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番外編
ご乱心ですー!!
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「今日は旦那様の為に、お菓子を作ろうと思います!」
公爵家の調理場で、そう私が宣言すると、その場にいた料理人達の動きが止まりました。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、その奥様。我々共の作ったお菓子が、お口にあいませんでしたでしょうか?」
「ち、違います! そういう訳ではなくてですね。旦那様には色々とご迷惑をおかけしましたので、何か、心のこもったものをプレゼントしようかと思いまして」
何だかんだとありましたが、旦那様の犬化がなくなった日から、旦那様の私への過剰なスキンシップが止まりませんでした。
ですので、束縛を嫌う私は、感情のままに、このままスキンシップが激しい様なら、旦那様と距離を置く発言をしてしまったのです。
そうすると、途端に、一緒のベッドで眠る時も、端の方で眠るようになられましたし、私に触れる時も、何度も許可を取るようになられてしまいました。
極端。
極端なんです!
旦那様は本当に真面目な方なんでしょう。
仕事ではこんな素振りは一切見せないそうですが。
お兄様に連絡を取って詳しく聞いてみたところ、旦那様は学生時代は、女性のじの字もなかった、と言われました。
『エレノアの良さがわかるなんて、やっぱり友人なだけあるな。あいつは、動物が好きだったから、もしかしたら、お前への愛情表現も動物にやる様なものかもしれない。ほら、犬は特に好きな人の顔をなめるだろ?』
生々しい感じがしたので、その時はお兄様に怒ってしまいましたが、考えてみると、今の旦那様は尻尾が垂れ下がった犬のようです。
ラムダ様には特にバレておりませんので、今のところ、旦那様が犬化する事はありません。
だって、普段は普通にしておりますから。
ただ、寝室での旦那様がしょんぼりしているだけです。
ですが、さすがに私も言い過ぎたかなと反省しておりますし、ここは仲直りといいますか、2人で妥協案を見つける為に、旦那様に喜んでもらえる何かをしようと思ったわけです。
というわけで、小さい頃から、家で何度か作った事のある、クッキーを作る事にいたしました。
普通、公爵令嬢がそんな事をしないとツッコミが入りそうですが、それはそれです。
私は、普通の公爵令嬢ではないですから!
クッキーの味は、プレーンとココア味です。
クッキーの型が何個かありましたので、何にしようか考えたのですが、ジャスミンからハート型をすすめられた為、ハートで作る事にしました。
喜んでくださればいいのですが。
生地を寝かせてから、焼き上がりを待つ間に、ジャスミンに話しかけます。
「ジャスミンは最近、キックス様と仲が良いようですが、ジャスミンもキックス様に持っていきますか?」
「奥様。私とキックス様はそういう関係ではございません。それに、薬のせいとはいえ、一時でも、ローラ様と関係のあった方ですよ? さすがにちょっと…」
「ジャスミン。それを言い出したら、私も変な男とお付き合いしていましたよ。そういう偏見は良くないと思います」
「そう言われてみればそうですね。失礼いたしました。ですが、このクッキーは奥様が旦那様の為に作ったクッキーですので、今回は旦那様に差し上げて下さい。旦那様の許可がおりれば、他の方に差し上げたら良いかと思います」
「わかりました。ですけど、旦那様、これだけの量を1人で食べれますかね…」
大きなオーブンを見つめながら、私は呟いたのでした。
そして焼き上がった後、少し時間を置いたところで、ちょうど、ティータイムの時間となりましたので、お茶の用意をして、ジャスミンと一緒に向かう事にしました。
執務室に行くと、キックス様が応対してくれて、中に入る事を許可してくださいました。
「エレノア、どうかしたのか?」
「お忙しい時に申し訳ございませんが、旦那様、少し、お茶をしませんか?」
「かまわないが…」
ちらりと、旦那様がキックス様とジャスミンに目を向けると、2人が首を縦に振ります。
「では、旦那様、奥様、こちらにお茶をご用意しておりますので」
ジャスミンは応接のテーブルに、ソーサーにのせたカップを置くと、お茶を2人分、用意してくれてから、一礼して部屋から出ていきました。
そして、それを追う様に、キックス様も一礼して出ていかれます。
「どうして出ていってしまったのでしょうか」
「さぁな」
「旦那様、さっき、視線を送っていらっしゃいましたが、何か意味があるのですか?」
「大した事じゃない」
旦那様は執務机の椅子から立ち上がり、応接の所までやって来ると、驚いた顔をして足を止められました。
なぜなら、テーブルの上には、お茶だけでなく、大皿に山盛りにのせられたクッキーがあったからです。
「…これは、エレノアが食べるのか?」
「いいえ。旦那様に持ってきたんです。多少は私も食べようと思っていますが」
「いや、これは無理だ。甘い物が苦手なわけじゃないが、量が多すぎるだろう」
旦那様は困った顔をして言うので頷きます。
「やっぱり、そうですよね。ですから、ジャスミンに、キックス様にも食べてもらおうという話をしたんですけど、ジャスミンはこれは旦那様のものだからって言うんです」
「…ジャスミンが? どういう事だ?」
「これ、私が旦那様へのお詫びにと思って作ったんですよ! でも、多く作り過ぎてしまいました。食べれる分だけ食べていただければ嬉しいです。余った分は、他の人に」
「余った分などない」
「…は?」
突然、旦那様が難しい顔をして言うので聞き返してしまいました。
「これは、エレノアが俺の為に作ったんだろう? じゃあ、俺のだ」
「こんなに食べたら胸焼けしますよ」
「でも、エレノアが作ってくれたんだろう?」
「そうですが、全部食べなくても良いですよ」
「いや、ここは俺が食べなければ」
「意味がわかりません! どうして、そんな事になるんですか!」
旦那様はソファーに座り、一口サイズのハート型のプレーンクッキーを一枚、手に取ってから答えてくれます。
「俺の為に作ったのなら、俺が食べなければ駄目だろう? しかも、エレノアが、俺の為に…」
「では、皆の為に作ったという事にいたしましょう」
「……」
旦那様ががっかりした顔をされたので、苦笑して、隣りに座ってから言います。
「旦那様の為に作りましたが、作りすぎてしまったんです。そのせいで、旦那様がお腹を壊してはいけませんから、程々にしてください」
「…わかった」
旦那様は頷いてから、クッキーを口に入れました。
たぶん、不味くても旦那様は美味しいと言ってくださると思いますが、顔の動きなどを見れば、本当かどうかはわかると思ったので凝視していると、旦那様が微笑んで私を見て言います。
「美味しい。すごいな。これをエレノアが作ったのか?」
「はい! 自分の好きな甘さのクッキーが食べたくて、色々と考えて作ってみたんです」
「そうか。作ってくれてありがとう。だけど、俺へのお詫びとは、どういう事だ?」
不思議そうにされる旦那様に苦笑して答えます。
「あの、旦那様のスキンシップについて怒ってしまったじゃないですか」
「あ、ああ、済まない。君に触れても犬にならないから余計に…」
「で、ですね。その、段階を少しずつ踏みませんか。なんといいますか、お付き合いを始めたカップルの様に! 旦那様はすぐに触ってくるじゃないですか! そうじゃなくてですね」
「一緒のベッドに寝るのにか?」
「じゃあ、寝室を別にします?」
「それは駄目だ」
即答されてしまったので、旦那様の大きな手に自分の手を重ねてお願いします。
「少しずつ、少しずつでは駄目でしょうか」
「…そうだな。俺もすぐに理性が飛んでしまうから気を付ける」
「ありがとうございます。では、今日は今までのお詫びという事で…」
立ち上がって、旦那様の前に立ち、身をかがめてキスをしました。
お詫びです。
お詫びなんですが、とても恥ずかしいです。
「えっと、では今日はこんな感じで…」
恥ずかしくて顔が熱いです。
旦那様の顔を見られないまま、言葉を続けようとしたのですが無理でした。
旦那様は私の腕をつかむと、ソファーに押し倒したのです!
「だ、旦那様?」
「エレノアにそんな事をされたら、我慢できるはずがないだろ?」
「意味がわかりません! 何するつもりですか!? ジャスミン! キックス様! 旦那様がご乱心ですー!!」
ソファーに押し倒された私でしたが、部屋の外にいた2人に、私の叫び声が届き、無事に助け出されたのでした。
公爵家の調理場で、そう私が宣言すると、その場にいた料理人達の動きが止まりました。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、その奥様。我々共の作ったお菓子が、お口にあいませんでしたでしょうか?」
「ち、違います! そういう訳ではなくてですね。旦那様には色々とご迷惑をおかけしましたので、何か、心のこもったものをプレゼントしようかと思いまして」
何だかんだとありましたが、旦那様の犬化がなくなった日から、旦那様の私への過剰なスキンシップが止まりませんでした。
ですので、束縛を嫌う私は、感情のままに、このままスキンシップが激しい様なら、旦那様と距離を置く発言をしてしまったのです。
そうすると、途端に、一緒のベッドで眠る時も、端の方で眠るようになられましたし、私に触れる時も、何度も許可を取るようになられてしまいました。
極端。
極端なんです!
旦那様は本当に真面目な方なんでしょう。
仕事ではこんな素振りは一切見せないそうですが。
お兄様に連絡を取って詳しく聞いてみたところ、旦那様は学生時代は、女性のじの字もなかった、と言われました。
『エレノアの良さがわかるなんて、やっぱり友人なだけあるな。あいつは、動物が好きだったから、もしかしたら、お前への愛情表現も動物にやる様なものかもしれない。ほら、犬は特に好きな人の顔をなめるだろ?』
生々しい感じがしたので、その時はお兄様に怒ってしまいましたが、考えてみると、今の旦那様は尻尾が垂れ下がった犬のようです。
ラムダ様には特にバレておりませんので、今のところ、旦那様が犬化する事はありません。
だって、普段は普通にしておりますから。
ただ、寝室での旦那様がしょんぼりしているだけです。
ですが、さすがに私も言い過ぎたかなと反省しておりますし、ここは仲直りといいますか、2人で妥協案を見つける為に、旦那様に喜んでもらえる何かをしようと思ったわけです。
というわけで、小さい頃から、家で何度か作った事のある、クッキーを作る事にいたしました。
普通、公爵令嬢がそんな事をしないとツッコミが入りそうですが、それはそれです。
私は、普通の公爵令嬢ではないですから!
クッキーの味は、プレーンとココア味です。
クッキーの型が何個かありましたので、何にしようか考えたのですが、ジャスミンからハート型をすすめられた為、ハートで作る事にしました。
喜んでくださればいいのですが。
生地を寝かせてから、焼き上がりを待つ間に、ジャスミンに話しかけます。
「ジャスミンは最近、キックス様と仲が良いようですが、ジャスミンもキックス様に持っていきますか?」
「奥様。私とキックス様はそういう関係ではございません。それに、薬のせいとはいえ、一時でも、ローラ様と関係のあった方ですよ? さすがにちょっと…」
「ジャスミン。それを言い出したら、私も変な男とお付き合いしていましたよ。そういう偏見は良くないと思います」
「そう言われてみればそうですね。失礼いたしました。ですが、このクッキーは奥様が旦那様の為に作ったクッキーですので、今回は旦那様に差し上げて下さい。旦那様の許可がおりれば、他の方に差し上げたら良いかと思います」
「わかりました。ですけど、旦那様、これだけの量を1人で食べれますかね…」
大きなオーブンを見つめながら、私は呟いたのでした。
そして焼き上がった後、少し時間を置いたところで、ちょうど、ティータイムの時間となりましたので、お茶の用意をして、ジャスミンと一緒に向かう事にしました。
執務室に行くと、キックス様が応対してくれて、中に入る事を許可してくださいました。
「エレノア、どうかしたのか?」
「お忙しい時に申し訳ございませんが、旦那様、少し、お茶をしませんか?」
「かまわないが…」
ちらりと、旦那様がキックス様とジャスミンに目を向けると、2人が首を縦に振ります。
「では、旦那様、奥様、こちらにお茶をご用意しておりますので」
ジャスミンは応接のテーブルに、ソーサーにのせたカップを置くと、お茶を2人分、用意してくれてから、一礼して部屋から出ていきました。
そして、それを追う様に、キックス様も一礼して出ていかれます。
「どうして出ていってしまったのでしょうか」
「さぁな」
「旦那様、さっき、視線を送っていらっしゃいましたが、何か意味があるのですか?」
「大した事じゃない」
旦那様は執務机の椅子から立ち上がり、応接の所までやって来ると、驚いた顔をして足を止められました。
なぜなら、テーブルの上には、お茶だけでなく、大皿に山盛りにのせられたクッキーがあったからです。
「…これは、エレノアが食べるのか?」
「いいえ。旦那様に持ってきたんです。多少は私も食べようと思っていますが」
「いや、これは無理だ。甘い物が苦手なわけじゃないが、量が多すぎるだろう」
旦那様は困った顔をして言うので頷きます。
「やっぱり、そうですよね。ですから、ジャスミンに、キックス様にも食べてもらおうという話をしたんですけど、ジャスミンはこれは旦那様のものだからって言うんです」
「…ジャスミンが? どういう事だ?」
「これ、私が旦那様へのお詫びにと思って作ったんですよ! でも、多く作り過ぎてしまいました。食べれる分だけ食べていただければ嬉しいです。余った分は、他の人に」
「余った分などない」
「…は?」
突然、旦那様が難しい顔をして言うので聞き返してしまいました。
「これは、エレノアが俺の為に作ったんだろう? じゃあ、俺のだ」
「こんなに食べたら胸焼けしますよ」
「でも、エレノアが作ってくれたんだろう?」
「そうですが、全部食べなくても良いですよ」
「いや、ここは俺が食べなければ」
「意味がわかりません! どうして、そんな事になるんですか!」
旦那様はソファーに座り、一口サイズのハート型のプレーンクッキーを一枚、手に取ってから答えてくれます。
「俺の為に作ったのなら、俺が食べなければ駄目だろう? しかも、エレノアが、俺の為に…」
「では、皆の為に作ったという事にいたしましょう」
「……」
旦那様ががっかりした顔をされたので、苦笑して、隣りに座ってから言います。
「旦那様の為に作りましたが、作りすぎてしまったんです。そのせいで、旦那様がお腹を壊してはいけませんから、程々にしてください」
「…わかった」
旦那様は頷いてから、クッキーを口に入れました。
たぶん、不味くても旦那様は美味しいと言ってくださると思いますが、顔の動きなどを見れば、本当かどうかはわかると思ったので凝視していると、旦那様が微笑んで私を見て言います。
「美味しい。すごいな。これをエレノアが作ったのか?」
「はい! 自分の好きな甘さのクッキーが食べたくて、色々と考えて作ってみたんです」
「そうか。作ってくれてありがとう。だけど、俺へのお詫びとは、どういう事だ?」
不思議そうにされる旦那様に苦笑して答えます。
「あの、旦那様のスキンシップについて怒ってしまったじゃないですか」
「あ、ああ、済まない。君に触れても犬にならないから余計に…」
「で、ですね。その、段階を少しずつ踏みませんか。なんといいますか、お付き合いを始めたカップルの様に! 旦那様はすぐに触ってくるじゃないですか! そうじゃなくてですね」
「一緒のベッドに寝るのにか?」
「じゃあ、寝室を別にします?」
「それは駄目だ」
即答されてしまったので、旦那様の大きな手に自分の手を重ねてお願いします。
「少しずつ、少しずつでは駄目でしょうか」
「…そうだな。俺もすぐに理性が飛んでしまうから気を付ける」
「ありがとうございます。では、今日は今までのお詫びという事で…」
立ち上がって、旦那様の前に立ち、身をかがめてキスをしました。
お詫びです。
お詫びなんですが、とても恥ずかしいです。
「えっと、では今日はこんな感じで…」
恥ずかしくて顔が熱いです。
旦那様の顔を見られないまま、言葉を続けようとしたのですが無理でした。
旦那様は私の腕をつかむと、ソファーに押し倒したのです!
「だ、旦那様?」
「エレノアにそんな事をされたら、我慢できるはずがないだろ?」
「意味がわかりません! 何するつもりですか!? ジャスミン! キックス様! 旦那様がご乱心ですー!!」
ソファーに押し倒された私でしたが、部屋の外にいた2人に、私の叫び声が届き、無事に助け出されたのでした。
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