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32 食い下がる元妹
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「何が駄目かと聞かれてもな。逆に良いところがあるんなら教えてくれ」
フェリックスは組んでいた足を解き、胸の前で腕を組んで尋ねた。
「わ、わたしには良いところがたくさんあります。それを知らないだけなんです! フェリックス様がシェリルさんを好きになったのだって、先に会ったからだと思うんです。だから、わたしをちゃんと知っていただきたくて」
「おい。俺を何だと思ってんだ。最初に会った人を好きになるみたいな設定を勝手に作るな」
フェリックスが眉根を寄せて言うと、ミシェルは慌てて首を横に振る。
「そういうわけではありません! でも、そうとしか思えなかったんです。シェリルさんとわたしなら、多くの人はわたしを選ぶと思うんです」
ミシェルの訴えにフェリックスが何か答える前に、喧嘩を中断した元伯爵夫人が叫ぶ。
「そうです! ミシェルのほうがシェリルよりも可愛いはずです」
「そんなものは個人の好みだろ。あと、どうしても顔の話がしたいようだから言うが、顔も俺の好みじゃない」
この会話に入っていくのもどうかと思うので黙って聞いていると、フェリックスが話しかけてくる。
「シェリル、もう、話は終わりでいいか?」
「私のほうは、あの話を伝えるだけで終わりよ。とにかく、何が駄目かどうかだけ教えてあげたら?」
「何が駄目って性格に良いとこないだろ。顔や体型なんて好きになったら関係ないし」
「私に言わないでよ。ミシェルさんに言って」
私に言われたフェリックスは、ミシェルを見てこれ見よがしに大きな息を吐いて言う。
「さっきの質問に改めて答えるが、性格が悪い」
「せ、性格が悪いって、そんな! フェリックス様! お願いします! 直しますので駄目なところを具体的に言ってください! わたしのどこが性格が悪いと言うんですか」
「直すなんて無理だろ。大体、俺に言われねぇと直そうとしないってのもおかしいだろ。そういう考え方も駄目だ」
それにしても、犯罪者という時点で駄目だということに、どうしてミシェルは気付けないのかしら。
洋菓子店の箱の件は、ちょうどその数日前にサンニ子爵家が数箱買っているとフェリックスが調べてくれていた。
そして、買ってきた洋菓子は全てメイドやミシェルたちが食べたと、デイクスから聞いている。
洋菓子が入っていた箱は捨てたとされていたのだけど、実際はその箱の一つをミシェルが隠し持っていて、それを元伯爵に渡して料理人に作らせたピーナッツ入りのクッキーを詰めさせた。
料理人は元伯爵が食べるものだと思いこんでいたので、何の疑いもなく、クッキーを手渡していた。
元伯爵は料理人に口止めしていたけれど、シド公爵家の調査が入ったことで、怖くなった料理人が話をしてくれた。
だから、ミシェルたちに協力してほしいだなんて言ったけれど、クッキーを箱に詰めて送りつけたのは元伯爵で、クッキーの中身の指示をしたのはミシェルだということはわかっている。
だから、あと気になることといえば、夫人がどれだけ関与していたか、元伯爵夫妻が自分の孫を本当に殺すつもりだったのかということだ。
でも、今、それを確認する必要はない。
どうせ、彼らは警察に捕まるのだから、その時に話をするでしょう。
そんなことを考えている間も、ミシェルとフェリックスの話は続いている。
「直すきっかけがほしいんです!」
「人に言われても、あーだこーだと言い返してくるだけだろ。事実と違うことに言い返すのは良いと思うが、お前の場合はそうじゃないから、アドバイスしてやる気にもならない。本当は直す気なんてないんだろ?」
「フェリックス様、あなたは自分が何を仰っているのかわかっておられるのですか!?」
ミシェルは目に涙を浮かべ、悔しそうな顔をして叫んだ。
「わかってるよ。で、お前は俺とどうこうなりたいみたいだが無理だ。悪いが、お前は俺の好みとは真逆だ。酷い発言をするとわかっているが、はっきり言わせてもらうと、俺好みにしたいんなら、ミシェルという人格を消すしかないな」
「そ、そんな、わたしの性格全てが駄目だって言うんですか!」
「人間には合う合わないってやつがあるんだよ。お前の場合は多くの人間が合わないと言いそうな珍しいタイプだ。それから伝えておくが、どうにかして直されても意味がない。俺には婚約者がいるんでな」
「……婚約者?」
ミシェルが震える声で聞き返す。
私も初耳だったので驚いてフェリックスを見ると、彼は口元に笑みを浮かべて私を見つめ返してきた。
「知らなかったわ。フェリックス、あなた、婚約者がいるんなら、こんな所にいたら駄目じゃないの」
私が驚いているので、婚約者が私ではないと知ったミシェルは明るい表情になって言う。
「で、では、フェリックス様はシェリルさんのことを諦めたんですね!」
「そんなわけないだろ」
フェリックスは大きな息を吐いたあと、話しを続ける。
「俺の婚約者はシェリルだ。正式にシド公爵家からも許可をもらってる。あ、シェリルが承諾すればという条件付きだけどな」
「はい!? ちょっとフェリックス、あなた、何を考えてるのよ!?」
「何を考えてるって、前から言ってただろ。大体、俺は5年前にもシェリルとの婚約を望んでたんだ」
困惑する私の背中をなだめるように撫でてから、フェリックスはミシェルに向き直る。
「俺はシェリル以外の女性と結婚するつもりはない。俺の妻になりたいみたいだが諦めてくれ。ミシェルには単ミシェルに似合う男を探せよ」
「そんな!」
ミシェルがポロポロと涙を流し、両手で顔を覆って泣き始めた。
フェリックスがミシェルが人妻だから駄目だと言わなかったのは、デイクスがすでに離婚届を役所に提出しているからと、既婚者だから駄目だなんて言ったら、ミシェルが調子に乗る恐れがある。
それにしても、私の知らないところで、婚約の話がされていたなんて!
少し悩んでから答えたかったけれど、そうすればミシェルに一時でも希望を与えてしまう。
それは腹立たしいから、答えはイエスしかない。
そして、それをわかっていてこの場で言うフェリックスはずるい。
軽くフェリックスを睨んでから、私はミシェルに言った。
「ミシェルさん、私はフェリックスと婚約します。あなたはどうしても私に負けたくないようだけど、フェリックスのことは諦めて」
「嫌よ! 私がシェリルさんに負けるわけない! 平民なんかに負けるもんですか!」
ミシェルは両手を顔から離して叫んだ。
フェリックスは組んでいた足を解き、胸の前で腕を組んで尋ねた。
「わ、わたしには良いところがたくさんあります。それを知らないだけなんです! フェリックス様がシェリルさんを好きになったのだって、先に会ったからだと思うんです。だから、わたしをちゃんと知っていただきたくて」
「おい。俺を何だと思ってんだ。最初に会った人を好きになるみたいな設定を勝手に作るな」
フェリックスが眉根を寄せて言うと、ミシェルは慌てて首を横に振る。
「そういうわけではありません! でも、そうとしか思えなかったんです。シェリルさんとわたしなら、多くの人はわたしを選ぶと思うんです」
ミシェルの訴えにフェリックスが何か答える前に、喧嘩を中断した元伯爵夫人が叫ぶ。
「そうです! ミシェルのほうがシェリルよりも可愛いはずです」
「そんなものは個人の好みだろ。あと、どうしても顔の話がしたいようだから言うが、顔も俺の好みじゃない」
この会話に入っていくのもどうかと思うので黙って聞いていると、フェリックスが話しかけてくる。
「シェリル、もう、話は終わりでいいか?」
「私のほうは、あの話を伝えるだけで終わりよ。とにかく、何が駄目かどうかだけ教えてあげたら?」
「何が駄目って性格に良いとこないだろ。顔や体型なんて好きになったら関係ないし」
「私に言わないでよ。ミシェルさんに言って」
私に言われたフェリックスは、ミシェルを見てこれ見よがしに大きな息を吐いて言う。
「さっきの質問に改めて答えるが、性格が悪い」
「せ、性格が悪いって、そんな! フェリックス様! お願いします! 直しますので駄目なところを具体的に言ってください! わたしのどこが性格が悪いと言うんですか」
「直すなんて無理だろ。大体、俺に言われねぇと直そうとしないってのもおかしいだろ。そういう考え方も駄目だ」
それにしても、犯罪者という時点で駄目だということに、どうしてミシェルは気付けないのかしら。
洋菓子店の箱の件は、ちょうどその数日前にサンニ子爵家が数箱買っているとフェリックスが調べてくれていた。
そして、買ってきた洋菓子は全てメイドやミシェルたちが食べたと、デイクスから聞いている。
洋菓子が入っていた箱は捨てたとされていたのだけど、実際はその箱の一つをミシェルが隠し持っていて、それを元伯爵に渡して料理人に作らせたピーナッツ入りのクッキーを詰めさせた。
料理人は元伯爵が食べるものだと思いこんでいたので、何の疑いもなく、クッキーを手渡していた。
元伯爵は料理人に口止めしていたけれど、シド公爵家の調査が入ったことで、怖くなった料理人が話をしてくれた。
だから、ミシェルたちに協力してほしいだなんて言ったけれど、クッキーを箱に詰めて送りつけたのは元伯爵で、クッキーの中身の指示をしたのはミシェルだということはわかっている。
だから、あと気になることといえば、夫人がどれだけ関与していたか、元伯爵夫妻が自分の孫を本当に殺すつもりだったのかということだ。
でも、今、それを確認する必要はない。
どうせ、彼らは警察に捕まるのだから、その時に話をするでしょう。
そんなことを考えている間も、ミシェルとフェリックスの話は続いている。
「直すきっかけがほしいんです!」
「人に言われても、あーだこーだと言い返してくるだけだろ。事実と違うことに言い返すのは良いと思うが、お前の場合はそうじゃないから、アドバイスしてやる気にもならない。本当は直す気なんてないんだろ?」
「フェリックス様、あなたは自分が何を仰っているのかわかっておられるのですか!?」
ミシェルは目に涙を浮かべ、悔しそうな顔をして叫んだ。
「わかってるよ。で、お前は俺とどうこうなりたいみたいだが無理だ。悪いが、お前は俺の好みとは真逆だ。酷い発言をするとわかっているが、はっきり言わせてもらうと、俺好みにしたいんなら、ミシェルという人格を消すしかないな」
「そ、そんな、わたしの性格全てが駄目だって言うんですか!」
「人間には合う合わないってやつがあるんだよ。お前の場合は多くの人間が合わないと言いそうな珍しいタイプだ。それから伝えておくが、どうにかして直されても意味がない。俺には婚約者がいるんでな」
「……婚約者?」
ミシェルが震える声で聞き返す。
私も初耳だったので驚いてフェリックスを見ると、彼は口元に笑みを浮かべて私を見つめ返してきた。
「知らなかったわ。フェリックス、あなた、婚約者がいるんなら、こんな所にいたら駄目じゃないの」
私が驚いているので、婚約者が私ではないと知ったミシェルは明るい表情になって言う。
「で、では、フェリックス様はシェリルさんのことを諦めたんですね!」
「そんなわけないだろ」
フェリックスは大きな息を吐いたあと、話しを続ける。
「俺の婚約者はシェリルだ。正式にシド公爵家からも許可をもらってる。あ、シェリルが承諾すればという条件付きだけどな」
「はい!? ちょっとフェリックス、あなた、何を考えてるのよ!?」
「何を考えてるって、前から言ってただろ。大体、俺は5年前にもシェリルとの婚約を望んでたんだ」
困惑する私の背中をなだめるように撫でてから、フェリックスはミシェルに向き直る。
「俺はシェリル以外の女性と結婚するつもりはない。俺の妻になりたいみたいだが諦めてくれ。ミシェルには単ミシェルに似合う男を探せよ」
「そんな!」
ミシェルがポロポロと涙を流し、両手で顔を覆って泣き始めた。
フェリックスがミシェルが人妻だから駄目だと言わなかったのは、デイクスがすでに離婚届を役所に提出しているからと、既婚者だから駄目だなんて言ったら、ミシェルが調子に乗る恐れがある。
それにしても、私の知らないところで、婚約の話がされていたなんて!
少し悩んでから答えたかったけれど、そうすればミシェルに一時でも希望を与えてしまう。
それは腹立たしいから、答えはイエスしかない。
そして、それをわかっていてこの場で言うフェリックスはずるい。
軽くフェリックスを睨んでから、私はミシェルに言った。
「ミシェルさん、私はフェリックスと婚約します。あなたはどうしても私に負けたくないようだけど、フェリックスのことは諦めて」
「嫌よ! 私がシェリルさんに負けるわけない! 平民なんかに負けるもんですか!」
ミシェルは両手を顔から離して叫んだ。
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