上 下
29 / 29

25 元聖女なんですから放っておいて下さいよ

しおりを挟む
 冷静に戻ったキュララ達が、自分達が言わなくてもいい事まで叫びまくったと気付いた時には、私とリュークだけでなく、一緒に付いてきてくれていた騎士達、そして、様子を見に来たフランソワ達や宰相や当主様達、他の貴族にまで、悪事を聞かれた後だった。

 聞かれていた事に気付いた陛下と殿下は、最後までキュララ達のせいだと言いはったけれど、計画を知っていて止めなかった責任は重いとして、次の日の会議で、モーリス殿下は別邸ではなく、罪を犯した王族が余生を過ごすという、結界の外にある森の中の塔に送られる事になった。
 聞いてみたところ、最上階に一部屋だけ生活スペースがあり、そこに監禁される事になる様だった。
 
 陛下もリーフ殿下が戻ってくるまでは、今までとは違い、権力のない、お飾りの陛下とされ、退位後はモーリス殿下と入れ替わりに塔に監禁される事になった。

 モーリス殿下のその後の処遇については、彼の態度次第で決まるのだそうだ。
 ひどい場合は平民落ちもありえるという。
 陛下も、塔での生活でワガママを言うようなら、その可能性も出てくるのだそうだ。

 そんな事になったら、二人共生きていけないと思うけど…。

 キュララとトリンは聖女の仕事をしている時以外は、自室で軟禁状態となり、回復魔法をかける際にも監視が付けられ、次に国民から、お金を取ろうとした時点で、何らかの罰が与えられる事になった。

 キュララとトリンに対しては国民の風当たりは強く、彼女達が結界を張りに来たと言うと、信用できないと嫌がる人も出てきたらしい。
 そのため、私に聖女にもどってもらえないか、と、宰相からお願いされてしまった。

 それだけ、聖女不足という事みたいで、だから、キュララ達も聖女の称号を剥奪されない、というよりかは出来なかったんだと思う。

 そう思うと、やっぱり聖女に復帰した方が良いのかな、なんて思ったりもするけれど、自分の幸せもゆっくり考えたかったりする。
 それに、今だって聖女時代よりも回数は少ないかもしれないけれど、結界を張ったり、回復魔法をかけたりして働いているわけだし。

「ミーファ。リーフ殿下達が王都に戻ってくる日が決まったらしい」

 今日は身体を休める日と決めて、のんびりしていると、学園から帰ってきたリュークが私の部屋に来て教えてくれた。

「本当に!?」
「ああ。それと、その、もうすぐ学園の長期休みに入るんだ」
「うん」
「だから、リーフ殿下達に会いに行くのも兼ねて、新婚旅行に行かないか?」
「新婚旅行!?」

 驚いて聞き返すと、リュークは照れくさそうな顔をして頷く。

「結婚したって言っても、ほとんど、それらしい事もしてないしさ。前の件で、宰相閣下から褒美にお金をもらえたんだ。だから、そのお金で行きたいなって思って。あと、指輪はもうちょっと待ってくれるか? 自分で稼いだお金で買いたいから」

 最後の方は申し訳無さそうな顔をするから、笑顔で答える。

「その気持ちだけでも十分嬉しいけど、楽しみにしてます」
「ありがとう」

 リュークが身をかがめて、安楽椅子に座っている私を抱きしめてきた。
 考えてみたら、私達って結婚しているわけだし、色々と他に進めてもいい事がある様な気もするけど、やっぱり、リュークが卒業するまではお預けよね。
 リュークの背中に腕を回しながら、そんな事を考えていると、リュークの顔が動いて、私の頬に彼の唇が触れた。

「えっ!?」

 驚いて声を上げると、リュークが自分の額と私の額を合わせて言う。

「少しくらいは前に進んでもいいかな」
「えっ!? えっ!?」

 私の心の中を読まれたかの様な発言に、動揺していると、部屋の扉が叩かれた。

「はっ、はい!」

 リュークの身体を押し退けて返事をすると、アンナの声が聞こえた。

「ミーファさん宛に手紙がたくさん届いているのだけど…って、お邪魔だったかしら?」

 部屋に入って来たアンナがリュークの方を見てから、私に聞いてきたので、慌てて首を横に振る。

「ううん! 気にしなくて大丈夫よ?」
「なら良いけど…」

 しょんぼりしているリュークを気の毒そうに見た後、アンナが続ける。

「キュララ様とトリン様の評判は本当に良くないわね。お父様宛の手紙のほとんどは、ミーファさんに結界を張りに来てほしいという、お願いばかりみたい」

 そう言って、たくさんの手紙をアンナは私に手渡してくれた。

 国王陛下から手紙が届く事もなくなり、心配事のなくなったアンナは最近はとても明るく、毎日が楽しそうだ。
 今までも明るく見えていたけれど、無理をして明るくしていたみたいだった。

 貴族からの名前以外の手紙を見つけて、それだけ先に読んでみる事にする。

 一つはモーリス殿下からで『自分がどれだけ馬鹿な事をしていたか気が付いた。謝りたいし、君の顔が見たい。よかったら会いにきてくれないだろうか』などという、恐ろしい事が書かれていた。

 よっぽど、塔での生活が辛いみたい。
 塔の周りには結界を張っているけれど、鳴き声などはそこら中から聞こえるみたいで、だいぶ怯えているようだった。

 そして、二通目ははキュララからだった。

『私、やっぱり、ミーファと友達に戻りたい。何度でも謝るし、二度とあんな事はしないから、許してくれないかしら? 一緒に結界を張りたいの』

 なんて事が書かれていた。

 悪評はそう簡単に消えるものではない。
 だから、行く先々で、キュララは、もしかしたら虐げられているのかもしれない。
 騎士達も付いているけれど、よっぽどじゃない限り、止めに入らないみたいだった。
 彼らも一国民だからかもしれない。
 職務放棄は良くないけどね。

 でも、元々は彼女達がまいた種だし、少しは辛い思いをすれば良いと思う。

 そして、最後の三通目はリーフ殿下からで、私の体調などを心配する文面の後に、先程、リュークが教えてくれた様に、もうすぐ王都に戻ってこれる事、そして、最後にこう書かれていた。

『断られるのを承知で書くけど、聖女に復帰する気はない?』

 これに関しては、答えは一つ。
 復帰はいたしません。

 だって、私にだって人生がある。
 他の聖女や王族に振り回される人生は、もうこりごり。
 これからは、持っている力を使って、聖女の肩書はなしに、活動を続けていく。
 聖女に復帰してしまえば、国に管理されているようなものだしね。

 
 リーフ殿下への返事を一番に書こう。
 時候の挨拶の後は、安否を気遣う挨拶、そして、その後には、失礼な書き方かもしれないけれど、こう書こう。

『元聖女になったんですから、放っておいて下さいよ』







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

相変わらず「ざまぁ」が甘い、と言われそうですが、却下させていただいた感想で、キャラに対してですが、首チョ○パと何度も何度も書かれていて、逆にこちらが恐怖を覚え、首チョ○パを調べてみたところ、生物の首を…と書かれており、生々しくて、処刑を考えられなくなってしまいました。
意味としては、処刑でもそういう事なんでしょうけれど…。

初めて聖女ものを書いてみましたが、少しでも楽しんでいただけていれば光栄です。
感想の受付に関しましても、1週間後くらいに開く予定をしております。

そして、いつものごとく、完結と同時に新作を投稿いたします。
新作、もしくは他連載作品でお会いできましたら光栄です。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(26件)

pajan
2023.04.01 pajan

首ちょんぱよりも、平民落ちではなく「犯罪奴隷」として、酷使するべきなのではと思ってしまいました。

風見ゆうみ
2023.04.01 風見ゆうみ

感想をありがとうございました!

解除
mikel0w0l
2022.12.12 mikel0w0l
ネタバレ含む
風見ゆうみ
2022.12.12 風見ゆうみ

mikel0w0l様

「来ちゃった♡」文字だけ見ると可愛い人が来たみたいな感じですが、ミーファ側としたら「来るなー」という相手でしたね(*^^*)
少しずつ佳境に向かっていきますので、引き続き、見守っていただけると有り難いです!

感想いただき、ありがとうございました✨

解除
Vitch
2022.12.11 Vitch
ネタバレ含む
風見ゆうみ
2022.12.11 風見ゆうみ

Vitch様

ゼンカイジャーを調べてみました。
そりゃ、私がわからないわけです(;・∀・)

セイントに関しては妄想との事でしたが、プ○キュアみたいなもんだと、勝手に思っておきます。
プ○キュア自体も観たことはないのですが(;・∀・)

教えていただき、ありがとうございました。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,541pt お気に入り:245

妻が遺した三つの手紙

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,110pt お気に入り:46

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,858pt お気に入り:3,853

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,889pt お気に入り:458

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:22,409pt お気に入り:270

堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,746pt お気に入り:151

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:859pt お気に入り:4,543

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:2,586

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。