笑い方を忘れたわたしが笑えるようになるまで

風見ゆうみ

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21  畜生の焦り

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 ラファと夜についての話はできぬまま、2日が過ぎた頃、テッジ殿下が伝染病にかかったという連絡が入った。
 元々、エゲナ王国の国王陛下がかかったもので、そこからテッジ殿下に移ったのではないかと言われている。

 その話を聞いたのは、エゲナ王国との境目にある街に向かう馬車の中だった。エゲナ王国の国王陛下がどうなろうとどうでも良い。だけど、一応、ラファに尋ねる。

「エゲナ王国の国王陛下の様子はどうなんですか?」
「良くはないけど、今すぐどうにかなってしまうというような状態ではないらしいよ」

 死んでしまうという言葉は縁起が良くないと思ったのか、ラファは濁して答えた。
 ラファは厳しいことを言う時もあるけど、基本は優しい。だから、わたしを苦しめたエゲナ王国の王族たちに良い感情はない。だけど、死んでしまえみたいな感情が湧き上がることはないみたい。

 だからこそ、精霊に愛されているんでしょうね。そして、心が黒くなってしまったわたしにとって、ラファの性格は、自分を見つめるきっかけになるから、とてもありがたかった。

「わたしの汲んだ水の話はエゲナ王国の王族にも届いているのですよね」
「うん。だから、リーンを返してくれと言ってきているよ」
「あの人たちの性格上、水を渡すように言ってきそうなものです。それなのにどうして、水を渡せではなく、わたしを返せと言ってくるんでしょうか」
「リーンを自分たちのものにしてしまえば、好きなだけ水を飲めるからじゃないかな」
「……最低ですね」
「推測だから、合っているかはわからないけどね」

 ラファは苦笑して続ける。

「リーンの水の効果は世界中に知れ渡っているし、同時に僕の妻であることも認知されている。本当の馬鹿でない限り、返せとは言えないと思うんだ」
「……でも、相手は想像以上の馬鹿だと思います」
「実は、グロールの部下たちが一斉に退職しているんだ。さすがに堪忍袋の緒が切れたみたいだよ」
「今まで我慢していたのにですか?」
「我慢できていたのは、リーンがいたからじゃないかな。リーンが望むなら呼び寄せても良いよ」

 騎士のみんなには世話になっている。もし、困っているのなら助けたい。でも、そこまで、ラファに甘えていいのかしら。

「リーンの望みを言ってみて」
「……連絡を取ることは可能でしょうか」
「できるよ」
「……では、お願いします」
「わかった」

 深々と頭を下げたあとに顔を上げて、ラファを見つめる。ラファは微笑んで頷いくれた。

「ありがとうございます。……部下がいなくなったということは、グロールはわたしを恨んでいるんでしょうね」
「彼に好かれたいわけじゃないんだろう?」
「はい」
「なら、気にしなくて良いよ」

 グロールがわたしを恨んだら、ラファにも迷惑をかけるかもしれない。本当に気にしなくて良いの?


******

 目的地に着いたあとは、わたしが汲んだ水をラファや兵士たちが体調の悪い人たちに配っていった。  
 無事に水が行き渡り、王城に戻ると、グロールと体調が悪いはずのテッジ殿下が、わたしとラファに会談を求める手紙が届いていた。

 ラファは『このご時世ですから体調不良の方と会うことはできません。旅も体の負担になりますでしょう。自分のお体を大事にしてください』と返事をした。




◆◇◆◇◆◇
(視点変更)


 ラファからの断りの手紙を見たテッジは、自分の部屋にグロールを呼び出した。テッジの病状は一向に良くならないため、部屋に入ってきたグロールは、ベッドから離れた位置で話しかける。

「テッジ殿下、何か御用でしょうか」
「……断られた」
「はい?」
「クリエル王国から断りの手紙が来たんだよ!」

 青白い顔色をしたテッジは、苦しそうに息をしながら続ける。

「どいつもこいつも馬鹿にしやがって! ベルベッタは行方不明だし、それに、どうして俺と父上だけ病気が治らないんだ!? 同じような症状が出たメイドたちは治ってるんだぞ!? 何の嫌がらせだって言うんだ!?」
「体力がないだけではないですか?」
「メイドは女性だぞ! 女性よりも俺のほうが体力がないって言いたいのか!?」

 テッジが言いたいことを言い終えると、咳が止まらなくなった。

「興奮するからですよ」

 グロールは鼻で笑うと、憐れみの目を向ける。

「こうなったら、リーンに命乞いするしかないのではないですか?」
「俺に命乞いしろだって!? 俺は王子なんだぞ!」
「殿下、自分の命が可愛いのであれば、余計なプライドは捨てるべきです。……病気を移されては困りますので、今日はこれで失礼します」
「おい、待て!」

 テッジが自分を呼び止める声が聞こえたが、グロールは聞こえなかったふりをして部屋を出た。

(馬鹿な男ですねぇ)

 自室に戻る道中、先程のテッジの様子を思い出し嘲笑していると、突然、咳が出始めた。

(……冗談じゃありませんよ!)

 先ほどまでの余裕はなくなったグロールは急いで自室に戻ると、クリエル王国に向けて旅立つ準備を始めた。
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