没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ

文字の大きさ
33 / 43

エルフの里⑤

しおりを挟む
「私の母さんは里が好きじゃなくて、若い頃の家出したんだ。その先で出会ったのがお父さんらしい」
「駆け落ちみたいですね」
「似たようなものだったみたい。お父さんも貴族で、周りはお母さんとの結婚を反対したから、二人で逃げたんだって」

 逃げてばかりだよなと、彼女は笑いながら語ってくれた。
 宴会を皆が楽しむ中、私はリズから両親の馴れ初めを聞いている。
 どうやら割と最近の話みたいだ。
 エルフは見た目とは裏腹に高齢の方が多いけど、彼女は見た目通りの年齢で、今年で十五歳らしい。
 私よりも年下だったことには驚いた。

「しばらくひっそり暮らしてて、けどお父さんが病気で死んで……私はまだ小さかったから覚えてないんだけど、エルフのお母さんは大変だったと思う」
「……そうでしょうね」

 エルフは、というより亜人種は世界的に肩身が狭い。
 人間社会の中でははみ出し者として扱われる。
 彼らの社会的地位は低く、国によっては奴隷として扱われている場合も少なくない。
 私たちの国でも、貴族の中には亜人種を奴隷として飼っている者もいる。
 
「一人で子育てをするのはきつくて。だから里に戻ってきたんだ。でも、お母さんも病気で死んじゃって、私は里長に引き取られたんだ。里長は怖いけど、私をここまで育ててくれて、門番の役割もくれた。感謝してるよ」
「いいですね。じゃあリズにとって里長さんはお爺ちゃんですか」
「そんな恐れ多いこと言えるかよ」
「思ってはいるんですね」
「っ……うるさい!」

 話してみてわかった。
 彼女は普通の女の子と同じだ。
 エルフと人間のハーフだからって、私たちと何も変わらない。
 種族の違いなんて然したる問題じゃないんだ。
 きっと世間でも、人々の意識さえ変われば、彼らにとってもっと生きやすい世界になる。

「なぁ……外の世界ってどんな感じなんだ?」
「興味ありますか?」
「まぁ……だって、お父さんと出会った場所だし、私は小さくて覚えてないから」
「じゃあ今度、私たちの街に遊びに来てください! 案内しますよ」
「――! いいのか? 私、半分エルフだぞ」
「大丈夫です! 何かあっても私が守ります! これでも殿下に選ばれた騎士ですから!」
「……ホント、変な奴だな」

 彼女は私に笑ってくれるようになった。
 せっかく関われたのだから、一回だけの関係で終わりたくはない。
 願わくは、この先も友人になれたら……。
 
 こうして宴会が終わる。

「ご馳走になった。俺たちはそろそろ帰らせてもらうよ」
「ありがとうございました! リズもまたね?」
「……お、おう……またな、ミスティア」
「はい!」

 彼女は照れながらも、私の名前を呼んでくれた。
 それが嬉しかった。

「もう遅いです。宿泊されてはいかがですか?」
「そこまで世話になれない」
「そうですか……それは困りましたね」
「――!」

 あれ?
 身体が急に……。

 力が抜けて、膝から崩れ落ちる。
 殿下と一緒に。

「帰られては困るんですよ。せっかくの餌だ」
「――!」
「里長! これは……」
「リズは黙っていなさい」
「っ――」

 里長が倒れ込んだ私たちを見下ろす。
 身体が痛い。
 力も入らない。
 これはまさか……。

「毒?」
「左様です。あなた方の飲み物にだけ含ませていただきました」
「どうして? なんでこんなこと……」
「これを見ればわかるでしょう?」
「――!」

 里長は腕をまくり、腕に刻まれた黒い花の文様を見せた。
 それは紛れもなく、ラプラスの花。
 つまり彼らは……。

「嘘だったんですね! 断ったというのは!」
「当然でしょう? 我々は亜人種です。彼らが願う世界こそ、我々が望む理想世界……まさか王子自ら足を運ぶとは、驕りが過ぎましたね」
「っ……どうして? 友人だと!」
「ええ、友人でした。だが、彼はもういない。彼のいない国など私には関係ありません」
「そんな……」
「何を驚くのですか? 我々を迫害し、こんな場所に押し込めているのは誰ですか? あなた方人間がいるから、我々は自由に生きられない! そんな世界は間違っている! だからこそ壊すのです」

 ラプラスの思想。
 亜人種が自由に暮らせる世界を作るために、人間社会を破壊する。
 そのために国家転覆を企てている。
 理解した。
 私がこの里にきて感じていた不安は、彼らの中にあるどす黒い感情を感じていたからだ。
 魔力の流れには感情が現れる。
 私は無意識に、彼らの憎悪を察知していた。

「これまで幾度も協力してきました。有力な貴族を攫い、その財力を奪うことも……一度だけ失敗してしまいましたが、あれ以来失敗はありません」
「一度……」

 ふと、予感がした。
 その一度が、いつなのか。
 ラプラスは貴族を狙って襲撃している。
 お父様が最後に受けた任務は……。

「アーノルド・シレイツン大臣の護衛……」
「ああ、そんな名前でしたね。運のいい貴族だ」
「……」

 そうか。
 そうだったのか……。
 私のお父様を殺したのは――ラプラスだった。
 怒りで歯を食いしばる。

「安心してください。あなた方は交渉材料になる。殺しはしな……馬鹿な」
「まったく、話が長いな。そんなこと聞かずともわかっている」
「殿下!」

 殿下は平然と立ち上がり、膝についた泥をとる。

「なぜ? 毒を食らったはずなのに……」
「なめるな。俺は王子だ。毒には慣れさせてある。魔力を阻害されなければ、解毒も容易だ」

 殿下は私に触れる。
 ふわっと身体が軽くなった。

「立て」
「ありがとうございます」
「お前は他人を疑うことを覚えろ」
「すみません……」

 逆に助けられてしまうなんて情けない。
 ここから挽回しなくては。
 解毒は出来ても……。

「ふふっ、この状況の不利は変わりませんよ? 少々手荒になりますが、もう一度倒れていただきます」
「殿下」
「強引に突破するぞ」
「逃げられると思わないでください? ここは我々の森の中、容易には抜け出せない」

 森全体から敵意を感じる。
 里が隠されていたように、出口もわからなくされているのだろう。
 エルフと交戦しながら出口を探すのは、中々骨が折れそうだ。
 そう思った直後、煙が舞う。

「なんだ? この煙……」
「二人ともこっち!」
「リズ!」
「リズ! 貴様ぁ! 育てた恩を忘れたかぁ!」
「っ……」

 煙幕を張ってくれたのはリズだった。
 私たちは彼女に誘導され、混乱に乗じて出口を目指す。
 追ってくるエルフたち。

「邪魔だ」
「なっ! この壁は……」

 殿下が魔法で土の壁を形成し、追手を阻む。
 時間ができたことで、私たちは出口にたどり着けた。

「ここを出れば外だ」
 
 出ようとする私たちに対して、リズは立ち止まる。

「何してるの? リズも一緒に」
「私は無理だ。だって……」
「関係ないよ! 言ったでしょ? 私は気にしない! 私はリズの味方だよ!」
「――!」

 私は彼女に手を伸ばす。

「一緒に行こう! 王都を案内してあげる!」
「……うん」

 彼女は涙ぐみ、私の手を握ってくれた。
 こうして彼女の協力の元、エルフの里を脱出する。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります!

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...