【完結】私はあなたの操り人形ではありません

風見ゆうみ

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29 夫の嫉妬 ②

『ここで見たことは、全て忘れるように』
『承知いたしました』

 ジェラスはミレイラと共に王女と別れる際、こんな会話をしていた。書面ではなく口約束ではあるが効力は発する。しかし、破った時に罰を受ける話はしていない。
 どうしても忘れることができず、ジェラスは王女の許可なく、先程の場所に訪れていた。
 
 王城の裏側の森の中にある建物は、貴族の間で一時期噂になっていた。
 猛獣を飼うという理由で造られたそうだが、すぐに飽きて使わなくなったと聞いている。
 国王夫妻は猛獣を飼うことに反対しており、この建物を壊すように指示していたが、王女が内密にそれを阻止していた。
 この建物が残っていることを知っているのは少数だけ。
 王女と王女を崇拝している部下、そして王女に利用されている者たちだ。
 草をかき分け、入口の前に立つと見張りの男と目が合った。

「何か忘れ物ですか?」
「……いや、中にいる男に用事がある」
「王女殿下の許可はおありでしょうか」
「ないが、責任は取る」
「それでは開けることはできません」

 温和そうな老人に見えていたが、ジェラスを見つめる目は鋭い。ジェラスは気圧されて後退しながらも、威厳を保とうとする。

「な、ならいい。ただ、中にいる男に伝えてほしいことがある」
「……中にいる男、ですか」
「ああ。王女殿下のゲストだ」
「なんと伝えましょうか」
「私とフェルリアは愛し合った。彼女の初めては私のものだ。価値の落ちた女などいらんだろうと伝えろ」

 老人は見定めるようにジェラスを見つめ、結んでいた口を開く。

「伝えておきましょう」
「頼んだぞ。それから、もう諦めろと強く言っておけ」
「承知いたしました」

 ジェラスはミレイラがキックスと接触したことを知らない。だから、この嘘をキックスが信じると思っていた。
 ジェラスが去っていった方向を見つめ、老人は鼻で笑う。

「馬鹿な奴だねぇ。本当に愛し合っているなら、わざわざこんな所に来て恋敵に牽制などしないだろうに」

 その声がジェラスの耳に届くことはなかった。


******

 次の日の朝、起きてすぐにフェルリアはミレイラの誕生日を祝った。
 といっても、プレゼントは屋敷に置いてきてあるのでお祝いの言葉だけ。それでも、ミレイラは目を輝かせた。

「帰ったらプレゼントをお渡ししますね」
「うふふふ。プレゼントなくても、うれしい」

 誕生日を祝ってもらえたのは初めてで、ミレイラはとても幸せそうだ。本来ならば今頃はカダマオ公爵邸でパーティーを始めていたはずだが、ミレイラの誕生日を忘れているジェラスにしてみれば、予定が狂ってもどうでも良かった。

(昨日は不機嫌そうだったし、少しはマシになっているといいけど……)

 身支度を整えて、ミレイラと共に宿屋の一階にあるレストランに向かうと、ジェラスが待っていた。

「遅かったな」
「おはようございます。申し訳ございません」

 遅いといっても今は朝の7時。文句を言われるほどではないと思うが素直に謝罪した。

 ビュッフェ形式になっており、テーブルには多くの料理が並べられている。オムレツや焼きたてのパンなど種類は豊富だった。

「おいしそう」

 目を輝かせるミレイラをメイドに任せ、フェルリアはジェラスに近づく。
 3人掛けの丸テーブルに肘をつき、長い足をみせつけるようにジェラスは足を組んで応対する。

「どうした?」
「二人きりで話がしたいとおっしゃっていましたが、3日後はいかがでしょうか」
「本当に二人きりなんだな?」
「はい。そのかわり、ミレイラ様を私の知り合いに預けさせてください」
「知り合い?」
「はい。信用できないとおっしゃるのであれば、しばらくお待ちいただくことになります」

 フェルリアが冷たい口調で話すと、ジェラスはテーブルから肘を離し、慌ててうなずく。

「わかった。認めよう」
「ありがとうございます」

 ミレイラは少しでも早く、キックスの両親に会いたいと訴えていた。このことがジェラスに知られるのはまずい。

 ジェラスに気づかれないよう、使用人に頼みミレイラをキックスの両親のもとへ向かわせると決めた。
 フェルリアは3日後、自分が囮になることにしたのだった。


 
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