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プロローグ
とある日の昼下り。
勤め先の公爵令息から、おつかいを頼まれて、顔パスで通れる城門を通り、庭園を視界に入れながら、まがりくねった石畳の小道を歩いていくと、城の入り口に辿り着いた。
本来ならば、もっと大きな道を通り、馬車でここまで来るのだけれど、運動不足解消のために、今日は歩いてみた。
陽射しは柔らかだけれど暖かくて、とても心地よい気分で目的の部屋へと向かった。
目的地である殿下の執務室には彼しかおらず、書類を渡したところで話しかけられる。
「なあ、ルア」
「なんでしょう殿下」
私の名前はルルアなのだが、ルアという彼しか呼ばない愛称で私を呼ぶから、返事をする。
「式の日取りだが」
「何のです?」
尋ねると、王太子殿下は、大きな執務机に頬杖をついて、整った顔の口元に笑みを浮かべて答える。
「結婚式だ」
「とうとう私を諦めて身を固められるんですか」
「諦めるつもりはないが?」
「結婚式を挙げられるんですよね?」
「お前とな」
「は? ありえない夢を見られているようですね」
「夢は叶えるものだろう?」
私、ルルア・ベギンズと、第一王子のアーク・ミドラッド殿下はここ一ヶ月ほど、こんな風に顔を合わせるたびに、私は求婚されては断わる。殿下は求婚しては断られるを繰り返している。
「そうですね。でも、殿下のその夢が叶うというのは難しいと思います」
「叶えるのが難しい方が燃えるな」
「燃え尽きて灰にならないで下さいね?」
冷たく言葉を返すと、殿下は言う。
「責任をとってくれないか」
「何のです?」
「俺のファーストキス」
「あれはあなたが勝手にしてきたんでしょうが!?」
相手が王太子だというのを忘れて、私は叫んでいた。
幼馴染とはいえ、不敬だと言われかねないところだけど、そんな事を気にする相手でもない。
大体、了承も得ずにキスしてきたのだから。
「そういえば、ルアはどうだったんだ?」
「何がです?」
「キスだ」
「残念ながら、殿下が初めてじゃないです」
きっぱりと答えると、殿下の表情が変わり、椅子から立ち上がって近付いてくるなり、私の肩をつかんだ。
「どこの誰か教えろ」
「嫌です」
「命令だ」
「権力を乱用しないで下さい! 大体、そんなもの知ってどうするんですか」
「それはゆっくり考える」
アーク殿下は笑ってはいるけれど、それは明らかに恐ろしい事を考えている笑みだった。
それに、キスしたと言っても、学園に通っていた頃、クラスメイトの男子に告白されて断ったら、思い出だけくれだとかふざけた事を言われて、無理矢理キスされたという、苦い思い出しかない。
そんな事をアーク殿下に伝えようものなら、相手が世界のどこにいようとも見つけ出して抹殺、もしくは拷問しかねない。
なので、私は人助けをしなければならない。
もちろん、キスされたことにはムカついてはいるけれど、友人からは「そんなのノーカンよ」とさらりと言われてしまったので、気にしない事にしているし。
あ、なら、よく考えればファーストキスじゃないなんて言わない方が良かった。
だけど、この人がファーストキスだなんて言うと、調子に乗るだけだろうし…。
「そういえば、ルアに頼みたい事がある」
「何でしょう?」
「ミア達には連絡を入れておくが、期間限定になるが、ルアに、ある令嬢の侍女として仕えてほしい」
「ある令嬢?」
「コッポラ公爵令嬢だ」
「コッポラ家ですか…。でも、たしかあそこは城下からだいぶ離れていますし、あまり行きたくはないのですが」
渋い顔をすると、アーク殿下は私よりも渋い顔をして言った。
「彼女は俺の妻になりたいと名乗りを上げたんだ。好きな女性がいるからと断ったが、諦めきれないから城にしばらく滞在させてくれと」
「おめでとうございます」
アーク殿下は私の言葉を聞くなり、眉間のシワをより深くした。
「おめでたくない」
「王妃候補じゃないですか」
「俺にはお前しかいないと言ってるだろう」
「その言葉にもそろそろ飽きてきたのでは?」
「飽きる事はない。お前が飽きたというのなら、新しい言葉を考えるが?」
「いりません」
すきを見せてキスをされても困るので、殿下の口をおさえながら、コッポラ公爵令嬢を頭の中で思い浮かべる。
たしか、同じ学園に通っていて、殿下とは同じクラスになった事があったんじゃなかったかしら?
勤め先の公爵令息から、おつかいを頼まれて、顔パスで通れる城門を通り、庭園を視界に入れながら、まがりくねった石畳の小道を歩いていくと、城の入り口に辿り着いた。
本来ならば、もっと大きな道を通り、馬車でここまで来るのだけれど、運動不足解消のために、今日は歩いてみた。
陽射しは柔らかだけれど暖かくて、とても心地よい気分で目的の部屋へと向かった。
目的地である殿下の執務室には彼しかおらず、書類を渡したところで話しかけられる。
「なあ、ルア」
「なんでしょう殿下」
私の名前はルルアなのだが、ルアという彼しか呼ばない愛称で私を呼ぶから、返事をする。
「式の日取りだが」
「何のです?」
尋ねると、王太子殿下は、大きな執務机に頬杖をついて、整った顔の口元に笑みを浮かべて答える。
「結婚式だ」
「とうとう私を諦めて身を固められるんですか」
「諦めるつもりはないが?」
「結婚式を挙げられるんですよね?」
「お前とな」
「は? ありえない夢を見られているようですね」
「夢は叶えるものだろう?」
私、ルルア・ベギンズと、第一王子のアーク・ミドラッド殿下はここ一ヶ月ほど、こんな風に顔を合わせるたびに、私は求婚されては断わる。殿下は求婚しては断られるを繰り返している。
「そうですね。でも、殿下のその夢が叶うというのは難しいと思います」
「叶えるのが難しい方が燃えるな」
「燃え尽きて灰にならないで下さいね?」
冷たく言葉を返すと、殿下は言う。
「責任をとってくれないか」
「何のです?」
「俺のファーストキス」
「あれはあなたが勝手にしてきたんでしょうが!?」
相手が王太子だというのを忘れて、私は叫んでいた。
幼馴染とはいえ、不敬だと言われかねないところだけど、そんな事を気にする相手でもない。
大体、了承も得ずにキスしてきたのだから。
「そういえば、ルアはどうだったんだ?」
「何がです?」
「キスだ」
「残念ながら、殿下が初めてじゃないです」
きっぱりと答えると、殿下の表情が変わり、椅子から立ち上がって近付いてくるなり、私の肩をつかんだ。
「どこの誰か教えろ」
「嫌です」
「命令だ」
「権力を乱用しないで下さい! 大体、そんなもの知ってどうするんですか」
「それはゆっくり考える」
アーク殿下は笑ってはいるけれど、それは明らかに恐ろしい事を考えている笑みだった。
それに、キスしたと言っても、学園に通っていた頃、クラスメイトの男子に告白されて断ったら、思い出だけくれだとかふざけた事を言われて、無理矢理キスされたという、苦い思い出しかない。
そんな事をアーク殿下に伝えようものなら、相手が世界のどこにいようとも見つけ出して抹殺、もしくは拷問しかねない。
なので、私は人助けをしなければならない。
もちろん、キスされたことにはムカついてはいるけれど、友人からは「そんなのノーカンよ」とさらりと言われてしまったので、気にしない事にしているし。
あ、なら、よく考えればファーストキスじゃないなんて言わない方が良かった。
だけど、この人がファーストキスだなんて言うと、調子に乗るだけだろうし…。
「そういえば、ルアに頼みたい事がある」
「何でしょう?」
「ミア達には連絡を入れておくが、期間限定になるが、ルアに、ある令嬢の侍女として仕えてほしい」
「ある令嬢?」
「コッポラ公爵令嬢だ」
「コッポラ家ですか…。でも、たしかあそこは城下からだいぶ離れていますし、あまり行きたくはないのですが」
渋い顔をすると、アーク殿下は私よりも渋い顔をして言った。
「彼女は俺の妻になりたいと名乗りを上げたんだ。好きな女性がいるからと断ったが、諦めきれないから城にしばらく滞在させてくれと」
「おめでとうございます」
アーク殿下は私の言葉を聞くなり、眉間のシワをより深くした。
「おめでたくない」
「王妃候補じゃないですか」
「俺にはお前しかいないと言ってるだろう」
「その言葉にもそろそろ飽きてきたのでは?」
「飽きる事はない。お前が飽きたというのなら、新しい言葉を考えるが?」
「いりません」
すきを見せてキスをされても困るので、殿下の口をおさえながら、コッポラ公爵令嬢を頭の中で思い浮かべる。
たしか、同じ学園に通っていて、殿下とは同じクラスになった事があったんじゃなかったかしら?
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