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第二部

64.待たせてごめん

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 アルフォースとグレゴア戦闘は、目で追えない速さへ達していた。
 一瞬も気は抜けない攻防。
 もう一人に気を向けることが、命取りになってしまう。

「一つはそこですか」

 結界の起点を破壊しようと考えるエクトール。
 彼が標的に選んだのは、シトネが維持している起点だった。
 エクトールがシトネの前に降り立ち、結界に触れようとする。
 
 バチッと弾かれ、結界の強度を再確認しているようだ。

「起点の強度は他よりも強い。とはいえ、この手の結界は起点の一つを破壊するだけで崩れ去るもの。時間さえあれば、解くことは容易い」
「……」
「そう怯えないでください。結界を壊したら、痛みも感じる暇もないほど一瞬で……」

 エクトールは優しく、ニヤリと笑う。

「殺してあげます」
「っ――」

 ただの言葉だ。
 それを聞いただけで、シトネの瞳は涙で潤みそうだった。
 決して彼女が弱いわけではない。
 エクトールの放つ殺気は、学生が耐えられるレベルを遥かに超えていた。
 むしろ、逃げ出さない彼女が凄いのであって、その点はエクトール自身も感心している。

「いいでしょう。では耐えてみなさい」

 方陣術式から放たれるビームがシトネを襲う。
 結界で阻まれ直撃こそしないが、衝撃は彼女にも伝わる。

「よく耐えましたね。まだまだここからが本番ですが」

 続けて砲撃を放つ。
 今度は二連撃、さらには物理的な打撃も加える。

「うっ……負けない!」
「ほう。良い覚悟ですね」

 シトネは必死で耐える。
 他の三人にも衝撃が伝わり、結界を維持するため全力で力を注いでいた。

「ほらほら、今度は炎ですよ」

 炎を防いでも熱は伝わり、シトネの身体からはダラーっと汗が流れる。
 そこへ氷結魔術。
 一瞬で気温が下がり、彼女の全身は震えあがる。
 それでも彼女は逃げない。
 逃げ出したいほどの恐怖を感じながら、一歩も下がることなく立っている。

「予想以上に頑張りますね。ですが上を見てください」
「上?」

 結界の頭上では、アルフォースとグレゴアが戦っている。
 限定突破したことで、グレゴアの力は跳ね上がっていた。
 あのアルフォースが押されるほど。

「オラオラオラァ! どうした動きが鈍くなってきたぞ!」
「っ……馬鹿力め」
「アルフォース様!」
「頑張ってはいるようですが、そろそろ限界でしょう。所詮彼も現代の魔術師に過ぎないということ。わかりますか? 彼が死んだ時点で、残るは君たちです」

 エクトールが指をさしながら言う。

「いくら粘ったところで結果は変わらない。頑張るだけ無意味です」
「そんなこと……」
「それよりどうですか? 我々に隷属するなら、慈悲を与えましょう。貴女は中々に使える魔術師のようだ」
「なっ、仲間になれってこと!?」
「仲間ではありませんよ。奴隷として働いてください。もちろん命は保証しますのでご安心を」
「そんなの安心できるわけないよ!」
「そうですか? 少なくとも今、こうして無駄に頑張っているよりはましだと思いますが?」

 どれだけ頑張って耐えようとも時間の無駄。
 劣勢のアルフォースを見せられ、心を折るためにそう言った。

「無駄じゃない!」

 それでも彼女は折れない。
 信じているから、決してあきらめない。

「リンテンス君が必ずあなたを倒すために来てくれる! それまで私たちがここを守るんだ!」
「ほう」

 エクトールは枯れた笑みを浮かべる。

「従うつもりはありませんか……ならば、ここで死ぬしかありませんね」

 冷たい言葉と視線を浴びせ、大量の術式を開放する。
 雨のように降りそそぐ攻撃に削られ、ついに結界が破壊されてしまう。

 パリパリパリンと砕ける音。
 露になったシトネに、エクトールの攻撃が迫る。

「さようなら。勇敢で無謀なお嬢さん」

 雷が走る。
 爆発音と共に地面が弾け飛び、土煙が舞う。
 
「さて、では建物を――!?」

 エクトールは土煙の中を凝視する。
 攻撃は確実に当たったはずだ。
 威力も十分で、耐えられるものではなかった。
 それなのになぜ、人の影が見える?

「しかも二つ? 何者ですか?」

 土煙が晴れていく。
 そこに立っていたのは、シトネを抱きかかえたリンテンスだった。

「リンテンス……君?」
「ああ。待たせてごめんな? シトネ」
「ううん! 来てくれるって信じてたよ」

 間一髪、攻撃が当たるギリギリで彼女を守っていた。
 破壊されたのは地面のみで、シトネに怪我はない。
 リンテンスは頭上を見上げる。

「師匠!」
「その声! ようやく来たんだね」
「はい! お待たせしてすみません」
「いいとも! そんなことより任せていいかな?」
「もちろんです」

 リンテンスは視線をエクトールに戻す。
 すると、エクトールが呟く。

「貴方がリンテンス・エメロードですか」
「俺のことを知っているのか?」
「ええ。脅威となり得る魔術師の一人として、情報は得ていますよ。この場で見かけなかったのは不自然でしたが、何かしていたようですね」

 エクトールは経過している。
 故に攻撃を仕掛けてこない。

「シトネ。結界をもう一度発動できる?」
「う、うん! 出来るよ」
「じゃあ頼むよ。俺はあいつを倒してくるから」
「うん。頑張ってね、リンテンス君」
「ああ」

 リンテンスはシトネを下ろし、エメロードの前に出る。
 その隙に、シトネが結界を再発動。
 他の三人もそれに合わせて、魔力を注ぎなおした。

「ここからは俺が相手だ」

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みんなの感想(4件)

レイシール
2021.01.24 レイシール

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