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第一章 誰かの代わりになるのはもうやめました!
プロローグ
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レフス王国の王城内の大広間には多くの人が集まっていた。
王族や高位貴族の当主だけでなく、隣国のズキチーケ王国の国王夫妻も難しい表情で参席している。
彼らの視線の先にはフリルがふんだんに使われたピンク色のドレスを着た若い女性がいる。
木製の楕円形のテーブルを囲み、話し合いが始まったが、問題の人物は泣き真似をしているだけで会話に参加しようとはしなかった。
「元王女の逃亡の件ですが、ズキチーケ王国側はどうされるおつもりですか?」
レフス王国の第二王子からの質問に、問われた国王が口を開く前に、ピンク色のドレスの女性が立ち上がり、真向かいに座る女性に命令した。
「ロゼリア、ごめんなさい。あなたに迷惑をかけたと思っているわ。反省しているの。本当ならばあなたのいる場所に私がいるはずだった。私は自分のいるべき場所に戻ってきたわ。だから、その居場所を私に譲って!」
ロゼリアと呼ばれた女は、自分に命令した元王女、ノエルファを冷ややかな目で見つめた。
ロゼリアとノエルファは、彼女たちをよく知る人物でしか判断ができないほどに瓜二つの顔立ちをしていた。
見つめ返されたノエルファは、ロゼリアを今までとは別人のようだと思ったが、すぐにその考えを否定した。
卑屈になるように育てられた精神は、そう簡単になおるものではないと、ノエルファは思い込んでいた。
自分に注目が集まっていることを感じ取りながら、ロゼリアは目を閉じ、しばらくするとゆっくりと開いた。
「承知いたしました」
ロゼリアが答えると、静まり返っていた大広間内は一気に騒がしくなった。
「何を考えてるんだ?」
左隣に座る端正な顔立ちの男性、ルディウスに問われたロゼリアは、微笑んで答える。
「自暴自棄になっているわけじゃないから安心して。私はロゼリアで、ノエルファ様ではないことを証明したいの」
「そんなことはみんなわかってる」
「あなたや両国の両陛下はわかってくれていると信じてる。でもね、私やノエルファ様のことを知らない人がほとんどよ。まだ、ノエルファ様に同情している人たちがいる」
「本性を暴くつもりか」
「そうよ」
ロゼリアはうなずくと、少しだけ身を乗り出し、ルディウスの左隣に座る、彼の兄に話しかける。
「ラブック殿下、あなたが望んでいたノエルファ様が現れました。ノエルファ様は母国に戻れば反逆者として牢に入れられてしまうでしょう。彼女はあなたがずっと愛してきた人です。私を解放し、ノエルファ様を選んでくださいますね?」
ロゼリアが自分のほしい答えをもらおうと、ラブックを誘導していることを、この場にいた多くの貴族が感じ取った。だが、当の本人であるラブックは気づいていない。
さわやかな笑みを浮かべて、ロゼリアとノエルファを交互に見つめて話す。
「当たり前だよ。やっと求めていた人が手に入るんだ。このチャンスを逃すはずがないよね」
「何があっても答えを変えることはありませんね?」
「もちろんだ」
「皆さま、証人になってくださいませんか」
黙り込んで自分たちを見つめている国王たちにロゼリアが願うと、ラブック以外は無言でうなずいた。
その反応に満面の笑みを浮かべたあと、ロゼリアは頭を下げる。
「ありがとうございます」
ロゼリアは顔を上げ、すぐにラブックに話しかける。
「ところでラブック殿下、あなたが待っていたお相手ですが、ノエルファ様ではございません」
「は? ロゼリア、いい加減にしなよ。多くの人が聞いてるんだ。そんな嘘に僕が騙されるわけがないだろう?
「嘘ではありません」
「ふざけないでくれ。ねえノエルファ、君は僕のことを覚えているよね?」
ノエルファの記憶ではラブックに会ったのは初めてだった。なぜなら、いつもロゼリアが彼女の代わりにラブックたちに会っていたからだ。
問われたノエルファは「え……、ええ」と自信なさげに首を縦に振った。
「ほら見てみなよ。やっぱり僕が待っていた人だ」
勝ち誇った笑みを浮かべるラブックを見た両国の国王夫妻は失笑を隠せなかった。
ロゼリアがノエルファの代わりを務めていたことを考えれば、すぐにわかることなのに、それに気づくことができない王太子を哀れに思っていた。
ラブックの実の父であるレフス王国の国王が口を開く。
「では、ラブックとロゼリアの婚約を解消し、ラブックとノエルファの婚約とルディウスとロゼリアの婚約をこの場で決定する。それからラブック、お前に伝えなければならないことがある」
このあと、国王の口から発せられた話が信じられず、ラブックは言葉を失うことになるのだった。
王族や高位貴族の当主だけでなく、隣国のズキチーケ王国の国王夫妻も難しい表情で参席している。
彼らの視線の先にはフリルがふんだんに使われたピンク色のドレスを着た若い女性がいる。
木製の楕円形のテーブルを囲み、話し合いが始まったが、問題の人物は泣き真似をしているだけで会話に参加しようとはしなかった。
「元王女の逃亡の件ですが、ズキチーケ王国側はどうされるおつもりですか?」
レフス王国の第二王子からの質問に、問われた国王が口を開く前に、ピンク色のドレスの女性が立ち上がり、真向かいに座る女性に命令した。
「ロゼリア、ごめんなさい。あなたに迷惑をかけたと思っているわ。反省しているの。本当ならばあなたのいる場所に私がいるはずだった。私は自分のいるべき場所に戻ってきたわ。だから、その居場所を私に譲って!」
ロゼリアと呼ばれた女は、自分に命令した元王女、ノエルファを冷ややかな目で見つめた。
ロゼリアとノエルファは、彼女たちをよく知る人物でしか判断ができないほどに瓜二つの顔立ちをしていた。
見つめ返されたノエルファは、ロゼリアを今までとは別人のようだと思ったが、すぐにその考えを否定した。
卑屈になるように育てられた精神は、そう簡単になおるものではないと、ノエルファは思い込んでいた。
自分に注目が集まっていることを感じ取りながら、ロゼリアは目を閉じ、しばらくするとゆっくりと開いた。
「承知いたしました」
ロゼリアが答えると、静まり返っていた大広間内は一気に騒がしくなった。
「何を考えてるんだ?」
左隣に座る端正な顔立ちの男性、ルディウスに問われたロゼリアは、微笑んで答える。
「自暴自棄になっているわけじゃないから安心して。私はロゼリアで、ノエルファ様ではないことを証明したいの」
「そんなことはみんなわかってる」
「あなたや両国の両陛下はわかってくれていると信じてる。でもね、私やノエルファ様のことを知らない人がほとんどよ。まだ、ノエルファ様に同情している人たちがいる」
「本性を暴くつもりか」
「そうよ」
ロゼリアはうなずくと、少しだけ身を乗り出し、ルディウスの左隣に座る、彼の兄に話しかける。
「ラブック殿下、あなたが望んでいたノエルファ様が現れました。ノエルファ様は母国に戻れば反逆者として牢に入れられてしまうでしょう。彼女はあなたがずっと愛してきた人です。私を解放し、ノエルファ様を選んでくださいますね?」
ロゼリアが自分のほしい答えをもらおうと、ラブックを誘導していることを、この場にいた多くの貴族が感じ取った。だが、当の本人であるラブックは気づいていない。
さわやかな笑みを浮かべて、ロゼリアとノエルファを交互に見つめて話す。
「当たり前だよ。やっと求めていた人が手に入るんだ。このチャンスを逃すはずがないよね」
「何があっても答えを変えることはありませんね?」
「もちろんだ」
「皆さま、証人になってくださいませんか」
黙り込んで自分たちを見つめている国王たちにロゼリアが願うと、ラブック以外は無言でうなずいた。
その反応に満面の笑みを浮かべたあと、ロゼリアは頭を下げる。
「ありがとうございます」
ロゼリアは顔を上げ、すぐにラブックに話しかける。
「ところでラブック殿下、あなたが待っていたお相手ですが、ノエルファ様ではございません」
「は? ロゼリア、いい加減にしなよ。多くの人が聞いてるんだ。そんな嘘に僕が騙されるわけがないだろう?
「嘘ではありません」
「ふざけないでくれ。ねえノエルファ、君は僕のことを覚えているよね?」
ノエルファの記憶ではラブックに会ったのは初めてだった。なぜなら、いつもロゼリアが彼女の代わりにラブックたちに会っていたからだ。
問われたノエルファは「え……、ええ」と自信なさげに首を縦に振った。
「ほら見てみなよ。やっぱり僕が待っていた人だ」
勝ち誇った笑みを浮かべるラブックを見た両国の国王夫妻は失笑を隠せなかった。
ロゼリアがノエルファの代わりを務めていたことを考えれば、すぐにわかることなのに、それに気づくことができない王太子を哀れに思っていた。
ラブックの実の父であるレフス王国の国王が口を開く。
「では、ラブックとロゼリアの婚約を解消し、ラブックとノエルファの婚約とルディウスとロゼリアの婚約をこの場で決定する。それからラブック、お前に伝えなければならないことがある」
このあと、国王の口から発せられた話が信じられず、ラブックは言葉を失うことになるのだった。
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