追放された令嬢は追放先を繁栄させるために奔走する

風見ゆうみ

文字の大きさ
10 / 36
第一部

8  5歳の時に目覚めた能力

 木の扉の向こうには小さな部屋があり、奥にはまた扉が見えた。

 一番最初の部屋には若い警備兵が二人いて、リファエル殿下と私に頭を下げた。

「ようこそ、おいでくださいました」

 知らせをくれたお婆さんはロシナ様といい、殿下の乳母をされていたという。

「お世話になります」

 頭を下げると、ロシナ様は微笑み、警備兵の二人も立ち上がって頭を下げてくれた。

 彼らが座っていた椅子の近くには簡易テーブルがあり、そこには競豚の予想らしきものが書いてあった。

「今日の分ですか?」
「はい。今日は子豚なので余計に当てにくいんです。昨日は女性が一人勝ちしたと聞いて、僕たちも駄目元でやってみようと」
「そうなんですね。あの、紙とペンを貸してもらっても良いですか?」

 警備兵は不思議そうな顔をしつつも、私に紙とペンを渡してくれた。

 そこに、今日の予想を書いて渡す。

「最終レース、駄目元で賭けてみてください。駄目だったら賭けた分のお金はお渡ししますので」
「……わかりました」

 呆気にとられた顔をしつつも、フルージアの人だからか、嫌な顔をするでもなく素直に紙を受け取ってくれた。
 すると、殿下が尋ねてくる。

「公爵令嬢が競豚に興味があるのか」
「豚さんは可愛いですから」
「そうなのか? まあ、可愛くないとも言わないが、……可愛いか?」
「可愛いですわ」
 
 そんな話をしていた時に、奥の部屋から、また新たな若い男性がやって来て、警備兵二人と入れ替わった。

「交替時間なので行ってきます!」

 二人は紙を握りしめて、私たちが下りてきた階段を上っていく。

「最終レースの前に、君の弟についての話をするか」

 そう言って、殿下は私を奥の部屋へと案内してくれた。

 奥の部屋には応接セットと、私たちが入って来た扉以外にも三つの扉があった。

 黒のソファに座るようにすすめられ、腰を下ろすと、ロシナ様がお茶を運んできてくれた。

「早速、様子を確認するか」

 コの字型に置かれたソファの一人席に座った殿下は、ローテーブルの上に置かれていた大きな水晶玉に向かって手を伸ばした。

 すると、水晶玉が点滅し始める。

「こ、これは……?」
「話せる状態らしい」

 殿下はそう呟くと、右手の人差し指だけ水晶玉に触れた。

 その途端、点滅が止み、水晶玉の中に映像が映し出された。
 薄暗い中、二人の男性の姿が見えて、その内の一人の顔がわかった瞬間、私は立ち上がって叫んだ。

「グレイル!」

 男性二人は私の声が聞こえたのか、一斉にこちらに顔を向けた。
 二人共、身を隠すかのように黒の外套にフードを目深に被っている。
 周りも薄暗いし、体が揺れているから幌馬車の中にいるのかもしれない。

 グレイルと一緒にいる男性は驚くほどの眉目秀麗の男性で、その人が殿下に向かって話し掛ける。

「エル殿下、グレイル様を無事にそちらに連れていけそうです」
「お前の婚約者はどうした?」

 殿下が尋ねると、男性は眉根を寄せて答える。

「残りました」
「はあ? 残った!? 何してんだ!」
「そういう女性なんです」
「信じられねぇ」

 殿下は大きく息を吐いてから、こめかみを押さえた。

 事情はよくわからないけれど、私はグレイルが無事だったことが嬉しくて、水晶玉に映し出されたグレイルに話し掛ける。

「良かったわ、グレイル!」
「リーチェお姉様もご無事で良かったです。僕は、こちらにいるジェド様に助けていただいたんです」

 グレイルがジェド様を紹介してくれると、ジェド様は爽やかな笑みを浮かべて、私に無言で頭を下げた。

「弟を助けていただき、本当にありがとうございます」
「当然のことをしたまでです」

 その後はお互いに簡単な挨拶を交わし、合流した際に改めてお礼を言うことにした。
 二人との会話を終え、水晶玉がまた透明に戻ってから、殿下に尋ねる。

「あの、今のはどういう仕組みなのでしょう?」
「仕組みっつーか、魔法だな」
「ま、魔法?」

 聞き返すと、殿下は右手の人差し指を天井に向けて立てた。
 すると、指の先に火が出たかと思うと、すぐに消えて、今度は水が出てきて殿下の服を濡らした。

「ど、ど、どうやったらそんなことが?」
「だから魔法だって言ってんだろ」

 詳しく話を聞いてみると、両親の最期を見てしまった日から、特殊な力が使えるようになったとのことだった。

 水晶玉の不思議な出来事については、話したい相手が話せる状態にあり、鏡や窓など、人の姿が映せるものが近くにあるなら、どんなに遠くにいても会話できるらしい。
 そして、その近くの映像も見ることができるんだそう。

 すごい!
 と言いたいところだけど、力が生まれたのは両親の死がきっかけと聞くと、口にするのは憚られた。

 沈黙が続いた時、殿下が明るい声で話し掛けてくる。

「そろそろ最終レースの時間だな」

 殿下は水晶玉に手を向けると、また、水晶玉が点滅した。
 映し出されたのは競豚場だった。

「エル様! ちょうど今からです!」

 さっき出て行った二人は大きめの鏡を持参していた。
 興奮した様子で最終レースの様子を映せるだけ映してくれる。

 しばらくして結果が分かると、二人が興奮して叫ぶ。

「すごい! すごいです! 当たりました! 今夜は豪遊だあ! 美味しいもの買って帰りますね!」
「幸運の女神様も帰らずに待っていてくださいね! お金をお渡しします! ひゃっほーう!」

 はしゃぎまくっている二人を見た殿下は、呆れた顔をして映像を打ち切った。

「悪い。紹介していなかったから名前を知らないんだよ。つーか、はしゃぎすぎたよな」
「かまいませんわ。喜んでくださっているのなら嬉しいです」

 後から聞いたところによると、この日も他国の人間しか賭けておらず、私は、今までの最高額の勝ちを叩き出してしまっていたのだった。




感想 76

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

追放された宮廷花師が辺境の荒野に花を咲かせたら、王都の庭園だけが枯れ続けているようです

歩人
ファンタジー
「花を飾るだけの令嬢は不要だ」——王城の庭園を十年守った伯爵令嬢フローラは追放された。 翌月、王城の庭園が一夜にして枯れ果てる。さらに隣国への外交花束を用意できず国際問題に—— フローラの花束に込められた花言葉が、実は外交メッセージそのものだったのだ。 一方、辺境の荒野に降り立ったフローラが地面に触れると花が芽吹き始める。 荒野を花畑に変えていくスローライフの中で、花の感情が色で見える加護が目覚めて——。

【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】 聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。 「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」 甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!? 追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。