【完結】この出会いはきっと偶然じゃなかった

風見ゆうみ

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16 優れている子

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※14と15の内容を少し変更しております。
ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。
引き続き、頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。





 ドアマンが扉を開けると、エントランスホールで待ち構えていた執事の姿が見えた。彼は、セオドア様に恭しく頭を下げる。

「お待ちしておりました」

 頭を上げた執事は、セオドア様には微笑みかけたが、私には一睨みするだけだった。
 元メイド長が捕まったことはわかっているはずなのに、私にこんな態度を取るということは、私がその場にいたことを知らないんだろうか。
 ちなみに元メイド長は、あの一件でノボウ伯爵家からクビを言い渡されている。

「彼女はここの当主の夫人だろう。その態度はないんじゃないかな」

 執事の態度に気がついたセオドア様が苦言を呈すると、執事は不満そうに眉根を寄せて答える。

「この家の夫人はロロミナ様です。ロロミナ様は元公爵令嬢ですし、男爵令嬢だったルファラ様とは格が違いますよ」
「元公爵令嬢だろう? それに離婚していないなら、彼女はまだ伯爵夫人だ。執事が偉そうに言っていい立場じゃない」
「……失礼いたししました」

 執事は私のメイド時代を知っているから、余計に気に食わないのでしょう。……と言っても、ロロミナ様が来るまでは、こんな態度を取らなかった。彼もお金をもらって、ロロミナ様の犬になっているのかしら。
 
 そう思った時、執事が私に近づいてくると耳元で囁く。

「あなたが馬鹿なことをしなければ、ロロミナ様からお金をもらえていたんです。私はあなたを許しませんよ」
「……どういうこと? ロロミナ様はあなたにお金をくれなくなったの?」
「そうです」

 執事は仏頂面で頷いたあと、メイドに私たちを応接室に案内するように告げた。

 私がいなくなったから、お金の管理はアーバネット様がしているはずだ。それなら、ロロミナ様に小遣いを渡さないわけがない。
 渡さなくなった理由について考えられるとしたら――。

「私がいなくなったから、使用人に媚びる必要がなくなったのね」
「……どうかしたの?」

 思わず口に出してしまい、セオドア様が不思議そうな顔で尋ねてきた。

「あとでお話いたします」

 メイドからの視線を感じたのでそう言うと、セオドア様は何も言わずに頷いてくれた。
 セオドア様からのお土産を執事が満足そうに持っていくと、まだ日の浅いメイドが不満がありそうな顔で私たちを促して、前を歩き始めた。

 応接室がどこにあるかは案内されなくてもわかる。失礼な態度を取るメイドに一言言おうとすると同時に、外からアリドが屋敷の中に入ってきた。

「パパとママをいじめる悪者め! 帰れっ!」

 そう言って、アリドは泥団子を私に向かって投げつけてきた。うまく避けれたので、ドレスに被害はなかったが、衝撃で泥団子が壊れ、カーペットの上に泥が飛び散った。

「私はいじめてなんていないわ」
「お前がみんなに嫌な噂を流すから、ママが悪者にされてるじゃないか!」
「それはあなたのママが悪いことをしたからでしょう」
「ママは悪くなんてない!」

 アリドは私に敵意をむき出しにして続ける。

「シドを連れて行くなんて馬鹿だ! あいつはいらない子なのに!」
「あなたたちにとってはいらない子だったとしても、シドは私には必要な子よ」
「なんで? こき使うため?」
「違うわよ。というかあなた、シドがいらない子だなんて、そんなこと誰から聞いたの」
「ママや色んなおじさんだよ」

 色んなおじさん。

 アリドの発言に、私とセオドア様は思わず顔を見合わせた。

「どういうことでしょう。ロロミナ様が頼った男性たちは、シドだけを拒んだのでしょうか」
「全ての人がそうじゃないだろうけど、自分の家に住みたいのなら、子供は一人でいいと言った人間がいるのかもしれない」

 そんなことを言いつつも、アーバネット様以外の人は、子供が邪魔だと思っていても、ちゃんと世話はしてくれたのでしょう。だから、シドはノボウ伯爵家まで一緒に来ることができた。

 ロロミナ様にとって、子供は自分の足かせでもあるのかしら。そうだったとしたら、アリドもいつかは捨てられるかもしれない。

「何をコソコソ話をしているんだよ!」

 興奮しているアリドに、セオドア様が笑顔で話しかける。

「君は外で遊んでいたようだけど、屋敷の中での遊びに飽きたのかな」
「……この家には遊べるようなおもちゃが少ないから、外で遊んでるんだ」
「そうか。おもちゃはほしくないの?」
「別にいいんだ。シドなんて小屋に閉じ込められて何もできなかった。僕は優れているから自由なんだ」 

 鼻で笑うアリドに、セオドア様はわざとらしい口調で話す。

「そうか。優れている子は自由なんだね。シドは宿屋でおもちゃに囲まれて楽しそうに暮らしてるよ。外にだって遊びに行ける。それって優れている子だからだろうね」
「えっ……」

 アリドはショックを受けたような顔をして、セオドア様を見つめた。

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