価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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21 キトロフ家の使用人

  お茶会の日より少し前に、キトロフ夫妻に城まで来てもらい、念入りに段取りを話し合った。

 2人共、マーニャ嬢は賢くないから、彼女自身に対しての恐怖はないと言った。
 けれど、入れ知恵している人間がいるかもしれないからと、警戒態勢は怠らない事にした。

 油断する事は良くないし、私に何かあれば、キトロフ夫妻に迷惑をかける事にもなってしまう。
 それだけは絶対に避けたかった。

 話によると、マーニャ嬢は、キトロフ家の下男数人を誘惑していた。
 そして、私を上手く襲えたら褒美をあげると言って、その気にさせているらしい。

 使用人の男性の中に、キトロフ伯爵の忠実な部下を潜り込ませているらしく、その人の報告でわかったとの事だった。

 そして、当日。
 アザレアには休みを取らせて、他の侍女に付き添ってもらい、キトロフ邸に向けて出発する事になった。

「本当に気を付けてくれよ」
「大丈夫ですわ。油断はいたしません。ですが、怪我をさせてしまうかも……」
「多少はしょうがない。悪い事をしようとしているのは向こうだから」
「ありがとうございます」

 アズがわざわざ見送りに来てくれて、心配そうな顔をするから苦笑する。

「私はマーニャ嬢がどんな人なのか楽しみにしていますから心配なさらないで」
「困ったやつだな……」

 アズは私の頬に触れて小さく息を吐いた。

 私だって、王太子妃候補という自覚はある。

 無茶をするつもりも、アズの立場を悪くするつもりもない。

 心配そうにしているアズの手を握って微笑むと、彼は諦めたように首を縦に振った。



 王城からキトロフ家まではそう遠くなく、馬車で片道三十分くらいの場所にあった。

 馬車がキトロフ邸のポーチに停まると、キトロフ夫人であるシエラ様が迎えに出てきてくれた。

 金色のウェーブのかかった髪に、青色の瞳を持つシエラ様は、少し気が強そうだけれど、可愛らしい顔立ちをされている。

 17歳という事もあり、元気溌剌といった感じだった。

「お義姉さま、ようこそお越しくださいました」
「シエラ様、まだ、私とアズは結婚していませんので……」
「失礼いたしました。では、わたくしは降嫁した身ですので、シエラとお呼びくださいませ」
「滅相もないですわ。シエラ様とお呼びさせていただきます」
「それはいけませんわ」
 
 この国では降嫁したからといって、兄と妹の縁が切れるわけではない。
 いつか、義理の姉になるのだから、もううるさく言わない方が良いのかしら?
 
「では、シエラさんとお呼びしますわね。わたしの事は好きに呼んでくださってかまいません」

 結局、親密さを出す為に、シエラさんにはお義姉さまと呼ばれる事になった。

 お茶会の会場に向かって歩く間に、マーニャ嬢がどの人かを教えてもらう事になった。

「お茶会の準備などには参加させておりません。ですから、大変失礼な事を致しますがお許しくださいませ」

 シエラさんはそう言うと、進行方向にある、開け放たれた扉を指差した。

 そこは来客用の個室のお手洗いで、通り過ぎる際に中を見てみると、シルバーブロンドのふわふわの髪を持つ細身の女性が掃除をしていた。

 メイド服を着ているけれど、地味といった印象はなく、目をひくような美人だった。

 目をそらそうとした時、青色の瞳が私の瞳を捉えた。

 すると、一瞬だけ、マーニャ嬢は私を睨んだ。
 私が立ち止まると、慌てて笑顔を作って頭を下げた。

 私が立ち止まったため、シエラさんも足を止める。

「お義姉さま……?」
「ごめんなさい。ちょっと気になってしまって…」
「ああ……。お見苦しいところを見せてしまって申し訳ございません。お客様がいらっしゃる前に掃除を終えておくように伝えたのですが、仕事が遅くて、まだ途中のようですわ」

 シエルさんはマーニャ嬢に聞こえるように言った。
 マーニャ嬢は舌打ちをすると、止めていた手を動かし始め、掃除を再開する。

「わざと扉を開けさせておいたんですね?」
「はい。お義姉さまにマーニャを認識してもらうためですわ」

 そう言うと、シエルさんはメイドに視線を投げる。
 すると、メイドは何も言わずにお手洗いの扉を閉めた。

 私達が歩き出して少ししたとき、お手洗いのほうから叫び声が聞こえてきた。

「私の事を馬鹿にして! 絶対に許さないんだから! 痛い目に合わせてやるわ!」

 私が後ろを振り返って驚いていると、シエラさんは微笑む。

「ここまで感情的だと、気の毒になってしまいますわ」
「そうですわね。こちらとしてはわかりやすくて有り難いですが」

 談笑しながら、今度こそお茶会の会場に向かう途中で、いくつもの視線を感じた。

 それが悪意を含んだものであることに気付き、シエラさんを見ると、彼女は不安そうな顔で首を縦に振った。

 怪しい使用人については目星をつけてくれている。

 けれど、私が尻尾を掴みたいから自由に泳がせるようにお願いした。

 さあ、どんな風に接触してくるのかしら?

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