全てを失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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さぁ、始めようぜ?

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ジークと姉さんにあの二体の魔族を任せて、俺は今の現状が知りたかったから、魔法を使って空を駆け回っていた。

ナーシャとバレロナさんの説得はなんとか成功したが、その条件ということでナーシャを連れて行くことにしたのだ。

まぁ、言い出したのは彼女であるけれど...「アクセル様一人で任せてられません!」
とか言ってバレロナ様を一蹴したのは凄かった。やっぱりこの世界でも女の子って強いんだなって実感した時だ。

(……にしても、まさか俺の知らない魔族が二体関与してるとはな……いやもしかしたら……)

ただ、気になる点が。原作だとあの魔族達はこの場所にはいなかった。
ということは、これも歴史を変えた影響か?
だが、魔族が介入するほどの何かをした覚えがない。

もうここまで来ると、原作の知識はあまり当てにならないかもしれない。
だが、ソフィアもどこかに連れ去られたということは完全にはこの知識はいらないとは言い切れない。正直、とてつもなく厄介だ。

「...と、どうやら着いたみたいだけど......なんか天気悪化してないか?」

この周辺を見渡せる場所に着いたものの、なぜか上空も地上みたいに少し雲行きが可笑しい気がする。確かに戦場で雲行きが良いなんて言えるわけないが.....まるでここを戦場にしているような......。

そうして上空周辺を見渡していると.....この一件で任せっきりだった少女の声が聞こえた。

「アクセルっ!!」

声が聞こえたほうを向いた瞬間、誰かが俺を目掛けて勢いよく飛んでくる。それに面を食らってしまったが、咄嗟に自分の両手を広げてこちらに向かってくる人物を受け止める。

「……ローレンス」

彼女……ローレンスの名前を呼び、彼女はそれを肯定するように何度も何度も俺の身体の中で頷く。

「……うん……うん……!我、信じて待ってたよ。辛かったけど……アクセルのこと信じて……我……!」

その声からは涙声が漂っていた。
いつもの大人びた口調ではなく、稀に出る彼女の昔の素の口調。抱きしめる両腕の力は離さないと表現してもいいほど強く、ローレンスの顔辺りに当たってる服は少し湿っぽくなってる。

「待たせてごめんな。ここまで頑張ってくれてありがとう」

そんなローレンスをしっかりと受け止めるように彼女の後頭部に手を置く。

すると、ビクッと身体が動いたが、俺の体に埋もれていた顔はこちらに向き、頬に涙をポロポロと流しながらも、満面の笑みで答えた。

「………当たり前なのだ……我は、お主の味方だからな!」

彼女の答えに俺は、ふっと口元を綻ばせる。
ありがとう、そう言おうとした瞬間、こちらに凍てつく冬の嵐のようなブレスが飛んでくる。

「……チッ、邪魔だ……!!」

するとさっき俺に見せてくれた喜びと安堵が滲み出るような幸せな表情から一変、俺には絶対見せないであろう憎悪と怒りの対象を見ているかのような表情になり、俺を抱きしめながら、片方の腕をそのブレスに向け、受け止める。

すると、ブレスは反射するように飛んできた方に向かっていき、おそらくそれを吐いたであろう魔物に当たり、爆散する。

「……せっかくアクセルと再会できたのに……奴らは空気を読むことを知らんのか……?」

その声には可愛らしさなんてものは存在せず、嘗て混沌の魔女と呼ばれてもおかしくないほどのドスの利いた声。

ローレンスってこんな怖いんだ…とその姿に少しゾッとしてしまったが、状況が状況なので、心の中で思ってることがバレないように顔を険しめて、彼女と同じ方向を見る。

「状況は?」

「……今は魔族達の足止めを喰らってる所だ。地上におそらく敵と思われる数百はいるであろう軍隊を発見、それを指揮してるのはペレクの奴らだ」

ローレンスの言ってることを確認するように地上を見ると……確かに、徐々に近づいてきているのが分かる。あれは確かに、今のウィンドブルムでは少し対処しきれないな。

「ソフィアの行方は?」

「……すまん。それが、まだ見つかっておらんのだ」

彼女の表情が曇るが、その情報があるだけでもありがたい。

「十分だ、あとは……ユニーレに少し報告してくれないか?魔物を操ってる魔族の捜索をしてくれって」

「それはいいが……ソフィアはどうするのだ?」

確認するようにローレンスはこちらを見る。
俺はソフィアがまだ見つかってないという状況に特に焦りがない。何故なら……

「ソフィアは俺が捜す。場所も把握している」

おそらく、アクセルが見つけたあの場所に……そして、アレスとソフィアが出会ったあの場所に……彼女はいる。

「……分かったのだ、それならソフィアの捜索は任せたのだ」

「あぁ、任された」

そんな会話をしていると、数体はいるであろうワイバーンに乗っている魔族が近づいてくるのが見えた。

俺とローレンスはお互いに頷き、彼女はユニーレに報告するべく、風通信を使っている。
その間は奴らの足止め、ということだ。

「……貴様、何故あれを飲んで生きている?」

おそらくそのリーダーであろう魔族……多分ゼノロアと交渉したであろう奴が俺の姿を見て信じられないように聞いてくる。

「どうもこうもない、ただ生きている。それだけだ」

その問いに対して、地上にいた図体のでかい魔族と同じように答える。

……やはり、魔族はここまで協力していたか。ワイバーンに乗ってる複数の魔族の姿を見て、そんな風に考える。

「お前らの目的はなんだ?何故人間ごときに魔族が協力している?」

「ふん、道具と評してもいい人間の貴様にそれを教えるとでも?」

そう言葉を吐いた瞬間、二体のワイバーンがその馬鹿でかい図体で音速のごとく近づいてくる。

「……話の通じない奴め」

奴らの対応に俺はそう判断し、上に乗っている魔族を消さないために、虚無力ではなく、収納ボックスにある政宗を取り出す。

なんだ…?おそらく空間魔法という見たことのない芸当に相手は疑問を浮かべている間に、即時に片付ける。

「居合——抜刀」

空中という足場のない所でのシンプルな抜刀。
普段と比べると、その威力は数段劣るが、奴ら相手ならこれで十分。

その言葉が的中したかのように、奴らの発達した自慢の翼は無惨にも斬られ、宙を泳ぐ手段がなくなったワイバーンはそのまま悲痛な鳴き声を出しながら落下していく。

「…くっ…!」

バツが悪そうにそのワイバーンに乗っていた魔族は自らの翼で空を飛び、自分の乗っていた奴を見捨てる。

その一連の動作を見ていた相手の魔族は拍子抜けしている。それもそのはず、成人にも満たないただの子供が人間でも単独で倒せるのは限られるであろうワイバーンをたったの一振りで終わらせたのだから。


「どうした?そんな顔して。まさか……これで終わりとはいかないよな?」

油断大敵。それは先ほどの戦いを表しても良い言葉でもあった。
そして、それは彼らも思ったのだろう。俺を囲むように陣形を整える。

だが、その表情には余裕がない。まるで目の前の敵が自分たちの天敵だとでも言ってるかのように魔族は歯を食いしばってるようにも見えた。

「撃てっ!」

それを隠すようにリーダー魔族は指示を出し、ワイバーンはそれぞれ自分の得意とする属性のブレスを俺目掛けて勢いよく吐く。

「まるで、馬鹿の一つ覚えだな」

囲んで叩けば勝てるとでも思ったのかとそう思いながら、特に何もせずに奴らを見守る。

「……な、なんだと……!?」

驚くのは無理ないだろう。奴らのブレスなら死にはしないものの傷の一つや二つとでもつくだろうと予想したんだろうな。

だが、目の前にいるのは無傷のままのアクセル。それだけ見ればどれだけ相手が異常かこれで分かるだろうな。

「悪いが、そのワイバーンは邪魔だから消しとくな」

相手に宣言するように呟いて、持っている刀を奴らに向け構える。

「——龍の舞」

その技はまるで劣化種である竜《ワイバーン》を喰らう上位種である龍《ドラゴン》のようであった。

俺は真正面にいたワイバーンをその一つ一つが鋼鉄よりも固いであろう鱗がある首をなんの障害もなく、空を翔る龍がその命を喰らうごとく断ち切る。

声にもならない声を出し、地へと堕ちていく竜。魔族はその突然の動きに呆気に取られながらも自身の翼で宙に留まる。

その間も、他にいる4体のワイバーンを喰らうべく次の獲物を狙いを定める。

その動きは軽やかでありながら、力強く、一振り一振りが風よりも静かに、雷よりも激しく相手を切り裂く姿はまさに龍が舞い踊る自然現象とでも言ってもいいと俺は独自に評価をする。

そして、いつの間にか最後の一体になったワイバーンをデザートの如く、綺麗にそして美しく鋭い剣筋で命を絶つ。


「……あ、ありえん……貴様、化け物か!」

呆気なく散って行った自慢のワイバーンを見て、声を荒げる魔族。

「お前ら、よくもまぁこれでローレンスを相手にしてたものだな」

「な、なんだと…!」

俺はあまりの手応えの無さに関心を覚えてしまう。魔族共はそんな俺の言葉に怒りを滲ませるが……実際、事実だからな。

「……あいつが手加減していたかは分からんが……ローレンスはお前らよりもずっと強いぞ?だから……ここからは命掛けて戦えよ。じゃないと……」

「……死ぬからな?」

すると俺の背後から魔法と思われしき物が七体の魔族目掛けて飛んでくる。
それに対して奴らは運良く反応したが、そのうちの一体はその魔法に当たり——


「あぁぁ……た、たす、けて……」

——身体が塵になって消えていく。
その魔法に奴らは青ざめている。まさか、自分たちの仲間が一撃で死ぬとは思わなかったからだろうな。

「アクセル。すまん待たせたな」

彼女はなんでもないように選手交代のごとく俺の前に現れる。

「いや、大丈夫だ。ワイバーンは倒しておいたから暴れてもいいぞ」

「あれを倒したのか…?そんな簡単に………ふふっ、流石は我のアクセルだ」

……我のアクセル?
なんか、ローレンスの言葉から得体の知れない物を感じ取った瞬間、彼女の声が聞こえた。

『……無事かしら、アクセル?』

この声は……ユニーレだな。少しその声には不安が混じってた様に感じたので、彼女を安心させるために未完全の風通信で俺も応答する。

「あぁ、約束通りしっかりと帰ってきたぞ。ユニーレ」

そう声をかけた瞬間、少しの間があった。
なんだと思い、再び声を掛けようとしたら
その前にユニーレの声がした。

『…………………そう、ちゃんと無事に生きて帰って来たのね……良かった……』

安堵という常に余裕を醸し出してる彼女らしくない声が聞こえたが、彼女はいつも通りを演じてるように聞こえたので俺は何も言わないことにした。

「魔物を操ってる魔族を探して欲しい。おそらく、そう遠くない所にいるはずだ。頼めるか?」

『えぇ、お安い御用よ。しっかりと責務を果たすわ……ソフィアのこと、お願いね?』

「あぁ、任せろ」

そう言うと、通信越しのユニーレとローレンスはふふっと笑みを溢しているように見える。

「……なぁ、ユニーレ。不思議だな。
アクセルがいると思うだけで……我はどんな相手でも負ける気がしないのだ」

『そうね……私たちはずっとだったけれど……彼の存在はそんな私たちさえも強くさせてくれる、変化を与えてくれる……ふふっ』

その言葉に対して……聞こえないふりをする。俺がいるといないとで影響があるとは思わないが、流石にそんなことを聞かされると恥ずかしさを覚えてしまう。


「……ローレンス、ユニーレ」

そんな気持ちを切り替えるように、俺は彼女らに声を掛ける。

「……

俺の言葉にローレンスは不敵な笑みを浮かべ、ユニーレはふふっと声を出し、気合いを再度入れるように返す。


『「全ては貴方の御心のままに」』

その言葉を吐き、それぞれが別行動をする。

一人は汗を滲ませている残りの魔族の相手を。

一人は魔物を操る魔族を探すべく、捜索の継続を。

そして俺は、この戦場というフィールドを有利にさせるために、そしてソフィアを必ず生きて見つけ出すために動き出す。

「反聖結界《アンチ・ホーリーフィールド》」

さぁ、始めようぜ?
悲劇という名の祭りの本番を……!

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