『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

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『第十話・1:ぬいぐるみの夜遊びと、封印の扉へ』

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その晩。
月明かりが石壁を銀色に照らし、教会の自室はしんと静まり返っていた。
……まあ要は、静かすぎて逆に落ち着かない、ってやつだ。

「──ほら、ワン太。こっちこっち!」

リリアが布切れをひらひら揺らすと、ワン太の右手が「ぴょこん」と跳ねる。
ふわふわの足で二歩、三歩とよちよち追いかけ──ぽすん、とベッドに転がった。

「きゃっ……! あはは、転んじゃった」

リリアがのぞき込むと、ワン太はわざと両手をばたばた振ってみせる。
その動きに合わせて、少女の笑い声が鈴みたいに弾けた。

「元気だね、ワン太。ほんとに……生きてるみたい!」

(……まさか俺が布切れ追いかけて遊ぶ日が来るとはな。……でも、悪くない)

抱き上げられると、胸元にぎゅっと押し当てられる。
小さな手がポケットを掴み、布越しに伝わる熱が少女の鼓動と重なる。
その笑顔を間近で見て──ワン太の胸の奥に、“生きてる”という実感が灯った。

「ねえワン太。今度は一緒に……クッキー食べようね♡」

(……いや俺、口ねえんだけど。てかクッキー、ちょっと食べたいのが悔しい……!)

リリアはくすっと笑って、ワン太をぎゅっと抱きしめた。
モフモフの体に伝わるぬくもりは、ただ温かいだけじゃなく──
まるで心臓の鼓動ごと、ひとつに重なるようだった。

(……ニートの頃じゃ想像もできなかった。モフモフのくせに、今の俺、確かに生きてる)

──そして翌朝。

石畳の廊下にひんやりとした風が流れ込み、カーテンがはらりと揺れる。
遠くで鐘の音がくぐもって響いた。

「……セラフィーさん?」

声をかけると、机の前で魔術書を閉じた彼女が顔を上げた。
「あら、早起きね、リリア。ちょうどよかったわ」

机の上から一枚の羊皮紙を取り上げる。端が焦げ、古いインクがわずかに滲んだ地図。
指先が示したのは──森の奥、《神域の残響》。

「本来なら調査には儀式許可が必要なのだけど──」
「昨日から、そこに妙な“魔素の揺らぎ”が観測されていてね。」
まるで“誰か”を呼び込むような……扉の向こうから声が響いてくるみたいなの」

(……出たよ、不穏ワード。昨夜のほんわか空気、返してくれ……)

セラフィーの穏やかな笑みの奥に潜むのは、ただの心配じゃない。
──“ぬいぐるみの中の本物”を知る者としての探りの光。

「揺らぎ……?」

「ええ。魔素が、“誰かを探してる”ような振動をしていたの」
「と言っても、私も正直うまく説明できないんだけどね」
そう言って、彼女は小さく肩をすくめた。

(……“誰か”って、だいたいロクなやつじゃないよな? しかも今の言い方……俺か?)

セラフィーは優しく微笑みながらも、瞳の奥は鋭く澄んでいた。

「正式な任務じゃないわ。でも、“あなた”にしか開けない扉がある。
それが目覚めれば──神々の最後の意思が、必ず誰かに届くはずよ」

「……探してる、って……どういう意味ですか?」

「ふふ。むしろ、“あなた”にしか選ばれない道、なのよ」

さらりとそう言って、彼女は地図をリリアに渡した。

「特別に“推薦調査”扱いにしておくわ。少し歩くけれど……あなたなら一人で行けるでしょう?」

リリアは胸ポケットのワン太を見下ろす。
布越しに、小さなぬくもりが軽く動いた。

「ううん。ワン太と二人で行きます!」

「……そう」

セラフィーは静かに頷いた。
その胸の奥で──かつて“破壊神”のように世界を揺るがしたリリアの面影と、
目の前で胸を張る無垢な少女の姿を重ね合わせる。
残っているのは力なのか、それとも心なのか──確かめる時が来たのだ。

「じゃあ、お願いね。“気をつけて”なんて、もう言わない」
「だって、“あなた”が行くなら──必ず扉は開くはずだから」

リリアは、その言葉の意味を最後まで理解できなかった。
けれど胸の奥が熱くなり、自然と背筋が伸びる。
「……行ってきます」──そう静かに告げた。

(……おいおい。昨夜ぬいぐるみ鬼ごっこしてた俺らが、今日こんなフラグ濃厚ミッション? ギャップで胃が痛ぇ)
(まぁいいさ。俺が横にいるんだ。絶対、こいつをひとりにはしねぇ)

──だからこそ。
胸の奥をかすめる、この嫌なざわめきだけはごまかせなかった。

(……扉だけで済めばいいけどな。……まあ、そうはいかねぇんだろうけど)

ぬいぐるみの中で、颯太はぼそりとつぶやいた。
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