席を譲ったら公開処刑された体験談

ハクション中西

文字の大きさ
1 / 1

席を譲ったら公開処刑された体験談

しおりを挟む
【二度とお年寄りに席を譲らない】と誓った話をします。

なんてことを言うんだ、と批判されそうですが、これはある出来事が原因です。

自己弁護に過ぎないかもしれませんが、少しお付き合いください。



今から20年近く前、僕が電車の座席に座っていた時、停車駅で扉が開き、僕の斜め前あたりに、乗ってきたお年寄りが位置取りました。


満員電車というほどではなかったので、少し席は空いてはいたんですが、僕は詰め詰めで座るのが嫌いなので、それなら立っておこうと思って、スッと席を立ちました。

譲ろうとはしてますが、いちいち声はかけてません。


その時です。
「おぉおー、ありがとうございます。ごめんなさいね!座ってたのに譲ってもらって!」とそのお年寄りがでかい声で僕に話しかけてきました。


“電車内自体を利用した演劇パフォーマンス”のはじまりはじまり~、ぐらいの声で話しかけてきたのです。
セリフも説明口調です。

だって、こんなセリフありますか?

「おぉおー、ありがとうございます。ごめんなさいね!座ってたのに譲ってもらって!」

ラジオドラマじゃあるまいし。


お年寄りに席を譲るのは当たり前。

だから、わざわざ“お年寄りに席を譲った優しい男”みたいな感じを出すのもイヤなので、黙って立ったのです。

それなのに、向こうサイドから“演劇の始まり”を演出してきたんです。


僕は恥ずかしいのでぺこりとだけ頭を下げて、立ってました。


なんとなくイヤな予感がしたので、少し歩いて、隣のほうの車両に移動しようかと思った瞬間、イヤな予感は的中しました。


喋りかけてきたのです。

“あの”演劇の声量で。
しかも事態は最悪な方向に向かいます。


お年寄りは、自分の横の椅子をトントン叩きながら「お兄さん、ここ座れますから!!ここ!!詰めたら座れますから!!!」


演劇の声量だから、みんな聞いてないフリしても聞いてるし、聞きたくない人も耳には入る。
恥ずかしいから、勘弁してくれ。
今のように、猫も杓子もスマホを見てる電車ではない時代の話です。。


「あ、いやいや」と僕はやんわりちっちゃい声で断ろうとしました。

そもそも僕は詰め詰めでバッテラみたいに固まって座るのが大嫌いなのです。


ところがジジイはしつこいのです!!
「座れますから!ほら!座ってくださいよ!ほら!!」


僕は心の底から迷惑でした。
勘弁してくれ、と。
ジョジョの“吉良吉影”の感じで生きてるんだ、こちとら。
目立ちたくない。



なんで席を譲って、こんな目に遭わないといけないんだ。
「早く、ほら!座れますから!!」
気がつくと、ジジイはまだ言ってます。


仕方なく、ジジイの横に座りました。もう逃げられません。
ロックオンされたのです。


「わたしは、若者に、こうやって、朝から、席を譲ってもらうとね!もうそれだけで一日中、幸せなんですよ!」と老人のセリフは続きます。
絶対、車両のみんなは聴いています。ていうか聴こえるんやもん。



「ドストエフスキーの“罪と罰”では老婆をどうやって殺害したんだっけ。参考にしてこのジジイも、なんとか同じ目に……」

など僕の中の悪魔がささやきます。
もちろん、一瞬のナノグラムの殺意です。
僕は善良な人間です。

朝から席を譲られると、一日中幸せだと?
違う。
お前が幸せなのは、自分を主人公として演劇の声量で人に気を遣わずに生きているからだ!!


僕は小声で「あー、いえいえ」と返すだけでした。

そこから、ジジイの自分語りがはじまる、はじまる!!

難波駅に着くまで、まだ15分ぐらいあります。別の駅で降りようかと思いはじめましたが、謎の抵抗感があります。

なんで、席譲って、こんな目に遭って、降りんでええ変な駅で降りて、その変な駅のトイレで泣かなあかんねん。

ちなみに、自分が降りる駅以外の駅のことを関西人は“変な駅”と呼びます。

なんでこんな目に。。。

俺、いっこも悪くないのに。。。



ジジイは人生を語ります。僕は聞き手です。
ジジイは政治の話、仕事の話、“優しさとは”、など多岐にわたるジャンルで僕を追い詰め、時々あろうことか「どう思いますか?」と聞いてきます。


知るかあああああああ!!!!このボケえええええええ!!!!!


と言えるはずもなく、僕は当たり障りのない、どっちとも取れるような受け答えをしました。

なんで、この車両の奴ら全員に俺の政治的思想を発表しないといけないのだ。

ところが、“当たり障りのない答え”はジジイのシワシワの顔の横にある耳から入り、シワの少ない脳で処理され、“ジジイ側の政治思想を持つ若者”にされてしまいます。


とにもかくにも、政治の話が続き、テキトーに聞いてるのがバレたのか、クソジジイは話題を変えてくれました。

「ところで、お兄さんはお仕事は何を?」


キターッ!!!!!
キターッ!!
もう殺してくれえーっ!!!!!!!


僕は当時、ポリシーとして絶対に変な必要のないウソはつかないと決めていました。

ちょっと前に「芸人やってるのを自慢げに言うことはないけども、聞かれた時にウソをつくのも情け無い」みたいな話を芸人仲間にしていたところだったのです。


その手前、僕はジジイの質問になぜか、こう答えてしまいました。

「あの。。。お笑い芸人をしています…」


ガタンゴトン

ガタンゴトン


ガタンゴトン…

ガタンゴトン!!!?

電車もびっくりしてました。
「ガタンゴトン!?」ってなってました。


車両の奴らの耳がこっちに、向きます。目もチラチラとこちらを見てきます。
え、芸人?
え、どいつ?

顔見たろ。


だあれえええええええ!?????


全然売れてない芸人が、
お年寄りにロックオンされて、喋りで押されてるでええええ🤣🤣🤣🤣🤣

朝から幸せやああああ!!!
わたし、OLしてて良かったああああ!!!!
ジジイに喋りで負けてる芸人を朝から見れたのですものーっ!!!!!



朝から幸せやあああああ!!!!!!
この車両に乗れば、毎朝、出勤前にこの演劇観れるんですもんね!!!!!!
こりゃあ、サラリーマンはやめられねえわけだあああ!!!🤣🤣🤣🤣


たくさんの心の声が聞こえます。


「帝塚山付近での人身事故で、ただいま、電車が急停止いたしました。
それでは、演劇“老人と青年”を引き続きガタンゴトン無しで、お楽しみくださいませ。4両目でお楽しみいただけます」
 


車掌の地獄のようなアナウンスも聞こえます。

「芸人??ほう!」
ジジイの目が燦然と輝きだしました!


「さあああ!喋るぞー!!!」の状態です。
バイクでいうところの、ブルン~!!!の状態です。


BARならば、「わしの分とこの子のお酒、おかわり!」と奢ってもらうような展開です。


ジジイはダラダラと昔の芸人の名前や、年配の芸人の名前を挙げながら、、自分は政治だけではなくお笑いカルチャーにも造詣が深いんだ、と言わんばかりに喋りました。


まあ、テキトーに聞いてりゃいいや。

ガタンゴトン。

電車も再び走り出しました。

良かった。もうすぐ新今宮だ。難波まであと少し。。。


その時、もっとも恐れていたことが起きました。

「お兄さん、ちなみにコンビ名は?」


コンビ名!!?
みんな聴いてるこの状況で!??

この世には神も仏もいないのか?

俺は席を譲ったんやぞ???

コンビ名?
は??はぁ?

金か?ナンボや?ナンボ出したら許してくれるんや。。え?


ガタンゴトン。ガタンゴトン。

シーン。。


電車は再び止まりました。


車掌のアナウンスが入ります。

「さて、次は~、新今宮~、そして~、そんなことよりも~、気になるコンビ名は~?」



なんで、そんなんみんな聞いてる時に言わなあかんねん!!!!!


「いやいや…」と小声でごまかそうとする僕に、市村正親の声量でジジイが「いやいや、観に行くから教えて」とほざきます。


“観に行く”????


は???????
来るな!!!
お前は好きな桂三枝(現在の桂文枝師匠)を観とけ!


お前が観にきたら、「するってえとなにかい?」とか言わなあかんやろ!!!

言うかーっ!!!!!!


僕は、今日はもう逃げられない。厄日なんだと、悟りました。


「さ、さかなDVD、、です」


「え??なんて?さかな、なにって?さかな、なにって?」

「あ、えーと、、、さかな、DVDです」

「ええ?なんて??さかな、なんて??」

「(もっと小声になって)あの、さかな、DVDです」


「え?さかな、なんて????」

「さかなDVDです」

「でぃー、、ぶい、なんて?」


こ◯すぞ、このジジイ!!!!!!!!!!!!!!!


気がつけば、140ぐらいの目が僕を見ています。

👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️
さかなDVD?だれでっか?
👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️
さかなDVD?なんでっか?だれでっか?
👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️
さかなDVD?だれでっか?
👁️👁️👁️👁️ 👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️ 👁️👁️👁️👁️
👁️👁️👁️👁️


僕は、気がつけば病院のベッドの上でした。気を失っていたのです。

退院する頃には、あんなにタレ目だった目も、完全に人を恨むすさまじいつり目になっていました。
“つり目”を通り越して、“タテ”になってました。

あとなぜか両手が少し短くなっていました。

なので僕はあれ以来、お年寄りを見ると、席を譲るどころか、座っているお年寄りを睨みまわして圧力で席を立たせて、自分が座るようになりました。

そして僕のせいで立たされ移動しようとするお年寄りに声をかけるのです。
「待て!さかなDVDの話を聞いていけ」と。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...