34 / 45
34 焦る婚約者 ①
社交場で見るようなフォーマルな服装ではなく、ラフな格好をしているケインを見て、ゲッティの頭の中は、相手が王子であるということを、すぐに判断できなかった。
「え? あ、まさか……いや」
ゲッティの額には一瞬にして汗の玉が浮かび上がった。
(ケイン殿下が鳩を抱えているなんてありえないと思う気持ちもあるのでしょうけれど、こんなに整った顔立ちの方はそういません。すんなり理解していただきたいものですが……)
冷ややかな目でゲッティを見つめる。すると、その視線を感じたゲッティは勘違いをする。
「そ、そんなに僕を見ないでくれよ。やっぱり、君は僕を忘れられないんだな」
「そんなわけがないでしょう! あなたが殿下に無礼な態度を取らないか見ていただけです!」
「やっぱり僕を見ていたんじゃないか! そんなにも僕のことが好きなのに、どうして婚約を破棄するなんて言い出したんだい?」
「うう。この人、話が通じませんね」
ティファリーはこめかみを押さえて呟き、再度念押しをする。
「私はあなたに未練なんてありません! あなたとの婚約を破棄したくてたまらないのです! ノーリーお姉様から聞きましたが、あなたはノーリーお姉様を愛しているのでしょう? それならお姉様と婚約してはいかがですか?」
「はは~ん。嫉妬してるのか」
「違います。あなたへの愛情なんてこれっぽっちもありません」
「はいはい、わかったよ」
ニヤニヤと笑うゲッティに、ティファリーは殺意を覚えたが何とか心を落ち着かせようとする。
(目の前にいる人は普通の人ではありません。この人は私が何を言ってもポジティブに捉えるだけです。殿下にご挨拶したあとに、先程の無礼な発言について責めましょう)
大きく深呼吸をして怒りを鎮めたあと、ティファリーはケインにカーテシーをする。
「ケイン殿下、本日はようこそお越しくださいました」
「王子が贔屓にしていると公にしたほうが、この店も儲かるだろう?」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「「ホッホロー!」」
ポッポたちは、ティファリーの所に行きたいと言わんばかりに、ケインの腕の中で暴れた。
「まったく、飼い主は俺なんだが、俺よりも君のほうが好きみたいだ」
「光栄ですわ。ですが、二羽にとって一番大好きな人はケイン殿下だと思います」
ケインが抱く力を弱めると、二羽はティファリーの両肩にそれぞれがとまり、撫でてほしいと顔を擦り寄せた。
「二羽共に甘えん坊さんですね」
ティファリーは二羽を両手であやしながら、ケインには眉尻を下げて謝る。
「先程は見苦しい場面をお見せしてしまい申し訳ございませんでした」
「気にするな。それにしても第二王子とはいえ王族の俺を大した奴じゃないと言うんだから、目の前にいるこいつは、さぞかし偉いんだろうな?」
もちろん、ケインも相手は誰だか知っている。明らかな嫌味だった。ティファリーもそのことを理解して答える。
「伯爵家の子息ですわ。殿下よりも偉いなんてことはありえません」
「ふぅん。そうか」
ティファリーはまた馬鹿なことを言われても困るため、ゲッティを見ることはなかった。
その代わりではないが、ケインから冷たい視線を送られたゲッティは「ひっ!」と声を上げて姿勢を正した。
「え? あ、まさか……いや」
ゲッティの額には一瞬にして汗の玉が浮かび上がった。
(ケイン殿下が鳩を抱えているなんてありえないと思う気持ちもあるのでしょうけれど、こんなに整った顔立ちの方はそういません。すんなり理解していただきたいものですが……)
冷ややかな目でゲッティを見つめる。すると、その視線を感じたゲッティは勘違いをする。
「そ、そんなに僕を見ないでくれよ。やっぱり、君は僕を忘れられないんだな」
「そんなわけがないでしょう! あなたが殿下に無礼な態度を取らないか見ていただけです!」
「やっぱり僕を見ていたんじゃないか! そんなにも僕のことが好きなのに、どうして婚約を破棄するなんて言い出したんだい?」
「うう。この人、話が通じませんね」
ティファリーはこめかみを押さえて呟き、再度念押しをする。
「私はあなたに未練なんてありません! あなたとの婚約を破棄したくてたまらないのです! ノーリーお姉様から聞きましたが、あなたはノーリーお姉様を愛しているのでしょう? それならお姉様と婚約してはいかがですか?」
「はは~ん。嫉妬してるのか」
「違います。あなたへの愛情なんてこれっぽっちもありません」
「はいはい、わかったよ」
ニヤニヤと笑うゲッティに、ティファリーは殺意を覚えたが何とか心を落ち着かせようとする。
(目の前にいる人は普通の人ではありません。この人は私が何を言ってもポジティブに捉えるだけです。殿下にご挨拶したあとに、先程の無礼な発言について責めましょう)
大きく深呼吸をして怒りを鎮めたあと、ティファリーはケインにカーテシーをする。
「ケイン殿下、本日はようこそお越しくださいました」
「王子が贔屓にしていると公にしたほうが、この店も儲かるだろう?」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「「ホッホロー!」」
ポッポたちは、ティファリーの所に行きたいと言わんばかりに、ケインの腕の中で暴れた。
「まったく、飼い主は俺なんだが、俺よりも君のほうが好きみたいだ」
「光栄ですわ。ですが、二羽にとって一番大好きな人はケイン殿下だと思います」
ケインが抱く力を弱めると、二羽はティファリーの両肩にそれぞれがとまり、撫でてほしいと顔を擦り寄せた。
「二羽共に甘えん坊さんですね」
ティファリーは二羽を両手であやしながら、ケインには眉尻を下げて謝る。
「先程は見苦しい場面をお見せしてしまい申し訳ございませんでした」
「気にするな。それにしても第二王子とはいえ王族の俺を大した奴じゃないと言うんだから、目の前にいるこいつは、さぞかし偉いんだろうな?」
もちろん、ケインも相手は誰だか知っている。明らかな嫌味だった。ティファリーもそのことを理解して答える。
「伯爵家の子息ですわ。殿下よりも偉いなんてことはありえません」
「ふぅん。そうか」
ティファリーはまた馬鹿なことを言われても困るため、ゲッティを見ることはなかった。
その代わりではないが、ケインから冷たい視線を送られたゲッティは「ひっ!」と声を上げて姿勢を正した。
あなたにおすすめの小説
私を捨てた公爵が、すべてを知った時にはもう手遅れでした
唯崎りいち
恋愛
呪いに侵された令嬢は、婚約者である公爵から「出来損ない」と蔑まれ、婚約を破棄される。
人を傷つけてしまう力を恐れ、彼女は人里離れた森で静かに生きることを選んだ。
それでも――かつて愛した人が死にかけていると知った時、彼女は自らの命を削り、その命を救う。
想いを告げることもなく、すべてを置いて去った彼女。
やがて真実を知った公爵は、彼女を求めて森へ向かうが――
そこにいたのは、別の男に手を取られ、幸せそうに微笑む彼女の姿だった。
すれ違いの果てに、ようやく手に入れた幸せと、すべてを失った男の後悔の物語。
[完結]裏切りの果てに……
青空一夏
恋愛
王都に本邸を構える大商会、アルマード男爵家の一人娘リリアは、父の勧めで王立近衛騎士団から引き抜かれた青年カイルと婚約する。
彼は公爵家の分家筋の出身で、政争で没落したものの、誇り高く優秀な騎士だった。
穏やかで誠実な彼に惹かれていくリリア。
だが、学園の同級生レオンのささやいた一言が、彼女の心を揺らす。
「カイルは優しい人なんだろ? 君が望めば、何でもしてくれるはずさ。
でも、それは――仕事だからだよ。結婚も仕事のうちさ。
だって、雇い主の命令に逆らえないでしょ?
君に好意がなくても、義務でそうするんだ」
その言葉が頭から離れないリリアは、カイルの同僚たちに聞き込み、彼に病気の家族がいると知った。「治療費のために自分と結婚するの?」 そう思い込んだリリアに、父母がそろって事故死するという不幸が襲う。
レオンはリリアを惑わし、孤立させ、莫大な持参金を持って自分の元へ嫁ぐように仕向けるのだった。
だが、待っていたのは愛ではなく、孤独と裏切り。
日差しの差さない部屋に閉じ込められ、心身を衰弱させていくリリア。
「……カイル、助けて……」
そう呟いたとき。動き出したのは、かつて彼女を守ると誓った男――カイル・グランベルだった。そしてリリアも自らここを抜けだし、レオンを懲らしめてやろうと決意するようになり……
今、失われた愛と誇りを取り戻す物語が始まる。
『仕方がない』が口癖の婚約者
本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』
突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。
〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。
そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。
母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。
アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。
だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。
ほんの少しの仕返し
turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。
アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。
アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。
皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。
ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。
もうすぐです。
さようなら、イディオン
たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。
公爵令嬢ローズは悪役か?
瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」
公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。
隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。
「うちの影、優秀でしてよ?」
転ばぬ先の杖……ならぬ影。
婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。
独自設定を含みます。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
婚約は破棄なんですよね?
もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!