【完結】私はあなたの操り人形ではありません

風見ゆうみ

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51 父としての謝罪 ④

 フェルリアはジェラスから逃れるため斜め後ろに下がった。背後にいたミレイラは、フェルリアの足を掴んで不安そうな顔をしている。
 ジェラスは憔悴しきった様子で、目に隈ができているが、髭は生えておらず手入れはされているようだった。
 引きつり笑いを浮かべながらジェラスは尋ねる。

「フェルリア、どうして逃げるんだ? もう、こんな所にいるのは御免なんだ! 早く出られるようにカウン公爵にお願いしてくれ! お前の言うことなら聞くだろう!」
「ジェラス様、正直に話をすればいいだけかと思います。私に助けを求められても何もできません」
「何もできないだと? 君がカウン公爵夫妻に可愛がられていたことは知ってるんだ! 夫のピンチなんだぞ! 四の五の言わずにカウン公爵夫妻のもとへ行け! 妻が助けずに誰が夫を助けると言うんだ!?」
「たとえ夫であっても、悪事を隠蔽しようとしている方の手助けなんてしたくありません」

 きっぱりと断ると、ジェラスの表情が歪んだ。怒りで体が震え顔が真っ赤になっている。

「妻のくせに夫に逆らうと言うのか?」
「妻だからといって何でも言うことを聞かなければならないわけではありません」
「なぜだ。私に捨てられたら、お前に帰る場所などないだろう? お前は何とか生きていけるかもしれないが、ミレイラはどうなる? 孤児院にでも入れるのか?」

 ジェラスはフェルリアの家庭の事情を知っている。だからこそ、強気でいられた。

「あなたに妻として雇っていただいた給金で、しばらくは暮らしていくことができます。それから、ミレイラ様の親権は私がいただきます」
「何だと? お前はミレイラと血など繋がっていないだろう! 私が許さなければお前のものになどならないぞ!」
「ジェラス様、あなたは今までミレイラ様が生まれていることを世間に隠してきたのです。そして、私があなたの妻になったことで発覚した。世間はあなたと私、どちらかが引き取るとなれば、どちらを推奨するでしょうか?」
「ミレイラは私の娘だ! 血の繋がりは切ることなどできない! なぁ、ミレイラ! お前の父親はこの私だろう?」

 ミレイラが自分を選べば、フェルリアは自分を助けるしかない。そう確信していた。ジェラスを選べばその考えは間違いない。しかし、ミレイラの答えはジェラスの予想していたものとは違っていた。

「わ、わたしは、ママとパパとくらすんです!おとうさまは、い、いりません!」

 ジェラスへの恐怖のため、ミレイラの体は震えていた。しかし、ジェラスはミレイラの体の震えは、フェルリアに強要され嘘を言っていることからくる拒否反応だと思い込んだ。

「何だって? おい! フェルリア! ミレイラに何を言ったんだ!」
「ミレイラ様は正直な気持ちをあなたにお伝えしただけです」
「正直だと? そんなわけがないだろう! 子供に強要するなんてありえないことだぞ!」
「あなたにどうこう言われたくありませんわ」

 フェルリアは冷ややかな目でジェラスを見つめた。
 彼女に許してもらえなければ、自分は終わりだ。そう感じたジェラスはプライドなどかなぐり捨てることにした。

「お願いだ。言うことを聞いてくれ。私を助けるんだ」
「今まではそうやって頼めば何とかなっていたのでしょう。ですが、ジェラス様、私はあなたの操り人形ではありません。自分の意思を尊重させていただきます」

 取り付く島もないフェルリアの様子に、ジェラスは絶望したが、すぐにミレイラがここにいることを思い出す。

「……ミレイラ」
「……なんですか」

 フェルリアの後ろに隠れて、ミレイラが応えた。
 ジェラスは床に額をつけて謝罪する。

「私が……いや、お父様が悪かった。これからは心を入れ替え、お前を大事にする。だから、ママと私とミレイラで幸せに暮らせるように、ママに頼んでくれないか」

 隠れていたミレイラは、顔だけ出してジェラスを見つめた。
 その時、フェルリアたちの背後に現れた人物がいた。

「ミレイラ嬢、どうした?」

 聞き覚えのある声にフェルリアは息を呑んで動きを止めた。眉尻を下げていたミレイラは笑顔になって振り返る。

「パパ!」
「俺の名前はパパじゃないが、まあいいか」

 キックスは抱きついてきたミレイラを抱き上げた。そして、目を見開いて自分を見つめているジェラスに話しかける。

「罪を認める気になりましたか?」

 キックスの問いに、ジェラスは答えることなく彼を睨みつけただけだった。

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