33 / 51
32 増えていく謎
しおりを挟む
「リリー、さっきの男性とはお知り合いなの? 友達ではないと言っていたけれど」
「知り合いといいますか、リュカ殿下がいなければ、あの人が私の婚約者になっていたんです」
ティナ様が不思議そうに尋ねてきたので、苦笑して答えた。
ティナ様は貴族の名前は知っていても顔は知らないらしく、アイザックの説明をすると眉根を寄せた。
「リリーが困っている感じだったから話しかけたんだけれど、役に立てたみたいで良かったわ」
「助けていただき、本当にありがとうございました」
自分たちの教室の中に入ると、ティナ様を見たクラスメイトが一斉にざわついた。
けれど、話しかけてくる勇気はないらしく、見守っているだけだ。
出席番号順の席になっていたので、ティナ様を席まで案内してから横に立ち、話を再開する。
「あの人が婚約者にならなくて、本当に良かったです」
「そうね。なんだか、あなたに対して失礼な態度だったもの。それに個人の好みなんだけれど、リュカ殿下のほうが見た目も素敵よね」
「はい!」
笑顔で頷いてから、慌てて口を押さえる。
ここは素直に答えるべきじゃなかったわよね。
「ふふっ! リリーは正直なのね。でも、私もそう思うわ。まあ、私のお兄様たちにはかなわないけれど」
ティナ様に笑われてしまった私は小さく頭を下げたあと、始業のベルが鳴る前に自分の席に着いた。
その後、特に何かあるわけでもなく、その日の学園生活を無事に終えた私は家に帰り、早速、リュカに手紙を書くことにした。
アイザックに話しかけられたこと、ティナ様と同じクラスになったことなどを書いてみた。
本当なら、過去にはこんなことが起きたということも書きたかったけれど、検閲が入る恐れがあるためやめておいた。
リュカに会いたいな。
今日だけでいっぱい話したいことができたし。
そんなことを考えてから、私は頭を抱える。
私ったらどうしちゃったの。
本当にリュカのことを好きになってるじゃないの!
……でも、迷惑じゃないわよね?
だって婚約者なんだもの。
いつかは結婚するわけだし。
「好きって伝えたら、迷惑かしら?」
私はぽつりと呟いたあと、急に恥ずかしくなってしまった。
そのため、気持ちを切り替えて手紙の続きを書くことに集中した。
*****
それから数日間はアイザックにも悩まされず、何事もなく過ごすことができた。
といっても、時間を巻き戻す前とは交友関係が全く違うことになってはいた。
以前は伯爵家以下の友人と学園生活を送っていた。
でも、今回は第一王女とその友人であるアルカ公爵令嬢と過ごすことになってしまった。
ノエル・アルカ様は私にとっては冤罪をかけられることになった相手だ。
だから、仲良くすることに最初は抵抗を覚えていた。
でも、考えてみれば彼女も私と同じく、テレサたちに巻き込まれた被害者だと考えると、ノエル様が悪い人間ではないこともあり、少しずつ打ち解けていった。
楽しい学園生活を過ごしていた私だったけれど、そんな日はそう長くも続かなかった。
「リリーに紹介したい人がいるんだけど」
ある日の放課後、帰り支度をしていた私にノエル様が話しかけてきた。
嫌な予感がしつつも聞き返す。
「紹介したい人、ですか?」
「ええ。リリーと仲良くなりたいと言っている人がいるの。迷惑じゃなければ仲良くしてあげてほしいんだけど」
相手がテレサかもしれないと思うと、迷惑なことこの上ない。
でも、そんなことを言えるわけないわ。
それに、テレサじゃない可能性もある。
「どんな方でしょうか?」
緊張した面持ちで尋ねると、アルカ様は笑顔で答える。
「テレサ・タイディという子爵令嬢なんだけれど、リュカ殿下と婚約が決まったあなたと、ぜひお近付きになりたいみたいなの」
「……しばらく忙しいので、余裕のある時でかまわないでしょうか?」
「もちろんよ! 無理を言ってしまってごめんなさいね」
「いいえ」
どうして子爵令嬢が公爵令嬢に頼み事なんてしてるのよ。
しかも、私と仲良くなりたいだなんて!
ノエル様もノリ気ではないようなのにお願いしてくるなんて、何か理由があるのかしら。
申し訳無さそうにしているノエル様に尋ねる。
「お聞きしたいのですが、タイディ子爵令嬢が私に近付きたい理由が他に何かあったりしますでしょうか。リュカ殿下の婚約者だからという理由だけでは納得いかないんです。それに、それだけの理由では仲良くなる気にもなれません。」
「それはそうよね。明らかに権力目当てだもの。それだけの理由なら失礼な話よね。今度、彼女と話をする時に詳しく理由を聞いてみるわ」
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願い致します」
「謝らないで。こっちがお願いしているんだから」
頭を下げると、ノエル様は苦笑したあと、挨拶をしてから教室を出て行った。
テレサとは前回は紹介されて知り合ったわけじゃない。
だから、確実に未来は変わっているはず。
なのにどうして、テレサは私に近付こうとするの?
アイザックが私に近付こうとする理由とテレサが私に近付こうとしている理由は一緒なのかもしれない。
どうしたら、二人の考えを知ることができるのかしら。
必死に考えたけれど答えが出るはずもなく、今度の休みに私はリュカに会いに行くことにした。
「知り合いといいますか、リュカ殿下がいなければ、あの人が私の婚約者になっていたんです」
ティナ様が不思議そうに尋ねてきたので、苦笑して答えた。
ティナ様は貴族の名前は知っていても顔は知らないらしく、アイザックの説明をすると眉根を寄せた。
「リリーが困っている感じだったから話しかけたんだけれど、役に立てたみたいで良かったわ」
「助けていただき、本当にありがとうございました」
自分たちの教室の中に入ると、ティナ様を見たクラスメイトが一斉にざわついた。
けれど、話しかけてくる勇気はないらしく、見守っているだけだ。
出席番号順の席になっていたので、ティナ様を席まで案内してから横に立ち、話を再開する。
「あの人が婚約者にならなくて、本当に良かったです」
「そうね。なんだか、あなたに対して失礼な態度だったもの。それに個人の好みなんだけれど、リュカ殿下のほうが見た目も素敵よね」
「はい!」
笑顔で頷いてから、慌てて口を押さえる。
ここは素直に答えるべきじゃなかったわよね。
「ふふっ! リリーは正直なのね。でも、私もそう思うわ。まあ、私のお兄様たちにはかなわないけれど」
ティナ様に笑われてしまった私は小さく頭を下げたあと、始業のベルが鳴る前に自分の席に着いた。
その後、特に何かあるわけでもなく、その日の学園生活を無事に終えた私は家に帰り、早速、リュカに手紙を書くことにした。
アイザックに話しかけられたこと、ティナ様と同じクラスになったことなどを書いてみた。
本当なら、過去にはこんなことが起きたということも書きたかったけれど、検閲が入る恐れがあるためやめておいた。
リュカに会いたいな。
今日だけでいっぱい話したいことができたし。
そんなことを考えてから、私は頭を抱える。
私ったらどうしちゃったの。
本当にリュカのことを好きになってるじゃないの!
……でも、迷惑じゃないわよね?
だって婚約者なんだもの。
いつかは結婚するわけだし。
「好きって伝えたら、迷惑かしら?」
私はぽつりと呟いたあと、急に恥ずかしくなってしまった。
そのため、気持ちを切り替えて手紙の続きを書くことに集中した。
*****
それから数日間はアイザックにも悩まされず、何事もなく過ごすことができた。
といっても、時間を巻き戻す前とは交友関係が全く違うことになってはいた。
以前は伯爵家以下の友人と学園生活を送っていた。
でも、今回は第一王女とその友人であるアルカ公爵令嬢と過ごすことになってしまった。
ノエル・アルカ様は私にとっては冤罪をかけられることになった相手だ。
だから、仲良くすることに最初は抵抗を覚えていた。
でも、考えてみれば彼女も私と同じく、テレサたちに巻き込まれた被害者だと考えると、ノエル様が悪い人間ではないこともあり、少しずつ打ち解けていった。
楽しい学園生活を過ごしていた私だったけれど、そんな日はそう長くも続かなかった。
「リリーに紹介したい人がいるんだけど」
ある日の放課後、帰り支度をしていた私にノエル様が話しかけてきた。
嫌な予感がしつつも聞き返す。
「紹介したい人、ですか?」
「ええ。リリーと仲良くなりたいと言っている人がいるの。迷惑じゃなければ仲良くしてあげてほしいんだけど」
相手がテレサかもしれないと思うと、迷惑なことこの上ない。
でも、そんなことを言えるわけないわ。
それに、テレサじゃない可能性もある。
「どんな方でしょうか?」
緊張した面持ちで尋ねると、アルカ様は笑顔で答える。
「テレサ・タイディという子爵令嬢なんだけれど、リュカ殿下と婚約が決まったあなたと、ぜひお近付きになりたいみたいなの」
「……しばらく忙しいので、余裕のある時でかまわないでしょうか?」
「もちろんよ! 無理を言ってしまってごめんなさいね」
「いいえ」
どうして子爵令嬢が公爵令嬢に頼み事なんてしてるのよ。
しかも、私と仲良くなりたいだなんて!
ノエル様もノリ気ではないようなのにお願いしてくるなんて、何か理由があるのかしら。
申し訳無さそうにしているノエル様に尋ねる。
「お聞きしたいのですが、タイディ子爵令嬢が私に近付きたい理由が他に何かあったりしますでしょうか。リュカ殿下の婚約者だからという理由だけでは納得いかないんです。それに、それだけの理由では仲良くなる気にもなれません。」
「それはそうよね。明らかに権力目当てだもの。それだけの理由なら失礼な話よね。今度、彼女と話をする時に詳しく理由を聞いてみるわ」
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願い致します」
「謝らないで。こっちがお願いしているんだから」
頭を下げると、ノエル様は苦笑したあと、挨拶をしてから教室を出て行った。
テレサとは前回は紹介されて知り合ったわけじゃない。
だから、確実に未来は変わっているはず。
なのにどうして、テレサは私に近付こうとするの?
アイザックが私に近付こうとする理由とテレサが私に近付こうとしている理由は一緒なのかもしれない。
どうしたら、二人の考えを知ることができるのかしら。
必死に考えたけれど答えが出るはずもなく、今度の休みに私はリュカに会いに行くことにした。
29
あなたにおすすめの小説
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
カナリア姫の婚約破棄
里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」
登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。
レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。
どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。
この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。
※他サイトでも投稿しています。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
【完結】王都に咲く黒薔薇、断罪は静かに舞う
なみゆき
ファンタジー
名門薬草家の伯爵令嬢エリスは、姉の陰謀により冤罪で断罪され、地獄の収容所へ送られる。 火灼の刑に耐えながらも薬草の知識で生き延び、誇りを失わず再誕を果たす。
3年後、整形と記録抹消を経て“外交商人ロゼ”として王都に舞い戻り、裏では「黒薔薇商会」を設立。
かつて自分を陥れた者たち
――元婚約者、姉、王族、貴族――に、静かに、美しく、冷酷な裁きを下していく。
これは、冤罪や迫害により追い詰められた弱者を守り、誇り高く王都を裂く断罪の物語。
【本編は完結していますが、番外編を投稿していきます(>ω<)】
*お読みくださりありがとうございます。
ブクマや評価くださった方、大変励みになります。ありがとうございますm(_ _)m
【完結】転生悪役っぽい令嬢、家族巻き込みざまぁ回避~ヒドインは酷いんです~
鏑木 うりこ
恋愛
転生前あまりにもたくさんのざまぁ小説を読みすぎて、自分がどのざまぁ小説に転生したか分からないエイミアは一人で何とかすることを速攻諦め、母親に泣きついた。
「おかあさまあ~わたし、ざまぁされたくないのですー!」
「ざまぁとはよくわからないけれど、語感が既に良くない感じね」
すぐに味方を見つけ、将来自分をざまぁしてきそうな妹を懐柔し……エイミアは学園へ入学する。
そして敵が現れたのでした。
中編くらいになるかなと思っております!
長い沈黙を破り!忘れていたとは内緒だぞ!?
ヒドインが完結しました!わーわー!
(*´-`)……ホメテ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる