【4月29日完結予定】嘘ばかりの婚約者様、どうぞ愛する人とお幸せに

風見ゆうみ

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43  どうぞ愛する人とお幸せに ①

 夜会では、ケインがティファリーのことをとても気にかけていると、多くの人物が知ることになった。
 しかし、ティファリーはまだ婚約の破棄が認められていない。裁判になった時に、ティファリーの心証が悪くなるかもしれないため、ケインはすぐさま手を打った。
 詳しく話すことはできないが、彼女には恩があること。ティファリーは自分に気持ちを返すような素振りはしていないという話を社交界に流した。
 今回、婚約の破棄ができずに長引いている理由は、この婚約が契約扱いだからである。
 本人が浮気を認めないため、相手の合意なしに一方的に解除できない状態にある。
 ケインに不敬を働いたことで、伯爵家は金銭面で没落しかけたものの、ケインは婚約の破棄を認めさせる権利はない。
 もし、口を出そうものなら越権行為だと判断されたり、ティファリーの浮気を疑われる可能性もある。

 今までのゲッティは「浮気なんてしていない。婚約を破棄したいがために、僕に冤罪をかけようとしている」と被害者ぶるだけだった。

 しかし、今回の夜会で状況が変わった。
 というのもゲッティが夜会で浮気を認めるような発言をしたからだった。

 婚約が成立した際、契約条件の中には、浮気行為が認められた場合は婚約を一方的に破棄でき、契約を無効にすることができると明記していた。
 今回はノーリーの時とは違い、多くの貴族が証人だった。

 夜会から三日後、ティファリーは訴えの取り下げをする前に、父と共にパス伯爵家に向かった。
 朝から良い天気で、空には雲一つない青空が広がっている。
 先触れを入れていたため、年老いたメイドは笑顔で出迎えると二人を応接室に案内した。
 ゲッティが不正な商売をして儲けているため、ケインへの罰金で支払った金は少しずつ取り戻している。しかし、使用人を最低限しか雇うことができず、邸内は枯れた花が放置されていたり、あちこちにホコリが溜まっている。

 応接室の中だけは重点的に掃除されたのか、今まで歩いてきた廊下とは比べ物にならないほど清潔感に満ちていた。

 メイドがお茶を淹れて出ていくのと入れ替わりに、ゲッティと彼の両親が入室した。

 三人は青ざめた顔をしており、挨拶をすることなく、揃って扉の前で膝をついた。

「どうか、どうかお許しください! 僕は本当にティファリー様だけを愛しているんです! 浮気については気の迷いなんです!」
 
 ゲッティは額に床をつけ、泣きながら謝罪した。
 しかし、今までの彼の発言は嘘ばかり。嘘をつかれ続けていたティファリーが信じるはずがない。

 ティファリーは大きくため息を吐いたあと、笑顔で告げる。

「ゲッティ、あなたの口から発せられる話は、浮気をしていない、私が婚約の破棄を認めないなどと嘘ばかりでした」
「そ、それは、その、反省しています! ですから、チャンスを、チャンスをください! 反省しています! 心を入れ替えて生まれ変わります!」

 ゲッティや両親の体は恐怖で震えていた。今までならば、善人であるふりをしていれば、世論が同情し味方してくれるものだと思っていた。
 だが、もう状況は違う。 
 ゲッティはティファリーに情で訴えるしかなかった。

「あなたの言葉は嘘ばかりだと言いましたよね? そんなあなたの口から出る言葉が真実だとは思えないのです」
「そんな……!」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、ゲッティはティファリーを見つめた。

「私を愛していると言いましたが、それも嘘なのでしょう」
「いいえ、違います! あなただけを愛しているんです!」
「ティファリー様、どうか、息子を信じてやってください!」
「お願いします!」

 泣き叫ぶゲッティと懇願する伯爵夫妻を見つめ、ティファリーは思う。

(嘘をつき続けたせいで、ゲッティの言葉には信憑性がなくなりました。たとえ、真実であっても、決定的な証拠や事実でない限り、信じることはできません。それに……)

 静まり返った室内には、ゲッティと伯爵夫妻のすすり泣く声が響く。

 ティファリーは深呼吸をして口を開いた。

「心の広い人ならチャンスを与えるのでしょう。ですが、私は前に進みたいのです」
「お願いです! あなたと一緒に未来を歩ませてください! 同じ方向を見ていきますから!」

 ゲッティはティファリーに縋りつこうと床を這ったが、兵士によって止められる。
 すすり泣くゲッティにティファリーは冷ややかな笑みを浮かべて言った。

「そんなことはしていただかなくて結構です。あなたが浮気を認めたことにより、契約は不履行となりました。ですので、あなたの同意がなくとも強制的に婚約を破棄できます」
「忘れている可能性もあるから、契約書を持参しておいた」

 ノウンは婚約を結んだ時の契約書を、ゲッティの目の前に突きつけた。
 浮気をしたという話を嘘だと言えば、先程、自分がティファリーに掛けた言葉も嘘になる。

 ゲッティは「ううう」と呻きながら、大粒の涙を床に落とした。
 そして、恨みがましい目でティファリーに尋ねる。

「僕の意思を無視して婚約を破棄することは決まっているんでしょう。それなのに、なぜ、あなたはここに来たんですか!?」
「……あなたに伝えたいことがあったからです」

 ティファリーは微笑して答えた。


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