【本編完結】家族に裏切られた私が嫁いだ相手は、姉が長年片思いしていた公爵令息でした

風見ゆうみ

文字の大きさ
56 / 59

52  嫁いだ相手は姉が長年片思いしていた公爵令息でした

しおりを挟む
 囚人服姿のお姉様は、手枷と足枷、そして舌を噛まないようにか、猿轡さるぐつわをされた状態で荷台に乗せられていました。
 馬に引かれた荷台が進む沿道には、多くの人が集まっていて、お姉様に向かって罵声を浴びせていました。少し離れた場所から、その様子を眺めていた私は、自業自得のこととはいえ見ていられなくなり、ジェリク様に話をして、今日は帰ることにしたのです。
 すると、馬車の前にお母様が立っていることに気づきました。

「お母様、もう私はあなたと話すことはありませんので、お父様を連れてお帰りください」
「あの、ジェリク様! お願いします! 一度だけあの子に会ってやっていただけませんか!?」

 お母様は私に何を言っても無駄だと感じたのか、ジェリク様に訴えました。

「別に会う必要はない」
「勝手なことを言っているのはわかっています。ですが、このままではあの子が不憫で! せめて、あの子の口からあなたへの思いを伝えさせたいのです」
「どうして俺がそれに付き合わなければならないんだ」

 ジェリク様はこれ見よがしにため息を吐くと、少しだけ思案してから口を開きます。

「あなたは良い母親ではなかったが、シアリンを産んでくれた人だ。それに対する礼として、ラーナ嬢に手紙を送る。できることはここまでだ」

 ジェリク様は話し終えると、騎士に命令してお母様を馬車から遠ざけました。馬車に乗り込んですぐ、私はジェリク様に謝ります。

「ジェリク様、母が勝手なことを言ってしまい申し訳ございません」
「君が謝ることじゃない」
「ですが……」

 ゆっくりと馬車が動き出すと、外からお父様の声が聞こえてきましたが無視しました。
 そんな場合ではありませんからね。

「さっきも言っただろう。君がこの世に生を受けなければ、俺は君に出会えていなかったし、きっと結婚もせずに、両親を困らせていたと思う」
「ジェリク様なら、きっと良い人が見つかっていたと思います」
「そうとは思えない」

 ジェリク様は私の左頬に優しく触れると微笑みます。

「生まれてきてくれてありがとう」
「こちらこそ、生まれてきてくれてありがとうございます。そして、出会ってくれてありがとうございます」

 ジェリク様の右手に自分の左手を乗せると、顔が近づいてきたことに気づきました。詳しいやり方は知りません。ただ、何も言わずに目を閉じると、唇に温かいものが触れたのです。

 そうです。
 これが、私とジェリク様の初めてのキスでした。


******

 それから2日が経った頃には、国王陛下とサブル殿下の処分内容が決まりました。
 国王陛下は退位と王妃陛下との離婚。辺境にある王家の別荘にサブル殿下と一緒に飛ばされることになったのです。
 その別荘は森の奥にある一軒家で、森にはクマが出没するらしく、犠牲者も出ているような場所です。
 昼の間は森の中で生態調査をするためのサンプルになるものを探す仕事を与えられました。クマが冬眠するまで毎日、クマに襲われないか気にしながら生きていかなければなりません。
 クマが冬眠してそちらの安全が確保できたとしても、森の中から出るのに一日はかかりますし、とても寒いです。彼らの体力では森から出る前に力尽きて、動物に襲われてしまうことでしょう。

 父と息子で仲良く暮らせていけたら、それはそれで幸せでしょうし、馬鹿なことをしないことを望みます。

 血の繋がった両親は今回の件で離婚が決定し、お母様はお姉様から訴えられ、現在は取り調べ中です。近い内に、お姉様と同じような目に遭うことでしょう。

 そしてお父様ですが、伯爵家に手持ち現金がなくなったため、隠していたお金を支払いに回そうとしましたが、鍵が合わないだけでなく、鍵穴の部分が変形しており、鍵を通すこともできない状態になっていたそうです。

 監視役の人が言うには「どうしてだぁ!」と叫ぶお父様の声が、家の外にまで聞こえてきたそうです。
 お祖母様の仕業だと気がついたお父様は、こちらに来ようとしたようですが、債権者に捕まり、現在は伯爵位を返上させられ、債権者の元で働かされているそうです。

 
 10日後、私はお姉様のいる施設に、ジェリク様からの手紙を持ってやって来ました。彼を連れてくれば、お姉様にとってはご褒美です。そのため、ジェリク様には馬車で待っていてもらい、面会は一人ですることにしました。

 案内された個室で待っていると、施設の人と一緒に、手枷足枷をされたお姉様が入ってきました。
 よほど過酷な環境にいるのか、お姉様の目には生気はなく、テーブルを挟んだ真正面に座っても、なんの反応もありません。
 ですが、この人の名前を出すと別でした。

「お姉様、ジェリク様からの手紙を持ってきました」
「本当に!?」

 お姉様は俯いていた顔を上げて、私に手紙を渡すよう要求してきました。凶器を持ち込むことはできませんので、ペーパーナイフも使えません。そのため、手紙は封筒には入っていません。

 お姉様に手渡すと、目をキラキラさせて、四つ折りにされた手紙を開けましたが、すぐに表情が重くなっていきました。

 ジェリク様に事前にどんなことを書いたか聞いてみると、こんな感じでした。

 どんなことがあってもお姉様の気持ちには応えられないこと。
 私、シアリンを嘘つき呼ばわりした時点で、お姉様への好感度はなくなったこと。
 
 何があってもお姉様のことは好きにならないし、お姉様からの気持ちは迷惑なので、自分のことは忘れてほしいということです。

 ジェリク様からの手紙がなければ、お姉様はどこか希望を持って生きていたと思います。
 でも、その望みは完全に絶たれたのです。

「ううっ……うっ……えっ」

 手紙を握りしめ泣き出したお姉様を見た私は「さようならお姉様」と心の中でつぶやくと、部屋をあとにしました。

 付いてきてくれたメイドたちと歩きながら考えます。

 サブル殿下と婚約していた時は、こんな未来が来るだなんて思ってもいませんでした。
 だって、私の旦那様は、長年お姉様が片思いしていた公爵令息なんですよ?

 これからの私はどうなっていくのでしょうか。

 できればこれからも予知夢を見て、助けられる人を助けていきたいです。

 そして、ジェリク様やお祖母様。義両親に使用人たち。私を大切に思ってくれる人たちと共に幸せに暮らしていくのです。

 私はそう心に決めて、ジェリク様の待つ馬車へと急いだのでした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただきありがとうございました。
本編はこの話で終わりになります。
明日はリクエストいただきました、番外編を投稿予定です。
本編だけで十分という方、ここまでお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

そして、新作の「そんなにも彼女が大事なら、私からあなたを捨てて差し上げますね」などてお会いできますと幸いです。

しおりを挟む
感想 240

あなたにおすすめの小説

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた 貴族令嬢ミディア・バイエルン。 だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、 彼女は一方的に婚約を破棄される。 「戻る場所は、もうありませんわ」 そう告げて向かった先は、 王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。 権力も、評価も、比較もない土地で、 ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。 指示しない。 介入しない。 評価しない。 それでも、人は動き、街は回り、 日常は確かに続いていく。 一方、王都では―― 彼女を失った王太子と王政が、 少しずつ立ち行かなくなっていき……? 派手な復讐も、涙の和解もない。 あるのは、「戻らない」という選択と、 終わらせない日常だけ。

処理中です...