【完結】どうしていつまでも愛してくれるなんて思えるの?

風見ゆうみ

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16  信じてくださいますか?

 ムネラノ王国の使者はフードを目深に被っていた。身構えたリーナだったが、なぜかすぐに相手が誰だかわかり、警戒を解いた。

「ノッシュ様がいらしてくださったんですか」
「……顔も見ていないのによくわかったな」

 フードを取ったノッシュに、リーナは微笑んで答える。

「なんと言うのでしょうか。王族のオーラのようなものを感じまして」
「喜んでいいのかわからないな」
「隠密行動をしたい時は良くないですわね。ああ、それよりも王太子殿下を立たせていてはいけませんわね。どうぞお座りくださいませ」

 リーナの泊まっている部屋は二人が泊まれる部屋だ。
 リビングルームは一人掛けのソファが窓際に二つ置かれており、ベッドは別室にある。ソファの一つに座るように促すと、ノッシュは素直に腰を下ろし、リーナが向かいに座ると話し始める。

「父上と母上、それから国の官僚たちと話をして、真相を国民に話すことにした」
「チャペルの控室でのことも公にされるのですか?」
「いや、それはさすがにちょっとな。具体的な内容ではなく、浮気をしていたと話す。それと命の恩人だと嘘をつかれ、それを俺たちが真に受けていたことも話すつもりだ」

 そこで、ルームサービスがやって来たので会話を中断する。
 紅茶を、ローテーブルの上に置いてもらい、二人きりになると、リーナはカップを手に取る。ふわりと香る甘い匂いを楽しんでから、ソーサーに戻すとノッシュに話しかける。

「人の考え方でしょうけれど、命の恩人の話については、ノッシュ様たちが気づけなかったのは仕方がないことだと、私が証言いたしますわ」
「……さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ない」
「私が痛い目に遭わせたいのは、ノッシュ様たちではありません。陥れるのではなく、本当のことを話すだけでエランナたちの立場が悪くなるのなら、私にしてみれば良いことです」
「……君は今まで家族から冷遇されてきたのか? だから」

 国民に毒草と呼ばれているのか、とはさすがに口にはできなかった。
 ノッシュはそこで言葉を止めて、紅茶を一口飲んですぐに驚いた顔をする。

「いつも飲むものと味が違う。匂いも花の匂いがする」
「フレーバーティーと言って、リラックスさせる効果があるのですよ」

 ムネラノ王国内ではフレーバーティーがあまり流通しておらず、ノッシュにとっても珍しいものだった。

「好みがあるだろうけど、ホッとする味と匂いだな」
「ありがとうございます。宿の人に無理を言って持参していた茶葉を使ってもらったんです」
「この茶葉はチゴノイ王国の店で売られているのか?」
「いいえ。私の個人的な趣味です」
「……そうか。植物が好きなんだよな」

 ノッシュは納得してうなずくと、リーナに頭を下げる。

「命の恩人をエランナ王女だと勘違いして、君のことをまったく気にかけなかった。本当にすまない」
「そんな! 頭を上げてくださいませ! そのことでノッシュ様や両陛下を恨む気持ちなどありません!」
「だけど、リーナは辛い思いをしてきたんだろう?」
「そうですが、ノッシュ様に謝ってもらいたいとは思いません。支援者になっていただけるだけで本当に光栄ですわ」
「俺も両親も君が望むなら……、いや、この話は今の君には迷惑だろうな」

 言いかけてやめたノッシュに、リーナは微笑む。

「もしかして、私を妻にしてくださるのですか?」
「そんな気はないんだろう?」

(初恋の人と言っていたものね。人違いされていたとはいえ嬉しいわ。それに王太子妃という立場は大変魅力的ね)

 真剣な目で自分を見つめるノッシュを、リーナも見つめ返す。

「まったくないと言っては嘘になりますが、今はエランナと両親、そしてチゴノイ王国の官僚たち、その他もろもろの相手をしたいのです」
「王太子の婚約者という肩書は必要じゃないのか?」
「そうなんです。今の私は平民ですからね」
「チゴノイ王国の元王女でムネラノ王国の元公爵夫人の君なら、王太子妃になることはそう大きな反対は出ないだろうと、うちの官僚たちは言っている」
「ありがたいお言葉ですわね」

 リーナはにこりと微笑むと、ノッシュに正直な気持ちを伝える。

「先ほども申しましたが、今の私は私を必要以上に馬鹿にしてきた人への復讐です。こんなことを考えている人間が王太子妃などふさわしくないと思います。ですが……」
「肩書はほしいんだな?」
「はい」

(私がノッシュ様と婚約となれば、エランナたちだけでなく、ヤセッカテーニ邸のメイドたちも青ざめそうね)

 ノッシュはぽんと自分の膝を叩く。

「結婚のことはすぐに考えなくていい。君が今したいことを優先してくれ。俺は犯罪に加担すること以外、君のために動く」
「……本当によろしいのですか?」
「命の恩人を間違えるなんて失礼なことをしたからな」
「義理堅いんですのね」

(頭が固いような気もするけれど、真面目な人は好きだわ)

 リーナは満足そうに微笑み、アッシュに尋ねる。

「私はエランナのように嘘はつきません。何かあった時、ノッシュ様は私の言葉を信じてくださいますか?」
「時と場合によるが、リーナの言葉を信じる。疑う時があったとしても、君だけを信じないなんてことはない」

 今までエランナのことばかり信じてきた周りに辟易していたリーナには、この言葉だけで十分だった。

「ありがとうございます。まずは、ビジネスパートナーとしてよろしくお願いいたします」 

 リーナはノッシュと握手を交わすと、これからの計画を話し始めた。

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