6 / 43
4 お引き取り願います
しおりを挟む
「ぶ、無礼だわ! 私は公爵令息の妻なのよ!」
「元公爵令息でしょう。クロフォード家の現公爵は、シークス様なのですよ? キックス様はお義父さまから爵位を受け継がれていないですし、今は、公爵令息ではなく、クロフォード公爵の弟ですよ」
「元だろうが関係ありません! 公爵令息は公爵令息です!」
うう。
言っている意味がよくわかりません。
元公爵令息なんですから、キックス様自身は、爵位を何かしら継いでいない限り、平民扱いになると思うのですが…。
ローラ様は、やっぱり、話が通じない人のようです。
関わってはいけないというのに、関わってしまいました。
ローラ様の事をお馬鹿さんだと思ってしまいましたが、わかっていて関わってしまった、私もお馬鹿さんです。
人の事は言えません!
反省しなければ…。
とにかく、この方との話を打ち切りましょう。
「よくわかりませんが、あなたがそう思いたいなら、それでどうぞ。ただ、他の人の前では、そんな話はしないで下さいね。公爵家の恥に繋がりますから。では、失礼します」
「ちょっと! 逃げるんですか!? 間違ってたなら謝って下さい!」
「間違ってませんので謝りません。それから言っておきますが、私の実家は公爵家ですので、キックス様が公爵令息なら、私も公爵令嬢ですよ。そして現在は公爵夫人です。公爵夫人って何だかわかります?」
「ば、馬鹿にしないで! それくらいわかるわよ!」
「意味は理解されてませんよね?」
「わかるわよ! 公爵の夫人でしょ!?」
公爵の夫人。
間違ってはないですけど…。
ああ。
無視すれば良いとわかっているのに応えてしまう私は、何度も思いますが、本当にお馬鹿さんです。
その時、ローラ様の後ろから、黒髪の短髪で、前髪に赤のメッシュが入った、目つきの悪い男性が顔を出しました。
「何を騒いでいるんだい?」
「キックス! 聞いてよ、お義姉さまにいじめられてるの」
「え? そうなの? それはいけないなあ」
キックス様は部屋から出てくると、私に向かって言います。
「僕の可愛いお嫁さんにきつく当たらないで下さいよ」
「きつく当たったつもりではありませんでしたが、傷付かれたのなら謝りましょう。お詫びは言葉ではなく、この場から去るという行動で示しますが」
「逃げるの? やっぱり、犬の嫁は犬なのね。負け犬だわ」
ローラ様がくすくす笑いながら言いました。
ああ、言い返したいです。
ですが、関わらないようにしなければなりません。
あ、良い手がありました。
次からは言葉ではなく、魔法でお相手する事にします。
「お義姉さまったら、聞いてるんですかあ? おかしいですね。犬って耳が良かったはずですよね?」
「おい、やめろよ、ローラ。犬に失礼だろ。彼女は犬以下なんだから」
「そうよねぇ。あ、聞こえてたらどうしよう!」
「残念ながら、聞こえておりますよ? 発言には気を付けられた方がよろしいかと」
私が言うと、ローラ様とキックス様が、何がおかしいのか笑い始めました。
「発言に気を付けろって、学園の先生みたいね!」
「頭が固い女性だな」
「お2人の頭が弱すぎるんですよ」
どうやら、お2人は寝ぼけていらっしゃるようですので、水をかけて目を覚まして差し上げる事にします。
私は無詠唱で水の魔法を発動し、2人の頭の上から、大量の水をかけてあげました。
「うわぁっ!?」
「な、なんなの!? どうして水が!?」
2人はぎゃーぎゃー騒いでいますが、床がびしょ濡れになってしまいましたので、メイドに掃除させるのは申し訳ないですし、風の魔法を使い、床に落ちた水を巻き上げ、もう一度、2人の頭の上からかけて差し上げました。
結局、メイドには迷惑をかけてしまいますので、後で、何か褒美をあげなくては。
「ひどいな! ここだけ雨漏りか!?」
「信じられない! 何なの!?」
お馬鹿さん2人は天井を見上げておられますが、そんな訳ありません。
「日頃の行いの悪さのせいではないでしょうか」
2人が水に気を取られている間に、笑顔でそう言うと、私は部屋に戻ったのでした。
「奥様、魔法を使われましたね!」
部屋に入って扉を閉めるなり、ジャスミンから叱られてしまいました。
先程、私は魔法を使いましたが、なぜかわかりませんが、平民の多くは魔法を使えません。
貴族は代々、魔法の使える貴族同士で結婚していたせいか、ほとんどの貴族が魔法を使えます。
そして、旦那様に呪いをかけた魔女、というのは、平民なのに、魔法を使える女性の事を魔女と呼んでいます。
平民の中では魔法を使える人間が少ない分、魔女という名前で格を上げている感じなんだそうです。
元公爵令嬢である私が魔法を使えるのは当たり前なのに、あのお2人は、水をかけられた事も、突然の家の中で吹いた強い風も、魔法だとは思っていないようでした。
「あの2人は魔法だと気付いていないようでしたが、どうしてでしょう?」
「奥様の様に魔法を正確にコントロール出来る人を見た事がないのでしょう」
ジャスミンは怒りの表情で私を見て続けます。
「普通の人は、あんな狭い範囲だけ水や風を出すなんて無理なんです! 基本は攻撃魔法なんですから」
「頑張って、コントロールの練習をした甲斐がありました」
呑気に言うと、ジャスミンは眉根を寄せて言います。
「失礼を承知で言わせていただきますが、今日の奥様、なぜか浮かれておられませんか?」
「そんな事はありません!」
「まさか、旦那様と何かあったのでは?」
ジャスミンが疑わしげな目をして、私を見てきました。
彼女とは長い付き合いですので、やはり、私の事はよくわかってくれているようです。
「何もないですよ。それよりも、ジャスミン、ローラ様の事を調べてほしいんですが」
「何をお調べしたら良いのでしょう?」
「ジャスミンも聞いていたでしょう? どうしたら、あんな思考回路が出来上がるのか知りたいんです」
「よくわかりませんが、旦那様はどうなんですか?」
「どういう事です?」
「先程のお2人の様な方ではないのですよね?」
「もちろんです。お義父さまもお義母さまも、あんな方達ではないです」
私が答えると、ジャスミンは少し考えてから言います。
「では、どうして、キックス様だけ、あんなやばい人になられたのでしょうか?」
「やばい人」
復唱すると、ジャスミンは慌てて口を押さえました。
「間違ってませんよ。2人ともやばい人だと思います」
「申し訳ございませんでした。とにかく、私はローラ様の素性を確認しようと思います」
「よろしくお願いしますね」
夕食の時間まで、もう少しあるので、ジャスミンは早速、ローラ様の素性を調べる為に、メイド仲間に連絡するといって、自分の部屋に戻っていきました。
ジャスミンが戻ってくるまで、のんびりしていようと思っていると、扉が叩かれる音が聞こえました。
「どちら様でしょう?」
「俺だ。シークスだ」
「旦那様ですか!」
ここまで来られたという事は犬の姿ではないのでしょう。
ちょっと残念な気もしましたが、わざわざ来て下さいましたし、扉を開けてお出迎えします。
「どうされましたか?」
「さっきの話が聞きたかったのと、これを渡しておきたかったんだ」
そう言って、旦那様は毛を取るブラシを私に差し出して下さいました。
旦那様に抱きつきまくってしまった為、私の服に旦那様の毛がついてしまっていました。
ですから、毛を取るブラシをわざわざ持ってきて下さったみたいです。
「ありがとうございます! 助かります!」
自分で一生懸命ブラシを使ってみましたが、手が回らないところは、旦那様がやって下さいました。
「そういえば旦那様は直接、女性の肌に触れなければ大丈夫なのですか?」
「どういう意味だ?」
「例えば、腕が当たってしまった場合などはどうなるのですか?」
「有り難いというとおかしいかもしれないが、自分から触れようという意思がない場合は大丈夫みたいだ」
「助けようとして手を出すのは触れようという意思になってしまうのですね」
「とにかく魔女は他の女性に、俺から触れようとするのが嫌だったみたいだな」
「という事は、服や手袋越しでも意思があれば犬になってしまわれるのですね…」
「そうなる」
困ったものです。
「もし、ダンスパーティーなどに出席する事になったら、どうされるおつもりだったんですか?」
「1人で出席するつもりだった」
「新婚なのにですか」
「しょうがないだろう。君は行ってくれるのか?」
「もふもふさせていただけるのなら」
「存分に触りたくっただろう!」
「至福だったんです。もっと触りたいです」
私のお願いに旦那様が眉根を寄せた時でした。
扉が叩かれる音がしたため、ジャスミンが戻ってきたのかと思い、返事を返します。
「ジャスミンですか?」
「お義姉さん、俺だよ」
「…俺ではわかりません」
「お義姉さんって言ってるんだからわかるだろ」
旦那様を見ると、声には出さずに「キックスだ」と口を動かして下さいました。
私は話しかけながら、扉に近付きます。
「私には俺という名前の弟はおりません」
「いや、わかるでしょう!?」
「ですから、俺という名前の弟は存じ上げませんので、お引き取り願います」
扉の鍵を静かに締めて、また、部屋の奥に戻り、立ったままの旦那様の隣に立ちます。
「キックスだよ! あなたの旦那様の弟だ。可愛い義弟ですよ!」
「ローラ様にもお伝えしましたが、可愛い義妹もいませんので、可愛い義弟もおりません」
「酷い女だな! 普通は扉を開けるくらいするだろう!」
「開けたくありませんので、酷い女で結構です」
「なんて女なんだ!」
そう言って、キックス様は扉を開けようとされましたが、鍵をかけておりますので開きません。
ガチャガチャとドアノブが壊れるんじゃないかと思うくらい乱暴に回されていますので、声を掛けようと思った時でした。
旦那様が小さく息を吐いてから、扉に近付き、鍵を開けられました。
「最初から素直にっ」
キックス様が何か言われていましたが、旦那様は容赦なく外開きの扉を開け、キックス様に扉をぶち当てたのでした。
「元公爵令息でしょう。クロフォード家の現公爵は、シークス様なのですよ? キックス様はお義父さまから爵位を受け継がれていないですし、今は、公爵令息ではなく、クロフォード公爵の弟ですよ」
「元だろうが関係ありません! 公爵令息は公爵令息です!」
うう。
言っている意味がよくわかりません。
元公爵令息なんですから、キックス様自身は、爵位を何かしら継いでいない限り、平民扱いになると思うのですが…。
ローラ様は、やっぱり、話が通じない人のようです。
関わってはいけないというのに、関わってしまいました。
ローラ様の事をお馬鹿さんだと思ってしまいましたが、わかっていて関わってしまった、私もお馬鹿さんです。
人の事は言えません!
反省しなければ…。
とにかく、この方との話を打ち切りましょう。
「よくわかりませんが、あなたがそう思いたいなら、それでどうぞ。ただ、他の人の前では、そんな話はしないで下さいね。公爵家の恥に繋がりますから。では、失礼します」
「ちょっと! 逃げるんですか!? 間違ってたなら謝って下さい!」
「間違ってませんので謝りません。それから言っておきますが、私の実家は公爵家ですので、キックス様が公爵令息なら、私も公爵令嬢ですよ。そして現在は公爵夫人です。公爵夫人って何だかわかります?」
「ば、馬鹿にしないで! それくらいわかるわよ!」
「意味は理解されてませんよね?」
「わかるわよ! 公爵の夫人でしょ!?」
公爵の夫人。
間違ってはないですけど…。
ああ。
無視すれば良いとわかっているのに応えてしまう私は、何度も思いますが、本当にお馬鹿さんです。
その時、ローラ様の後ろから、黒髪の短髪で、前髪に赤のメッシュが入った、目つきの悪い男性が顔を出しました。
「何を騒いでいるんだい?」
「キックス! 聞いてよ、お義姉さまにいじめられてるの」
「え? そうなの? それはいけないなあ」
キックス様は部屋から出てくると、私に向かって言います。
「僕の可愛いお嫁さんにきつく当たらないで下さいよ」
「きつく当たったつもりではありませんでしたが、傷付かれたのなら謝りましょう。お詫びは言葉ではなく、この場から去るという行動で示しますが」
「逃げるの? やっぱり、犬の嫁は犬なのね。負け犬だわ」
ローラ様がくすくす笑いながら言いました。
ああ、言い返したいです。
ですが、関わらないようにしなければなりません。
あ、良い手がありました。
次からは言葉ではなく、魔法でお相手する事にします。
「お義姉さまったら、聞いてるんですかあ? おかしいですね。犬って耳が良かったはずですよね?」
「おい、やめろよ、ローラ。犬に失礼だろ。彼女は犬以下なんだから」
「そうよねぇ。あ、聞こえてたらどうしよう!」
「残念ながら、聞こえておりますよ? 発言には気を付けられた方がよろしいかと」
私が言うと、ローラ様とキックス様が、何がおかしいのか笑い始めました。
「発言に気を付けろって、学園の先生みたいね!」
「頭が固い女性だな」
「お2人の頭が弱すぎるんですよ」
どうやら、お2人は寝ぼけていらっしゃるようですので、水をかけて目を覚まして差し上げる事にします。
私は無詠唱で水の魔法を発動し、2人の頭の上から、大量の水をかけてあげました。
「うわぁっ!?」
「な、なんなの!? どうして水が!?」
2人はぎゃーぎゃー騒いでいますが、床がびしょ濡れになってしまいましたので、メイドに掃除させるのは申し訳ないですし、風の魔法を使い、床に落ちた水を巻き上げ、もう一度、2人の頭の上からかけて差し上げました。
結局、メイドには迷惑をかけてしまいますので、後で、何か褒美をあげなくては。
「ひどいな! ここだけ雨漏りか!?」
「信じられない! 何なの!?」
お馬鹿さん2人は天井を見上げておられますが、そんな訳ありません。
「日頃の行いの悪さのせいではないでしょうか」
2人が水に気を取られている間に、笑顔でそう言うと、私は部屋に戻ったのでした。
「奥様、魔法を使われましたね!」
部屋に入って扉を閉めるなり、ジャスミンから叱られてしまいました。
先程、私は魔法を使いましたが、なぜかわかりませんが、平民の多くは魔法を使えません。
貴族は代々、魔法の使える貴族同士で結婚していたせいか、ほとんどの貴族が魔法を使えます。
そして、旦那様に呪いをかけた魔女、というのは、平民なのに、魔法を使える女性の事を魔女と呼んでいます。
平民の中では魔法を使える人間が少ない分、魔女という名前で格を上げている感じなんだそうです。
元公爵令嬢である私が魔法を使えるのは当たり前なのに、あのお2人は、水をかけられた事も、突然の家の中で吹いた強い風も、魔法だとは思っていないようでした。
「あの2人は魔法だと気付いていないようでしたが、どうしてでしょう?」
「奥様の様に魔法を正確にコントロール出来る人を見た事がないのでしょう」
ジャスミンは怒りの表情で私を見て続けます。
「普通の人は、あんな狭い範囲だけ水や風を出すなんて無理なんです! 基本は攻撃魔法なんですから」
「頑張って、コントロールの練習をした甲斐がありました」
呑気に言うと、ジャスミンは眉根を寄せて言います。
「失礼を承知で言わせていただきますが、今日の奥様、なぜか浮かれておられませんか?」
「そんな事はありません!」
「まさか、旦那様と何かあったのでは?」
ジャスミンが疑わしげな目をして、私を見てきました。
彼女とは長い付き合いですので、やはり、私の事はよくわかってくれているようです。
「何もないですよ。それよりも、ジャスミン、ローラ様の事を調べてほしいんですが」
「何をお調べしたら良いのでしょう?」
「ジャスミンも聞いていたでしょう? どうしたら、あんな思考回路が出来上がるのか知りたいんです」
「よくわかりませんが、旦那様はどうなんですか?」
「どういう事です?」
「先程のお2人の様な方ではないのですよね?」
「もちろんです。お義父さまもお義母さまも、あんな方達ではないです」
私が答えると、ジャスミンは少し考えてから言います。
「では、どうして、キックス様だけ、あんなやばい人になられたのでしょうか?」
「やばい人」
復唱すると、ジャスミンは慌てて口を押さえました。
「間違ってませんよ。2人ともやばい人だと思います」
「申し訳ございませんでした。とにかく、私はローラ様の素性を確認しようと思います」
「よろしくお願いしますね」
夕食の時間まで、もう少しあるので、ジャスミンは早速、ローラ様の素性を調べる為に、メイド仲間に連絡するといって、自分の部屋に戻っていきました。
ジャスミンが戻ってくるまで、のんびりしていようと思っていると、扉が叩かれる音が聞こえました。
「どちら様でしょう?」
「俺だ。シークスだ」
「旦那様ですか!」
ここまで来られたという事は犬の姿ではないのでしょう。
ちょっと残念な気もしましたが、わざわざ来て下さいましたし、扉を開けてお出迎えします。
「どうされましたか?」
「さっきの話が聞きたかったのと、これを渡しておきたかったんだ」
そう言って、旦那様は毛を取るブラシを私に差し出して下さいました。
旦那様に抱きつきまくってしまった為、私の服に旦那様の毛がついてしまっていました。
ですから、毛を取るブラシをわざわざ持ってきて下さったみたいです。
「ありがとうございます! 助かります!」
自分で一生懸命ブラシを使ってみましたが、手が回らないところは、旦那様がやって下さいました。
「そういえば旦那様は直接、女性の肌に触れなければ大丈夫なのですか?」
「どういう意味だ?」
「例えば、腕が当たってしまった場合などはどうなるのですか?」
「有り難いというとおかしいかもしれないが、自分から触れようという意思がない場合は大丈夫みたいだ」
「助けようとして手を出すのは触れようという意思になってしまうのですね」
「とにかく魔女は他の女性に、俺から触れようとするのが嫌だったみたいだな」
「という事は、服や手袋越しでも意思があれば犬になってしまわれるのですね…」
「そうなる」
困ったものです。
「もし、ダンスパーティーなどに出席する事になったら、どうされるおつもりだったんですか?」
「1人で出席するつもりだった」
「新婚なのにですか」
「しょうがないだろう。君は行ってくれるのか?」
「もふもふさせていただけるのなら」
「存分に触りたくっただろう!」
「至福だったんです。もっと触りたいです」
私のお願いに旦那様が眉根を寄せた時でした。
扉が叩かれる音がしたため、ジャスミンが戻ってきたのかと思い、返事を返します。
「ジャスミンですか?」
「お義姉さん、俺だよ」
「…俺ではわかりません」
「お義姉さんって言ってるんだからわかるだろ」
旦那様を見ると、声には出さずに「キックスだ」と口を動かして下さいました。
私は話しかけながら、扉に近付きます。
「私には俺という名前の弟はおりません」
「いや、わかるでしょう!?」
「ですから、俺という名前の弟は存じ上げませんので、お引き取り願います」
扉の鍵を静かに締めて、また、部屋の奥に戻り、立ったままの旦那様の隣に立ちます。
「キックスだよ! あなたの旦那様の弟だ。可愛い義弟ですよ!」
「ローラ様にもお伝えしましたが、可愛い義妹もいませんので、可愛い義弟もおりません」
「酷い女だな! 普通は扉を開けるくらいするだろう!」
「開けたくありませんので、酷い女で結構です」
「なんて女なんだ!」
そう言って、キックス様は扉を開けようとされましたが、鍵をかけておりますので開きません。
ガチャガチャとドアノブが壊れるんじゃないかと思うくらい乱暴に回されていますので、声を掛けようと思った時でした。
旦那様が小さく息を吐いてから、扉に近付き、鍵を開けられました。
「最初から素直にっ」
キックス様が何か言われていましたが、旦那様は容赦なく外開きの扉を開け、キックス様に扉をぶち当てたのでした。
86
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】王妃はもうここにいられません
なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」
長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。
だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。
私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。
だからずっと、支えてきたのだ。
貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……
もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。
「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。
胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。
周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。
自らの前世と、感覚を。
「うそでしょ…………」
取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。
ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。
「むしろ、廃妃にしてください!」
長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………
◇◇◇
強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。
ぜひ読んでくださると嬉しいです!
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる