からなくなってしまった.....自分の本当の想いが。
自分の想い、気持ちが分からず、そんな自分にまた抑えきれない涙を誰にもいないような場所で拭いてる時......とても幼い、でも彼のような暖かい空気を思わせる声が聞こえた。
「あ、あの......」
その声に反応するように私は振り向くとそこにいたのは―――
◇
「あ、アクセル様....どう、して......?」
視界がぼやけて見えない、ただ確かに聞こえる。毒で犯され、亡くなってしまったはずの声が......自分の敬愛する人物の声が耳に入る。
走馬灯の見すぎでついに幻聴が聞こえたのだろうか......その疑惑を消してくれるように再び彼は声を掛けてくれた。
「ごめんね。辛い思いさせちゃったね......ちょっと時間がかかった」
「そ、そんなの......!」
貴方が生きててくれたら……!でもその言葉が喉に詰まって出ない。溢れ出す感情が私の言いたい事を阻害してくる。
(……良かった、ちゃんと心臓も動いている。体温も…‥温かい。幻覚じゃないんだ……アクセル様………)
命をかけて自分達のために行動してくれた……本当ならたくさん言いたいことがある。でも今の私には………
「……申し訳、ありません」
………やっとの思いで出た言葉は、彼に対する非礼。私の言葉に対して、アクセル様はただ黙っている。
「…守れません、でした……貴方のお言葉……託して、くれたのに……約束……果たせません、でした」
最初に彼に言う言葉は自分自身の非礼ではないはずなのに、辛くて、苦しくて、悔しくて
そんな感情が無意識に言葉に出てしまう。
「ソフィア様は、どこに行ったか……分からなくて……マエル様、は……マリアを守るために……その、まま……」
ボヤけていた視界は目から溢れ出る涙によりさらに見えづらくなり、自分の弱さから彼が羽織っているマントをシワが出来るほどの力で握りしめてしまう。
「……悔しい、です……貴方が命をかけて守ってくれた物を……私、は……わたしは……!」
「……ジーク」
その時、響いた彼の包んでくれるような、あの時のマエル様と同じような暖かくて…優しい音が聞こえた。
アクセル様は溢れ出る涙をもう片方の手で私の目を拭き……そこにあったのは、軽蔑や嫌悪が含んでいたあの時の私を囲んでいた表情ではなく、マエル様みたいに私の中に唯一光を与えてくれたような表情。
「……よく、頑張ったね」
「ッ!?」
あぁ……貴方もそんなことを言ってくれるのですね?どんなに不格好で、無愛想で、ずっと独りだった私にも……アクセル様は、私がずっと欲しかった言葉を……くださるのですね?
「後は任せて」
アクセル様が私にそう言うと、今も涙が溢れ出しそうな私の顔に掌を置く。
「……こ、これは…?」
すると、今まで魔法薬により弱体化された身体……吐き気、頭痛といった症状がなくなり…‥限界に近かった身体は動けるほどに回復する。
「うん、良さそうだ。さて次は……」
彼はそれだけ言うと……私から離れ、いつの間にか近くにいたであろう二人の方を向いた。
「ぁ……あ、アクセル………?本当に、アクセルなの?」
その言葉からは驚きと戸惑いの感情が籠っていた。目は頬に涙をこぼしながらも光が宿り、口元を震わせながらマリアはアクセル様に聞いてくる。それに対して彼は少し苦笑しながら答える。
「うん、姉さん。偽物でも幻覚でもなんでもない。正真正銘、貴方の弟のアクセルですよ」
「ッ!……あ、あぁ……ほんとに……ほんとに……!」
それが本物のアクセル様だと知ると、マリアは柄にも合わず、マエル様を抱きしめながら
彼を凝視し、顔を歪ませていた。
だが、その表情は先ほどのような絶望に染まった顔ではなく……彼が生きててくれている事実から出る希望に満ちた表情であった。
「……父上」
すると彼はマリアから目線を外し、呆れたようにため息吐きながら、マエル様に近づいて、手を添える。
「……俺は貴方も助けると決めたんですよ。それにこのまま帰ると……母上が悲しみます……だから」
「しっかりと戻ってきてください。あなたには、まだまだやる事があるんですから……父さん」
するとマエル様の胸の辺り添えたアクセル様の掌から光が放ち、その光がマエル様の身体に吸い込まれていくように吸収されていく。
その現象にさっきまでアクセル様の姿を見て、顔を歪ませていたマリアも、彼に抱き抱えられたという事実に少し顔が熱くなっていた私も目を奪われていた。
「…………ゲホッ!」
「ッ!おとうさん!!」
その神秘的な現象には驚きが隠せずにいた。なんと先ほどまで死にかけであった…もしかしたら死んでいたかもしれないマエル様がまるで息を吹き返したかのように、正気を取り戻したのだ。
「……あ、あく、せる……?ここは?」
「そんなことはいいから今は黙っててください。ほら、まだ傷自体は治ってないので……と、そろそろ来たかな」
彼はアクセル様の姿に弱々しくも信じられないと思ったのか目を見開き、そんなことを聞くが、アクセル様は傷だらけの彼を一蹴し、
何かを確認するようにどこかを見つめていた。
「……ッ!アクセル様ッ!」
すると、どこからか彼と同年代だと思われる声が聞こえる。目をやるとそこには馬に乗った青い髪の少女の姿があった。
「一体どこにいっていたんですか!?探したんですよ!!」
「すみませんナーシャ。でも少し頼んでもいいですか?父を街まで送って欲しいのです」
そんなやりとりをしながら、アクセル様は馬とマエル様が離れないようにロープのようなもので縛りつけている。
「マエル様…!これは……背中の傷が深いですね」
「出来れば僕も同行したいのですが、今は席を外せません。頼まれてくれますか?」
「……分かりました。なら私はこのまま領地に向かい、アルマン様のサポートを」
「助かります」
どうかご無事で…!ナーシャ様がアクセル様にそう言うと、彼女はマエル様の治療とアルマン様のサポートをすべく、馬に乗ってこの場から離れて街に行った。
「……さて……随分とお利口に待っててくれてたじゃないか……魔族共」
さっきの包んでくれるような優しい声とは裏腹に深く、激しく、滲み出るような憎悪が感じ取れるほどの声で呟き、アクセル様は今も冷や汗をかきながら見守っていた二体を見る
「……ありえません。この世界の人間が毒を……それも我らの傑作とも言える物を……」
そのうちの一体、レイドールは隠しきれない激しい動揺を見せ、そんなことを呟いてる。
「まぁ確かに、あれは効いたよ。正直、死ぬかと思った……だが、俺は生きてる。結局それだけだろ?」
「くっ…!どんな手段を使った!ただの人間があれを飲んで生き残るなんて……!」
「どっちでもいいだろ?お前らに教える義理なんてねぇよ」
いつもと違う……たまに出る彼の本性であろう口調で二体の魔族を追い詰めている。
そこに得体の知れない物を感じたであろうレイドールとラゴイスタはすぐに歯を噛み締めながらすぐに構え出す。
「……やりますよラゴイスタ。あれは、今ここで消さなければいけない……それくらいの迫力が……」
「分かってる!くそっ、まさかこんなガキがマリアとジークよりも強いなんて……!!」
そこにはいつもの戦闘狂らしく口元を三日月に歪めている姿はなく、目の前の敵をここで始末しなければならないという使命感が今の彼らを支配しているように見えた。
「二人よりも強い…?おいおい、お前らそれは誤解だ」
彼がそう呟いている間も真っ先に殺さんとばかりに目の前まで近づいている二体を前に何かを信じているように抵抗もせず、ただ目を閉じているアクセル様。
……やはり貴方は——
「マリアとジークは、俺よりもずっと強いぜ?」
——変わったお人だ。
私はすぐに自分の全力で戦える様に即時に身体能力《フィジカルブースト》、魔法付与《エンチャント》をかけ、彼に近づいている二体の魔族のうちの一人、レイドールに斬りかかる。
「霹靂《へきれき》狂飆!」
「火雷神《ひらいしん》!」
マリアも彼を守るべく動いたのだろう。
同時に彼らに攻撃を仕掛ける。
自然の力であろう雷と嵐を二本の剣に具現化し、悉くを滅ぼし尽くす嵐のようにその高速かつ乱れた剣舞で攻撃を繰り返し、一つ一つの斬撃に大地を揺るがす雷鳴の一撃を入れていく。
そしてマリアはもう一体の魔族、ラゴイスタにその巨体とも言える肉体に青白く変化した炎と豪雷ともいえる雷鳴が融合した一本の剣で天災の如く、周囲を焼き消す一閃を繰り出した。
「ぐぅぅっ!?」
「ぐはぁっ!?」
私たちの技を受けた二体は不意打ちを食らったことで堪えることができずにそのままそれぞれ左右に吹き飛ばされていく。
「……貴方の方がお強いでしょう?アクセル様」
私は先ほど言った彼の言葉に苦笑が溢れてしまう。私たちに気を使ったのだろうか?そんな思いが見え隠れしてるように見えた。
「い~や、僕は何も嘘は言ってないね」
だが、それを否定するようにアクセル様は顔を振りながら笑みを浮かべている。
「……その言葉が嘘でないのなら……ここは私達に任せてはいただけませんか?」
「……貴方に託された想いを無駄にしないために……もう一度、私にチャンスをください」
「……もう一度も何も」
私の言っていることがおかしかったのか、アクセル様は口元を綻ばせながら、それを否定してくれるように言ってくれた。
「ジークの想いは無駄になってないし、僕にもちゃんと伝わってるよ。生きててくれてよかった」
「……ほんとうに貴方は」
本当ならば許されざることなのに……そんな欲しかった言葉を聞いて私は嬉しく感じてしまう。
「……アクセル」
すると今度はマリアが声を震わせながら声をかけている。アクセル様は彼女の背中を眺めていた。
「……私、本当は怖いの……これがまた、夢なんじゃないかなって……私にそんなチャンスがあるのかなって……胸が、苦しいの……」
「……姉さん」
「……でもお願い。もう一度だけ、貴方を守らせて。たとえ、これが夢でもいいから……私は……アクセルを…!」
「……なら僕も貴方を守りますよ。いえ、貴方を守らせてください……マリア姉さん」
アクセル様のその発言に、彼女はビクッと身体が跳ね、ゆっくりと振り向き……ぎこちない、下手な笑顔を浮かべていた。
「……うん……うん!私、ちゃんと守るから……!これが終わったら貴方に話したいことがあるから……!だから……絶対に生きて、アクセル!!」
「えぇ……必ず、生きて帰ります」
それだけやり取りをして、アクセル様はまるで待っているであろうもう一人の人物に会うべく、飛行《フライ》を使って空に飛んで行った。
「……マリア、あんたはもう大丈夫なの?流石にここから戦線離脱するのはだめよ。私の身がもたないわ」
「……そっちこそ大丈夫なの?さっきまで身体ボロボロだったじゃない。今のうちに回復でもしておいたら?」
「余計なお世話よ。それに……今の私は負ける気がしないわ」
「…‥同感よ」
そして、何度も戦ってきた相手が少しずつこちらに歩いてくるのが見えた。私たちはこれが彼らとの最後の戦いだと認知し、隙を見せないように、構え出す。
「やってくれましたね……貴方達……!」
「邪魔するとはいい度胸じゃねぇか。来いっ!今度こそ捻り潰してやる!!」
相手の咆哮にも私たちは怯まない。
彼が生きているという事実が私たちを強くさせる。彼がそばにいてくれれば……負ける気がしないのだから。
「いくわよ、ジーク!!」
「えぇ、マリア!!」
——アクセル様、貴方は言いましたね。
私に出会えて良かったと。
……それは、こちらのセリフです。
マエル様がきっかけではありましたが……私にはたくさんの仲間が、友達が出来ました。
それはあの時、あの路地裏で私を支えてくれた幼い貴方が居てくれたから……今の私がいるのです。
私こそ言わせてください。
貴方と出会えて、本当に良かったと。
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