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8 反撃に向けて ③
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「王太子殿下の前でなんて失礼なことを!」
メイフはすでに下げているファリミナの頭を押さえつけて謝る。
「申し訳ございません! どうか無礼をお許しください!」
「申し訳ございません!」
頭を押さえつけられているという苛立ちよりも、やってしまったという焦りが強いファリミナは、されるがままに頭を下げた。
「……許せないので、裏に来てもらおうか」
王太子が目配せすると、ジョンソンは頷き、ファリミナに近づいてくる。
「さあ、オルフェン殿下の前で失礼な態度を取ったのだから、その理由を聞かせてもらおうか」
「は……はい」
(レック伯爵に似ている人が騎士団にいるんです。って伝えて信じてもらえるかしら)
なんとか切り抜けなければと思いながら、ジョンソンのあとに付いていく。
「あ、あの、あの娘は賢くないのです! こんな所に連れてきてしまい申し訳ございません! あの女とは縁を切りますので、何卒お許しください!」
メイフの声が聞こえてきた時、ファリミナはもうあの家に帰ることもできないと感じた。
(もう死ぬしかないの?)
ダンスホールの壇上の後ろにある控室に入ると、ジョンソンは扉を閉めるなり、絶望しているファリミナに話しかけた。
「君、ファリだよね?」
「……はい?」
「ほら、僕は騎士団のジョンソン。今日は小綺麗な格好してるけど、わかるだろ?」
「……やっぱり、ジョンソンさんはレック伯爵令息なのですか?」
「当たり。まあ、話が長くなりそうだし、とにかく座って」
「……失礼します」
ファリミナを椅子に座らせ、ジョンソンは立ったまま話す。
「うーん。せっかくオルフェン殿下の嫁候補が見つかったと思ったのに、まさかの既婚者だったとは残念」
「正確には偽者が既婚者であって、私は既婚者ではないのです」
「え? なに? どういうこと?」
困惑の表情を浮かべてジョンソンが聞き返した時、部屋の中にオルフェンが入ってきた。
「なんなんだ、あの男は。妻が失態を犯したのに自分は悪くないと言い訳ばかりだ。ここは妻を守るべきなんじゃないのか!」
「オルフェン殿下、そういう人間も世の中にはいますよ」
「腹が立つ」
一言呟いたあと、深呼吸したオルフェンはファリミナには優しい口調で話しかける。
「先に言っておくが、不敬だと言うつもりはない。ただ、どういうことか説明してくれ」
「は、はい!」
ファリミナは勢いよく立ち上がり、頭を下げ、正直に弁明する。
「殿下に対しての発言ではなく、ジョンソン様が知り合いの方に似ていてつい驚いて声が出てしまいました。誠に申し訳ございません!」
「そのことについて聞いているんじゃない」
「……え、えっと。でしたら、何を説明すればよいのでしょうか」
ファリミナが困惑していると、呑気そうにジョンソンがぽんと手を打つ。
「殿下、顔、顔です!」
「……顔? ……ああ、そうだった」
オルフェンはこめかみを抑えながら続ける。
「ファリに確認したいんだが」
「……なんでしょうか」
「秘密を話さないと君をだまし続けることになる。それは個人的に嫌なんだ。だから、今から話すことは人に話さないようにしてほしい」
「……秘密ですか」
(秘密を知って、殺されたりしないわよね?)
ファリミナは助けを求めてジョンソンに目を向ける。彼は笑顔で頷いただけで、どちらの選択を選んでも良いと言っているように見えた。
(ジョンソンさんを、私の人の見る目を信じよう。……って、見る目なかったんだった!)
ファリミナは開き直ってオルフェンに答える。
「命の保証をしていただけるのであれば、秘密は守ります」
「もちろんだ」
オルフェンが柔らかな表情を歪めた瞬間、彼の顔はオルフの顔に変わった。
「オ、オルフさん!? えっ!? ど、どどっ、どうして顔が!? どういうこと!?」
「驚くよね。わかるわかる。あのさ、ファリさんは魔法って信じる?」
ジョンソンに尋ねられたファリは困惑しながらも頷く。
「今は魔法を使える人はいないと聞いていますが、今の時代に存在していても、おかしくはないと思っています」
「それなら話は早そうだ」
オルフェンはオルフの顔のままで話を続ける。
「俺は自分の顔のパーツを好きなように変えることができる魔法が使える」
「えっと、顔の大きさは変わらないけれど、目や口、鼻などは変えられるということですか?」
「そういうことだ。俺たちがなぜ騎士団にいるかは改めて話をするが、その前に聞きたい。君はどうして平民のふりをしているんだ?」
オルフェンに尋ねられ、ファリミナは一連の出来事をかいつまんで話をしたのだった。
メイフはすでに下げているファリミナの頭を押さえつけて謝る。
「申し訳ございません! どうか無礼をお許しください!」
「申し訳ございません!」
頭を押さえつけられているという苛立ちよりも、やってしまったという焦りが強いファリミナは、されるがままに頭を下げた。
「……許せないので、裏に来てもらおうか」
王太子が目配せすると、ジョンソンは頷き、ファリミナに近づいてくる。
「さあ、オルフェン殿下の前で失礼な態度を取ったのだから、その理由を聞かせてもらおうか」
「は……はい」
(レック伯爵に似ている人が騎士団にいるんです。って伝えて信じてもらえるかしら)
なんとか切り抜けなければと思いながら、ジョンソンのあとに付いていく。
「あ、あの、あの娘は賢くないのです! こんな所に連れてきてしまい申し訳ございません! あの女とは縁を切りますので、何卒お許しください!」
メイフの声が聞こえてきた時、ファリミナはもうあの家に帰ることもできないと感じた。
(もう死ぬしかないの?)
ダンスホールの壇上の後ろにある控室に入ると、ジョンソンは扉を閉めるなり、絶望しているファリミナに話しかけた。
「君、ファリだよね?」
「……はい?」
「ほら、僕は騎士団のジョンソン。今日は小綺麗な格好してるけど、わかるだろ?」
「……やっぱり、ジョンソンさんはレック伯爵令息なのですか?」
「当たり。まあ、話が長くなりそうだし、とにかく座って」
「……失礼します」
ファリミナを椅子に座らせ、ジョンソンは立ったまま話す。
「うーん。せっかくオルフェン殿下の嫁候補が見つかったと思ったのに、まさかの既婚者だったとは残念」
「正確には偽者が既婚者であって、私は既婚者ではないのです」
「え? なに? どういうこと?」
困惑の表情を浮かべてジョンソンが聞き返した時、部屋の中にオルフェンが入ってきた。
「なんなんだ、あの男は。妻が失態を犯したのに自分は悪くないと言い訳ばかりだ。ここは妻を守るべきなんじゃないのか!」
「オルフェン殿下、そういう人間も世の中にはいますよ」
「腹が立つ」
一言呟いたあと、深呼吸したオルフェンはファリミナには優しい口調で話しかける。
「先に言っておくが、不敬だと言うつもりはない。ただ、どういうことか説明してくれ」
「は、はい!」
ファリミナは勢いよく立ち上がり、頭を下げ、正直に弁明する。
「殿下に対しての発言ではなく、ジョンソン様が知り合いの方に似ていてつい驚いて声が出てしまいました。誠に申し訳ございません!」
「そのことについて聞いているんじゃない」
「……え、えっと。でしたら、何を説明すればよいのでしょうか」
ファリミナが困惑していると、呑気そうにジョンソンがぽんと手を打つ。
「殿下、顔、顔です!」
「……顔? ……ああ、そうだった」
オルフェンはこめかみを抑えながら続ける。
「ファリに確認したいんだが」
「……なんでしょうか」
「秘密を話さないと君をだまし続けることになる。それは個人的に嫌なんだ。だから、今から話すことは人に話さないようにしてほしい」
「……秘密ですか」
(秘密を知って、殺されたりしないわよね?)
ファリミナは助けを求めてジョンソンに目を向ける。彼は笑顔で頷いただけで、どちらの選択を選んでも良いと言っているように見えた。
(ジョンソンさんを、私の人の見る目を信じよう。……って、見る目なかったんだった!)
ファリミナは開き直ってオルフェンに答える。
「命の保証をしていただけるのであれば、秘密は守ります」
「もちろんだ」
オルフェンが柔らかな表情を歪めた瞬間、彼の顔はオルフの顔に変わった。
「オ、オルフさん!? えっ!? ど、どどっ、どうして顔が!? どういうこと!?」
「驚くよね。わかるわかる。あのさ、ファリさんは魔法って信じる?」
ジョンソンに尋ねられたファリは困惑しながらも頷く。
「今は魔法を使える人はいないと聞いていますが、今の時代に存在していても、おかしくはないと思っています」
「それなら話は早そうだ」
オルフェンはオルフの顔のままで話を続ける。
「俺は自分の顔のパーツを好きなように変えることができる魔法が使える」
「えっと、顔の大きさは変わらないけれど、目や口、鼻などは変えられるということですか?」
「そういうことだ。俺たちがなぜ騎士団にいるかは改めて話をするが、その前に聞きたい。君はどうして平民のふりをしているんだ?」
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