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15 反撃を開始するわよ
ムネラノ王国の王家が関与してくれたおかげで、思った以上に早く、リーナが希望していた土地登記簿と契約書が彼女の元に届けられた。
書類にはD地区の所有権を認めるものと、検問所からD地区までの通行を許可する旨が書かれていた。
王家の土地にはAからDまでの区域があり、Aから順番に重要な地域と認識されている。リーナが希望したD地区は最低ランクになる。この区域は森が広がっており、平地はほとんどない。だが、クヨキヨクがだけでなく、多くの種類の薬草が自生している場所だった。
リーナは嫁ぐまでに王家管轄の土地の植物の生息状態を調べている。両親もエランナもそれを知っているはずなのだが、それどころではなく、D地区の重要性に気づいていなかった。薬草が採れていたのは他の地区だったこともあり、宰相たちも許可したのだ。だが、それは今までのことだ。王家や国の政治に携わる貴族から冷遇されていたリーナは、復讐する機会を狙っていた。
わざとD地区から薬草を採らず、他の区域から採っていたため、今ではD地区以外で薬草は採りにくくなっている。
チゴノイ王国側がそれに気づくのはもう少しあとであり、気づいた時にはもう遅い。
宰相を含む官僚たちは薬草を王家に報告しているよりも高値で売り、その差額を自分のものにしていた。そのことに気がついたリーナが告発しようとすると、よってたかって彼女を嘘つきだと言い、エランナも『お姉様は嘘ばかりついている』と彼らを味方した。
温室で育った両親は、リーナの言うことが信じられなくなり、余計に家族間の溝が深くなった。
(弟のエイルは国を守らなければいけないという自覚はあるけれど、まだ13歳。若すぎて官僚たちに対抗する力はない。薬草で利益を得ていたチゴノイ王国の王家は、近いうちに財政難に陥るはず。その時、プレッシャーに耐えられない父のことだから退位しようとするでしょう。エイルが即位したらお祝いにD地区を返しましょう。それまでは、絶対に死守してみせる)
宿の一室で、リーナが土地登記簿を抱きしめてそう誓った時、ムネラノ王国の使者がやって来たと連絡があった。
「さあ、反撃を開始するわよ」
リーナは気合を入れ直し、ムネラノ王国の使者を部屋に招き入れた。
◆◇◆◇◆◇
その頃、エランナは王城内にある談話室で両親に不満をぶちまけていた。
「ひどいわ! 私は被害者なのにお姉様のせいで悪者扱い! どうしてお姉様は私に意地悪をするの!?」
「エランナ、あなたは姉の夫と浮気をしたのよ。あなただって自分が悪いことをしたことはわかるでしょう?」
「義兄が浮気をするきっかけを作ったのはお姉様じゃないの!」
諭そうとしたソフリーにエランナは食ってかかる。
「私は優しいから彼に付き合ってあげただけ! 関係を持ったのもノッシュ様のためなのに!」
「……どうしてノッシュ殿下のためなんだ?」
クムトに尋ねられたエランナは、泣きながら訴える。
「だって男性はやり方を女性に教えてもらうんでしょう? 女性だって勉強する機会は必要だわ!」
「この世界のしきたりでは、女性が経験する相手は夫になった人だけでいいんだ。男性だってすべての人が教えを請うわけじゃない」
「納得いかないわ!」
地団駄を踏むエランナを見つめるクムトたちの目はどこか不安そうだ。そのことに気がついたエランナは冷静になると、ソファに座って尋ねる。
「何か気になることでもあるのですか?」
「……エランナ、自分の体に異変が起きたら、すぐに侍女に伝えなさい」
「どういうことですか?」
「もしかしたら、体調に異変を感じるかもしれない」
曖昧な言い方しかしないクムトに、エランナは不満げな顔をする。
「気になるじゃないですか。はっきり言ってください!」
「……もしかしたら、君はアシランから病気をうつされている可能性がある」
「……え?」
想像もしていなかった話に、エランナは呆然とした表情でクムトを見つめた。
書類にはD地区の所有権を認めるものと、検問所からD地区までの通行を許可する旨が書かれていた。
王家の土地にはAからDまでの区域があり、Aから順番に重要な地域と認識されている。リーナが希望したD地区は最低ランクになる。この区域は森が広がっており、平地はほとんどない。だが、クヨキヨクがだけでなく、多くの種類の薬草が自生している場所だった。
リーナは嫁ぐまでに王家管轄の土地の植物の生息状態を調べている。両親もエランナもそれを知っているはずなのだが、それどころではなく、D地区の重要性に気づいていなかった。薬草が採れていたのは他の地区だったこともあり、宰相たちも許可したのだ。だが、それは今までのことだ。王家や国の政治に携わる貴族から冷遇されていたリーナは、復讐する機会を狙っていた。
わざとD地区から薬草を採らず、他の区域から採っていたため、今ではD地区以外で薬草は採りにくくなっている。
チゴノイ王国側がそれに気づくのはもう少しあとであり、気づいた時にはもう遅い。
宰相を含む官僚たちは薬草を王家に報告しているよりも高値で売り、その差額を自分のものにしていた。そのことに気がついたリーナが告発しようとすると、よってたかって彼女を嘘つきだと言い、エランナも『お姉様は嘘ばかりついている』と彼らを味方した。
温室で育った両親は、リーナの言うことが信じられなくなり、余計に家族間の溝が深くなった。
(弟のエイルは国を守らなければいけないという自覚はあるけれど、まだ13歳。若すぎて官僚たちに対抗する力はない。薬草で利益を得ていたチゴノイ王国の王家は、近いうちに財政難に陥るはず。その時、プレッシャーに耐えられない父のことだから退位しようとするでしょう。エイルが即位したらお祝いにD地区を返しましょう。それまでは、絶対に死守してみせる)
宿の一室で、リーナが土地登記簿を抱きしめてそう誓った時、ムネラノ王国の使者がやって来たと連絡があった。
「さあ、反撃を開始するわよ」
リーナは気合を入れ直し、ムネラノ王国の使者を部屋に招き入れた。
◆◇◆◇◆◇
その頃、エランナは王城内にある談話室で両親に不満をぶちまけていた。
「ひどいわ! 私は被害者なのにお姉様のせいで悪者扱い! どうしてお姉様は私に意地悪をするの!?」
「エランナ、あなたは姉の夫と浮気をしたのよ。あなただって自分が悪いことをしたことはわかるでしょう?」
「義兄が浮気をするきっかけを作ったのはお姉様じゃないの!」
諭そうとしたソフリーにエランナは食ってかかる。
「私は優しいから彼に付き合ってあげただけ! 関係を持ったのもノッシュ様のためなのに!」
「……どうしてノッシュ殿下のためなんだ?」
クムトに尋ねられたエランナは、泣きながら訴える。
「だって男性はやり方を女性に教えてもらうんでしょう? 女性だって勉強する機会は必要だわ!」
「この世界のしきたりでは、女性が経験する相手は夫になった人だけでいいんだ。男性だってすべての人が教えを請うわけじゃない」
「納得いかないわ!」
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「……エランナ、自分の体に異変が起きたら、すぐに侍女に伝えなさい」
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「もしかしたら、体調に異変を感じるかもしれない」
曖昧な言い方しかしないクムトに、エランナは不満げな顔をする。
「気になるじゃないですか。はっきり言ってください!」
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「……え?」
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