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1 家族と婚約者の悪戯
男爵家の長女であり、もうすぐ18歳になる私、アイリス・ノマドは、もう何年も家族の趣味によって悩まされ続けてきた。
それはとても悪趣味なもので、いたずらを仕掛け、仕掛けた相手の反応を見て楽しむというものだった。
腹の立つ事に両親だけでなく、2つ年下の妹のココルまでがそうだったから、この10年以上、私に心安まる日などなかった。
だから、夜会にはできるだけ出席しないようにしていたし、貴族との付き合いも少なくしていた。
ある日、公爵家主催の夜会の招待状が家に届いた。
最近はノマド家宛の夜会の招待状などは、家族に見つからないように私が受け取り、欠席のお返事を送っていた。
けれど、今回は運悪く、私が仕事に出かけている間に、両親が先に見つけてしまい、気が付いた時には出席の返事を送ってしまっていた。
ちょうど、その夜会に私の婚約者も出席する予定だったので、欠席させる事は諦め、監視するつもりで、私も出席する事に決めた。
そして日にちは過ぎ、私の家からだいぶ離れた場所にある公爵家に何日もかけて辿り着き、久しぶりの夜会を楽しんでいた時だった。
「アイリス、話があるんだ」
「いきなりどうしたの?」
2つ年上の婚約者、男爵令息のロバート・デヴァイスに深刻そうな顔で話しかけられて首を傾げた。
黒のタキシードに身を包んだロバートは中肉中背のダークブラウンの短髪に髪と同じ色の瞳。
爽やかな顔立ちで笑った顔が子供みたいに可愛くて、あまり年上だと思った事はなかった。
そんな彼は朝からずっと様子がおかしかった。
気にはなってはいたけれど、聞いても何も答えてくれなかったし、パーティーが始まってからは、ここまで来た以上は楽しもうと、会場に用意されたビュッフェの料理に舌鼓をうっていた。
幸せな気持ちだったのに、私に話しかけてきた彼の顔を見て、そんな気持ちは吹き飛んでしまい、彼からの言葉を待つ。
すると、ロバートは視線をさまよわせながら口を開く。
「実はさ、俺、君の妹のココルと付き合ってるんだ」
「……はい?」
「だから、俺はココルと付き合ってるんだって言ったんだよ!」
「……あなた、自分が何を言っているかわかってるの?」
ロバートを睨んで聞き返した時、私の妹のココルが、甲高い声をあげた。
「きゃー! ちょっと待って! ロバートったら駄目よ!」
ピンク色のプリンセスラインのドレスに身を包んだココルは自分の目の前位にたっていた人達をかきわけ、私達の元にたどり着くと続ける。
「ちょっと、ロバート! もしかしてもう私達の事を話しちゃったの!? 婚約破棄と私達の交際宣言は、2人で一緒にしようって言ったじゃない!」
わざとらしく周りに聞こえる様に大きな声で叫んだココルは、ツインテールにした黒髪と豊満な胸を揺らして、ロバートを上目遣いで見た。
近くで皿を持って料理を物色していた何人かが、私達の方に好奇の眼差しを向けているのがわかって、私は今すぐここから立ち去りたい気持ちになった。
「悪い、アイリス! ココルの言うとおりなんだ! 俺と婚約解消してくれ! そして、俺とココルの幸せを願って欲しい!」
「お願いお姉さま。私とロバートの婚約を認めてちょうだい!」
「あなた達、何を言ってるの……?」
動揺が隠しきれず、自分の声が震えているのがわかった。
この2人がそんな関係になっていただなんて、思いもよらなかった。
ストレートの黒髪にダークブラウンの瞳、小顔までは姉妹2人共一緒でも、顔の作りは妹の方が目がぱっちりしていて、とても可愛らしい。
私も二重ではあるけれども、目が大きいわけでもなく、目立って可愛いわけでもない、普通の顔立ちだ。
体型もココルはグラマーで、私はスレンダー。
好みもあるし、ロバートがココルに乗り換えてもおかしくはない。
そう! おかしくはないのだけど、そんな事を、今、この場で言う必要あるの?
本来なら人のいないところで、お互いの両親も含めて話すべき話だわ。
「アイリス、ココルに譲ってやりなさい」
「そうよ、アイリス、あなたはお姉さんなんだから」
呆然としていると、お父さまとお母さまが近寄ってきた。
何が楽しいのか顔には満面の笑みを浮かべている。
「ごめんなさいね、お姉さま」
「悪いね、アイリス」
そう言って、ロバートがココルの肩を抱いて自分のほうに引き寄せた。
それを見た私は、まだ食べ物が残っている皿とフォークを、目の前にあった長テーブルの上に置くと頷く。
「わかったわ。好きなようにして。そのかわり、手続きは自分達でしてください」
――本当に最悪だわ。妹に乗り換えられた男爵令嬢なんて、貴族が相手にしてくれるとは思えない。
心の中でそう叫び、震える声で答えてから踵を返す。
すると突然、ココルとロバート、そして、両親が吹き出す声が聞こえた。
「ちょっと、お姉さま! 何を真に受けてるのよ!? 本気なわけないじゃない! いつものいたずらよ。い・た・ず・ら」
ココルが笑いながら、私の肩をトントンと叩き、振り返ると、ロバートは眉を寄せて私を責める。
「ひどいなアイリス。君のことを信じていたのに。そこは嫌がってくれないと駄目じゃないか。簡単に受け入れてしまうなんてショックだよ」
そう言い終えたあと、ロバートは悲しそうな顔をしてしゅんと肩を落とした。
――悲しい気分になっているのはこっちの方だわ!
そんなロバートを見たお母さまが苦笑する。
「ロバートごめんなさいね。この子は冗談の通じない子なのよ。アイリス、ロバートに謝りなさい。彼が傷ついているじゃないの」
「本当にアイリスは冗談の通じない奴だな。でも、アイリスはいつも面白い反応をしてくれるから、イタズラのしがいがある。だけどほら、周りの人もお前のせいで困惑してるだろ。謝りなさい、アイリス。ロバートだけじゃなく、ここにいる人達全員にだ!」
お父様の言葉を聞いた時点で、私の中で何かがぶつんと切れた音がした。
「どうして私が謝らないといけないんですか?」
まるで本当の家族みたいに仲良く横一列に並んでいる両親とココル、そしてロバートを順に睨んで聞いた。
「なんですって? アイリス、あなた、今、なんて言ったの?」
お母さまに聞き返され、怒りと悔しさと羞恥心で喚き散らしたくなる気持ちを何とかおさえて、先程の言葉を繰り返す。
「どうして私が謝らなければならないんですか」
「何を言ってるの、あなたが謝るのが普通でしょう? さっきの話がイタズラだって気付かない、あなたがおかしいんじゃないの」
お母様が憐れむ目で私を見つめる。
「そうよ、お姉さま。冷静に考えたらわかるでしょう? 私とロバートが仲良くしているところを見た事がある? あっはは。こんな嘘に騙されるだなんて思ってもみなかったわ。お姉様って、本当に馬鹿よね」
お母さまとココルは、顔を見合わせ合ったあと、今度は私に顔を向けて笑った。
「……そうね。騙された私も馬鹿だったのかもしれないわ」
でも、いくら家族といっても、やっていい事と悪い事がある。
ここは公爵家主催のパーティー会場で、明らかに両親達がやった事は迷惑行為だ。
それに、こんな嘘をロバートを巻き込んでまでするだなんて思っていなかった。
「私は前からイタズラに関しては、他の人には迷惑をかけないように、3人の間だけでするように言っていたはずよ! まさか、ロバートまで巻き込むなんて!」
叫ぶと、ロバートが首を横に振る。
「巻き込まれたんじゃない。自分から進んでやると決めたんだ。君の気持ちを確認できる良いチャンスだと思ったんだよ!」
「……何を言ってるのよ」
ロバートの言葉を聞いた私は自分の耳を疑った。
それはとても悪趣味なもので、いたずらを仕掛け、仕掛けた相手の反応を見て楽しむというものだった。
腹の立つ事に両親だけでなく、2つ年下の妹のココルまでがそうだったから、この10年以上、私に心安まる日などなかった。
だから、夜会にはできるだけ出席しないようにしていたし、貴族との付き合いも少なくしていた。
ある日、公爵家主催の夜会の招待状が家に届いた。
最近はノマド家宛の夜会の招待状などは、家族に見つからないように私が受け取り、欠席のお返事を送っていた。
けれど、今回は運悪く、私が仕事に出かけている間に、両親が先に見つけてしまい、気が付いた時には出席の返事を送ってしまっていた。
ちょうど、その夜会に私の婚約者も出席する予定だったので、欠席させる事は諦め、監視するつもりで、私も出席する事に決めた。
そして日にちは過ぎ、私の家からだいぶ離れた場所にある公爵家に何日もかけて辿り着き、久しぶりの夜会を楽しんでいた時だった。
「アイリス、話があるんだ」
「いきなりどうしたの?」
2つ年上の婚約者、男爵令息のロバート・デヴァイスに深刻そうな顔で話しかけられて首を傾げた。
黒のタキシードに身を包んだロバートは中肉中背のダークブラウンの短髪に髪と同じ色の瞳。
爽やかな顔立ちで笑った顔が子供みたいに可愛くて、あまり年上だと思った事はなかった。
そんな彼は朝からずっと様子がおかしかった。
気にはなってはいたけれど、聞いても何も答えてくれなかったし、パーティーが始まってからは、ここまで来た以上は楽しもうと、会場に用意されたビュッフェの料理に舌鼓をうっていた。
幸せな気持ちだったのに、私に話しかけてきた彼の顔を見て、そんな気持ちは吹き飛んでしまい、彼からの言葉を待つ。
すると、ロバートは視線をさまよわせながら口を開く。
「実はさ、俺、君の妹のココルと付き合ってるんだ」
「……はい?」
「だから、俺はココルと付き合ってるんだって言ったんだよ!」
「……あなた、自分が何を言っているかわかってるの?」
ロバートを睨んで聞き返した時、私の妹のココルが、甲高い声をあげた。
「きゃー! ちょっと待って! ロバートったら駄目よ!」
ピンク色のプリンセスラインのドレスに身を包んだココルは自分の目の前位にたっていた人達をかきわけ、私達の元にたどり着くと続ける。
「ちょっと、ロバート! もしかしてもう私達の事を話しちゃったの!? 婚約破棄と私達の交際宣言は、2人で一緒にしようって言ったじゃない!」
わざとらしく周りに聞こえる様に大きな声で叫んだココルは、ツインテールにした黒髪と豊満な胸を揺らして、ロバートを上目遣いで見た。
近くで皿を持って料理を物色していた何人かが、私達の方に好奇の眼差しを向けているのがわかって、私は今すぐここから立ち去りたい気持ちになった。
「悪い、アイリス! ココルの言うとおりなんだ! 俺と婚約解消してくれ! そして、俺とココルの幸せを願って欲しい!」
「お願いお姉さま。私とロバートの婚約を認めてちょうだい!」
「あなた達、何を言ってるの……?」
動揺が隠しきれず、自分の声が震えているのがわかった。
この2人がそんな関係になっていただなんて、思いもよらなかった。
ストレートの黒髪にダークブラウンの瞳、小顔までは姉妹2人共一緒でも、顔の作りは妹の方が目がぱっちりしていて、とても可愛らしい。
私も二重ではあるけれども、目が大きいわけでもなく、目立って可愛いわけでもない、普通の顔立ちだ。
体型もココルはグラマーで、私はスレンダー。
好みもあるし、ロバートがココルに乗り換えてもおかしくはない。
そう! おかしくはないのだけど、そんな事を、今、この場で言う必要あるの?
本来なら人のいないところで、お互いの両親も含めて話すべき話だわ。
「アイリス、ココルに譲ってやりなさい」
「そうよ、アイリス、あなたはお姉さんなんだから」
呆然としていると、お父さまとお母さまが近寄ってきた。
何が楽しいのか顔には満面の笑みを浮かべている。
「ごめんなさいね、お姉さま」
「悪いね、アイリス」
そう言って、ロバートがココルの肩を抱いて自分のほうに引き寄せた。
それを見た私は、まだ食べ物が残っている皿とフォークを、目の前にあった長テーブルの上に置くと頷く。
「わかったわ。好きなようにして。そのかわり、手続きは自分達でしてください」
――本当に最悪だわ。妹に乗り換えられた男爵令嬢なんて、貴族が相手にしてくれるとは思えない。
心の中でそう叫び、震える声で答えてから踵を返す。
すると突然、ココルとロバート、そして、両親が吹き出す声が聞こえた。
「ちょっと、お姉さま! 何を真に受けてるのよ!? 本気なわけないじゃない! いつものいたずらよ。い・た・ず・ら」
ココルが笑いながら、私の肩をトントンと叩き、振り返ると、ロバートは眉を寄せて私を責める。
「ひどいなアイリス。君のことを信じていたのに。そこは嫌がってくれないと駄目じゃないか。簡単に受け入れてしまうなんてショックだよ」
そう言い終えたあと、ロバートは悲しそうな顔をしてしゅんと肩を落とした。
――悲しい気分になっているのはこっちの方だわ!
そんなロバートを見たお母さまが苦笑する。
「ロバートごめんなさいね。この子は冗談の通じない子なのよ。アイリス、ロバートに謝りなさい。彼が傷ついているじゃないの」
「本当にアイリスは冗談の通じない奴だな。でも、アイリスはいつも面白い反応をしてくれるから、イタズラのしがいがある。だけどほら、周りの人もお前のせいで困惑してるだろ。謝りなさい、アイリス。ロバートだけじゃなく、ここにいる人達全員にだ!」
お父様の言葉を聞いた時点で、私の中で何かがぶつんと切れた音がした。
「どうして私が謝らないといけないんですか?」
まるで本当の家族みたいに仲良く横一列に並んでいる両親とココル、そしてロバートを順に睨んで聞いた。
「なんですって? アイリス、あなた、今、なんて言ったの?」
お母さまに聞き返され、怒りと悔しさと羞恥心で喚き散らしたくなる気持ちを何とかおさえて、先程の言葉を繰り返す。
「どうして私が謝らなければならないんですか」
「何を言ってるの、あなたが謝るのが普通でしょう? さっきの話がイタズラだって気付かない、あなたがおかしいんじゃないの」
お母様が憐れむ目で私を見つめる。
「そうよ、お姉さま。冷静に考えたらわかるでしょう? 私とロバートが仲良くしているところを見た事がある? あっはは。こんな嘘に騙されるだなんて思ってもみなかったわ。お姉様って、本当に馬鹿よね」
お母さまとココルは、顔を見合わせ合ったあと、今度は私に顔を向けて笑った。
「……そうね。騙された私も馬鹿だったのかもしれないわ」
でも、いくら家族といっても、やっていい事と悪い事がある。
ここは公爵家主催のパーティー会場で、明らかに両親達がやった事は迷惑行為だ。
それに、こんな嘘をロバートを巻き込んでまでするだなんて思っていなかった。
「私は前からイタズラに関しては、他の人には迷惑をかけないように、3人の間だけでするように言っていたはずよ! まさか、ロバートまで巻き込むなんて!」
叫ぶと、ロバートが首を横に振る。
「巻き込まれたんじゃない。自分から進んでやると決めたんだ。君の気持ちを確認できる良いチャンスだと思ったんだよ!」
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