【完結】私はあなたの操り人形ではありません

風見ゆうみ

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53 操り人形ではありません ①

 キックスたちが出ていき、代わりに兵士が入ってきた。一気に室内は静まり返り、呼吸をする音と衣擦れの音しか聞こえない。

「私に復讐でもしたいのか?」
「いいえ。ただ、伝えておきたいことがあるのです」
「……何だ。もったいぶらずに言え」

 ジェラスはまず、フェルリアの話を聞いてから、無実を訴えることにした。

「暴れられると困りますので、足枷だけさせていただきます」
「やめろ! そんなことをされなくても大人しくする!」

 ジェラスは近寄ろうとした兵士を手で制し、ベッドの上に座った。

「私を助ける気がないのなら、もう話すことなんてないだろう。とっとと行けばいい」

 ジェラスは両手で顔を覆って続ける。

「せっかくミレイヤ以外に私が愛することができる女性が見つかったかと思ったのに……」
「あなたは自分の跡継ぎを生んでくれる人なら誰でも良かったのでしょう?」
「そういうわけではない!」
「少なくとも私やミレイヤ様はそう思っていません」

 ミレイヤの名前が出た瞬間、ジェラスは青筋を立てて怒った。

「ミレイヤのことを何も知らないくせに、勝手なことを言うな!」
「本人が書き記していたのですから、勝手なことではございません」
「……どういうことだ?」
「ミレイヤ様が日記を書いていらしたことは知っていましたか?」

 興味を惹かれたのか、ジェラスは表情を緩めてうなずく。

「書いていたが、亡くなったあとに確認したら彼女の部屋にはなかったんだ」
「置いておいたら真実がなかったことにされてしまうと思い、実家に送っておられたのです」
「義両親は何も知らないと言っていたぞ!」
「ミレイヤ様は家族以外の人にこの日記を読んでほしかったそうです」

 ジェラスの反応は気にせずに淡々とした口調で話し終えたあと、フェルリアは廊下に控えていたメイドを招き入れた。メイドから日記帳を受け取り、ジェラスに表紙部分を向けて見せる。

「見覚えがありますか?」
「それはっ! 私のものだ!」
「動くな!」

 立ち上がろうとしたジェラスを制したのはキックスだった。

「……どうして」

(ミレイラ様をお願いしたはずなのに……)

 フェルリアの横に立ったキックスは、フェルリアに説明する。

「ミレイラ嬢がママが心配だから行ってって泣くんだよ」
「……ありがとう」

 ミレイラはフェルリアがジェラスにいじめられるのではないかと心配でたまらなかった。かといって、自分が行っても意味がない。そのことを理解して、キックスに頼んだのだ。

「父と母に頼んできたから大丈夫だ」

 キックスは苦笑しながら続ける。

「最近、誕生日だったろ? それを伝えたら、たくさん子供用の服や靴やぬいぐるみを買ってたんだ。サイズが合わなかったらどうするんだって聞いたら、大きめのを買ってたよ。それに小さかったら教会に寄付するからいいってきかなくてな。今頃はプレゼントの山を見て驚いてるんじゃないか」
「……そうでしたか」

 キックスの話を聞いて、フェルリアも笑うしかなかった。

(お二人とも、本当に孫ができたような可愛がり方ね)

「おい! フェルリア、大人しくしているから、その日記帳を渡してくれ! 亡き妻の形見だ!」

 和んでいた場の雰囲気が一瞬にして、緊張感のあるものに変わる。
 フェルリアは表情を厳しいものに変えて答えた。

「あなたに渡せばなかったことにされてしまうでしょう。そうなると困るのです」
「どういうことだ? まさか、人の日記を読んだのか!?」
「読んでもいいとのことでしたので、読ませていただきました」

 フェルリアは日記帳の真ん中あたりを開き、目的のページを探して素早くめくる。
 目当てのページが見つかると、口を開いた。

「両親や弟のいない所で伝えてほしいと書かれていますので、今、この場で読み上げさせていただきます」

 途中から入ってきたキックスは、この日記帳がなぜ、フェルリアの手元にあるのかわからない。ただ、口を出すべきところではないと黙っている。

 ジェラスは亡き妻から自分へのメッセージがあるのかと胸を躍らせた。しかし、その期待は一瞬にして打ち砕かれる。

「口では愛していると言いながら、私の気持ちを一つも考えず、悲しませるだけのジェラス様への愛情は、日に日に薄れていくばかりだ」
「……は?」

 ジェラスは顔を引きつらせながら、フェルリアに聞き返した。
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