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5.死神のお仕事
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死神代行。
純粋な死神ではなく、人間でありながら死神の力を行使する。
そういう存在だと女王様は言っていた。
「その女王様っていうのはやめてもらえるかしら? 何だか歯がゆいわ」
「えっと、じゃあ何て呼べばいいですか?」
「ヘルメイアでいいわ」
「じゃあヘルメイア様。死神になるってどうすればいいんですか? そもそも死神って何ですか?」
勢いでなると言ってしまったけど、僕は死神について何も知らない。
冒険に役立つだろうといろんな書物を読んだけど、冥界も死神も、空想の物語程度にしか登場していなかった。
正直に言えば、まだ少し混乱している。
いや、落ち着いてはいるけど、理解が追いついていない。
「安心しなさい。順を追って説明してあげるわ」
「よ、よろしくお願いします」
ヘルメイア様は微笑む。
「死神というのは、この冥界で生まれた唯一の存在のことよ。私も含めて、冥界には死神しか命は存在できない。そういう場所なの」
「存在できないって」
なら僕はどうなる?
「あなたも同じよ。私の力で保護しているから平気だけど、あまり長くいると成仏するわね」
「そ、そうだったんですね」
だから時間がないと言っていたのか。
「そうよ。先に死神の力を与えましょうか。説明はその後でゆっくりするわ」
そう言ってヘルメイア様は玉座から立ち上がる。
階段を降りて、僕の前まで歩み寄ってくださった。
歩き方や振る舞いから感じる高貴さと優美さに、僕は自然と背筋が伸びる。
「緊張しなくていいわよ。すぐに終わるわ」
「は、はい」
「じゃあ右手を出して」
「こう、ですか?」
僕は右手を差し出した。
その手にヘルメイア様が触れる。
「今からあたなに霊印を授けるわ」
「霊印?」
彼女の手から僕の手へ、冷たい力が流れ込んでくる。
それが全身へ廻った感覚と一緒に、彼女は手を離す。
すると、僕の右手の甲には、雪の結晶のような模様が残されていた。
「これは?」
「それが霊印、死神としての力が宿った印よ」
つまり僕は、死神の力を手に入れたって言うことなのか?
そう言われても、全然実感がわかない。
もっとわかりやすく強くなるのかと思っていたから、案外何も起こらなくて戸惑っている。
「霊印の力の使い方は、あとでイルカルラに習いなさい。それと霊装も必要ね」
次へ次へ聞きなれない単語が飛び交う。
聞きたいことが増える一方だが、僕は一先ず黙って流れに身を任せることにした。
あとでイルカルラが説明してくれるそうだし、まとめて聞けばいい。
「あなた、そういえば名前は?」
「ウェズです」
「ウェズね。ウェズは武器は何が得意なのかしら?」
「と、得意ですか?」
「ええ。霊装も剣とか槍とかいろいろあるから、使い慣れてる形状が一番よ」
一先ず霊装が武器なのだとわかった。
「いや、その……すみません僕、どの武器も中途半端しか使えなくて……」
「あら、そうなの」
「はい」
恥ずかしさと申し訳なさが合わさって、僕は顔を伏せた。
「そうね~ あっ、だったら丁度良いのがあるわ」
何かを閃いたヘルメイア様が、パチンと指を鳴らした。
音が響いた直後、空から何かが落ちてくる。
僕の目の前に。
「うわっ!」
「驚き過ぎよ」
「ご、ごめんなさい」
落ちてきたそれは、垂直に突き刺さっていた。
「大剣……ですか?」
「ええ」
その大剣は変わった外見をしていた。
鍔はなく、鍔と繋がっている部分の刃がひし形に広がっている。
刃は濃い鼠色で、中心へ近づくほど色が薄い。
僕の伸長よりは少し短めだけど、見るからに重そうだ。
「あの、僕には合わないと思います……」
「そう言う前に柄を握ってみなさい」
「わかりました」
僕は言われた通り柄を握った。
瞬間、激流のように記憶が流れ込んでくる。
それらは全て、異なる剣士たちの記憶だった。
研鑽の日々、戦いの一部始終を、わずか数秒で体験したような感覚。
「い、今のは……」
「その大剣は、かつて剣士だった者たちの魂が元になっているのよ。魂には記憶が残る。その記憶も、転生と同時に失われるけど、そうなる前に一部を借りて、その大剣は作られた。今流れ込んできたのは、剣士たちの記憶ね」
「今のが……」
「もうわかるでしょう? その大剣がウェズにぴったりな理由」
「……はい」
「いい返事ね」
そう言って彼女は微笑む。
「最後に死神の仕事について教えるわ。死神の役割は大きく二つ。死んで現世に漂う魂を、この冥界へいざなうこと。そしてもう一つは、罪を犯した魂を刈り取ること」
「刈り取るって」
いきなり物騒な言葉が飛び出した。
刈り取るとはつまり、殺すという意味なのだろうか。
「そうね、殺すで間違いじゃないわ。ウェズも見たことあるでしょう? 濁った色の魂とか、赤く染まった魂をね」
そう言われて思い出す。
あの時、僕を置き去りにした彼らの魂は、紫色から赤色に変化した。
「罪を犯した人の魂は……赤く染まる?」
「そうよ。そして一度赤く染まった魂は、二度と戻らない。歯止めが効かなくなって、もっと罪を重ねていく。そうなる前に刈り取って、地獄へ送るの。地獄は罪人の魂が処分される場所だから」
つまり、彼らの魂も二度と戻らない。
赤く染まった罪人の魂を、僕はこれから刈り取っていくべきなんだ。
純粋な死神ではなく、人間でありながら死神の力を行使する。
そういう存在だと女王様は言っていた。
「その女王様っていうのはやめてもらえるかしら? 何だか歯がゆいわ」
「えっと、じゃあ何て呼べばいいですか?」
「ヘルメイアでいいわ」
「じゃあヘルメイア様。死神になるってどうすればいいんですか? そもそも死神って何ですか?」
勢いでなると言ってしまったけど、僕は死神について何も知らない。
冒険に役立つだろうといろんな書物を読んだけど、冥界も死神も、空想の物語程度にしか登場していなかった。
正直に言えば、まだ少し混乱している。
いや、落ち着いてはいるけど、理解が追いついていない。
「安心しなさい。順を追って説明してあげるわ」
「よ、よろしくお願いします」
ヘルメイア様は微笑む。
「死神というのは、この冥界で生まれた唯一の存在のことよ。私も含めて、冥界には死神しか命は存在できない。そういう場所なの」
「存在できないって」
なら僕はどうなる?
「あなたも同じよ。私の力で保護しているから平気だけど、あまり長くいると成仏するわね」
「そ、そうだったんですね」
だから時間がないと言っていたのか。
「そうよ。先に死神の力を与えましょうか。説明はその後でゆっくりするわ」
そう言ってヘルメイア様は玉座から立ち上がる。
階段を降りて、僕の前まで歩み寄ってくださった。
歩き方や振る舞いから感じる高貴さと優美さに、僕は自然と背筋が伸びる。
「緊張しなくていいわよ。すぐに終わるわ」
「は、はい」
「じゃあ右手を出して」
「こう、ですか?」
僕は右手を差し出した。
その手にヘルメイア様が触れる。
「今からあたなに霊印を授けるわ」
「霊印?」
彼女の手から僕の手へ、冷たい力が流れ込んでくる。
それが全身へ廻った感覚と一緒に、彼女は手を離す。
すると、僕の右手の甲には、雪の結晶のような模様が残されていた。
「これは?」
「それが霊印、死神としての力が宿った印よ」
つまり僕は、死神の力を手に入れたって言うことなのか?
そう言われても、全然実感がわかない。
もっとわかりやすく強くなるのかと思っていたから、案外何も起こらなくて戸惑っている。
「霊印の力の使い方は、あとでイルカルラに習いなさい。それと霊装も必要ね」
次へ次へ聞きなれない単語が飛び交う。
聞きたいことが増える一方だが、僕は一先ず黙って流れに身を任せることにした。
あとでイルカルラが説明してくれるそうだし、まとめて聞けばいい。
「あなた、そういえば名前は?」
「ウェズです」
「ウェズね。ウェズは武器は何が得意なのかしら?」
「と、得意ですか?」
「ええ。霊装も剣とか槍とかいろいろあるから、使い慣れてる形状が一番よ」
一先ず霊装が武器なのだとわかった。
「いや、その……すみません僕、どの武器も中途半端しか使えなくて……」
「あら、そうなの」
「はい」
恥ずかしさと申し訳なさが合わさって、僕は顔を伏せた。
「そうね~ あっ、だったら丁度良いのがあるわ」
何かを閃いたヘルメイア様が、パチンと指を鳴らした。
音が響いた直後、空から何かが落ちてくる。
僕の目の前に。
「うわっ!」
「驚き過ぎよ」
「ご、ごめんなさい」
落ちてきたそれは、垂直に突き刺さっていた。
「大剣……ですか?」
「ええ」
その大剣は変わった外見をしていた。
鍔はなく、鍔と繋がっている部分の刃がひし形に広がっている。
刃は濃い鼠色で、中心へ近づくほど色が薄い。
僕の伸長よりは少し短めだけど、見るからに重そうだ。
「あの、僕には合わないと思います……」
「そう言う前に柄を握ってみなさい」
「わかりました」
僕は言われた通り柄を握った。
瞬間、激流のように記憶が流れ込んでくる。
それらは全て、異なる剣士たちの記憶だった。
研鑽の日々、戦いの一部始終を、わずか数秒で体験したような感覚。
「い、今のは……」
「その大剣は、かつて剣士だった者たちの魂が元になっているのよ。魂には記憶が残る。その記憶も、転生と同時に失われるけど、そうなる前に一部を借りて、その大剣は作られた。今流れ込んできたのは、剣士たちの記憶ね」
「今のが……」
「もうわかるでしょう? その大剣がウェズにぴったりな理由」
「……はい」
「いい返事ね」
そう言って彼女は微笑む。
「最後に死神の仕事について教えるわ。死神の役割は大きく二つ。死んで現世に漂う魂を、この冥界へいざなうこと。そしてもう一つは、罪を犯した魂を刈り取ること」
「刈り取るって」
いきなり物騒な言葉が飛び出した。
刈り取るとはつまり、殺すという意味なのだろうか。
「そうね、殺すで間違いじゃないわ。ウェズも見たことあるでしょう? 濁った色の魂とか、赤く染まった魂をね」
そう言われて思い出す。
あの時、僕を置き去りにした彼らの魂は、紫色から赤色に変化した。
「罪を犯した人の魂は……赤く染まる?」
「そうよ。そして一度赤く染まった魂は、二度と戻らない。歯止めが効かなくなって、もっと罪を重ねていく。そうなる前に刈り取って、地獄へ送るの。地獄は罪人の魂が処分される場所だから」
つまり、彼らの魂も二度と戻らない。
赤く染まった罪人の魂を、僕はこれから刈り取っていくべきなんだ。
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