【完結】私はあなたの操り人形ではありません

風見ゆうみ

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47 ミレイラの母の想い ③

 ミレイラがメイドとブランコで遊んでいる間に、フェルリアは今までのことをかいつまんで話した。
 話を聞き終えたモリアは、はしゃぐミレイラを優しい目で見つめながら話し始める。

「カダマオ公爵とは恋愛結婚でしたから、娘は幸せになれると思っていました。ですが、結婚してからは、異常なほどに束縛されていたようです」

 白いティーカップから立ち上る湯気とフレーバーティーの甘い花の香りに誘われ、フェルリアは喉を潤してから尋ねた。

「それはどういうことでしょうか」
「娘の体が弱かったことはご存じですわね?」
「……はい」
「それを理由に部屋から出さないだけでなく、思い出すと会いたくなるだろうからと、私たちとの連絡も取らせようとはしませんでした」
「会いに行くことも駄目だったのですか?」
「こちらからの手紙を娘には渡していなかったようです。おかしいと思った息子が社交場で確認してわかりました」

 その時も話をはぐらかそうとしたようだが、理由を教えてくれないなら姉に会えないと社交場で話をすると言うと、渋々話をしていた。

(友人とも連絡を取っていらっしゃらなかったようだし、それもジェラス様の仕業かもしれないわ)

 フェルリアにはジェラスが何をしたかったのか、さっぱりわからない。
 自分だけを見てほしかったのか。
 たとえ、そうだったとしても軟禁するのはおかしい。

「ミレイヤ様がジェラス様のことをどう感じていたのか、聞いていないということですね」
「ええ」

 モリアは眉尻を下げてうなずいた。そして、近くにいたメイドに声をかける。

「あの箱を持ってきてちょうだい」
「承知いたしました」

 邸内に入っていったメイドは、すぐに茶色の四角い箱を両手に抱えて持ってきた。
 
「娘が亡くなる前に送ってきたものです。一緒に手紙も送られてきたのですが、自分のことで訪ねてきた人がいれば渡してほしいと……」

 モリアは視線だけでメイドを促す。メイドもモリアの意図を察し、フェルリアに箱を手渡した。

「開けてもいいのでしょうか」
「はい。娘はそう書いておりました」
「では、拝見させていただきます」

 テーブルの上に置いた箱の蓋をゆっくりと開ける。
 中には白地に小花柄の表紙の日記帳と手紙が入っていた。手紙をそっと手に取り、内容に目を通す。
 小さくて筆圧が弱いが、とても綺麗な字だ。

 そこには【両親や弟にはできるだけ知られないようにお願いします】と書かれていた。

 それなら、なぜ日記帳を残したのか。
 ぴったりと箱に収まっている手のひらサイズの日記帳を取り出した。とても分厚く素材もしっかりしていて重みがある。

 無言で一ページ目をめくる。

 日記は約5年前から始まっており、ジェラスの束縛が激しく、何度頼んでも外に出ることができず、両親や弟、友人に会いたいと書かれていた。

 今すぐに読み終えるのは無理だと判断し、一番最後のページを確認した。
 そこには、日記ではなくミレイヤからの願いが書かれていた。

【きっと、自分を責めてしまうから、私が不幸だったことを両親や弟には伝えないでください。そして、もしジェラス様が私の可愛いミレイラを邪険に扱っているようなら、こう伝えてください】

 ミレイヤの最後の言葉を読んだ時、この時の彼女にはジェラスへの愛情がなかったのだとわかった。
 少しだけ過去に遡れば、ジェラスへの不満が書き綴られている。

「……この日記をお借りすることは可能でしょうか」
「かまいません。あの、一つお願いがあるのです」
「何でしょうか」
「今すぐにとは言いません。娘の墓参りをさせていただけないでしょうか」
「それもさせてくれないのですか?」
「はい。公爵邸の敷地内に作っておられるそうで、中に入れてもらえませんから一度も墓参りができていないのです」
「承知いたしました」

 フェルリアは日記帳を閉じ、胸で抱えるように抱きしめた。

(ジェラス様を傷つけないように、最期までミレイヤ様は我慢した。今となっては遅いかもしれない。でも、真実を伝え、ミレイヤ様が亡くなったのはミレイラ様のせいじゃないと伝えなくては)

そう心に決め、日記帳を箱に戻した。
 

 
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