『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

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『第二十二話 • 1 : 紅晶の砦へ──夜の道行き』

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王都の喧騒を背に、一行は夜の街道を北へと進んでいた。
祭りの明かりが遠ざかり、残るのは草を踏む音と虫の声だけ。
紅くにじんだ月が森を染め、空気はひどく冷たかった。

リリアは振り返り、仲間に向かって堂々と告げる。
「……砦だろうと怪物だろうと、私が斬り拓くから安心して!」

(よし、言った!火力はマジで最強、でも防御はワン太にほとんど吸い取られてるから紙装甲!一撃でオワタ確定!!だけどな……)

ワン太が“ぽふっ”と跳ね、リリアの胸元を「とん」と叩く。
──まるで「任せろ」と言っているかのように。

(いやお前が原因だよ!? 俺の防御力吸ってるくせに“任せろ”とか、どの口──いやどの前足で言うんだ!!)

セラフィーは目を細め、呆れ半分で微笑んだ。
「……ほんと、あなたってブレないわね。無茶ばかりなのに」

「勇者だからね」
リリアは胸を叩いて、あっけらかんと笑った。

(出たよ“勇者だから”理論! 自分で言って俺が一番疑ってるやつ!!)

ブッくんがすかさず噛みつく。
「勇者やからってなんでも許されると思っとるんか!? 王家の菓子を胃袋に祀った罪状は消えんぞ!!
 後世の歴史書に“勇者、胃袋封印管理事件”って載るんや! 黒歴史不可避や!!」

ワン太が“ぽふん”と跳ねて、その表紙にどすんと座り込んだ。
──まるで「落ち着け」と諭しているかのように。

「ぐえっ!? いだだだっ! ぬ、ぬいぐるみにまでマウント取られるとか……屈辱やぁぁ!」

セラフィーは冷静に補足した。
「……事実だから否定できないのがまた痛いわね」

「ぐっ……ぐぬぬぅぅ!」
ブッくんはワン太にしがみつきながら、墨をぽたぽた垂らしてぼやいた。
「なぁ……そもそもおかしないか? こんな死地へ向かっとるのに……なんで誰も暗ぁ~ならんのや。
 ワイの呪いのページ、全然黒インク溜まらんのやぞ……!」

セラフィーは軽く肩をすくめる。
「それは健康的でいいじゃない。呪いゼロの方が平和でしょ?」

「平和やない! 飯抜きと同じや! ワイ、もともとは“呪いの王”やったんやで!?
 戦場で兵士が死ねば“恨み”を一行、将が倒れれば“血涙”を一章、積み上げてな……
 そうやって黒々と分厚い魔典になってったんや!
 それが今は……お前らの能天気トークで、ページ真っ白や!!……ピクニックの落書き帳やぁぁ!」

セラフィーが眉をひそめる。
「……甘味紀行、の間違いじゃない?」

「ぐわぁぁ!! 最悪や!! 呪いの王が“スイーツ本”扱いやぁぁ!!」

リリアは肩をすくめて笑った。
「でもみんなに読まれるなら、それも悪くないんじゃない?」

「ポジティブすぎるやろぉぉ!!」

(いや正直ちょっと読みたいぞ“呪いの王のスイーツ紀行”……!)

セラフィーは冷たい目をしながらも、微かに優しさをにじませて言った。
「……でも、そうして笑っていられるのも……あなたが生き延びた証じゃない?
 呪いが溜まらなくても、ここに立っていること自体がね」

「……え、なにそれ……ちょっと沁みるやん……」
ブッくんは墨のしみをじわじわ広げながら、頁をもじもじとめくった。

ワン太が“ぽふっ”と跳ね、前足でブッくんの表紙にちょこんと座った。
──まるで「ほら、褒めてもらえたじゃん」と冷やかしているように。

「んっ!? なんやワイにまでツッコミ入れてくんのか!?」

ブッくんはさらに声をひそめる。
「……それになぁ。王様、ほんまは怒っとったんやないか?
 聖ザッハを勇者に食われて……
 あの笑み、裏では拳握っとるに決まっとるやろ……!」

セラフィーは無表情のまま、静かに返す。
「……あり得るわね。王の笑みは、仮面にもなるから」

「せやろ!? しかもあれ、王家専用の祭菓子やぞ!? 本来は神殿に祀るもんやぞ!?
 それを勇者が丸ごと胃袋に奉納するとか、どう考えても罰当たりやろ!」

(おい!! 国家反逆フラグ、勝手に立てんな!俺が真っ先に処刑台コースだぞ!?)

ワン太がそのおなかに前足を「ぺち」と置く。
──まるで「気にすんな」とでも言っているように。

セラフィーは短く息を吐き、わずかに微笑む。
「……まあ、どんなに怒られても私が必ず守るわ。たとえ紙装甲でも」

「……っ!」
リリア──いや颯太の胸が、不意に熱くなった。
無茶ばかりしてきたのに、“守る”なんて言葉をかけられるのは……妙に胸に刺さった。

(……セラフィー……今さらっと守るって言ったよな!? 俺、火力最強なのに守られる勇者ってどういう立ち位置だよ!!)

胸の奥がざわついた、その直後──

ブッくんが絶叫した。
「ワイもうアカン! 呪いも溜まらん! 尊厳もない! 勇者の残飯担当にされる未来しか見えん!!」

「……でも、誰より騒がしく生きてるのはあんたよ」
セラフィーが淡々と告げる。

「ぐぬぬ……否定できんのが腹立つぅぅ!」
ブッくんがページをばたつかせて悔しそうにのたうつ。

(……確かに、騒がしさじゃコイツが一番だ。けど……冷静に考えたら、他のメンツも十分おかしいよな?)
(勇者=無敵火力、でも防御豆腐。
 ワン太=防御力最強、しかも意思ありげに動くぬいぐるみ。
 呪い本=呪い攻撃できるらしいけど、今んとこ“スイーツ係&ツッコミ担当”。
 セラフィー=全部見透かしてて一番まとも。
 だけど……どう考えてもバランス崩壊PTだろ!!)

──その時。
森の奥から、不気味な響きがかすかに届いた。
石を砕くような、心臓を軋ませるような音。
遠くの闇に、赤い光がちらりと滲んで見える。
それは血を固めたような結晶の輝き──紅晶の砦。

木々の間に赤光が揺れ、まるで森そのものが呼吸しているかのように波打つ。
その光は鼓動と共鳴し、仲間たちの胸を不安に震わせた。

リリアはワン太を抱き直し、きっぱりと宣言する。
「……見えたね。紅晶の砦! よし、行こう!」

(行こうじゃねぇぇ!! 俺の口から出てるけど、防御ゼロの豆腐ビルドで突撃とか自殺プレイだぞ!?
 ……まあ、きっとどうにかなるんだろ。勇者リリアだから、ってな。
 ……いや、言ってて一番信用してねぇの俺自身なんだけど!!)

夜風は冷たく、胸の奥には恐怖が渦巻いていた。
けれどその声は仲間の背を押し、赤き結晶の砦へと足を進めさせていった。

(……にしてもさ。なんでわざわざ夜出発なんだよ。
 祭りで酔っ払いにまで手振られて、笑顔で見送られて……
 これ“勇者さま、お疲れ様でした!”じゃなくて、“ていよく追い出されました”感あるんだけど!?)
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