6 / 43
プロローグ⑥
しおりを挟む
強くなる決心をした私は、すぐに行動を開始した。
向かったのは騎士団だった。
「お願いします! 私に剣の稽古をつけてください!」
稽古していた騎士の方々に向かって、私は頭を下げた。
強くなりたい。
でも、一人では限界がある。
剣術を磨き、実戦経験を積むためにも、指導してくれる相手が必要だと思った。
王国騎士団には、国中から剣士が集まる。
当然、騎士たちは困惑していた。
十歳の子供が一人、稽古をつけてほしいなんて頭を下げてきたら困るだろう。
「いや、そういうのは困るんだ」
「お願いします! 私はどうしても強くなりたいんです!」
「……」
「わかった。俺たちでよければ」
「――! 本当ですか!」
頭を上げて気づいた。
声をかけてくれたのは、あの日お父様の訃報を知らせてくれた人だった。
他にも数名、協力してくれると名乗りを上げた。
「俺たちはロイドさんに救われた。恩返しをさせてくれ」
「ありがとうございます」
ありがとう、お父様。
亡くなった今でも、私のことを支えてくれている。
感謝を胸に、私は空いている時間に、騎士の方々に指導をしてもらうことになった。
剣術の稽古と並行して、魔法についても勉強する。
人間には魔力が流れていて、剣士のほとんどは魔力で肉体を強化している。
強い剣士を目指すなら、魔力の扱いも卓越していなくてはならない。
無論、それだけじゃ足りない。
騎士として、当主として立派になるためには、剣術だけ学べばいいわけじゃなかった。
私は屋敷にあった書斎で本を読み漁った。
必要な知識は全て網羅する。
訓練以外の空いている時間は、勉学に勤しむことにした。
他にも、街に出てお仕事も探した。
ブレイブ家には資産があるし、それを使えば数年は食べていける。
ただ、それじゃダメだと思った。
お父様とお母様が必死に残してくれた財産だ。
ブレイブ家が貴族であり続けるために、最低限の資産は必要になる。
お金もなくなったら、いよいよ貴族を名乗る資格はない。
自分一人が暮らすお金くらい、自分で働いて稼ごう。
社会勉強にもなるし、体力づくりもできる。
十歳の私を雇ってくれるところなんてほとんどなかったけど、どこは頑張ってお願いして、力仕事でも雑用でも、やれることはなんでもやった。
ただひたすらに、強くなることを目指して。
そして――
◇◇◇
七年後。
私は、十七歳になっていた。
「三百二、三百三」
日課の素振りも欠かさず、毎朝やっている。
かなり様になってきただろう。
魔力操作も毎日繰り返し練習することで、格段に向上していた。
「そろそろ時間だ」
私は剣を腰にさげ、騎士団へ向かった。
あの頃から、指導は継続している。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう。ミスティアちゃん」
「今日もお願いします! ラントさん!」
父の元同僚で部下でもあったラントさんは、今は部隊長になっている。
私のことも贔屓にしてくれて、特別に騎士見習いとして働かせてもらっていた。
正式に入団できるのは十八歳からだ。
そのためには試験を受けなくてはならず、その試験は三か月後にある。
「もうすぐ試験なので、もっと訓練の時間を増やしたいと思います」
「頑張りすぎないように。君はもう十分に強いよ」
「そんなことありません! 私はまだまだ未熟です。騎士になるならもっと強くならないと」
「本当に努力家だ。ロイドさんにそっくりだよ」
父に似ている。
そう言って貰えることが嬉しくて、誇らしかった。
「そんな君に、一つ朗報がある」
「はい?」
ラントさんは一枚の紙を私にくれた。
記されていたのは、第一王子ラインハルト殿下の専属騎士の選抜試験について。
「選抜試験……開催されるんですか?」
「うん。急だけど、二週間後に行われる。受けてみないか?」
「いいんですか? これってラントさん宛の参加資格なんじゃ……」
「そうだけど、俺には騎士団の仕事があるし、こっちを投げ出すわけにはいかない。それに君には必要なチャンスだろう?」
「ラントさん……」
「これも恩返しだ」
私は応募用紙を抱きしめる。
「ありがとうございます!」
巡ってきた大きなチャンス。
ラントさんの厚意と、お父様とお母様の意思を引き続くためにも、私は受けることにした。
かつてブレイブ家が担った専属騎士の役割。
私の代で、返り咲いてみせる!
向かったのは騎士団だった。
「お願いします! 私に剣の稽古をつけてください!」
稽古していた騎士の方々に向かって、私は頭を下げた。
強くなりたい。
でも、一人では限界がある。
剣術を磨き、実戦経験を積むためにも、指導してくれる相手が必要だと思った。
王国騎士団には、国中から剣士が集まる。
当然、騎士たちは困惑していた。
十歳の子供が一人、稽古をつけてほしいなんて頭を下げてきたら困るだろう。
「いや、そういうのは困るんだ」
「お願いします! 私はどうしても強くなりたいんです!」
「……」
「わかった。俺たちでよければ」
「――! 本当ですか!」
頭を上げて気づいた。
声をかけてくれたのは、あの日お父様の訃報を知らせてくれた人だった。
他にも数名、協力してくれると名乗りを上げた。
「俺たちはロイドさんに救われた。恩返しをさせてくれ」
「ありがとうございます」
ありがとう、お父様。
亡くなった今でも、私のことを支えてくれている。
感謝を胸に、私は空いている時間に、騎士の方々に指導をしてもらうことになった。
剣術の稽古と並行して、魔法についても勉強する。
人間には魔力が流れていて、剣士のほとんどは魔力で肉体を強化している。
強い剣士を目指すなら、魔力の扱いも卓越していなくてはならない。
無論、それだけじゃ足りない。
騎士として、当主として立派になるためには、剣術だけ学べばいいわけじゃなかった。
私は屋敷にあった書斎で本を読み漁った。
必要な知識は全て網羅する。
訓練以外の空いている時間は、勉学に勤しむことにした。
他にも、街に出てお仕事も探した。
ブレイブ家には資産があるし、それを使えば数年は食べていける。
ただ、それじゃダメだと思った。
お父様とお母様が必死に残してくれた財産だ。
ブレイブ家が貴族であり続けるために、最低限の資産は必要になる。
お金もなくなったら、いよいよ貴族を名乗る資格はない。
自分一人が暮らすお金くらい、自分で働いて稼ごう。
社会勉強にもなるし、体力づくりもできる。
十歳の私を雇ってくれるところなんてほとんどなかったけど、どこは頑張ってお願いして、力仕事でも雑用でも、やれることはなんでもやった。
ただひたすらに、強くなることを目指して。
そして――
◇◇◇
七年後。
私は、十七歳になっていた。
「三百二、三百三」
日課の素振りも欠かさず、毎朝やっている。
かなり様になってきただろう。
魔力操作も毎日繰り返し練習することで、格段に向上していた。
「そろそろ時間だ」
私は剣を腰にさげ、騎士団へ向かった。
あの頃から、指導は継続している。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう。ミスティアちゃん」
「今日もお願いします! ラントさん!」
父の元同僚で部下でもあったラントさんは、今は部隊長になっている。
私のことも贔屓にしてくれて、特別に騎士見習いとして働かせてもらっていた。
正式に入団できるのは十八歳からだ。
そのためには試験を受けなくてはならず、その試験は三か月後にある。
「もうすぐ試験なので、もっと訓練の時間を増やしたいと思います」
「頑張りすぎないように。君はもう十分に強いよ」
「そんなことありません! 私はまだまだ未熟です。騎士になるならもっと強くならないと」
「本当に努力家だ。ロイドさんにそっくりだよ」
父に似ている。
そう言って貰えることが嬉しくて、誇らしかった。
「そんな君に、一つ朗報がある」
「はい?」
ラントさんは一枚の紙を私にくれた。
記されていたのは、第一王子ラインハルト殿下の専属騎士の選抜試験について。
「選抜試験……開催されるんですか?」
「うん。急だけど、二週間後に行われる。受けてみないか?」
「いいんですか? これってラントさん宛の参加資格なんじゃ……」
「そうだけど、俺には騎士団の仕事があるし、こっちを投げ出すわけにはいかない。それに君には必要なチャンスだろう?」
「ラントさん……」
「これも恩返しだ」
私は応募用紙を抱きしめる。
「ありがとうございます!」
巡ってきた大きなチャンス。
ラントさんの厚意と、お父様とお母様の意思を引き続くためにも、私は受けることにした。
かつてブレイブ家が担った専属騎士の役割。
私の代で、返り咲いてみせる!
74
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」
千紫万紅
恋愛
次期女王として王位継承が内定していたフランツェスカ。
だが戦況の悪化を理由に父王に争いの最前線に送られた。
それから一年、命からがら王都へ戻った彼女を待っていたのは労いの言葉ではなく、敵国・シュヴァルツヴァルトの王太子への輿入れ命令。
しかも父王は病弱な異母妹アリーシアを王妃に据え、フランツェスカの婚約者レナードを王にするという。
怒りと絶望の中フランツェスカはかつて敵将であったシュヴァルツヴァルト王太子・フリードのもとへお飾りの妻として嫁ぐことを決意する。
戦地での過去を封じ、王族としての最後の務めを果たすために。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる