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第一部
35 何を言ってらっしゃるんですか!?
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暗い顔はしていられないので笑顔を見せて頷く。
「ええ。久しぶりね。マリも元気にしてた? ゆっくり話をしたいんだけど、勤務中なの。ごめんね」
「そうなの? 話しかけてごめんなさいね。ねえ、今度、手紙を送ってもいい? 久しぶりにゆっくり話をしたいわ」
「ありがとう。待ってるわ」
友人と別れてすぐに、今度はラナや両親と出くわした。
「お姉様がこちらにいらっしゃると聞いて来たんです。お仕事されている姿を見てみたくって」
「ありがとう、ラナ」
私とラナが話をしている間に、アットンと両親が挨拶を交わし、何か話をしていた。
ラナが来てくれたことで癒やされていた私は、両親達が何を話していたかなんて、その時はまったく気にならなかった。
*****
それから数日後のティータイムの時に、私が浮かない顔をしていたからか、ルイス様がケーキののった皿を差し出しながら話しかけてくれた。
「どうしたフィリア? 悩み事か? 甘いものを食べて、気持ちを落ち着けたらどうだ?」
「お気持ちは有り難いのですが、女性の全てが甘い物につられるとは思わないで下さいね」
「それくらいわかっている。甘い物が好きではない女性もいるだろうからな。でも、フィリアは好きだろう? 食べるんだ」
「……ありがとうございます」
礼を言って、皿を受け取ると、ルイス様は満足した様に頷き「座って食べればいい」とルイス様の向かいに座る様に促してくれた。
お言葉に甘えて、指示された椅子に座らせてもらうと、ルイス様がティーカップを私の前に置き、ティーポットの中に残っていたお茶を注いでくれた。
「何から何まで申し訳ございません」
「何を言う。このお茶をいれてくれたのはお前だろう? 何から何までという訳じゃない。俺だってお前に助けてもらっているから、悩んでいるのなら力になるぞ?」
「プライベートな話なんですけれど、どうしようか迷っていることがありまして……」
「……話したくないなら話さなくてもいいんだぞ?」
「あの、とりあえず、お話だけ聞いてもらってもいいですか?」
イチゴがたくさんのったケーキを一口大に切って、一口食べてから言うと、ルイス様は頷いてくれる。
「かまわん。話して気持ちをスッキリさせるんだ」
「ありがとうございます。……実は、同窓会の誘いが来たんです」
「同窓会? また、あの嫌な男が来るのか?」
パーティーの時のことを思い出したのか、ルイス様が眉間にシワを寄せた。
「来るかもしれませんが、それはそれで良いとして、スポーツ大会で話題になった彼が来るんです。それが憂鬱で……」
「ああ。フィリアが昔、好きだった男だな?」
「そうです。今となっては綺麗さっぱり忘れていますが……」
スポーツ大会の次の日に、ルイス様には事情を話していたので、彼が誰だかはわかってくれているし、彼が怪しい人物ではないかどうか調べもしてくれた。
「いいじゃないか。別に悪い人物ではなさそうだ。俺としては、キーファとくっついてほしかったが、これは俺が決められることじゃないからな」
アットン以外の人をルイス様に薦められると、それはそれで複雑な気持ちになる。
「アットン卿は前にルイス様が言われた様な条件を満たしていないじゃないですもんね」
「ん? 条件? ……ああ、フィリアが好きで、相手もフィリアを好きだと思ってくれる男性という話か?」
「そうです」
「別にそんなことはないだろう。フィリアはキーファのことが好きだろう?」
「なっ? 何を言ってらっしゃるんですか!?」
思わず、食べていたケーキを噴き出しそうになってしまった。
「照れるな、照れるな。もちろん、他の奴は気付いていないぞ? あ、お前の家族は別だがな。ラナ嬢も気付いている」
「……ルイス様、ラナと仲良くなってきている様ですね」
「そ、そう思うか!? ラナ嬢が俺のことを何か言ってくれているのか?」
ルイス様が身を乗り出して聞いてくる。
以前よりかはラナの口からルイス様の名前は出るようになったので、進展しているのは確かだと思う。
でも、今はそれを素直に口に出したくない。
「……そうですね。何もない廊下で転んでいるルイス様を見た、とかですけど」
「な、なんだって!?」
頭を抱えるルイス様に苦笑したあと、話を戻す。
「で、どうして、私がアットン卿のことを好きだと思うんですか?」
「だって、好きだろう?」
「答えになっていませんよ! どうしてそんな風に思ったんですか?」
「フィリア、自分では気が付いていない様だが、綺麗になったぞ」
「……はい?」
ぽかんと口を開けた私を見て、ルイス様は微笑む。
「フィリアは可愛い系だったが、最近は綺麗になった。それは俺だけじゃなくて、他の者もそう思ってる。恋をしてるから、と知ってるのは、俺やお前の家族だけだ。キーファはお前が綺麗になっていることに気付いてはいるが、誰に恋をしているかはわかっていない」
「私、そんなにわかりやすい態度を取ってますか?」
「俺ならわかる。期間は短いが、一緒にいる時間は長いからな」
なぜか胸を張って言うルイス様に尋ねる。
「……やっぱり、やめたほうがいいですよね?」
「何がだ?」
「アットン卿のことです。たぶん、好きになったきっかけって、池に落ちたのを助けてもらった時なんだと思うんです。もちろん、思ったよりも良い奴だったということもありますけど、きっかけがそれじゃ違うんじゃないかなと……」
「危ないところを助けてくれたから、キーファがよく見えて好きになってしまったんじゃないかと言いたいのか?」
「それは、まあ、そうです」
頷くと、ルイス様は苦笑して首を横に振る。
「きっと、それだけじゃないと思うぞ?」
「……はい?」
どういう意味か分からなくて、ルイス様に聞き返した。
「ええ。久しぶりね。マリも元気にしてた? ゆっくり話をしたいんだけど、勤務中なの。ごめんね」
「そうなの? 話しかけてごめんなさいね。ねえ、今度、手紙を送ってもいい? 久しぶりにゆっくり話をしたいわ」
「ありがとう。待ってるわ」
友人と別れてすぐに、今度はラナや両親と出くわした。
「お姉様がこちらにいらっしゃると聞いて来たんです。お仕事されている姿を見てみたくって」
「ありがとう、ラナ」
私とラナが話をしている間に、アットンと両親が挨拶を交わし、何か話をしていた。
ラナが来てくれたことで癒やされていた私は、両親達が何を話していたかなんて、その時はまったく気にならなかった。
*****
それから数日後のティータイムの時に、私が浮かない顔をしていたからか、ルイス様がケーキののった皿を差し出しながら話しかけてくれた。
「どうしたフィリア? 悩み事か? 甘いものを食べて、気持ちを落ち着けたらどうだ?」
「お気持ちは有り難いのですが、女性の全てが甘い物につられるとは思わないで下さいね」
「それくらいわかっている。甘い物が好きではない女性もいるだろうからな。でも、フィリアは好きだろう? 食べるんだ」
「……ありがとうございます」
礼を言って、皿を受け取ると、ルイス様は満足した様に頷き「座って食べればいい」とルイス様の向かいに座る様に促してくれた。
お言葉に甘えて、指示された椅子に座らせてもらうと、ルイス様がティーカップを私の前に置き、ティーポットの中に残っていたお茶を注いでくれた。
「何から何まで申し訳ございません」
「何を言う。このお茶をいれてくれたのはお前だろう? 何から何までという訳じゃない。俺だってお前に助けてもらっているから、悩んでいるのなら力になるぞ?」
「プライベートな話なんですけれど、どうしようか迷っていることがありまして……」
「……話したくないなら話さなくてもいいんだぞ?」
「あの、とりあえず、お話だけ聞いてもらってもいいですか?」
イチゴがたくさんのったケーキを一口大に切って、一口食べてから言うと、ルイス様は頷いてくれる。
「かまわん。話して気持ちをスッキリさせるんだ」
「ありがとうございます。……実は、同窓会の誘いが来たんです」
「同窓会? また、あの嫌な男が来るのか?」
パーティーの時のことを思い出したのか、ルイス様が眉間にシワを寄せた。
「来るかもしれませんが、それはそれで良いとして、スポーツ大会で話題になった彼が来るんです。それが憂鬱で……」
「ああ。フィリアが昔、好きだった男だな?」
「そうです。今となっては綺麗さっぱり忘れていますが……」
スポーツ大会の次の日に、ルイス様には事情を話していたので、彼が誰だかはわかってくれているし、彼が怪しい人物ではないかどうか調べもしてくれた。
「いいじゃないか。別に悪い人物ではなさそうだ。俺としては、キーファとくっついてほしかったが、これは俺が決められることじゃないからな」
アットン以外の人をルイス様に薦められると、それはそれで複雑な気持ちになる。
「アットン卿は前にルイス様が言われた様な条件を満たしていないじゃないですもんね」
「ん? 条件? ……ああ、フィリアが好きで、相手もフィリアを好きだと思ってくれる男性という話か?」
「そうです」
「別にそんなことはないだろう。フィリアはキーファのことが好きだろう?」
「なっ? 何を言ってらっしゃるんですか!?」
思わず、食べていたケーキを噴き出しそうになってしまった。
「照れるな、照れるな。もちろん、他の奴は気付いていないぞ? あ、お前の家族は別だがな。ラナ嬢も気付いている」
「……ルイス様、ラナと仲良くなってきている様ですね」
「そ、そう思うか!? ラナ嬢が俺のことを何か言ってくれているのか?」
ルイス様が身を乗り出して聞いてくる。
以前よりかはラナの口からルイス様の名前は出るようになったので、進展しているのは確かだと思う。
でも、今はそれを素直に口に出したくない。
「……そうですね。何もない廊下で転んでいるルイス様を見た、とかですけど」
「な、なんだって!?」
頭を抱えるルイス様に苦笑したあと、話を戻す。
「で、どうして、私がアットン卿のことを好きだと思うんですか?」
「だって、好きだろう?」
「答えになっていませんよ! どうしてそんな風に思ったんですか?」
「フィリア、自分では気が付いていない様だが、綺麗になったぞ」
「……はい?」
ぽかんと口を開けた私を見て、ルイス様は微笑む。
「フィリアは可愛い系だったが、最近は綺麗になった。それは俺だけじゃなくて、他の者もそう思ってる。恋をしてるから、と知ってるのは、俺やお前の家族だけだ。キーファはお前が綺麗になっていることに気付いてはいるが、誰に恋をしているかはわかっていない」
「私、そんなにわかりやすい態度を取ってますか?」
「俺ならわかる。期間は短いが、一緒にいる時間は長いからな」
なぜか胸を張って言うルイス様に尋ねる。
「……やっぱり、やめたほうがいいですよね?」
「何がだ?」
「アットン卿のことです。たぶん、好きになったきっかけって、池に落ちたのを助けてもらった時なんだと思うんです。もちろん、思ったよりも良い奴だったということもありますけど、きっかけがそれじゃ違うんじゃないかなと……」
「危ないところを助けてくれたから、キーファがよく見えて好きになってしまったんじゃないかと言いたいのか?」
「それは、まあ、そうです」
頷くと、ルイス様は苦笑して首を横に振る。
「きっと、それだけじゃないと思うぞ?」
「……はい?」
どういう意味か分からなくて、ルイス様に聞き返した。
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