あなたの妃になるのは私ではありません

風見ゆうみ

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第8話  来訪

「ゲルドア国の太陽と月にお目にかかる事ができ、大変光栄に存じます」

 ゲルドア国では国王陛下の事を太陽、王妃陛下の事を月と呼ぶ。
 その事を勉強していた私がカーテシーをしてお出迎えすると、王妃陛下が微笑んで頭を下げる。

「こちらこそ、急にお伺いする事になって申し訳ございません」
「ルア、お前が謝る必要はないだろう」
「陛下、これが礼儀なんです。少し黙っていて下さい」

 水色のプリンセスラインのドレスに身を包んだ、たっぷりとした長い黒髪をハーフアップにしたゲルドア国の王妃陛下のルルア様は文句を言う国王陛下、アーク様を一睨みすると私の方には笑顔を向けた。

「本日はテッカ様はお忙しいのでしょうか」
「申し訳ございません。我が国の国王であるテッカは外せない用事がありまして、側妃候補の身でありますが、本日はわたくしリゼアと王妃候補のシラージェがお相手させていただきます」
「よろしくお願いします」

 シラージェもぺこりと頭を下げた。
 カーテシーを教えたのだけれど、緊張しているからか、シラージェハ普通にお辞儀をしただけだった。
 ルルア様が気分を害した様子はないので、ホッと息を吐いて応接間にご案内する。

 噂には聞いていたけれど、ゲルドアの太陽であるアーク様は絶世の美男子だった。
 無礼だとわかっていても、目が釘付けになってしまうほど整った顔立ちをしておられて、紺色の髪に同じ色の瞳。
 吊り目気味で冷たそうなイメージはあるけれど、この容姿なら同性に興味のない男性でも目を奪われてしまうのではないかと思われるほどに美形だ。

 もちろん、私はそう思ってすぐにそんな考えを頭から追いやったけれど、シラージェはそうではなかった。

「ねぇねぇ」
「ちょっとシラージェ、静かにしてちょうだい」
「だから小声で話してるじゃない。国王陛下ってとても素敵なのに、王妃陛下は地味な感じなのね。釣り合わない感じ」
「シラージェ、いい加減にしてちょうだい!」

 慌てて、少し後ろ歩くアーク様とルルア様の方を見たけれど、助かった事にシラージェの言葉はお二人には届いていない様だった。
 
「シラージェ、あなた正妃になるんでしょう? それなら、絶対に今の様な言葉は口に出したりしないで」
「どうして? 正妃になったら同じ立場になるじゃないの」
「あなたはまだ正妃になっていないし、なったとしても失礼な事を言ってもいいわけじゃないのよ」
「じゃあリゼアはルルア様の事を地味だと思わないの?」
「思う訳ないでしょう!」
「んー。まあ、リゼアも地味な顔立ちだものね」
 
 私がテッカ様と結婚したくない気持ちは変わらないけれど、シラージェとテッカ様が結婚して、この国を率いると思うと嫌気がさすわ。

 何より、逃げ場のない国民が一番の被害者になる。

 今までは結婚したくない気持ちばかり強かったけれど、今ではどうしたらテッカ様を国王の座から退かせる事ができるのかを考える様になってしまった。

 本来ならこんな事は、私一人が考える事ではないと思うけれど、テッカ様の周りにいるのはテッカ様に逆らえない人間か、彼に従って甘い汁を吸おうとする人間かに別れてしまう。
 貴族がクーデターを起こそうにも、テッカ様はここ最近は特に警戒していて、自分の周りには弱みを握っている相手しか近付かせない。
 毒味だって複数人にさせた上に、毒の効果がすぐに出ないものもある為、かなり時間が経ってからのものしか食べない。

 しかも、貴族が怪しい動きをしているとわかれば、すぐにその貴族を処罰しようとするために、多くの貴族は中々動き出せない。
 悲しい事に、貴族の中にもテッカ様のスパイがいるという事だ。
 ルークス達が他国に逃げたとわかってから、より監視が厳しくなった。

 出来れば、アーク様達に助けを求めたい。
 私の事情だってご存知なはずだから。

 今日、ここに来られたのは犯罪集団が入り込んだ苦情というだけではないはず。

 ぜひ、テッカ様についての話がしたいのだけれど、面倒な事にシラージェがいる。
 何か話せばテッカ様に伝えるに決まっているし…。

 お二人を応接間にご案内してから、メイドにお茶を用意させる。
 ティーポットに入れられたお茶を毒味させてから、両陛下と私とシラージェのカップに注ぎ、テーブルの上に置くと、メイドは部屋から出て行った。

「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。今回はわたくし共の国の民がご迷惑をおかけし申し訳ございません。国王のテッカに代わってお詫び申し上げます」

 立ち上がって頭を下げると、アーク様がふんぞり帰って座ったまま、私を見上げて言う。

「あなたに謝ってもらう問題じゃない。悪いのは好き勝手やっている国王だろう」
「テッカ様は悪くありません!」

 すると、私の横に座っていたシラージェが叫んだ為、血の気が引いた。

「シラージェ、やめて」
「だって、テッカ様の事を悪く言うから…!」
「おい」

 シラージェが言い訳を始めようとしたのだけれど、アーク様が低い声で遮った。

「口のききかたも知らない人間は、この場にはいらん。王妃候補とかいったな? 国王が国王なら王妃候補も王妃候補だな。気分が悪くなる。出て行け」
「……はい」

 アーク様から出る威圧感にシラージェは言い返す事も出来ず、静かに頷くしか出来なかった。

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