あなたと出会えたから 〜タイムリープ後は幸せになります!〜

風見ゆうみ

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32 増えていく謎

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「リリー、さっきの男性とはお知り合いなの? 友達ではないと言っていたけれど」
「知り合いといいますか、リュカ殿下がいなければ、あの人が私の婚約者になっていたんです」

 ティナ様が不思議そうに尋ねてきたので、苦笑して答えた。

 ティナ様は貴族の名前は知っていても顔は知らないらしく、アイザックの説明をすると眉根を寄せた。

「リリーが困っている感じだったから話しかけたんだけれど、役に立てたみたいで良かったわ」
「助けていただき、本当にありがとうございました」

 自分たちの教室の中に入ると、ティナ様を見たクラスメイトが一斉にざわついた。
 けれど、話しかけてくる勇気はないらしく、見守っているだけだ。
 出席番号順の席になっていたので、ティナ様を席まで案内してから横に立ち、話を再開する。

「あの人が婚約者にならなくて、本当に良かったです」
「そうね。なんだか、あなたに対して失礼な態度だったもの。それに個人の好みなんだけれど、リュカ殿下のほうが見た目も素敵よね」
「はい!」

 笑顔で頷いてから、慌てて口を押さえる。

 ここは素直に答えるべきじゃなかったわよね。

「ふふっ! リリーは正直なのね。でも、私もそう思うわ。まあ、私のお兄様たちにはかなわないけれど」

 ティナ様に笑われてしまった私は小さく頭を下げたあと、始業のベルが鳴る前に自分の席に着いた。

 その後、特に何かあるわけでもなく、その日の学園生活を無事に終えた私は家に帰り、早速、リュカに手紙を書くことにした。
 アイザックに話しかけられたこと、ティナ様と同じクラスになったことなどを書いてみた。
 本当なら、過去にはこんなことが起きたということも書きたかったけれど、検閲が入る恐れがあるためやめておいた。
 
 リュカに会いたいな。
 今日だけでいっぱい話したいことができたし。

 そんなことを考えてから、私は頭を抱える。

 私ったらどうしちゃったの。
 本当にリュカのことを好きになってるじゃないの!
  ……でも、迷惑じゃないわよね? 
 だって婚約者なんだもの。
 いつかは結婚するわけだし。

「好きって伝えたら、迷惑かしら?」

 私はぽつりと呟いたあと、急に恥ずかしくなってしまった。
 そのため、気持ちを切り替えて手紙の続きを書くことに集中した。


*****


 それから数日間はアイザックにも悩まされず、何事もなく過ごすことができた。
 といっても、時間を巻き戻す前とは交友関係が全く違うことになってはいた。
 以前は伯爵家以下の友人と学園生活を送っていた。
 でも、今回は第一王女とその友人であるアルカ公爵令嬢と過ごすことになってしまった。

 ノエル・アルカ様は私にとっては冤罪をかけられることになった相手だ。
 だから、仲良くすることに最初は抵抗を覚えていた。
 でも、考えてみれば彼女も私と同じく、テレサたちに巻き込まれた被害者だと考えると、ノエル様が悪い人間ではないこともあり、少しずつ打ち解けていった。

 楽しい学園生活を過ごしていた私だったけれど、そんな日はそう長くも続かなかった。

「リリーに紹介したい人がいるんだけど」

 ある日の放課後、帰り支度をしていた私にノエル様が話しかけてきた。
 嫌な予感がしつつも聞き返す。

「紹介したい人、ですか?」
「ええ。リリーと仲良くなりたいと言っている人がいるの。迷惑じゃなければ仲良くしてあげてほしいんだけど」

 相手がテレサかもしれないと思うと、迷惑なことこの上ない。
 でも、そんなことを言えるわけないわ。
 それに、テレサじゃない可能性もある。

「どんな方でしょうか?」

 緊張した面持ちで尋ねると、アルカ様は笑顔で答える。

「テレサ・タイディという子爵令嬢なんだけれど、リュカ殿下と婚約が決まったあなたと、ぜひお近付きになりたいみたいなの」
「……しばらく忙しいので、余裕のある時でかまわないでしょうか?」
「もちろんよ! 無理を言ってしまってごめんなさいね」
「いいえ」

 どうして子爵令嬢が公爵令嬢に頼み事なんてしてるのよ。
 しかも、私と仲良くなりたいだなんて!
 ノエル様もノリ気ではないようなのにお願いしてくるなんて、何か理由があるのかしら。

 申し訳無さそうにしているノエル様に尋ねる。

「お聞きしたいのですが、タイディ子爵令嬢が私に近付きたい理由が他に何かあったりしますでしょうか。リュカ殿下の婚約者だからという理由だけでは納得いかないんです。それに、それだけの理由では仲良くなる気にもなれません。」
「それはそうよね。明らかに権力目当てだもの。それだけの理由なら失礼な話よね。今度、彼女と話をする時に詳しく理由を聞いてみるわ」
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願い致します」
「謝らないで。こっちがお願いしているんだから」

 頭を下げると、ノエル様は苦笑したあと、挨拶をしてから教室を出て行った。

 テレサとは前回は紹介されて知り合ったわけじゃない。
 だから、確実に未来は変わっているはず。
 なのにどうして、テレサは私に近付こうとするの?
 アイザックが私に近付こうとする理由とテレサが私に近付こうとしている理由は一緒なのかもしれない。

 どうしたら、二人の考えを知ることができるのかしら。

 必死に考えたけれど答えが出るはずもなく、今度の休みに私はリュカに会いに行くことにした。
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