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『第二十五話・2 : 黄金と黒の勇者──深爪から始まる世界崩壊』
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──轟音と共に闇と光が激突し、大地ごと震わせた。
その只中から、まばゆい人影が姿を結んでいく。
「……っ、ここは……」
瞼を上げた瞬間、目の前に広がっていたのは切り立った岩壁に囲まれた谷だった。
凍りついた地面の上、仲間たちが剣を握りしめ、黒い霧を纏う青年――魔王の息子レオと対峙している。
「リリア……!」
セラフィーの声が震え、仲間たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
颯太は息を吸い込んだ。
胸の奥にはまだ現実を棄てた痛みが残っている。だが、それ以上に――
仲間の目に映る「勇者リリア」としての自分が、確かにここに立っていた。
「リリア……本当に……!」
セラフィーの剣先が震え、張り詰めていた瞳にかすかな光が宿る。
兵士たちも次々と声を上げた。
「よ、よかった……もう駄目かと思いました……!」
「勇者さま……! 神は見捨ててなかった!」
その声に颯太は胸を詰まらせた。
現実を棄てた痛みはまだ消えない。だが、この瞬間だけは――
自分がここに立つ意味が、確かにあると感じられた。
「……遅れて、ごめん」
声は震えていた。それでも、仲間に届くように言葉を吐き出す。
「……でも、どうして……」
セラフィーが息を震わせ、剣を握る手を強く握り直した。
「あなた、あの時……意識を失って……もう目を開けないかもしれないって……」
仲間たちの瞳が、驚きと祈りを込めてリリアに向けられる。
誰もが「なぜ再び立ち上がれたのか」と問うていた。
リリア――颯太は小さく息を吐き、仲間たちを見渡す。
「……わたしには、この世界で……必要としてくれる人たちがいる。
その声が、わたしを……呼び戻してくれたんだ。
そもそもレベル999のわたしが、そんな簡単に死ぬわけないでしょ?」
言葉に「わたし」を続けた瞬間、胸の奥がざらついた。
(……くそ、久しぶりに“女の喋り方”すると、やっぱ疲れるな……!)
それでも、仲間たちの瞳に映るのは紛れもない勇者リリア。
颯太はその重みから、もう逃げられないと悟った。
いや、逃げないと誓った。
静かに紡がれた言葉に、セラフィーの瞳が揺れる。
「……リリア……」
その瞬間、彼女の頬に熱い雫がこぼれた。
冷たい氷霧の中で輝くその涙は、絶望ではなく――再び勇者を得た安堵の証だった。
しかし、谷に走るざわめきはそれだけでは終わらなかった。
兵士の一人がかすれ声を漏らす。
「……二人……リリア様が……?」
その言葉に、皆が息を呑む。祈るように首を振る者もいたが、否応なく事実は突きつけられていた。
黄金の光から還った“勇者リリア”。
そして、仮面の中から歩み出た黒髪の“リリア”。
ここに、黄金と黒、二人のリリアが並び立っていた。
(……誰だ?こいつ?)
(ん……? 待てよ……あれ、そういや昔、俺……リリアで分身術の実験とかして遊んだことあったな?)
(しかも“わかりやすいように黒髪”っていう安直な設定で作ったような……)
(……ってことは……これ、分身くんじゃねーか!! 間違いない!!)
(完全に忘れてた!! ほんの気まぐれで作ったのに……まだ生きてんの!?)
(やばいやばい、俺の無責任案件すぎるだろ!)
(だけど、なんで今さらこいつ、ドヤ顔で出てきてんだよ!こっちが困るわ!!)
黒髪リリアは、颯太の心の声に答えるはずもなく、ただ無機質に谷の冷気をまとい、剣を握っていた。
その沈黙が、余計に不気味さを募らせる。
「……あなた……わたしの分身……」
「どうやって……今まで生き延びてきたの?心配したのよ。」
(まるっきり存在忘れたなんて、言えない雰囲気だぞ?これ。完全に俺が悪者ポジじゃねえか。しかもなんか怒ってるし。)
黒髪のリリアは、嗤った。
「どうやって? 笑わせんなよ。本体様が好き放題やって、敵ばっか残して消えやがったせいで……俺は毎晩、刃の気配を枕にして生き延びたんだ!」
「食うものがなくて魔獣の血をすすり、死んだ仲間の影に潜んで朝を待った。……それが三年だ」
「皮肉なもんだ……そんな俺が、最近じゃこの国の近衛に採用されてよ。
“勇者の影を継ぐ者”なんて持ち上げられながら、毎日剣を振るってる。
笑えるだろ、本体様に忘れられた分身が、国に仕えてんだぜ」
(完全な男言葉かよ。俺そのものじゃねえか! なんで分身の方が“素”出してんだよ!)
低く荒んだ声が、氷を踏み砕くように響いた。
「分身? 笑わせんなよ。最初の俺は、てめえの十分の一も力がなくて、ただの抜け殻みたいなもんだった。
何も持たず、敵だけ押しつけられて……その地獄で生き残るしかなかった。だから、生きるために何でもやった」
黒リリアの瞳が、まるで凍てついた刃のように細められる。
颯太リリアは息を呑んだ。
(いやいやいや、お前、本当は“百分の一以下”、深爪した時の爪でたまたま作ったやつなんだけど!?
そんなん口が裂けても言えねえ!
真実は墓まで持ってくしかねえ!!)
黒リリアは剣を突きつけるように構え、言葉を叩きつける。
「もう“分身”じゃねえ。俺は俺だ。てめえに忘れられても、てめえの代わりにこの世界で生き続けた、俺自身の生き様がある」
谷を満たす空気が、さらに凍りつく。
黄金と黒、二人のリリアの視線が激突し、仲間たちの喉がごくりと鳴った。
(……うん、やっぱり俺の人生、“深爪から始まる世界崩壊”ってタイトルで確定しそうだわ……)
──緊張と笑いがせめぎ合う中、谷は静かに息を止めていた。
その只中から、まばゆい人影が姿を結んでいく。
「……っ、ここは……」
瞼を上げた瞬間、目の前に広がっていたのは切り立った岩壁に囲まれた谷だった。
凍りついた地面の上、仲間たちが剣を握りしめ、黒い霧を纏う青年――魔王の息子レオと対峙している。
「リリア……!」
セラフィーの声が震え、仲間たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
颯太は息を吸い込んだ。
胸の奥にはまだ現実を棄てた痛みが残っている。だが、それ以上に――
仲間の目に映る「勇者リリア」としての自分が、確かにここに立っていた。
「リリア……本当に……!」
セラフィーの剣先が震え、張り詰めていた瞳にかすかな光が宿る。
兵士たちも次々と声を上げた。
「よ、よかった……もう駄目かと思いました……!」
「勇者さま……! 神は見捨ててなかった!」
その声に颯太は胸を詰まらせた。
現実を棄てた痛みはまだ消えない。だが、この瞬間だけは――
自分がここに立つ意味が、確かにあると感じられた。
「……遅れて、ごめん」
声は震えていた。それでも、仲間に届くように言葉を吐き出す。
「……でも、どうして……」
セラフィーが息を震わせ、剣を握る手を強く握り直した。
「あなた、あの時……意識を失って……もう目を開けないかもしれないって……」
仲間たちの瞳が、驚きと祈りを込めてリリアに向けられる。
誰もが「なぜ再び立ち上がれたのか」と問うていた。
リリア――颯太は小さく息を吐き、仲間たちを見渡す。
「……わたしには、この世界で……必要としてくれる人たちがいる。
その声が、わたしを……呼び戻してくれたんだ。
そもそもレベル999のわたしが、そんな簡単に死ぬわけないでしょ?」
言葉に「わたし」を続けた瞬間、胸の奥がざらついた。
(……くそ、久しぶりに“女の喋り方”すると、やっぱ疲れるな……!)
それでも、仲間たちの瞳に映るのは紛れもない勇者リリア。
颯太はその重みから、もう逃げられないと悟った。
いや、逃げないと誓った。
静かに紡がれた言葉に、セラフィーの瞳が揺れる。
「……リリア……」
その瞬間、彼女の頬に熱い雫がこぼれた。
冷たい氷霧の中で輝くその涙は、絶望ではなく――再び勇者を得た安堵の証だった。
しかし、谷に走るざわめきはそれだけでは終わらなかった。
兵士の一人がかすれ声を漏らす。
「……二人……リリア様が……?」
その言葉に、皆が息を呑む。祈るように首を振る者もいたが、否応なく事実は突きつけられていた。
黄金の光から還った“勇者リリア”。
そして、仮面の中から歩み出た黒髪の“リリア”。
ここに、黄金と黒、二人のリリアが並び立っていた。
(……誰だ?こいつ?)
(ん……? 待てよ……あれ、そういや昔、俺……リリアで分身術の実験とかして遊んだことあったな?)
(しかも“わかりやすいように黒髪”っていう安直な設定で作ったような……)
(……ってことは……これ、分身くんじゃねーか!! 間違いない!!)
(完全に忘れてた!! ほんの気まぐれで作ったのに……まだ生きてんの!?)
(やばいやばい、俺の無責任案件すぎるだろ!)
(だけど、なんで今さらこいつ、ドヤ顔で出てきてんだよ!こっちが困るわ!!)
黒髪リリアは、颯太の心の声に答えるはずもなく、ただ無機質に谷の冷気をまとい、剣を握っていた。
その沈黙が、余計に不気味さを募らせる。
「……あなた……わたしの分身……」
「どうやって……今まで生き延びてきたの?心配したのよ。」
(まるっきり存在忘れたなんて、言えない雰囲気だぞ?これ。完全に俺が悪者ポジじゃねえか。しかもなんか怒ってるし。)
黒髪のリリアは、嗤った。
「どうやって? 笑わせんなよ。本体様が好き放題やって、敵ばっか残して消えやがったせいで……俺は毎晩、刃の気配を枕にして生き延びたんだ!」
「食うものがなくて魔獣の血をすすり、死んだ仲間の影に潜んで朝を待った。……それが三年だ」
「皮肉なもんだ……そんな俺が、最近じゃこの国の近衛に採用されてよ。
“勇者の影を継ぐ者”なんて持ち上げられながら、毎日剣を振るってる。
笑えるだろ、本体様に忘れられた分身が、国に仕えてんだぜ」
(完全な男言葉かよ。俺そのものじゃねえか! なんで分身の方が“素”出してんだよ!)
低く荒んだ声が、氷を踏み砕くように響いた。
「分身? 笑わせんなよ。最初の俺は、てめえの十分の一も力がなくて、ただの抜け殻みたいなもんだった。
何も持たず、敵だけ押しつけられて……その地獄で生き残るしかなかった。だから、生きるために何でもやった」
黒リリアの瞳が、まるで凍てついた刃のように細められる。
颯太リリアは息を呑んだ。
(いやいやいや、お前、本当は“百分の一以下”、深爪した時の爪でたまたま作ったやつなんだけど!?
そんなん口が裂けても言えねえ!
真実は墓まで持ってくしかねえ!!)
黒リリアは剣を突きつけるように構え、言葉を叩きつける。
「もう“分身”じゃねえ。俺は俺だ。てめえに忘れられても、てめえの代わりにこの世界で生き続けた、俺自身の生き様がある」
谷を満たす空気が、さらに凍りつく。
黄金と黒、二人のリリアの視線が激突し、仲間たちの喉がごくりと鳴った。
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──緊張と笑いがせめぎ合う中、谷は静かに息を止めていた。
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