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第3話
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夕食はシェールのせいで、ゆっくり取る事は出来なかった。
私にやたらと話しかけてくるのが鬱陶しくて、行儀の悪い事はわかっていたけれど、早食いになってしまったからだ。
それに私も慣れないメイドの仕事をしたという事もあり、体力的にも疲れていた。
私のやった仕事はメイド達の仕事の内の一部だというのに、運動不足もあってか、とにかく早くシャワーを浴びて眠りにつきたかった。
不機嫌そうにしているフェイロン家の面々に頭を下げた後、私は一番にダイニングルームを出た。
すると、シェールが追いかけてきて、私の腕にしがみついた。
「お姉様、どうしちゃったの? 何が気に入らなかったの?」
「気に入らないとかいう問題じゃないわ。何度も言っているけれど、もういいかげんに私から離れてちょうだい」
「どうして?」
「どうしてって、さっきの会話を聞いて、あなたは何も思わなかったの?」
「特に何も思わなかったわ。だって、お姉様、あんな事を言われるのは日常茶飯事だったでしょう? どうして今更、そんな事を言うの?」
「前々から言っていたわ! あなたとお父様達がちゃんと聞いてくれなかっただけよ!」
シェールの腕を振り払い、止めていた足を動かして、自分の部屋に向かう。
「今までは良かったのに、どうしていきなり駄目になってしまうの!? そんなの納得いかないわ!」
「逆にどうしてわかってくれないのかが私にはわからないわ! 嫌だって言っているのよ!」
「どうして、そんなに冷たい事を言うの!?」
「おい! 何をしてるんだ! みっともないから喧嘩はやめろ!」
ロブス様がシェールを追いかけてきたようで、彼女の肩を抱き寄せて、私に向かって言う。
「君は姉なんだろう? 妹の言う事くらい聞いてあげればいいじゃないか」
「……本当にそう思ってらっしゃるのですか? 病人でもなんでもないのに、この年で妹に食べさせてもらう事を良しとするのですか?」
「妹が望んでいるんだからいいじゃないか! その年でそんな事をしてくれる妹なんていないだろう!」
「それが世の中では当たり前なんです! シェールがおかしいんです!」
「おかしいのは君だ!」
ロブス様は私に指を突きつけて叫ぶと、シェールに向かって言う。
「シェール、君はミュアとの婚約破棄を望んでいたよな?」
「ええ、そうよ! あなたにはお姉様はもったいないわ!」
「そんな事はどうでもいい。君は僕が婚約破棄をすれば喜ぶんだな?」
「当たり前じゃないの!」
シェールはロブス様に敬語を使わなくても良いと許可されているのか、当たり前の様に偉そうに答えると、ロブス様はシェールの肩を撫でながら言う。
「しょうがないな。君の言う通りにしてあげよう」
そう言ってシェールを見るロブス様の目が、熱を帯びている様に思えて嫌悪感が増した。
肉体関係を持ったりしたわけではないでしょうけど、シェールに上手く丸め込まれている事は確かだわ。
「本当に!? じゃあ、少しでも早くにお願いするわ! 絶対よ!? 絶対に婚約破棄してね!? お姉様に慰謝料を求めたりしないでよ?」
シェールはヒールの高い靴を履いているというのに、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「わかってる。こっちにしてみれば、妹でも姉でもどっちだって良かったんだ。黒髪が珍しいという理由でミュアにしたんだ。だけど、今となっては君の方が良い」
「そんな事ないわ。お姉様の方が良いに決まってる!」
まるで恋人同士のように寄り添って話す2人を見ているのがバカバカしくなって背を向けて歩き出す。
すると、ロブス様の声が聞こえた。
「2時間後に君の部屋に行く。着替えずに待っているんだ」
「……承知しました」
立ち止まりはしたけれど、振り返らずに返事をすると、シェールが弾んだ声で言う。
「お姉様、早い内に家に帰りましょうね!」
「どっちにしても地獄な事に変わりはないけれど…」
この時の私は、いえ、きっとシェールも、私がロブス様に婚約破棄をされて、姉妹で実家に戻る事になるだろうと考えていた。
けれど、実際は違った。
2時間後、私の部屋を訪ねてきたロブス様はこう言った。
「君との婚約は破棄してやる。その分の慰謝料を君に渡そう」
そう言って、ロブス様は茶色の封筒を手渡してきた。
中を確認すると、ドレスが一着買えるか買えないかくらいの札束が入っているのがわかった。
「いただいて、よろしいんですか?」
「ああ。婚約破棄をするんだからな。だけど、今すぐにこの家を出ていってくれ」
「今すぐに…ですか?」
「ああ、そうだ。君との婚約は破棄するが、シェールと婚約する事にする。君をメイドとして、この屋敷で働かせるのも悪くはないが、シェールがそれを許さないだろう。黒い髪は話題性があって良いと思ったが、シェールの美しさだけで十分、話題になりそうだから、君は用無しだ」
ロブス様はそう言うと、困惑している私に容赦なく言い放つ。
「情けに馬車を一晩貸してやる。宿屋かどこかに連れて行ってもらうといい。そのかわり、絶対にこの家には戻ってくるなよ。ほら、シェールに気付かれない様に早く荷物をまとめるんだ!」
突然の出来事に何も言えなくなった私だったけれど、このままいけばシェールからは逃げられる…。
冷静さを失っていた私は、その事だけを考えてトランクケースに急いで荷物を詰め込んだのだった。
私にやたらと話しかけてくるのが鬱陶しくて、行儀の悪い事はわかっていたけれど、早食いになってしまったからだ。
それに私も慣れないメイドの仕事をしたという事もあり、体力的にも疲れていた。
私のやった仕事はメイド達の仕事の内の一部だというのに、運動不足もあってか、とにかく早くシャワーを浴びて眠りにつきたかった。
不機嫌そうにしているフェイロン家の面々に頭を下げた後、私は一番にダイニングルームを出た。
すると、シェールが追いかけてきて、私の腕にしがみついた。
「お姉様、どうしちゃったの? 何が気に入らなかったの?」
「気に入らないとかいう問題じゃないわ。何度も言っているけれど、もういいかげんに私から離れてちょうだい」
「どうして?」
「どうしてって、さっきの会話を聞いて、あなたは何も思わなかったの?」
「特に何も思わなかったわ。だって、お姉様、あんな事を言われるのは日常茶飯事だったでしょう? どうして今更、そんな事を言うの?」
「前々から言っていたわ! あなたとお父様達がちゃんと聞いてくれなかっただけよ!」
シェールの腕を振り払い、止めていた足を動かして、自分の部屋に向かう。
「今までは良かったのに、どうしていきなり駄目になってしまうの!? そんなの納得いかないわ!」
「逆にどうしてわかってくれないのかが私にはわからないわ! 嫌だって言っているのよ!」
「どうして、そんなに冷たい事を言うの!?」
「おい! 何をしてるんだ! みっともないから喧嘩はやめろ!」
ロブス様がシェールを追いかけてきたようで、彼女の肩を抱き寄せて、私に向かって言う。
「君は姉なんだろう? 妹の言う事くらい聞いてあげればいいじゃないか」
「……本当にそう思ってらっしゃるのですか? 病人でもなんでもないのに、この年で妹に食べさせてもらう事を良しとするのですか?」
「妹が望んでいるんだからいいじゃないか! その年でそんな事をしてくれる妹なんていないだろう!」
「それが世の中では当たり前なんです! シェールがおかしいんです!」
「おかしいのは君だ!」
ロブス様は私に指を突きつけて叫ぶと、シェールに向かって言う。
「シェール、君はミュアとの婚約破棄を望んでいたよな?」
「ええ、そうよ! あなたにはお姉様はもったいないわ!」
「そんな事はどうでもいい。君は僕が婚約破棄をすれば喜ぶんだな?」
「当たり前じゃないの!」
シェールはロブス様に敬語を使わなくても良いと許可されているのか、当たり前の様に偉そうに答えると、ロブス様はシェールの肩を撫でながら言う。
「しょうがないな。君の言う通りにしてあげよう」
そう言ってシェールを見るロブス様の目が、熱を帯びている様に思えて嫌悪感が増した。
肉体関係を持ったりしたわけではないでしょうけど、シェールに上手く丸め込まれている事は確かだわ。
「本当に!? じゃあ、少しでも早くにお願いするわ! 絶対よ!? 絶対に婚約破棄してね!? お姉様に慰謝料を求めたりしないでよ?」
シェールはヒールの高い靴を履いているというのに、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「わかってる。こっちにしてみれば、妹でも姉でもどっちだって良かったんだ。黒髪が珍しいという理由でミュアにしたんだ。だけど、今となっては君の方が良い」
「そんな事ないわ。お姉様の方が良いに決まってる!」
まるで恋人同士のように寄り添って話す2人を見ているのがバカバカしくなって背を向けて歩き出す。
すると、ロブス様の声が聞こえた。
「2時間後に君の部屋に行く。着替えずに待っているんだ」
「……承知しました」
立ち止まりはしたけれど、振り返らずに返事をすると、シェールが弾んだ声で言う。
「お姉様、早い内に家に帰りましょうね!」
「どっちにしても地獄な事に変わりはないけれど…」
この時の私は、いえ、きっとシェールも、私がロブス様に婚約破棄をされて、姉妹で実家に戻る事になるだろうと考えていた。
けれど、実際は違った。
2時間後、私の部屋を訪ねてきたロブス様はこう言った。
「君との婚約は破棄してやる。その分の慰謝料を君に渡そう」
そう言って、ロブス様は茶色の封筒を手渡してきた。
中を確認すると、ドレスが一着買えるか買えないかくらいの札束が入っているのがわかった。
「いただいて、よろしいんですか?」
「ああ。婚約破棄をするんだからな。だけど、今すぐにこの家を出ていってくれ」
「今すぐに…ですか?」
「ああ、そうだ。君との婚約は破棄するが、シェールと婚約する事にする。君をメイドとして、この屋敷で働かせるのも悪くはないが、シェールがそれを許さないだろう。黒い髪は話題性があって良いと思ったが、シェールの美しさだけで十分、話題になりそうだから、君は用無しだ」
ロブス様はそう言うと、困惑している私に容赦なく言い放つ。
「情けに馬車を一晩貸してやる。宿屋かどこかに連れて行ってもらうといい。そのかわり、絶対にこの家には戻ってくるなよ。ほら、シェールに気付かれない様に早く荷物をまとめるんだ!」
突然の出来事に何も言えなくなった私だったけれど、このままいけばシェールからは逃げられる…。
冷静さを失っていた私は、その事だけを考えてトランクケースに急いで荷物を詰め込んだのだった。
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