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54 元婚約者の就職先 ②
護衛を監視役にし、野宿をしているゲッティを泳がせつつ、パス伯爵家にゲッティが見つかったことを連絡したところ、三日後に伯爵自らがティファリーのもとを訪ねてきた。
パス伯爵は心労から痩せ細っており、顔色も悪い。ふらふらな様子ながらも、ティファリーに迷惑をかけたことを何度も謝った。
応接室に案内し、お茶を飲ませて休ませつつ、ティファリーは現在の状況を確認してみた。
すると、ゲッティが夜逃げした次の日には、彼が騙した女性たちとは示談になっていたことがわかった。そのため、被害届は出されておらず、今のところ彼に科せられたのは、女性たちに金を返すことだった。
パス伯爵は私財を売り、女性たちに示談金を支払い、足りない分は知り合いの貴族に借用書を書いて金を借り、ゲッティを守る処置をとっていた。
「女性たちはそれで納得されたのですか?」
「時間は返ってこないが、慰謝料を上乗せしてくれるならと考えると。もしくは、ゲッティと結婚させてくれるなら良いという女性もいました」
「まだ、ゲッティと結婚したがっているのですか?」
「ゲッティを心酔しているようで、彼は悪い人ではなく、悪いのは彼をそこまで追い詰めた人物だと……」
(言葉を濁していますが、私に逆恨みをしているのですね)
ゲッティが結婚詐欺を繰り返していると被害女性に告げた時、大きなお世話だという人がいた。真実を知らなければ幸せでいられたのにと、自分の正義を人に押し付けるなと泣きながら訴える人物もいたことを思い出す。
(本当の幸せとは何なのでしょうか)
あの時、ティファリーは結婚詐欺を暴くことを正義だと思い込んでいた。だが、それはティファリーが考えた正義なのだと思い知らされた。
ゲッティに騙されていた女性の多くは、いつかはゲッティは自分だけを選んでくれると信じていた。その望みを断ち切ったのはティファリーなのだ。
もちろん、ティファリーに感謝している人物も多くいる。彼女たちは結婚詐欺に引っかかった自分を恥じて公の場に出ることを拒んでいた。
同情の声だけならまだしも『そんなものにひっかかるバカ』などと中傷する者もいるからだ。
そして、一番のネックはティファリーとゲッティが婚約を解消していない状態だったことを、女性たちが皆知っていることだ。
示談を受け入れたのも、世間から浮気相手だと思われたくないという気持ちが大きかった。
ティファリーが黙っているからか、伯爵はため息を吐いて話題を変える。
「もう我が家は火の車です。近いうちに爵位を返上するつもりです。一平民として働き、息子と共に借金を返していこうと思います」
没落を選ばず、先に爵位を返上することに決めたのは、貴族としての意地だった。
ただ、それも自分のわがままの一つであることに、伯爵は気づいていない。国王が返上だけで許してくれると思っているところが、ゲッティの父といったところである。
「……で、ティファリー様にお聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょうか」
「ゲッティの処分について、公爵家としてはどのようにお考えなのでしょうか」
公爵家やティファリーへの名誉毀損の処分については、結婚詐欺の話が落ち着いてから伝えることになっていた。
交渉で婚約を破棄することができたわけだが、ティファリーは目を瞑っても公爵家としては見逃すことができない。そのため、鉱山送りの話も出ていたが、その前に少しの期間だけ、ある場所で働かせることができないか、ティファリーが確認を取っているところだった。
「まだ、はっきりと決まったわけではございませんので、改めてご連絡をさせていただきます」
「……わかりました」
伯爵は不安げな表情でティファリーを見つめた。
パス伯爵は心労から痩せ細っており、顔色も悪い。ふらふらな様子ながらも、ティファリーに迷惑をかけたことを何度も謝った。
応接室に案内し、お茶を飲ませて休ませつつ、ティファリーは現在の状況を確認してみた。
すると、ゲッティが夜逃げした次の日には、彼が騙した女性たちとは示談になっていたことがわかった。そのため、被害届は出されておらず、今のところ彼に科せられたのは、女性たちに金を返すことだった。
パス伯爵は私財を売り、女性たちに示談金を支払い、足りない分は知り合いの貴族に借用書を書いて金を借り、ゲッティを守る処置をとっていた。
「女性たちはそれで納得されたのですか?」
「時間は返ってこないが、慰謝料を上乗せしてくれるならと考えると。もしくは、ゲッティと結婚させてくれるなら良いという女性もいました」
「まだ、ゲッティと結婚したがっているのですか?」
「ゲッティを心酔しているようで、彼は悪い人ではなく、悪いのは彼をそこまで追い詰めた人物だと……」
(言葉を濁していますが、私に逆恨みをしているのですね)
ゲッティが結婚詐欺を繰り返していると被害女性に告げた時、大きなお世話だという人がいた。真実を知らなければ幸せでいられたのにと、自分の正義を人に押し付けるなと泣きながら訴える人物もいたことを思い出す。
(本当の幸せとは何なのでしょうか)
あの時、ティファリーは結婚詐欺を暴くことを正義だと思い込んでいた。だが、それはティファリーが考えた正義なのだと思い知らされた。
ゲッティに騙されていた女性の多くは、いつかはゲッティは自分だけを選んでくれると信じていた。その望みを断ち切ったのはティファリーなのだ。
もちろん、ティファリーに感謝している人物も多くいる。彼女たちは結婚詐欺に引っかかった自分を恥じて公の場に出ることを拒んでいた。
同情の声だけならまだしも『そんなものにひっかかるバカ』などと中傷する者もいるからだ。
そして、一番のネックはティファリーとゲッティが婚約を解消していない状態だったことを、女性たちが皆知っていることだ。
示談を受け入れたのも、世間から浮気相手だと思われたくないという気持ちが大きかった。
ティファリーが黙っているからか、伯爵はため息を吐いて話題を変える。
「もう我が家は火の車です。近いうちに爵位を返上するつもりです。一平民として働き、息子と共に借金を返していこうと思います」
没落を選ばず、先に爵位を返上することに決めたのは、貴族としての意地だった。
ただ、それも自分のわがままの一つであることに、伯爵は気づいていない。国王が返上だけで許してくれると思っているところが、ゲッティの父といったところである。
「……で、ティファリー様にお聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょうか」
「ゲッティの処分について、公爵家としてはどのようにお考えなのでしょうか」
公爵家やティファリーへの名誉毀損の処分については、結婚詐欺の話が落ち着いてから伝えることになっていた。
交渉で婚約を破棄することができたわけだが、ティファリーは目を瞑っても公爵家としては見逃すことができない。そのため、鉱山送りの話も出ていたが、その前に少しの期間だけ、ある場所で働かせることができないか、ティファリーが確認を取っているところだった。
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