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21.得られた幸せ
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突然のレベッカの問いにクライヴの脳内は真っ白になってしまった。
「だって貴方のこと、分からないけれど知っているんです。見ているだけでドキドキするし、触れられると恥ずかしいけれど、もっと近くにいてほしくて……。ずっと前から好きだったんだなって、そう強く思うんです」
「好きだった……?」
うまく回ってくれない頭に処理をさせるためレベッカの言葉を反芻していると、晴天を見上げる彼女を見て穏やかに鼓動を打っていたはずの心臓が暴れ出した。
「目が覚めて、クライヴさんのお顔を見たら胸がいっぱいになりました。大事な人なんだとスッと思ったんです。それにずっと看病してくれたのでしょう? ご迷惑をおかけして恥ずかしいですがとても気を掛けてくださって……だから恋人なのかなって思いました」
「――っ!」
「あ……! ごめんなさい。それなのになにも覚えてなくて。貴方の涙を見ると胸が苦しくなります。お願い、どうか泣かないで?」
クライヴの瞳からは涙がとめどなく溢れてくる。忘れられて当然だと切り替えたつもりでも、やはり不安だったし悲しかったのだ。レベッカがギョッとして慌て出すが、止められなかった。彼女は恋人でありたかったと思っていてくれたのだろうか? 全てを忘れてしまったにも関わらず、その感情だけでも覚えてくれていたなんて、自惚れじゃなくそうとしか考えられない。
「合ってますか?」
「勿論です!」
「わっ!」
レベッカの口から聞けると思わなかった言葉に焦るあまり、勢いよく食いついてしまった。思わず口調も戻ってしまうほどに。しかし彼女はクライヴの圧で気付いていないようだ。レベッカと繋いでいないほうの手も持ち上げ、胸の近くで両手をしっかりと握り込む。
「大好きです、愛しています。もうずっと前から貴女だけを」
ホロリと今度はレベッカの瞳から涙が零れ落ちた。驚かせてしまったのか、それとも嫌だった……!?
「あ、えっと……」
慌てたことに気付いたのか、小さく首を横に振るとレベッカはふんわりと優しく笑った。穏やかな表情に嫌がられてはいなかったのだと、ホッと肩を撫で下ろす。
「どうしましょう……嬉しくて……それなのにこの気持ち以外は何も覚えてなくて……」
「貴女が生きてくれているだけでいいと思っていたのに……まさか、そんなことを感じてくれていたなんて」
「あ、でも恋人同士じゃなかったなら前の私はこの気持ちを秘密にしていたのかしら?」
突然慌て出したレベッカに笑みが零れる。今となっては確かめる術はないけれど、彼女の気持ちを信じたい。いつか受け入れてもらえたらと考えていたクライヴにとって、女神からのプレゼントのようだ。これを逃す手はない。
「いや、心配しないで。さっきも言ったとおり合ってるよ。恋人になってそれほど経っていないから、混乱させるかと思って言うのを躊躇っていただけだ」
「良かった……!」
嬉しそうなレベッカの笑顔に大暴れしている心臓をさらに鷲掴みされたようで、苦しい。けれども幸せで甘い苦しさだ。浮かれた気持ちのまま握りしめていた手を解放して、白い手の甲にキスを落とせば、白い彼女の頬がポポッと朱に染まった。ああ、なんて可愛らしいのだろう。
「この身が尽きるまで、いや尽きようともずっと貴女だけを愛すと誓う」
思わず騎士が忠誠を誓うような台詞になって、しまったと内心冷や汗をかいた。今までの関係を彷彿させて、レベッカの記憶に影響を与えかねないのではと心配したが、変わらない様子に胸を撫でおろす。
「ふふ、嬉しいです。私も多分ずっとお傍にいたかったんです」
こうしてレベッカと名実とも恋人同士になったのだ。あとはエルバートの気が変わらないうちに、公爵夫妻に認めてもらって早く夫婦にならなくては。身に付いている所作は美しくても妃教育で得た知識や貴族の名前ひとつ覚えていないから、再び王太子妃の仕事はできないだろうし、他の貴族に嫁ぐことすら不可能だろうけれど。なんのしがらみもない平民なら可能かもしれないが、それはクライヴが許さないので、もうレベッカは一生、クライヴと共にあるしかないのだ。
漸くつかまえたクライヴの最愛を抱きしめ、ウットリとした笑みを浮かべた。
エルバートにつれなくされているレベッカを見て、自分だったらと何度も思ってきた。それがこんな形で叶えられるなんて。今まで諦めていた幸せが手に入り、我慢していた執着心や独占欲がドロドロと肚の底から次々湧いてきているのを感じていた。本来はそういう性質なのだ。立場を弁えていただけで。
本当は王太子妃になんてなって欲しくなかった。彼女に兄か姉がいたなら、妻にと希えば叶えられたかもしれない。けれどレベッカは一人娘であったし、公爵家の令嬢だ。たとえ末端でも貴族籍であり父が公爵のお気に入りであったとしても、エルバートが存在している以上、皇太子の婚約者候補になるのは防ぎようがなかった。つらい思いをしたレベッカには申し訳ないが、今、この状態が奇跡に思えてならない。そんな奇跡をクライヴは何としてでも守り抜く。例え王家が再びレベッカを王太子妃に担ぎ上げようする動きがあったとしても。
エルバートの私情により、公爵家の後ろ盾がなくなった王家に対する不満の声が上がるのに、そう時間は掛からなかった。初めは家臣たちから、次第に広大で資源豊かな公爵領と取引をしている商家たち。息子の肩を持った王妃に初めは賛同していた者たちも、風向きが変わったことを知ると掌を返したように批判をし始めたのだ。しかし既に国政からも退いた公爵は頑なで。レベッカの様子を知らせに定期的にやり取りをしていたときに知ったことは、敵対こそしないが一切王家に協力はせず、いっそ独立をしてもいい構えだという。婚約破棄騒動はいつしか国家を揺るがす事態にまで発展してしまったようだ。
今頃エルバートはどうしているのだろう。愛を貫いた己を誇りに思っているのか、それとも……。彼のレベッカを見る瞳は温度がなかったが、ないように見せかけているだけにも見えた。クライヴに疎まし気な視線を向けられたことも一度や二度ではない。男爵令嬢との間に軋轢が生じていれば清々するが、しかし再びレベッカに接触しようとするなら、たまったもんじゃない。今は公爵が烈火の如く怒っていることが救いだが、いつしかそれが鎮火してしまわぬよう、時折思い出して頂かなければ。対比として今のレベッカが幸せに過ごしていることも見てもらうことが必要だろう。クライヴと二人で築き上げる幸せを。
「だって貴方のこと、分からないけれど知っているんです。見ているだけでドキドキするし、触れられると恥ずかしいけれど、もっと近くにいてほしくて……。ずっと前から好きだったんだなって、そう強く思うんです」
「好きだった……?」
うまく回ってくれない頭に処理をさせるためレベッカの言葉を反芻していると、晴天を見上げる彼女を見て穏やかに鼓動を打っていたはずの心臓が暴れ出した。
「目が覚めて、クライヴさんのお顔を見たら胸がいっぱいになりました。大事な人なんだとスッと思ったんです。それにずっと看病してくれたのでしょう? ご迷惑をおかけして恥ずかしいですがとても気を掛けてくださって……だから恋人なのかなって思いました」
「――っ!」
「あ……! ごめんなさい。それなのになにも覚えてなくて。貴方の涙を見ると胸が苦しくなります。お願い、どうか泣かないで?」
クライヴの瞳からは涙がとめどなく溢れてくる。忘れられて当然だと切り替えたつもりでも、やはり不安だったし悲しかったのだ。レベッカがギョッとして慌て出すが、止められなかった。彼女は恋人でありたかったと思っていてくれたのだろうか? 全てを忘れてしまったにも関わらず、その感情だけでも覚えてくれていたなんて、自惚れじゃなくそうとしか考えられない。
「合ってますか?」
「勿論です!」
「わっ!」
レベッカの口から聞けると思わなかった言葉に焦るあまり、勢いよく食いついてしまった。思わず口調も戻ってしまうほどに。しかし彼女はクライヴの圧で気付いていないようだ。レベッカと繋いでいないほうの手も持ち上げ、胸の近くで両手をしっかりと握り込む。
「大好きです、愛しています。もうずっと前から貴女だけを」
ホロリと今度はレベッカの瞳から涙が零れ落ちた。驚かせてしまったのか、それとも嫌だった……!?
「あ、えっと……」
慌てたことに気付いたのか、小さく首を横に振るとレベッカはふんわりと優しく笑った。穏やかな表情に嫌がられてはいなかったのだと、ホッと肩を撫で下ろす。
「どうしましょう……嬉しくて……それなのにこの気持ち以外は何も覚えてなくて……」
「貴女が生きてくれているだけでいいと思っていたのに……まさか、そんなことを感じてくれていたなんて」
「あ、でも恋人同士じゃなかったなら前の私はこの気持ちを秘密にしていたのかしら?」
突然慌て出したレベッカに笑みが零れる。今となっては確かめる術はないけれど、彼女の気持ちを信じたい。いつか受け入れてもらえたらと考えていたクライヴにとって、女神からのプレゼントのようだ。これを逃す手はない。
「いや、心配しないで。さっきも言ったとおり合ってるよ。恋人になってそれほど経っていないから、混乱させるかと思って言うのを躊躇っていただけだ」
「良かった……!」
嬉しそうなレベッカの笑顔に大暴れしている心臓をさらに鷲掴みされたようで、苦しい。けれども幸せで甘い苦しさだ。浮かれた気持ちのまま握りしめていた手を解放して、白い手の甲にキスを落とせば、白い彼女の頬がポポッと朱に染まった。ああ、なんて可愛らしいのだろう。
「この身が尽きるまで、いや尽きようともずっと貴女だけを愛すと誓う」
思わず騎士が忠誠を誓うような台詞になって、しまったと内心冷や汗をかいた。今までの関係を彷彿させて、レベッカの記憶に影響を与えかねないのではと心配したが、変わらない様子に胸を撫でおろす。
「ふふ、嬉しいです。私も多分ずっとお傍にいたかったんです」
こうしてレベッカと名実とも恋人同士になったのだ。あとはエルバートの気が変わらないうちに、公爵夫妻に認めてもらって早く夫婦にならなくては。身に付いている所作は美しくても妃教育で得た知識や貴族の名前ひとつ覚えていないから、再び王太子妃の仕事はできないだろうし、他の貴族に嫁ぐことすら不可能だろうけれど。なんのしがらみもない平民なら可能かもしれないが、それはクライヴが許さないので、もうレベッカは一生、クライヴと共にあるしかないのだ。
漸くつかまえたクライヴの最愛を抱きしめ、ウットリとした笑みを浮かべた。
エルバートにつれなくされているレベッカを見て、自分だったらと何度も思ってきた。それがこんな形で叶えられるなんて。今まで諦めていた幸せが手に入り、我慢していた執着心や独占欲がドロドロと肚の底から次々湧いてきているのを感じていた。本来はそういう性質なのだ。立場を弁えていただけで。
本当は王太子妃になんてなって欲しくなかった。彼女に兄か姉がいたなら、妻にと希えば叶えられたかもしれない。けれどレベッカは一人娘であったし、公爵家の令嬢だ。たとえ末端でも貴族籍であり父が公爵のお気に入りであったとしても、エルバートが存在している以上、皇太子の婚約者候補になるのは防ぎようがなかった。つらい思いをしたレベッカには申し訳ないが、今、この状態が奇跡に思えてならない。そんな奇跡をクライヴは何としてでも守り抜く。例え王家が再びレベッカを王太子妃に担ぎ上げようする動きがあったとしても。
エルバートの私情により、公爵家の後ろ盾がなくなった王家に対する不満の声が上がるのに、そう時間は掛からなかった。初めは家臣たちから、次第に広大で資源豊かな公爵領と取引をしている商家たち。息子の肩を持った王妃に初めは賛同していた者たちも、風向きが変わったことを知ると掌を返したように批判をし始めたのだ。しかし既に国政からも退いた公爵は頑なで。レベッカの様子を知らせに定期的にやり取りをしていたときに知ったことは、敵対こそしないが一切王家に協力はせず、いっそ独立をしてもいい構えだという。婚約破棄騒動はいつしか国家を揺るがす事態にまで発展してしまったようだ。
今頃エルバートはどうしているのだろう。愛を貫いた己を誇りに思っているのか、それとも……。彼のレベッカを見る瞳は温度がなかったが、ないように見せかけているだけにも見えた。クライヴに疎まし気な視線を向けられたことも一度や二度ではない。男爵令嬢との間に軋轢が生じていれば清々するが、しかし再びレベッカに接触しようとするなら、たまったもんじゃない。今は公爵が烈火の如く怒っていることが救いだが、いつしかそれが鎮火してしまわぬよう、時折思い出して頂かなければ。対比として今のレベッカが幸せに過ごしていることも見てもらうことが必要だろう。クライヴと二人で築き上げる幸せを。
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