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4 近づいては遠ざかる ④
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ある日の夕方、業務を終えて家に帰ろうとしていた時だった。先日、ウィルに余計なことを吹き込んだ人物。アーク・キャンベルと執務室前の廊下で顔を合わせてしまった。
「よう。今日も相変わらず、地味な顔してるな」
「ごきげんよう、キャンベル卿」
彼とはウィルほどではないが、長い付き合いだ。伯爵家の次男なので、私より爵位は上になる。
アークは長身痩躯で、背中まである長い茶色の髪を後ろで一つにまとめている。整った顔立ちではあるが、性格が軽薄だからか、見た目も同じように見える。
彼は昔から私のことを嫌っていて、見下してもいる。
「そろそろ、ウィルと別れたらどうだ」
「婚約者であって、別れるも何も付き合ってもいません」
「だから解消しろって言ってんだよ」
「それはウィルに言ったらどうですか」
「言っても無駄だから、お前に言っているんた。あ、それより、噂の彼とはどうなんだよ」
早く帰ってルクの散歩に行きたいのに、アークに捕まってしまった。。
私のことが嫌いなら、放っておいてくれたらいいのに。
「キャンベル卿、嘘の話を流すのはやめていただけませんか?」
「嘘の話?」
「私と調理見習いの彼の話です。ウィルになんて言ったんですか?」
「おいおい、ウィルじゃないだろ、ウィリアム様、だろ」
この男は老若問わず、女性は大好きなくせに私のことだけは嫌っている。というか、自分に許可なくウィルに近付く女性は、みんな敵らしい。
「それは失礼いたしました。で、あなたはウィリアム様にどんな話をしたんですか?」
「その男とお前がすごくお似合いだって話をしたんだよ。ウィルはふぅん、ってそれだけだったぜ」
アークはお前は相手にされてないんだと言わんばかりに、嬉しそうな顔で言う。
彼には私のウィルへの気持ちをはっきりと伝えたことはないが、気付いているから、こんなことを言うんだろう。
本当に性格が悪い。
「ウィリアム様の反応はいいんです。そんなことではなくて、嘘の話をするのはどうかと言っているんです」
「お似合いと思ってるのは嘘じゃないぞ? 平民と没落しかけている貴族ならお似合いじゃないか」
「あなたねぇ」
さすがの私も頭にきてしまい、我慢をやめて言い返そうとした時だった。執務室の扉が開き、ウィルが出てくると、私とアークの間に立って彼に尋ねる。
「アクアに何か用かな?」
「え、あ、いや。そういうわけでは……。あ、あの、挨拶していたんだよ」
「そうは聞こえなかったけどね。没落しかけている貴族、とか言ってなかった?」
「いや、え、あ、そんな失礼なことは」
ウィルに睨まれたからか、アークはしどろもどろになって否定しようとしたけれど、すかさず私が告げ口する。
「没落しかけている貴族って言っていました!」
「おい、お前!」
「アーク」
ウィルの声がいつもよりも低い。
ウィルは驚いている私の肩を抱いて引き寄せると、アークに向かって続ける。
「彼女の両親は俺にとっても大事な人達なんだ。悪く言うのなら、君でも許さない」
「申し訳ありません」
「……ウィリアム様」
ウィルの言葉に感動してしまい、涙目で彼を見つめると、彼は眉間にシワを寄せる。
「ウィリアム様って……、どうしてそんな呼び方をするんですか」
「キャンベル卿がウィルって呼んではいけないって言ったんです」
彼の腕の中で悲しげな声で言うと、アークが睨んできたが、悲しんでいるふりを続けた。
「屋敷の使用人にはウィリアムではなく、ウィルと呼ぶように伝えていることは知っているでしょう。それに」
ぎゅう、と彼の腕の力が強まって、密着度が高くなり、こんな時なのにドキドキしてしまう。
「彼女は特別です」
ウィルの言葉に鼓動が早くなる。
……特別って言った?
「まあ、それは彼女とは俺も長い付き合いですし、言いたいことはわかりますが」
アークが罰が悪そうな顔で頷いた。
あ、ああ、特別って、幼なじみの意味なのね。期待した私が馬鹿だった。いや、普通はあの言葉で期待なんかしないのか。
「ウィル様、今日はとても疲れましたので、ここで失礼いたします」
深々と一礼してから、アークのほうに振り返る。
「キャンベル卿とは二度とお会いしたくありません。では、さようなら」
「気をつけて帰るんですよ」
アークは何も言ってこなかったが、ウィルは手を振ってくれた。私は笑顔で彼に一礼し、睨んでいるアークのことは無視して帰途についた。
「よう。今日も相変わらず、地味な顔してるな」
「ごきげんよう、キャンベル卿」
彼とはウィルほどではないが、長い付き合いだ。伯爵家の次男なので、私より爵位は上になる。
アークは長身痩躯で、背中まである長い茶色の髪を後ろで一つにまとめている。整った顔立ちではあるが、性格が軽薄だからか、見た目も同じように見える。
彼は昔から私のことを嫌っていて、見下してもいる。
「そろそろ、ウィルと別れたらどうだ」
「婚約者であって、別れるも何も付き合ってもいません」
「だから解消しろって言ってんだよ」
「それはウィルに言ったらどうですか」
「言っても無駄だから、お前に言っているんた。あ、それより、噂の彼とはどうなんだよ」
早く帰ってルクの散歩に行きたいのに、アークに捕まってしまった。。
私のことが嫌いなら、放っておいてくれたらいいのに。
「キャンベル卿、嘘の話を流すのはやめていただけませんか?」
「嘘の話?」
「私と調理見習いの彼の話です。ウィルになんて言ったんですか?」
「おいおい、ウィルじゃないだろ、ウィリアム様、だろ」
この男は老若問わず、女性は大好きなくせに私のことだけは嫌っている。というか、自分に許可なくウィルに近付く女性は、みんな敵らしい。
「それは失礼いたしました。で、あなたはウィリアム様にどんな話をしたんですか?」
「その男とお前がすごくお似合いだって話をしたんだよ。ウィルはふぅん、ってそれだけだったぜ」
アークはお前は相手にされてないんだと言わんばかりに、嬉しそうな顔で言う。
彼には私のウィルへの気持ちをはっきりと伝えたことはないが、気付いているから、こんなことを言うんだろう。
本当に性格が悪い。
「ウィリアム様の反応はいいんです。そんなことではなくて、嘘の話をするのはどうかと言っているんです」
「お似合いと思ってるのは嘘じゃないぞ? 平民と没落しかけている貴族ならお似合いじゃないか」
「あなたねぇ」
さすがの私も頭にきてしまい、我慢をやめて言い返そうとした時だった。執務室の扉が開き、ウィルが出てくると、私とアークの間に立って彼に尋ねる。
「アクアに何か用かな?」
「え、あ、いや。そういうわけでは……。あ、あの、挨拶していたんだよ」
「そうは聞こえなかったけどね。没落しかけている貴族、とか言ってなかった?」
「いや、え、あ、そんな失礼なことは」
ウィルに睨まれたからか、アークはしどろもどろになって否定しようとしたけれど、すかさず私が告げ口する。
「没落しかけている貴族って言っていました!」
「おい、お前!」
「アーク」
ウィルの声がいつもよりも低い。
ウィルは驚いている私の肩を抱いて引き寄せると、アークに向かって続ける。
「彼女の両親は俺にとっても大事な人達なんだ。悪く言うのなら、君でも許さない」
「申し訳ありません」
「……ウィリアム様」
ウィルの言葉に感動してしまい、涙目で彼を見つめると、彼は眉間にシワを寄せる。
「ウィリアム様って……、どうしてそんな呼び方をするんですか」
「キャンベル卿がウィルって呼んではいけないって言ったんです」
彼の腕の中で悲しげな声で言うと、アークが睨んできたが、悲しんでいるふりを続けた。
「屋敷の使用人にはウィリアムではなく、ウィルと呼ぶように伝えていることは知っているでしょう。それに」
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「彼女は特別です」
ウィルの言葉に鼓動が早くなる。
……特別って言った?
「まあ、それは彼女とは俺も長い付き合いですし、言いたいことはわかりますが」
アークが罰が悪そうな顔で頷いた。
あ、ああ、特別って、幼なじみの意味なのね。期待した私が馬鹿だった。いや、普通はあの言葉で期待なんかしないのか。
「ウィル様、今日はとても疲れましたので、ここで失礼いたします」
深々と一礼してから、アークのほうに振り返る。
「キャンベル卿とは二度とお会いしたくありません。では、さようなら」
「気をつけて帰るんですよ」
アークは何も言ってこなかったが、ウィルは手を振ってくれた。私は笑顔で彼に一礼し、睨んでいるアークのことは無視して帰途についた。
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