4 / 161
『第一話・1:ぬいぐるみ勇者、首吊られながらパンツの章突入!?』
しおりを挟む
朝露が残る森の小道。
木々の間から斜めに差す光が、ゆらりと揺れる緑を照らしていた。
鳥の声と、足元の湿った落ち葉の感触──空気には、土と苔の匂いがほんのりと混ざっている。
梢のあいだから射す光は霧に砕け、金色の粒となって宙を漂う。枝葉が揺れるたびに影が形を変え、世界そのものが呼吸しているようだった。
時おり、草葉の影で青白く光る胞子がふわりと浮かび、風に揺られて儚く散っていく。
その軌跡はまるで、誰かが空中に短い物語を描いては消していくようで、現実世界では決して見られない“幻想の呼吸”だった。
つい昨日、俺たちは森の奥にある小さな村を後にした。
村人たちは見送りながら「気をつけて」と笑っていたが、リリアは「たぶん大丈夫!」とだけ返し、元気いっぱいに森へ踏み出した。
──その声と笑顔が、いまも背中を押してくれている気がした。
「ねえワン太、もうちょっとで森を抜けるよ。……たぶん!♡」
(いや、“たぶん”って……お前また完全に道、分かってねぇだろ)
(……てか、俺がどうしてこんなぬいぐるみ姿で森の中にいるのかも、いまだに謎のままなんだけどな)
白いショルダーバッグの口から、俺──ぬいぐるみ“ワン太”は今日も顔だけ出している。
といっても中身は、ただの犬のマスコットじゃない。
俺の正体は、《エデン・フォース・オンライン》で世界を制した最強プレイヤー、犬飼颯太。
かつては“リリア”という美少女キャラを使い、魔王討伐から国家統一までやり遂げた伝説の男だ。
──で、今はそのリリアに拾われて、なぜかこの世界で一緒に旅をしている。
(あー……なんかもう、ツッコミが追いつかねぇんだよな)
拾った側の彼女、リリアは──どう見ても俺のアバターそのまま。
少し幼くなった気もするが、髪型も目の色も、顔つきも声も……まさに“作り込みの集大成”。
だが、なぜか記憶がほとんどない。
名前だけは「紙に書いてあった」と言っていたが、最強だった“あのリリア”のことなど知らない様子だ。
(こっちはまだ混乱してんのに、当人は「旅、たのし~♪」って……この能天気さ、勇者補正なのか運営の陰謀なのか、それとも単なるバグヒロインか)
「よいしょ……あっ、ちょっと滑る~……!」
リリアが湿った根っこを踏み外し、ぐらりとバランスを崩す。
その瞬間、森の奥から木霊するように小枝の折れる音が返り、わずかに鳥の声が途切れた。
バッグの中の俺はブンブン振られ、中綿が右脇に寄っていく。
(おい、こっちは完全に命綱ぶら下がり状態なんだぞ)
(首が変な方向向いてんの、分かってるか!?)
「ごめんねワン太。もうちょいだけ頑張って♡」
(が、がんばれって……俺は吊るされてるだけなんだけど!?)
(必殺技=『動かないで見守る』。……いやそれ、ただの置物スキルじゃねぇか!)
(っていうか俺、RPGで勇者やってたのに、今や“鞄アクセサリー”枠だぞ……)
(中綿ちぎれたらどう責任取るつもりだコイツ……縫えるのか? 絶対スキルLv1だろ……)
振り回されながら、俺はなんとかバランスを保とうと必死だった。
──が、その最中、ふと目に入ってしまった。
リリアのスカートの裾が、後ろのパンツに思いっきり挟まっているのを。
白い布地がひらりとのぞき、森の木漏れ日にさらされながら、彼女は気づかず前のめりに歩いていく。
(……いやいやいや! それ、俺の首の危機よりよっぽど緊急事態だろ!!)
(おい……ほんとに気づいてねぇのか。いやいや、マジで?)
(俺ぬいぐるみだから目逸らせないんだって! これ、ガチで強制視聴モードだろ……)
(……はぁ……森の幻想全部ふっとんだわ。今ここ、“パンツの森”だからな……)
(運営さん? これバグ報告案件っすよね? 勇者伝説が“パンツの章”に書き換わるとか……俺の履歴に残すなよマジで……)
──森の鳥たちが一斉に黙り、風すら止んだ気がした。
その沈黙の中で、俺の心臓だけがやけにうるさく響いていた。
木々の間から斜めに差す光が、ゆらりと揺れる緑を照らしていた。
鳥の声と、足元の湿った落ち葉の感触──空気には、土と苔の匂いがほんのりと混ざっている。
梢のあいだから射す光は霧に砕け、金色の粒となって宙を漂う。枝葉が揺れるたびに影が形を変え、世界そのものが呼吸しているようだった。
時おり、草葉の影で青白く光る胞子がふわりと浮かび、風に揺られて儚く散っていく。
その軌跡はまるで、誰かが空中に短い物語を描いては消していくようで、現実世界では決して見られない“幻想の呼吸”だった。
つい昨日、俺たちは森の奥にある小さな村を後にした。
村人たちは見送りながら「気をつけて」と笑っていたが、リリアは「たぶん大丈夫!」とだけ返し、元気いっぱいに森へ踏み出した。
──その声と笑顔が、いまも背中を押してくれている気がした。
「ねえワン太、もうちょっとで森を抜けるよ。……たぶん!♡」
(いや、“たぶん”って……お前また完全に道、分かってねぇだろ)
(……てか、俺がどうしてこんなぬいぐるみ姿で森の中にいるのかも、いまだに謎のままなんだけどな)
白いショルダーバッグの口から、俺──ぬいぐるみ“ワン太”は今日も顔だけ出している。
といっても中身は、ただの犬のマスコットじゃない。
俺の正体は、《エデン・フォース・オンライン》で世界を制した最強プレイヤー、犬飼颯太。
かつては“リリア”という美少女キャラを使い、魔王討伐から国家統一までやり遂げた伝説の男だ。
──で、今はそのリリアに拾われて、なぜかこの世界で一緒に旅をしている。
(あー……なんかもう、ツッコミが追いつかねぇんだよな)
拾った側の彼女、リリアは──どう見ても俺のアバターそのまま。
少し幼くなった気もするが、髪型も目の色も、顔つきも声も……まさに“作り込みの集大成”。
だが、なぜか記憶がほとんどない。
名前だけは「紙に書いてあった」と言っていたが、最強だった“あのリリア”のことなど知らない様子だ。
(こっちはまだ混乱してんのに、当人は「旅、たのし~♪」って……この能天気さ、勇者補正なのか運営の陰謀なのか、それとも単なるバグヒロインか)
「よいしょ……あっ、ちょっと滑る~……!」
リリアが湿った根っこを踏み外し、ぐらりとバランスを崩す。
その瞬間、森の奥から木霊するように小枝の折れる音が返り、わずかに鳥の声が途切れた。
バッグの中の俺はブンブン振られ、中綿が右脇に寄っていく。
(おい、こっちは完全に命綱ぶら下がり状態なんだぞ)
(首が変な方向向いてんの、分かってるか!?)
「ごめんねワン太。もうちょいだけ頑張って♡」
(が、がんばれって……俺は吊るされてるだけなんだけど!?)
(必殺技=『動かないで見守る』。……いやそれ、ただの置物スキルじゃねぇか!)
(っていうか俺、RPGで勇者やってたのに、今や“鞄アクセサリー”枠だぞ……)
(中綿ちぎれたらどう責任取るつもりだコイツ……縫えるのか? 絶対スキルLv1だろ……)
振り回されながら、俺はなんとかバランスを保とうと必死だった。
──が、その最中、ふと目に入ってしまった。
リリアのスカートの裾が、後ろのパンツに思いっきり挟まっているのを。
白い布地がひらりとのぞき、森の木漏れ日にさらされながら、彼女は気づかず前のめりに歩いていく。
(……いやいやいや! それ、俺の首の危機よりよっぽど緊急事態だろ!!)
(おい……ほんとに気づいてねぇのか。いやいや、マジで?)
(俺ぬいぐるみだから目逸らせないんだって! これ、ガチで強制視聴モードだろ……)
(……はぁ……森の幻想全部ふっとんだわ。今ここ、“パンツの森”だからな……)
(運営さん? これバグ報告案件っすよね? 勇者伝説が“パンツの章”に書き換わるとか……俺の履歴に残すなよマジで……)
──森の鳥たちが一斉に黙り、風すら止んだ気がした。
その沈黙の中で、俺の心臓だけがやけにうるさく響いていた。
20
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
