婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ

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13 信じられませんね

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  数日間は特に何の動きもなく、油断しかけていたある朝のことだった。

 いつもならば、ロード様とは朝食の席で顔を合わせる。
 だけど今日は違っていた。
 起床して身支度を整えていると、ロード様が私の部屋までやって来たのだ。

「おはよう、ミレニア。朝早くから押しかけてきてごめん。話をしたいことがあるから時間をもらえないかな。腹が減っているなら朝食を先に済ませてからでもかまわない」
「おはようございます、ロード様。そこまでお腹が減っているわけではないですから大丈夫です。ただ、身支度の最中ですので少しお待ちいただけますか」
「廊下で待つから、ゆっくり支度してくれ」
「いえ! 支度ができましたら、私のほうからお伺います!」
「気にしなくていいよ」

 そう言われても気にするわ。

 すでに着替えはできていたので、簡単にメイクをしてもらい、部屋の中にいたシャルに扉を開けてもらった。
 ロード様が中に入ってくると同時に、メルちゃんも付いて中に入ってきた。
 
 ご機嫌な様子でメルちゃんが私の足にすり寄ってきたので、頭を撫でてあげると、その場でお座りをした。

 ハヤテくんは厨房のほうに朝食を催促しに行っているとロード様は教えてくれた。

 メルちゃんのほうが体が大きいのに、ハヤテくんのほうが食いしん坊だ。

 でも、そういうところも可愛いのよね。

 そして、その可愛さのせいで厨房の人がハヤテくんに犬用のお菓子をたくさんあげちゃうから太るのだと聞いた。

 ちょっとコロコロしすぎだから控えてもらわないと駄目ね。

 まだ居候の立場なのに、気分はすっかりメルちゃんとハヤテくんの保護者みたいになってしまっている。

 朝から、お利口さんのメルちゃんに癒やされていると、ソファーに座ったロード様が渋い顔で口を開く。

「実はジーギスが行方不明なんだよ」
「……はい!?」
「危険だから1人で山に入るなよと伝えたのに、自分が管理する山だから、僕に指図されたくないだとか、レニス嬢にカッコ良い姿を見せるとか言って、護衛を振り切って山に入ってしまったらしい」
「……信じられませんね」

 何をしていらっしゃるのよ。
 迷惑なことこの上ないじゃないの。

 呆れつつも、メルちゃんと一緒にロード様の向かい側に座って話を聞くことにする。

「ジーギス殿下はご無事なのでしょうか」
「山を管理するための登山道があるんだけど、そこに入っていったみたいなんだ。だから、大丈夫だと思う。道に迷っただけじゃないかな」
「登山道から外れた可能性はありますか?」
「ある。ジーギスは方向音痴なんだ」
「方向音痴なのに一人で山に入ったんですか? それに迷ったとしても、普通は来た道を戻るのではないでしょうか。……まさか、山を越えてしまったとか?」
「山道の途中に山小屋があるんだ。朝から捜索隊が出て探しに行ってるし、そこにいてくれたら良いけど、あいつの考えることはよくわからない」

 はああ、とロード様がこめかみを押さえて大きく息を吐いた。

「……大丈夫ですか?」

 やはり、弟のことだから心配になるのよね。

 と、思ったのだけれど違った。

「ジーギスがどうなってても自業自得だから良いんだよ。だけど、捜索のために人に迷惑をかけているし、レニス嬢が1人でいるのは嫌だから君に会いたいと、さっきまでうちの門の前で暴れてたんだ」
「そうだったんですか!?」
「またメルが門に行って追い払おうとしてくれたんだけど、窮鼠猫を噛むといった状態だったのか、レニス嬢がメルに暴力をふるおうとしたんだ」
「そんな!」

 大きな声を上げてメルちゃんを見ると「どうしたの?」と言わんばかりに、首を傾げ、つぶらな瞳で私を見つめてきた。

「メルはちゃんと避けたから大丈夫だよ」

 ロード様に言われて、ホッと胸を撫で下ろす。

 怪我をしてなくて本当に良かった。

 こんなに可愛いメルちゃんに暴力をふるおうとするなんて信じられないわ!
 いや、相手がメルちゃんじゃなくても暴力は良くない。
 
「今、お姉様はどうしているんでしょうか」
「帰るように命令したら、彼女に付いてきていた侍女らしき女性が、レニス嬢を無理矢理、馬車に乗せて帰らせてくれたよ」
「本当に申し訳ございませんでした!」

 また大きな声を出したからか、メルちゃんが尻尾を振って、太ももの上に前足をのせてくれた。

 慰めてくれているのね。
 メルちゃんはすごく優しい。

 このまま、ずっとお姉様に会わないでおこうかと思ったけれど、そういう訳にもいかなさそうね。

 迷惑だとはっきり言わないといけないわ。
 というか、今まで言っていたけど聞いてくれなかったわよね。

 どうしたら、お姉様は私がお姉様と会いたくないことをわかってくれるのかしら。
 そして、ジーギス殿下は無事なのかも、少しだけ気になった。

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