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アクセルとソフィア
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「おにいさま………おにいさま………おにいさま………おにい、さま………」
虚な心で身体を屈んで膝に顔を埋めながら、自身の兄の事を呼び続けているソフィア。
「……ゔぅ……はぁ…はぁ……ぁぁ……あぁ……!」
受け入れなければならないはずなのに……その現実を目の当たりにしなければならないのに……そう思うたびに、否定してくるように心の鼓動が早くなる。
「おにいさまぁ……あぁ……う、うぅ……」
もしもあの時、お兄様を止めることが出来ていたら。もしもあの時、自分が犠牲にしていれば。もしもあの時……あの人の隣に立つことが出来たのなら……。
……嫌いだ。
そんな醜い後悔を抱いてしまう自分に嫌気が差してしまう。
だって、どんなに後悔したって自身の大切な人物は戻ってこないのだから。
………でももし、もしもまた会えるのなら……その時は私も一緒に……。
すると、意識がぼんやりとしてきた。
分かっている。行かなければならないと……地獄が待っているであろう現実に。
……行きたくないなぁ……受け入れたくないなぁ…………お兄様に…………。
「………お兄様に……会いたいなぁ……」
涙声を漂わせて言ったとしても、叶うわけない。自身の兄を失ったあそこで生きたとしても……私は生きれるのだろうか?
それすら分からない……でも……生きなければ。そうだ、彼が守ってくれたあの場所で……生きなければならないんだ。
それがあの人が残してくれた呪いだとしても……使命だとしても。
◇
「……んん…」
あぁ……戻ってきてしまった、残酷のみ残された現実に。
耳を澄ませると鳥の囀りが聞こえる。どうやら外のようだ。それもそうだ、あの時自身の故郷を自ら抜け出して、そのまま途方に暮れてたのだから、当たり前のはず。
そう、当たり前のはずなのだ……それなのに、何故だろうか。
(……懐かしい、匂いが……)
忘れるはずがない、それは自分の大好きだった人の匂いなのだから。
どこにいるのか分からないはずなのに、そんな匂いが自身の鼻に通り抜ける。
ついに鼻もおかしくなったのだろうか?
……いや、そっちの方が案外楽なのかもしれない。
だってずっと自分の兄が居てくれる気がするから。
……起きましょう。
決心をして、現実と向き合うように自分の瞼を開いて……鼓動がなった。
「…………………………………ぇ……?」
世界が止まったような感覚はきっとこの事なのだろうとソフィアは思う。
でも仕方ない、彼女がそう思うのは必然だ。
だって自身の目には……死んだはずの兄の姿があったのだから。
幻覚?いやだとしてもこの匂いは?この包んでくれるような温かさは?どうしてここまではっきりしているの?
そんなソフィアの様子に気付いたのか、自身の膝を枕にしている彼女の方を向いて……口を緩ませて微笑んだ。
「…‥ソフィア、目が覚めたか?」
「ぁ…………あっ……あぁ……!」
さっきまではっきりと見えていたはずの視界がぼんやりとしていてうまく見えない。
いやだ、これが幻覚だとしても消えてほしくない、そう思ったのかソフィアは自身の目を擦ろうとして……その前に彼の大きく、温かい手が自分の目から溢れる涙を拭いてくれる。
「……見えるか?」
また、また聞こえた。
自分が一番聞きたかった声が……自分が一番会いたかった人物の声が。
……ほんとう、なのだろうか?常識的に考えれば、そんなこと、ありえないのに……でもその現実に縋るように、ソフィアはその人物に声を発した。
「……ぉ、おにぃ…!さま……?」
上手く、声が出ない。
風の音でかき消されそうな弱々しい声、それでも兄には……アクセルにはしっかりと届いたようで、ソフィアの言葉をきちんと返す。
「……あぁ、戻ってきたぞソフィア」
「ッ!」
それが現実だと分かった瞬間、ソフィアは……すぐに起き上がり、アクセルの胸の中に飛び込んだ。
「うおっ!」
アクセルはソフィアの突然の行動に反応出来ずに、そのまま草が生い茂っている地面に倒れ込む。
「いてて……ソフィア……」
「うぅ……ゔぅ……あ、あぁ……」
……感じる、夢じゃない。
自分の兄の温もりが、声がしっかりと彼女自身に感じてくる。
自分の兄を押し倒してしまった、怒られるのだろうか……幻滅されるだろうか。
そんな万に一つもない事を考えた時、ソフィアの頭にアクセルの手が乗る。
「……ごめんな」
大切な物を扱うかのように撫でる彼の手を感じ、そしてその声が彼女の耳に入った時……ソフィアの理性は崩壊した。
「……お兄様」
「……うん」
「……お兄様……お兄様」
「……うん」
「お兄様……お兄様……!お兄様!」
「……うん」
「お兄様!!お兄様!!!」
抱きしめる力が強くなる。それでもアクセルは逃げないように、受け止めるようにソフィアのことを片手で抱きしめ返す。
それが余計にソフィアの心を掻き乱した。
「会いたかった!!ずっと、ずっと会いたかった!!ずっと感じたかった!!ソフィアのことを受け止めてくれる貴方の温もりが!!」
「……うん」
「…寂しかった、んですよ…悲しかった、んですよ……!ずっと、お兄様の事……死んだと思って……もう、生きていけないって……思っちゃって……!」
再び自身の醜いものが兄のアクセルに告げられる。それでもアクセルはそんな醜い部分も受け止めるように強く抱きしめる。
「……ごめんな、みんなを守るためとはいえ……傷つけちゃったね」
「ッ!あ、あぁ……おにいさまぁ……」
自分たちのために動いてくれたのに、そんな罵倒とも言ってもいい言葉に対してアクセルは傷つけてしまったとソフィアに返す。
そんなどうしようもない優しさがソフィアの凍てついた心を溶かしてくれる。
「……もうどこにも行かないからな……だから、今は思う存分、ソフィアをさらけ出してくれ」
「ッ!!あぁ……あぁぁああああああああ!!!!おにいさま!!おにいさまあ!!おにいさまああ!!!!」
今の彼女に理性というものなど、存在していなかった。
それほどまでにソフィアにはアクセルという存在が必要であり、それが生きる希望になっていったのだ。
「……よしよし、ここまでよく頑張ってくれたね」
しばらくの間、アクセルはソフィアが泣き止むまで宥めるのであった。
◇
「……あの、ソフィアさん?もうそろそろ離れていただくと……」
俺は困った様な声を出して、さっきまでは落ち着いたであろうソフィアに声をかける。
だが、今のソフィアには届かないようで……。
「グスっ……は、離しませんから……もうお兄様と離れるなんて……絶対にいやです……」
……泣きそうな雰囲気を出しながら俺のことをギュッと抱きしめているのである。
その様子に俺は仕方ないなと思いつつも、流石にこのままに留まるわけにはいかないので。
「よっと」
「あっ…」
彼女の背中と足に手を置いて、横抱きのまま起き上がる。
所謂、お姫様抱っこというやつだ。
「それなら帰るまではその体勢になってもらうぞ」
普段のソフィアならきっと恥ずかしそうにして顔を真っ赤にさせるのだが…今の彼女は俺の首に手を回してギュッと抱きしめており、普段よりも積極的に…というよりも離れたくないという思いが見え隠れしている。
「……ずっと……離しませんからね?」
……そのねっとりとした声を俺の耳元で囁くのはやめてくれないか?
身体をビクッとさせてしまうが、動揺を隠すように顔を前へ向け、移動するために歩き始める。
「……よかった……お兄様が、ちゃんと生きてる……やっぱりソフィアのことを置いていくはずないですもんね?だって約束しましたから、必ずお兄様は帰ってきてくれると……あぁ、なんて幸せなのでしょうか。これほどまでにお兄様に思われて、大事にされて……とっても嬉しい……でも………」
そんなソフィアの独り言が突如として急に無くなり、何かを物憂いてるように表情を暗くさせる。
「……お兄様……どうして、私たちには何も言わずに……一人で動いたのですか?」
その言葉が俺へと向けられる。
それに対して、少し苦笑しながら答える。
「みんなを守るため……って言っても納得出来ないか」
「……いえ、お優しいお兄様のことです。きっとそう答えると思いました……ですがそれが」
「それが……苦しいのです」
そのソフィアの言葉に俺は黙って聞くことにする。
「お兄様、私たちは……貴方のお荷物なのですか?貴方のお役には、立てませんか?」
「ソフィア……」
「……私は、ソフィアは苦しいです。でもそれ以上に……お兄様に何一つしてあげられない自分が……とても……とても嫌になります」
彼女の目が黒く濁り始める。
それは、周りにも、自分の親しい人たちにも見せる事はない、俺だけに見せるソフィアの言う醜い自分の姿。
「………守りたかったんだ」
そんな彼女の問いに答えるように俺も自身の気持ちを語り出す。
「奴らは……ペレク家の存在は危険だ。そんな奴らが標的にしたのが俺たちだったんだ。だから、みんなを……できるだけ危険な目には遭わせたくなかった……でも」
そう言いながら、今も光を通さない黒い目で俺のことを見つめているソフィアの方を向く。
「………みんなのこと、ちゃんと見てなかったのかもしれないな」
「……お兄様」
「なぁ、ソフィア」
そのまま俺のことを見続けている妹に問いかける。
「……お前は、どうしたいんだ?」
「えっ?」
「俺はこれからも家族を…大切な人たちを守るために動き続ける。だから、もしかしたらまたこんな風に危険なことをするかもしれない」
「ッ!!」
そう言った途端、彼女の抱きしめる力が強くなるのを感じる。
「……それでも俺は、守りたいんだ。ただ、それが日常を守れたとしても……みんなの心が守りきれるとは限らない」
「だから、ソフィアはどうしたいんだ?」
「……そんなの、決まっています」
すると、そんな問いかけに対して、彼女は俺の目を見ながらはっきりと答えた。
「……これからもずっとお兄様と一緒にいたいです。たとえ苦しいことだとしても、辛いことだとしても……私は、ソフィアは、貴方の隣で……一緒に生きたい…!」
「だが、それは」
「だから!!」
「……ッ!」
「だから、強くなるんです……貴方の隣はソフィアだけだと示すように……その障壁がお姉様でも、ジークさんでも、ローレンスさんでも、ユニーレさんでも、ナーシャちゃんでも関係ありません。お兄様が少しでも、この世界で笑っていけるように……私が支えるんです!!」
「……そう、か」
強い子だな……さっきまであんなに辛そうだったのに……ここまではっきりと言えるなんて。
それがアクセルのためなんだと思うと……とても嬉しく感じてしまう。
「……分かったよソフィア」
俺はその答えを聞くと、彼女の背中に回してる手を離して小指をソフィアの前に出す。
「お兄様?」
「約束だソフィア。俺は、お前を置いていかないし、一人にもさせない……ソフィアが望む限り……一緒にいる」
「ッ!!」
「って言っても、ずっとはなしだぞ?ソフィアには幸せになってもらいたいしな。いい人がみつかっ」
「はいっ!!」
「……ん?」
すると俺の小指を包むかのように片方の手で鷲掴みする。
俺の指を握る力が不思議と強く感じてしまう。
「はい……はいっ!!ソフィアはこの先、ずっと…ずっとお兄様と一緒にいます!!この身も、心も、貴方に全部……全部差し上げます!!」
すると今度は俺の指を離して、首に抱きついてきた。そ、ソフィアさん…?
「大好きですお兄様……ソフィアのことを尊重してくれるその優しさも……ソフィアのことを包んでくれるその温かさも……ソフィアは……お慕いしております…!」
それだけ言うと、ソフィアはさっきまで絶対に離さないという意思でも宿ってるかのように力強く抱きしめていたのが嘘のように緩んで、そのまま地面に降りる。
「お兄様!ソフィア、頑張りますから!!貴方を支えれるように……もっと、もっと強くなって……貴方の隣に立ってみせます!!」
「だから……置いていかないでくださいね?」
そのソフィアの表情に俺は一瞬見惚れてしまった。
だってその表情は、今も瞳を涙で流しながらも向けてくるその表情は……原作の終盤で見た、死体となったアクセルを抱きしめていた時のソフィアの表情と類似していたのだから。
(……この子は、本当に……)
……アクセル想いの強い子だ。
そう思ってると、急に俺の手が引かれる。
「うおっ!」
「あはは!帰りましょうお兄様!!私たちの屋敷へ!!」
どうやらソフィアが俺の手を引っ張っているらしい。
(全くこの子は……)
そんな様子に苦笑しながらも、俺は彼女と一緒にレステンクール領に向かった。
◇
(お兄様……ソフィアは、決めました。もう何があっても絶対に離しません。たとえ貴方がどこに行こうとも、ソフィアは必ずお傍にいます。だから……ずぅっと一緒にいましょうね?)
彼の発言によりソフィアのアクセルに対する想いが限界突破していることは、アクセルは勿論知らずにいたのだった。
虚な心で身体を屈んで膝に顔を埋めながら、自身の兄の事を呼び続けているソフィア。
「……ゔぅ……はぁ…はぁ……ぁぁ……あぁ……!」
受け入れなければならないはずなのに……その現実を目の当たりにしなければならないのに……そう思うたびに、否定してくるように心の鼓動が早くなる。
「おにいさまぁ……あぁ……う、うぅ……」
もしもあの時、お兄様を止めることが出来ていたら。もしもあの時、自分が犠牲にしていれば。もしもあの時……あの人の隣に立つことが出来たのなら……。
……嫌いだ。
そんな醜い後悔を抱いてしまう自分に嫌気が差してしまう。
だって、どんなに後悔したって自身の大切な人物は戻ってこないのだから。
………でももし、もしもまた会えるのなら……その時は私も一緒に……。
すると、意識がぼんやりとしてきた。
分かっている。行かなければならないと……地獄が待っているであろう現実に。
……行きたくないなぁ……受け入れたくないなぁ…………お兄様に…………。
「………お兄様に……会いたいなぁ……」
涙声を漂わせて言ったとしても、叶うわけない。自身の兄を失ったあそこで生きたとしても……私は生きれるのだろうか?
それすら分からない……でも……生きなければ。そうだ、彼が守ってくれたあの場所で……生きなければならないんだ。
それがあの人が残してくれた呪いだとしても……使命だとしても。
◇
「……んん…」
あぁ……戻ってきてしまった、残酷のみ残された現実に。
耳を澄ませると鳥の囀りが聞こえる。どうやら外のようだ。それもそうだ、あの時自身の故郷を自ら抜け出して、そのまま途方に暮れてたのだから、当たり前のはず。
そう、当たり前のはずなのだ……それなのに、何故だろうか。
(……懐かしい、匂いが……)
忘れるはずがない、それは自分の大好きだった人の匂いなのだから。
どこにいるのか分からないはずなのに、そんな匂いが自身の鼻に通り抜ける。
ついに鼻もおかしくなったのだろうか?
……いや、そっちの方が案外楽なのかもしれない。
だってずっと自分の兄が居てくれる気がするから。
……起きましょう。
決心をして、現実と向き合うように自分の瞼を開いて……鼓動がなった。
「…………………………………ぇ……?」
世界が止まったような感覚はきっとこの事なのだろうとソフィアは思う。
でも仕方ない、彼女がそう思うのは必然だ。
だって自身の目には……死んだはずの兄の姿があったのだから。
幻覚?いやだとしてもこの匂いは?この包んでくれるような温かさは?どうしてここまではっきりしているの?
そんなソフィアの様子に気付いたのか、自身の膝を枕にしている彼女の方を向いて……口を緩ませて微笑んだ。
「…‥ソフィア、目が覚めたか?」
「ぁ…………あっ……あぁ……!」
さっきまではっきりと見えていたはずの視界がぼんやりとしていてうまく見えない。
いやだ、これが幻覚だとしても消えてほしくない、そう思ったのかソフィアは自身の目を擦ろうとして……その前に彼の大きく、温かい手が自分の目から溢れる涙を拭いてくれる。
「……見えるか?」
また、また聞こえた。
自分が一番聞きたかった声が……自分が一番会いたかった人物の声が。
……ほんとう、なのだろうか?常識的に考えれば、そんなこと、ありえないのに……でもその現実に縋るように、ソフィアはその人物に声を発した。
「……ぉ、おにぃ…!さま……?」
上手く、声が出ない。
風の音でかき消されそうな弱々しい声、それでも兄には……アクセルにはしっかりと届いたようで、ソフィアの言葉をきちんと返す。
「……あぁ、戻ってきたぞソフィア」
「ッ!」
それが現実だと分かった瞬間、ソフィアは……すぐに起き上がり、アクセルの胸の中に飛び込んだ。
「うおっ!」
アクセルはソフィアの突然の行動に反応出来ずに、そのまま草が生い茂っている地面に倒れ込む。
「いてて……ソフィア……」
「うぅ……ゔぅ……あ、あぁ……」
……感じる、夢じゃない。
自分の兄の温もりが、声がしっかりと彼女自身に感じてくる。
自分の兄を押し倒してしまった、怒られるのだろうか……幻滅されるだろうか。
そんな万に一つもない事を考えた時、ソフィアの頭にアクセルの手が乗る。
「……ごめんな」
大切な物を扱うかのように撫でる彼の手を感じ、そしてその声が彼女の耳に入った時……ソフィアの理性は崩壊した。
「……お兄様」
「……うん」
「……お兄様……お兄様」
「……うん」
「お兄様……お兄様……!お兄様!」
「……うん」
「お兄様!!お兄様!!!」
抱きしめる力が強くなる。それでもアクセルは逃げないように、受け止めるようにソフィアのことを片手で抱きしめ返す。
それが余計にソフィアの心を掻き乱した。
「会いたかった!!ずっと、ずっと会いたかった!!ずっと感じたかった!!ソフィアのことを受け止めてくれる貴方の温もりが!!」
「……うん」
「…寂しかった、んですよ…悲しかった、んですよ……!ずっと、お兄様の事……死んだと思って……もう、生きていけないって……思っちゃって……!」
再び自身の醜いものが兄のアクセルに告げられる。それでもアクセルはそんな醜い部分も受け止めるように強く抱きしめる。
「……ごめんな、みんなを守るためとはいえ……傷つけちゃったね」
「ッ!あ、あぁ……おにいさまぁ……」
自分たちのために動いてくれたのに、そんな罵倒とも言ってもいい言葉に対してアクセルは傷つけてしまったとソフィアに返す。
そんなどうしようもない優しさがソフィアの凍てついた心を溶かしてくれる。
「……もうどこにも行かないからな……だから、今は思う存分、ソフィアをさらけ出してくれ」
「ッ!!あぁ……あぁぁああああああああ!!!!おにいさま!!おにいさまあ!!おにいさまああ!!!!」
今の彼女に理性というものなど、存在していなかった。
それほどまでにソフィアにはアクセルという存在が必要であり、それが生きる希望になっていったのだ。
「……よしよし、ここまでよく頑張ってくれたね」
しばらくの間、アクセルはソフィアが泣き止むまで宥めるのであった。
◇
「……あの、ソフィアさん?もうそろそろ離れていただくと……」
俺は困った様な声を出して、さっきまでは落ち着いたであろうソフィアに声をかける。
だが、今のソフィアには届かないようで……。
「グスっ……は、離しませんから……もうお兄様と離れるなんて……絶対にいやです……」
……泣きそうな雰囲気を出しながら俺のことをギュッと抱きしめているのである。
その様子に俺は仕方ないなと思いつつも、流石にこのままに留まるわけにはいかないので。
「よっと」
「あっ…」
彼女の背中と足に手を置いて、横抱きのまま起き上がる。
所謂、お姫様抱っこというやつだ。
「それなら帰るまではその体勢になってもらうぞ」
普段のソフィアならきっと恥ずかしそうにして顔を真っ赤にさせるのだが…今の彼女は俺の首に手を回してギュッと抱きしめており、普段よりも積極的に…というよりも離れたくないという思いが見え隠れしている。
「……ずっと……離しませんからね?」
……そのねっとりとした声を俺の耳元で囁くのはやめてくれないか?
身体をビクッとさせてしまうが、動揺を隠すように顔を前へ向け、移動するために歩き始める。
「……よかった……お兄様が、ちゃんと生きてる……やっぱりソフィアのことを置いていくはずないですもんね?だって約束しましたから、必ずお兄様は帰ってきてくれると……あぁ、なんて幸せなのでしょうか。これほどまでにお兄様に思われて、大事にされて……とっても嬉しい……でも………」
そんなソフィアの独り言が突如として急に無くなり、何かを物憂いてるように表情を暗くさせる。
「……お兄様……どうして、私たちには何も言わずに……一人で動いたのですか?」
その言葉が俺へと向けられる。
それに対して、少し苦笑しながら答える。
「みんなを守るため……って言っても納得出来ないか」
「……いえ、お優しいお兄様のことです。きっとそう答えると思いました……ですがそれが」
「それが……苦しいのです」
そのソフィアの言葉に俺は黙って聞くことにする。
「お兄様、私たちは……貴方のお荷物なのですか?貴方のお役には、立てませんか?」
「ソフィア……」
「……私は、ソフィアは苦しいです。でもそれ以上に……お兄様に何一つしてあげられない自分が……とても……とても嫌になります」
彼女の目が黒く濁り始める。
それは、周りにも、自分の親しい人たちにも見せる事はない、俺だけに見せるソフィアの言う醜い自分の姿。
「………守りたかったんだ」
そんな彼女の問いに答えるように俺も自身の気持ちを語り出す。
「奴らは……ペレク家の存在は危険だ。そんな奴らが標的にしたのが俺たちだったんだ。だから、みんなを……できるだけ危険な目には遭わせたくなかった……でも」
そう言いながら、今も光を通さない黒い目で俺のことを見つめているソフィアの方を向く。
「………みんなのこと、ちゃんと見てなかったのかもしれないな」
「……お兄様」
「なぁ、ソフィア」
そのまま俺のことを見続けている妹に問いかける。
「……お前は、どうしたいんだ?」
「えっ?」
「俺はこれからも家族を…大切な人たちを守るために動き続ける。だから、もしかしたらまたこんな風に危険なことをするかもしれない」
「ッ!!」
そう言った途端、彼女の抱きしめる力が強くなるのを感じる。
「……それでも俺は、守りたいんだ。ただ、それが日常を守れたとしても……みんなの心が守りきれるとは限らない」
「だから、ソフィアはどうしたいんだ?」
「……そんなの、決まっています」
すると、そんな問いかけに対して、彼女は俺の目を見ながらはっきりと答えた。
「……これからもずっとお兄様と一緒にいたいです。たとえ苦しいことだとしても、辛いことだとしても……私は、ソフィアは、貴方の隣で……一緒に生きたい…!」
「だが、それは」
「だから!!」
「……ッ!」
「だから、強くなるんです……貴方の隣はソフィアだけだと示すように……その障壁がお姉様でも、ジークさんでも、ローレンスさんでも、ユニーレさんでも、ナーシャちゃんでも関係ありません。お兄様が少しでも、この世界で笑っていけるように……私が支えるんです!!」
「……そう、か」
強い子だな……さっきまであんなに辛そうだったのに……ここまではっきりと言えるなんて。
それがアクセルのためなんだと思うと……とても嬉しく感じてしまう。
「……分かったよソフィア」
俺はその答えを聞くと、彼女の背中に回してる手を離して小指をソフィアの前に出す。
「お兄様?」
「約束だソフィア。俺は、お前を置いていかないし、一人にもさせない……ソフィアが望む限り……一緒にいる」
「ッ!!」
「って言っても、ずっとはなしだぞ?ソフィアには幸せになってもらいたいしな。いい人がみつかっ」
「はいっ!!」
「……ん?」
すると俺の小指を包むかのように片方の手で鷲掴みする。
俺の指を握る力が不思議と強く感じてしまう。
「はい……はいっ!!ソフィアはこの先、ずっと…ずっとお兄様と一緒にいます!!この身も、心も、貴方に全部……全部差し上げます!!」
すると今度は俺の指を離して、首に抱きついてきた。そ、ソフィアさん…?
「大好きですお兄様……ソフィアのことを尊重してくれるその優しさも……ソフィアのことを包んでくれるその温かさも……ソフィアは……お慕いしております…!」
それだけ言うと、ソフィアはさっきまで絶対に離さないという意思でも宿ってるかのように力強く抱きしめていたのが嘘のように緩んで、そのまま地面に降りる。
「お兄様!ソフィア、頑張りますから!!貴方を支えれるように……もっと、もっと強くなって……貴方の隣に立ってみせます!!」
「だから……置いていかないでくださいね?」
そのソフィアの表情に俺は一瞬見惚れてしまった。
だってその表情は、今も瞳を涙で流しながらも向けてくるその表情は……原作の終盤で見た、死体となったアクセルを抱きしめていた時のソフィアの表情と類似していたのだから。
(……この子は、本当に……)
……アクセル想いの強い子だ。
そう思ってると、急に俺の手が引かれる。
「うおっ!」
「あはは!帰りましょうお兄様!!私たちの屋敷へ!!」
どうやらソフィアが俺の手を引っ張っているらしい。
(全くこの子は……)
そんな様子に苦笑しながらも、俺は彼女と一緒にレステンクール領に向かった。
◇
(お兄様……ソフィアは、決めました。もう何があっても絶対に離しません。たとえ貴方がどこに行こうとも、ソフィアは必ずお傍にいます。だから……ずぅっと一緒にいましょうね?)
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「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
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ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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