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17 早く帰っていただきたいです
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旦那様とのお風呂の後、髪などを乾かすと、嫌がる旦那様を抱きしめて、ベッドで横になっていると、知らない間に眠ってしまっていました。
朝、起きた時には旦那様の姿はなく、知らない間にお部屋に帰られた様でした。
昨日は疲れましたが、すごく楽しかったので、旦那様にお礼を言わなければと思いました。
旦那様とは朝食の席で顔を合わせましたので、お礼を言いますと、苦笑して首を横に振られます。
「俺は何もしていない」
「そんな事ありません! 買い物を付き合ってくださったので、楽しく買い物できましたよ?」
「…買い物に一緒に行った事だけで喜んでくれるのか?」
「もちろんです」
にこりと微笑むと、旦那様はなぜか私から視線をそらして言います。
「それ以上の事をしないといけないのかと思っていた」
「もちろん、それ以外の事でも楽しませていただきました」
犬と一緒に寝たり、お風呂に入ったり、大満足の一日でした。
それもこれも旦那様のおかげです。
「これからはもっと楽しんでもらえる様に努力する」
「そんな事なさらなくても大丈夫ですよ。旦那様のお気持ちはわかっています。屋敷に帰ったら、また程良い距離感に戻りましょうね」
笑顔で言うと、なぜか旦那様の表情が固まり、持っていたスプーンを皿の上に落とされました。
「ど、どうかなさいましたか?」
驚いたのは私だけでなく、近くに控えていた使用人達もでした。
「旦那様、何かございましたか?」
「い、いや、何でもない…」
皿に落ちたスプーンを手にしようとする旦那様に、新しいスプーンと交換しながら、メイドが尋ねましたが、旦那様は首を横に振るだけでした。
どうしてしまったんでしょうか。
旦那様の様子がおかしいです。
「体調が良くないのですか?」
「……俺の事は気にしないでくれ」
「そう言われましても…」
昨日、散々買い物に付き合わせた上に、一緒にお風呂に入ったりしたせいで、風邪を引いてしまったのかもしれません!
責任をとって看病しなければ…!
その時、メイドが来客を知らせてくれました。
「来客? 予定していないが誰だ?」
「ハーデン・メーゴン様と仰る方で、招待状を持っておられます」
「招待状?」
私と旦那様は声を揃えて聞き返しました。
だって、招待状なんて誰にも送ってませんし、送る事があったとしてもハーデンになんか、絶対に送ったりしませんから。
「はい。ローラ様がご招待された様でして。このまま帰るわけにはいかない。入れてくれないのなら、屋敷の外で中に入れてくれるまで待つと仰られてます」
「ローラの奴、好き勝手やってくれているな」
「旅行先にまで何か仕掛けてくるとは思ってもいませんでした」
旦那様の言葉に、呆れながらも頷いた後、報告してくれたメイドに言います。
「会って帰ってもらいます。私はもう結婚しておりますから、男性と二人きりになるわけにはいきません。ジャスミン、一緒に部屋に入ってくれますか?」
「もちろんです」
「俺が行こう」
旦那様の言葉に驚きつつも、私は首を横に振ります。
「旦那様のお手をわずらわせるわけにはいきませんから」
「妻に男が会いに来ているんだぞ?」
「やましい事なんて1つもありませんよ」
「そういう訳ではなくてだな」
「旦那様、お仕事を昨日は少しもできていないでしょう? 私の事はお気になさらずに、仕事に集中して下さい」
気を遣ったつもりだったのですが、なぜか旦那様はショックを受けた様な表情になり、近くにいたジャスミンに大きく息を吐かれてしまいました。
おかしいです。
旦那様は仕事を持ってきているのですから、仕事をする気まんまんだった訳ですよね?
どうして今の発言が駄目なんです?
「旦那様、世間体を気にしていらっしゃるのはわかりますが、何もありませんので、信用していただけませんか?」
「君を信用していないわけじゃない…。今日は失礼する」
旦那様はそう呟くと、食事の途中だというのに、部屋を出ていかれてしまいました。
「ジャスミン、私、何か失礼な事を言ってしまいましたか? それとも、ローラ様に格好のネタを与えてしまった私に怒っているのでしょうか?」
「私から詳しくはお答えできませんが、旦那様が出ていかれたのは、奥様が原因だという事はお伝えしておきます」
「そ、そんな…」
ジャスミンになぜか憐れむような目で見て言われ、ショックを受けてしまいます。
どうすれば良かったのでしょう?
やはり、私と旦那様は相性が悪いのでしょうか…?
「私の先程の発言に何か旦那様の気を悪くする様なものはありましたでしょうか」
「…旦那様の自業自得というところもありますので、なんとも言えません。とにかく、メーゴン様とのお話を終えられてから、旦那様と話し合われた方が良いかと思われます」
「いつの間にか、ジャスミンは旦那様の味方になっていますね」
「最初の印象が最悪でしたから、後は評価が上がっていく、もしくはそのまま、しかありませんので」
「今のところ、ジャスミンの中では旦那様の評価が上がっていくしかないのですね」
「思っていた以上に、奥様を大事にしてくださっている様ですので」
そう言われてみれば、そうかもしれません。
なんだかんだと心配してくださってますし、お買い物にも付き合ってくださいました。
何より、犬になった時なんかは、特に優しいですよね。
何だかよくわかりませんが、私の言葉で旦那様が傷付いてしまったというのなら、謝る事にいたしましょう!
でも、まずは、ハーデンをどうにかしませんと。
ローラ様に何を言われて、私の前に現れたのかも聞いてみたいですしね。
ジャスミンと一緒に、ハーデンを通したという応接室に向かっていると、メイド達の声が聞こえました。
「旦那様、お部屋におられたと思ったら、突然、いなくなられたの。どこへ行かれたのかしら。奥様の所に男性が来られてると言うのに…」
ちらりと目線をメイド達に投げると、慌てて、話をしていた2人のメイドはお喋りを止めて走り去っていきました。
「旦那様、家出されてしまったんでしょうか。もしくは屋敷に戻られた?」
「まさか。もし、そうだったとしたら、奥様、ちゃんと旦那様を探して差し上げて下さいね?」
「さすがに放ったらかしになんかしませんよ!」
ジャスミンはどれだけ私を冷たい人間だと思っているのでしょう!
そんなに今までの発言は酷かったですかね!?
プリプリしながら応接室の扉を開けると、ソファーに座っていたハーデンが笑顔で立ち上がって近付いて来ようとしましたが、ジャスミンが間に入って言います。
「お客様。奥様に無礼です。お座りになってお待ち下さい」
「僕はエレノアの未来の夫だぞ! 君の未来の主人になるんだ!」
「私の主人はエレノア様。もしくはシークス様だけでございます」
「いつかはそのシークス様と別れることになるんだよ」
ハーデンはなぜか嬉しそうに言うと、大人しくソファーに腰掛けてくれました。
「で、何か御用でしょうか?」
「クロフォード公爵の弟の奥様から、この家に招待するとの招待状をもらったんだ。ほら、日にちも時刻も指定されている」
木のローテーブルの上に、ハーデンが花柄の封筒を置いたので、手を伸ばそうとしましたが、そうすると手に触れられそうな気がしたので、手を引っ込めて一瞥したあと言います。
「では、お茶を飲んだらお帰り下さいませ。あなたを招待したローラ様はこちらにはいらっしゃいませんので」
「君が僕に会いたいと書いてあった! ほら、素直になってくれよ!」
興奮したハーデンがまた立ち上がった時、ジャスミンがハーデンの前に、紅茶の入ったティーカップののったソーサーを置いたので、ハーデンはまたソファーに座り直しました。
「素直な気持ちをお話いたしますと、お茶も飲まずに、早く帰っていただきたいです」
「クロフォード公爵は、君の部屋に一度も来た事がないんだろう?」
夜の事を言っているのだと思いますが、旦那様が昼間に部屋に来た事はありますので、素直に答えます。
「いいえ。何度かいらっしゃってますよ」
「この手紙には夫婦生活はないと!」
「ハーデン様、その発言は!」
ジャスミンが声を荒らげた時でした。
ガチャン。
ガチャン。
と、扉の方で音が聞こえました。
すると、扉の取っ手が大きく揺れているのに気が付きました。
「…何でしょう」
怪奇現象なのかとドキリとしましたが、カリカリ、シャカシャカという謎の音が聞こえ、しばらくすると、今度はどんどんと扉を叩く音がしました。
「見てまいります」
ジャスミンが恐る恐るといった感じで、扉の取っ手に手をかけ、開いてみると、大きな声を上げました。
「まあ!」
「どうかしましたか、ジャスミン!?」
立ち上がって聞くと、ジャスミンが叫びます。
「奥様! 昨日、奥様が連れてきて、突然消えてしまった犬が戻ってきました!」
ジャスミンが開けた扉の隙間から、するりと中に入ってきたのは、犬になった旦那様でした。
朝、起きた時には旦那様の姿はなく、知らない間にお部屋に帰られた様でした。
昨日は疲れましたが、すごく楽しかったので、旦那様にお礼を言わなければと思いました。
旦那様とは朝食の席で顔を合わせましたので、お礼を言いますと、苦笑して首を横に振られます。
「俺は何もしていない」
「そんな事ありません! 買い物を付き合ってくださったので、楽しく買い物できましたよ?」
「…買い物に一緒に行った事だけで喜んでくれるのか?」
「もちろんです」
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「それ以上の事をしないといけないのかと思っていた」
「もちろん、それ以外の事でも楽しませていただきました」
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それもこれも旦那様のおかげです。
「これからはもっと楽しんでもらえる様に努力する」
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笑顔で言うと、なぜか旦那様の表情が固まり、持っていたスプーンを皿の上に落とされました。
「ど、どうかなさいましたか?」
驚いたのは私だけでなく、近くに控えていた使用人達もでした。
「旦那様、何かございましたか?」
「い、いや、何でもない…」
皿に落ちたスプーンを手にしようとする旦那様に、新しいスプーンと交換しながら、メイドが尋ねましたが、旦那様は首を横に振るだけでした。
どうしてしまったんでしょうか。
旦那様の様子がおかしいです。
「体調が良くないのですか?」
「……俺の事は気にしないでくれ」
「そう言われましても…」
昨日、散々買い物に付き合わせた上に、一緒にお風呂に入ったりしたせいで、風邪を引いてしまったのかもしれません!
責任をとって看病しなければ…!
その時、メイドが来客を知らせてくれました。
「来客? 予定していないが誰だ?」
「ハーデン・メーゴン様と仰る方で、招待状を持っておられます」
「招待状?」
私と旦那様は声を揃えて聞き返しました。
だって、招待状なんて誰にも送ってませんし、送る事があったとしてもハーデンになんか、絶対に送ったりしませんから。
「はい。ローラ様がご招待された様でして。このまま帰るわけにはいかない。入れてくれないのなら、屋敷の外で中に入れてくれるまで待つと仰られてます」
「ローラの奴、好き勝手やってくれているな」
「旅行先にまで何か仕掛けてくるとは思ってもいませんでした」
旦那様の言葉に、呆れながらも頷いた後、報告してくれたメイドに言います。
「会って帰ってもらいます。私はもう結婚しておりますから、男性と二人きりになるわけにはいきません。ジャスミン、一緒に部屋に入ってくれますか?」
「もちろんです」
「俺が行こう」
旦那様の言葉に驚きつつも、私は首を横に振ります。
「旦那様のお手をわずらわせるわけにはいきませんから」
「妻に男が会いに来ているんだぞ?」
「やましい事なんて1つもありませんよ」
「そういう訳ではなくてだな」
「旦那様、お仕事を昨日は少しもできていないでしょう? 私の事はお気になさらずに、仕事に集中して下さい」
気を遣ったつもりだったのですが、なぜか旦那様はショックを受けた様な表情になり、近くにいたジャスミンに大きく息を吐かれてしまいました。
おかしいです。
旦那様は仕事を持ってきているのですから、仕事をする気まんまんだった訳ですよね?
どうして今の発言が駄目なんです?
「旦那様、世間体を気にしていらっしゃるのはわかりますが、何もありませんので、信用していただけませんか?」
「君を信用していないわけじゃない…。今日は失礼する」
旦那様はそう呟くと、食事の途中だというのに、部屋を出ていかれてしまいました。
「ジャスミン、私、何か失礼な事を言ってしまいましたか? それとも、ローラ様に格好のネタを与えてしまった私に怒っているのでしょうか?」
「私から詳しくはお答えできませんが、旦那様が出ていかれたのは、奥様が原因だという事はお伝えしておきます」
「そ、そんな…」
ジャスミンになぜか憐れむような目で見て言われ、ショックを受けてしまいます。
どうすれば良かったのでしょう?
やはり、私と旦那様は相性が悪いのでしょうか…?
「私の先程の発言に何か旦那様の気を悪くする様なものはありましたでしょうか」
「…旦那様の自業自得というところもありますので、なんとも言えません。とにかく、メーゴン様とのお話を終えられてから、旦那様と話し合われた方が良いかと思われます」
「いつの間にか、ジャスミンは旦那様の味方になっていますね」
「最初の印象が最悪でしたから、後は評価が上がっていく、もしくはそのまま、しかありませんので」
「今のところ、ジャスミンの中では旦那様の評価が上がっていくしかないのですね」
「思っていた以上に、奥様を大事にしてくださっている様ですので」
そう言われてみれば、そうかもしれません。
なんだかんだと心配してくださってますし、お買い物にも付き合ってくださいました。
何より、犬になった時なんかは、特に優しいですよね。
何だかよくわかりませんが、私の言葉で旦那様が傷付いてしまったというのなら、謝る事にいたしましょう!
でも、まずは、ハーデンをどうにかしませんと。
ローラ様に何を言われて、私の前に現れたのかも聞いてみたいですしね。
ジャスミンと一緒に、ハーデンを通したという応接室に向かっていると、メイド達の声が聞こえました。
「旦那様、お部屋におられたと思ったら、突然、いなくなられたの。どこへ行かれたのかしら。奥様の所に男性が来られてると言うのに…」
ちらりと目線をメイド達に投げると、慌てて、話をしていた2人のメイドはお喋りを止めて走り去っていきました。
「旦那様、家出されてしまったんでしょうか。もしくは屋敷に戻られた?」
「まさか。もし、そうだったとしたら、奥様、ちゃんと旦那様を探して差し上げて下さいね?」
「さすがに放ったらかしになんかしませんよ!」
ジャスミンはどれだけ私を冷たい人間だと思っているのでしょう!
そんなに今までの発言は酷かったですかね!?
プリプリしながら応接室の扉を開けると、ソファーに座っていたハーデンが笑顔で立ち上がって近付いて来ようとしましたが、ジャスミンが間に入って言います。
「お客様。奥様に無礼です。お座りになってお待ち下さい」
「僕はエレノアの未来の夫だぞ! 君の未来の主人になるんだ!」
「私の主人はエレノア様。もしくはシークス様だけでございます」
「いつかはそのシークス様と別れることになるんだよ」
ハーデンはなぜか嬉しそうに言うと、大人しくソファーに腰掛けてくれました。
「で、何か御用でしょうか?」
「クロフォード公爵の弟の奥様から、この家に招待するとの招待状をもらったんだ。ほら、日にちも時刻も指定されている」
木のローテーブルの上に、ハーデンが花柄の封筒を置いたので、手を伸ばそうとしましたが、そうすると手に触れられそうな気がしたので、手を引っ込めて一瞥したあと言います。
「では、お茶を飲んだらお帰り下さいませ。あなたを招待したローラ様はこちらにはいらっしゃいませんので」
「君が僕に会いたいと書いてあった! ほら、素直になってくれよ!」
興奮したハーデンがまた立ち上がった時、ジャスミンがハーデンの前に、紅茶の入ったティーカップののったソーサーを置いたので、ハーデンはまたソファーに座り直しました。
「素直な気持ちをお話いたしますと、お茶も飲まずに、早く帰っていただきたいです」
「クロフォード公爵は、君の部屋に一度も来た事がないんだろう?」
夜の事を言っているのだと思いますが、旦那様が昼間に部屋に来た事はありますので、素直に答えます。
「いいえ。何度かいらっしゃってますよ」
「この手紙には夫婦生活はないと!」
「ハーデン様、その発言は!」
ジャスミンが声を荒らげた時でした。
ガチャン。
ガチャン。
と、扉の方で音が聞こえました。
すると、扉の取っ手が大きく揺れているのに気が付きました。
「…何でしょう」
怪奇現象なのかとドキリとしましたが、カリカリ、シャカシャカという謎の音が聞こえ、しばらくすると、今度はどんどんと扉を叩く音がしました。
「見てまいります」
ジャスミンが恐る恐るといった感じで、扉の取っ手に手をかけ、開いてみると、大きな声を上げました。
「まあ!」
「どうかしましたか、ジャスミン!?」
立ち上がって聞くと、ジャスミンが叫びます。
「奥様! 昨日、奥様が連れてきて、突然消えてしまった犬が戻ってきました!」
ジャスミンが開けた扉の隙間から、するりと中に入ってきたのは、犬になった旦那様でした。
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