【完結】私はあなたの操り人形ではありません

風見ゆうみ

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54 操り人形ではありません ②

「亡くなられる前のミレイヤ様のあなたへの愛は、日に日に失われていっていたのです」

 現実を受け止められないジェラスに、フェルリアは冷たい口調で言った。

「絶対に嘘だ! ミレイヤがそんなことを思うはずがない!」
「なぜ日記帳が実家に送られたのか、あなたは不思議に思いませんか?」
「そ、それは……、私に見られたくなかったからだろう」
「いいえ。最後の日付の日記にはこう書かれていました」

 フェルリアは首を横に振り、冷ややかな目でジェラスを見つめる。

「この日記を読めば、現実を見たくない彼はこの日記帳を焼き捨てることでしょう。そうなった時、私の苦しみは誰にも知られないことになってしまう。それは嫌だと」
「な、なら、どうして家族に見せなかった?」
「ミレイヤ様のご家族は、本当にミレイヤ様を愛しておられました。傷ついていたミレイヤ様を助けられなかったことを知れば、きっと自分を責めることだろうと書かれています」

 この気持ちは、家族に愛されていないフェルリアには理解しがたかった。
 だが、家族を愛しているからこその気持ちだということは納得できた。

「誰かに知られたかったのに、どうして今まで公にされていないんだ?」

 キックスに尋ねられ、フェルリアは苦笑して答える。

「日記には、相談もなくミサファー様に子供を生ませ、ゼッシュ様を自分の子として育てろと言ってきたジェラス様が憎いと思う気持ちや、ミレイラ様が愛しくてたまらないと書かれていたわ。最後のほうは、ミレイラ様に宛てたメッセージのようなものも多かったの」
「……じゃあ、いつかミレイラ嬢が自分の実家を訪ねてくることがあれば読ませたかったのか?」
「そこまで書かれてはいないのですが、少なくとも、ジェラス様の手に渡らなければ、日記帳がなかったことにされることは避けられると思ったのではないでしょうか」

 日記帳にはミレイラが生まれるまでは、ジェラスへの恨み言が多く書かれていた。
 ミレイヤのためだと言うが、結局は跡継ぎがほしかっただけなのだろうと――
 それならなぜ、ジェラスと別れるという選択をせず、ミレイラを生むことにしたのか。

 その時にはまだ、彼を愛していたからだ。愛していたから、彼の子を生みたいと思った。

 自分が生きていた証を残したかった。

 しかし、時が経つにつれ、ミレイヤは後悔し始めた。子供を生むことが怖くなったのではない。ただ、ジェラスの子を生むことが嫌になった。
 それでも自分の願いでお腹に宿った子供の命を奪うことはできない。だから、父親がジェラスということを忘れ、注いでいた愛情の全てをミレイラだけに注ぐことにした。

(ジェラス様がミレイラ様を邪険に扱う理由は逆恨みだった)

 ミレイヤは気づかなかった。自分の子供に愛情を注ぐことは当たり前で、ジェラスよりもミレイラを優先することは当然である。
 そう思っていた。
 しかし、ジェラスは違う。何よりも自分だけを愛してほしかった。死ぬ間際までミレイラのことばかり口にしていたミレイヤに、自分のことだけ考えていてほしいと思っていた。
 ミレイラへの嫉妬は憎しみに変わり、いつしか、自分の愛する人を奪った憎き者へと変化した。

「絶対に嘘だ! ミレイヤは私だけを愛していた! ミレイラを生んで死ぬくらいなら、生まなきゃ良かったと思っていたはずだ!」

 これ以上聞きたくないと言わんばかりに、ジェラスは両手で耳を押さえた。

「いいえ。そうではありません。この字はミレイヤ様の字でしょう?」
「……う……あ、いや……」

 目の前に突きつけられたのは日記帳のあるページ。

『彼は私のことを自分の操り人形だと思っている。違う。私は彼の操り人形なんかじゃない。どうしたら彼と離れて、ミレイラと共に幸せに暮らせるのかしら』

 ミレイラが生まれてすぐの日付にはそう記されていた。

「あなたがミレイヤ様の筆跡を見間違えるわけはないですよね?」

 ミレイヤを愛しているなら、この筆跡を否定できるわけがない。
 
 フェルリアが尋ねると、ジェラスの目から大粒の涙が溢れた。


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