5 / 16
4 謝られてもお断り
しおりを挟む
国王陛下は目をぱちぱちと瞬かせて話しかけてきます。
「え、と、あ、あの、今日のパーティーは、どういうパーティーだっただろうか」
「私とマゼケキ様の婚約披露パーティー改め、祝婚約破棄パーティーでしょうか」
笑顔で答えると、国王陛下は何度も首を横に振って否定します。
「いやいや、婚約披露パーティーで間違っていないんだよ! 一体、どうしたというのだね」
「心変わりいたしました」
「こ、心変わりしたとはどういうことかね!?」
「マゼケキ様の恋を応援する気になったんです」
「い、や、そんな応援はしなくて良いのだよ」
国王陛下は助けを求めるかのように王妃陛下を見つめます。
こうなることを予想できなかったのは謎ですよね。
私は前々からマゼケキ様とフェイアンナ様のことはお二人にも苦情を入れていたんですから。
危機感のある大人なら言わなくてもわかると思い込んでいました。
私がいなくなれば、この国に常駐している私の国の兵士達は撤退します。
それがどういうことかは言われなくてもわかるはずです。
「こ、恋を応援するのは結婚式を挙げるまでで良いんだよ」
「そうですよぉ。そんなに怒らなくても良いものですわよぉ」
まるで少女のように小柄で見た目も可愛らしい王妃陛下は、おっとりとした口調で言いました。
私は真面目に言っているんですから「はい、そうですか」と納得するわけがないです。
「……王妃陛下にお聞きしたいのですが」
「何かしらぁ?」
「その発言を私の両親にしていただくことは可能でしょうか」
「えっ!?」
「聞こえなかったようですので、もう一度言いますね」
「えっ、あの、それはぁ、言わなくても良いんじゃないかしらぁ?」
引きつった笑みを浮かべたあと、王妃陛下は機嫌を伺うように、優しい口調で続けます。
「セリスティーナさんがマゼケキに興味を持ってくれたみたいで嬉しいわぁ。最近のマゼケキはやり過ぎだと思っていたのぉ。わたくしも怒らなくちゃいけないと思っていたのよぉ」
「もう結構です」
「……え?」
動きを止めた王妃陛下に提案してみます。
「そうですわ。私ではなくフェイアンナ様との婚約披露パーティーに変更いたしませんか?」
「……え?」
「お似合いだと思いますわ。フェイアンナ様と結ばれることになりましたら、マゼケキ様は幸せですわよね。第二王子の幸せは国民の幸せでもあるでしょう。それに、そのせいでロイロン王国からの後ろ盾がなくなったとしても、両陛下が許したんですもの。国民が文句を言うわけがありませんわね」
ペリオド王国の国民を見捨てるつもりはありませんから、水面下で他国を牽制することは続けるでしょう。
でも、そんなことをこの人達に教える必要はありません。
甘い顔をしてきた私も悪いと言う人もいるでしょうけど、普通の人は殺人なんてしません。
殺されて吹っ切れるなんて遅いですね。
こんな態度をとっている姫なんて、ワガママ姫だと思われても仕方ありません。
でも、殺されるくらいならワガママ姫でかまいません!
それに、あってはならないことがあったから、神様がチャンスをくれたのでしょう。
時間の巻き戻りが私のためなのか、それとも、マゼケキ様ためなのか、もしくは私を守れなかった騎士のためなのかはわかりませんが――
「そ、そんな、脅しのようなことを言うだなんてどうかしている! 婚約破棄だなんて駄目だ! 認めないぞ! おい、マゼケキ!」
「な、なんでしょう、父上!」
マゼケキ様が人をかき分けて近づいてくると、国王陛下は叫びます。
「今すぐにセリスに土下座しろ!」
「……え?」
マゼケキ様が呆気にとられた顔をして聞き返しました。
ですが、謝られても何かが変わるわけではありません。
「謝られても迷惑です。私の考えは変わりません! 明日にはこの城を出ていくつもりです」
宣言したあと、フェイアンナ様の姿を探しますが、人だかりのせいで確認できません。
会場内にはいるでしょうから声は届くでしょう。
姿は見えない彼女に大きな声で言います。
「フェイアンナ様! 私は身を引きますのでマゼケキ様とお幸せに! 残っている仕事はわかりやすくまとめておきますので、よろしくお願いいたします」
「わ、わたしは仕事なんてしません!」
「フェイアンナ! どういうことだ!?」
姿は見えませんが、フェイアンナ様の声のあとに男性の声が聞こえてきました。
フェイアンナ様の婚約者でしょうか。
そう思った時、先程の声の男性が叫びます。
「セリスティーナ様! 娘とマゼケキ様に何があったというのですか!?」
声の主はフェイアンナ様のお父様であるブロンスト公爵でした。
娘の全てを把握できていないにしても、マゼケキ様との仲は噂で聞いているでしょうに。
……いや、公爵に「あなたの娘さん、第二王子と仲良くやっていますよ!」なんて、普通の貴族は言えないですわよね。
私からもっと早くに言うべきでした。
結婚する前から、余所者があまりうるさく言わないほうが良いと遠慮していた私が馬鹿でした。
そう思った時、強い視線を感じて出入り口を見ると、そこには見たことのない若い男が立っていました。
あの時、顔を見ていないのに、私を斬りつけたのは彼なのだと、なぜかわかりました。
殺す相手に顔を見られても別に良いと言うところか、もしくは誰かの騎士なのか。
「ところで、そちらにいる男性がどなたか気になります」
男性を指差すと、私の護衛騎士達が男性が逃げられないように、後ろと左右に立って逃げ場を塞ぎました。
男性は焦った顔をしたあと、すぐに貼り付けたような笑みを浮かべたのでした。
「え、と、あ、あの、今日のパーティーは、どういうパーティーだっただろうか」
「私とマゼケキ様の婚約披露パーティー改め、祝婚約破棄パーティーでしょうか」
笑顔で答えると、国王陛下は何度も首を横に振って否定します。
「いやいや、婚約披露パーティーで間違っていないんだよ! 一体、どうしたというのだね」
「心変わりいたしました」
「こ、心変わりしたとはどういうことかね!?」
「マゼケキ様の恋を応援する気になったんです」
「い、や、そんな応援はしなくて良いのだよ」
国王陛下は助けを求めるかのように王妃陛下を見つめます。
こうなることを予想できなかったのは謎ですよね。
私は前々からマゼケキ様とフェイアンナ様のことはお二人にも苦情を入れていたんですから。
危機感のある大人なら言わなくてもわかると思い込んでいました。
私がいなくなれば、この国に常駐している私の国の兵士達は撤退します。
それがどういうことかは言われなくてもわかるはずです。
「こ、恋を応援するのは結婚式を挙げるまでで良いんだよ」
「そうですよぉ。そんなに怒らなくても良いものですわよぉ」
まるで少女のように小柄で見た目も可愛らしい王妃陛下は、おっとりとした口調で言いました。
私は真面目に言っているんですから「はい、そうですか」と納得するわけがないです。
「……王妃陛下にお聞きしたいのですが」
「何かしらぁ?」
「その発言を私の両親にしていただくことは可能でしょうか」
「えっ!?」
「聞こえなかったようですので、もう一度言いますね」
「えっ、あの、それはぁ、言わなくても良いんじゃないかしらぁ?」
引きつった笑みを浮かべたあと、王妃陛下は機嫌を伺うように、優しい口調で続けます。
「セリスティーナさんがマゼケキに興味を持ってくれたみたいで嬉しいわぁ。最近のマゼケキはやり過ぎだと思っていたのぉ。わたくしも怒らなくちゃいけないと思っていたのよぉ」
「もう結構です」
「……え?」
動きを止めた王妃陛下に提案してみます。
「そうですわ。私ではなくフェイアンナ様との婚約披露パーティーに変更いたしませんか?」
「……え?」
「お似合いだと思いますわ。フェイアンナ様と結ばれることになりましたら、マゼケキ様は幸せですわよね。第二王子の幸せは国民の幸せでもあるでしょう。それに、そのせいでロイロン王国からの後ろ盾がなくなったとしても、両陛下が許したんですもの。国民が文句を言うわけがありませんわね」
ペリオド王国の国民を見捨てるつもりはありませんから、水面下で他国を牽制することは続けるでしょう。
でも、そんなことをこの人達に教える必要はありません。
甘い顔をしてきた私も悪いと言う人もいるでしょうけど、普通の人は殺人なんてしません。
殺されて吹っ切れるなんて遅いですね。
こんな態度をとっている姫なんて、ワガママ姫だと思われても仕方ありません。
でも、殺されるくらいならワガママ姫でかまいません!
それに、あってはならないことがあったから、神様がチャンスをくれたのでしょう。
時間の巻き戻りが私のためなのか、それとも、マゼケキ様ためなのか、もしくは私を守れなかった騎士のためなのかはわかりませんが――
「そ、そんな、脅しのようなことを言うだなんてどうかしている! 婚約破棄だなんて駄目だ! 認めないぞ! おい、マゼケキ!」
「な、なんでしょう、父上!」
マゼケキ様が人をかき分けて近づいてくると、国王陛下は叫びます。
「今すぐにセリスに土下座しろ!」
「……え?」
マゼケキ様が呆気にとられた顔をして聞き返しました。
ですが、謝られても何かが変わるわけではありません。
「謝られても迷惑です。私の考えは変わりません! 明日にはこの城を出ていくつもりです」
宣言したあと、フェイアンナ様の姿を探しますが、人だかりのせいで確認できません。
会場内にはいるでしょうから声は届くでしょう。
姿は見えない彼女に大きな声で言います。
「フェイアンナ様! 私は身を引きますのでマゼケキ様とお幸せに! 残っている仕事はわかりやすくまとめておきますので、よろしくお願いいたします」
「わ、わたしは仕事なんてしません!」
「フェイアンナ! どういうことだ!?」
姿は見えませんが、フェイアンナ様の声のあとに男性の声が聞こえてきました。
フェイアンナ様の婚約者でしょうか。
そう思った時、先程の声の男性が叫びます。
「セリスティーナ様! 娘とマゼケキ様に何があったというのですか!?」
声の主はフェイアンナ様のお父様であるブロンスト公爵でした。
娘の全てを把握できていないにしても、マゼケキ様との仲は噂で聞いているでしょうに。
……いや、公爵に「あなたの娘さん、第二王子と仲良くやっていますよ!」なんて、普通の貴族は言えないですわよね。
私からもっと早くに言うべきでした。
結婚する前から、余所者があまりうるさく言わないほうが良いと遠慮していた私が馬鹿でした。
そう思った時、強い視線を感じて出入り口を見ると、そこには見たことのない若い男が立っていました。
あの時、顔を見ていないのに、私を斬りつけたのは彼なのだと、なぜかわかりました。
殺す相手に顔を見られても別に良いと言うところか、もしくは誰かの騎士なのか。
「ところで、そちらにいる男性がどなたか気になります」
男性を指差すと、私の護衛騎士達が男性が逃げられないように、後ろと左右に立って逃げ場を塞ぎました。
男性は焦った顔をしたあと、すぐに貼り付けたような笑みを浮かべたのでした。
2,349
あなたにおすすめの小説
冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる