夢見るネコの私とあなた

こひな

文字の大きさ
4 / 39

しおりを挟む


仙川と話した翌日から急に北海道へ出張になり、今日久々に営業部へ顔を出す。


及川さんのほんわり笑顔が見たいと思っていたあの時の『明日』は来ない事を、今朝の騒ぎで知った。


「私もう我慢できません!」


営業部のフロアで対峙する女性二人。
一人は…及川さんと同期の子と…………。


確認してため息をつきたくなった。
沙也加か……。
……そうなのだ。


あの我儘お嬢様は、自分が一番じゃないと気が済まないくせに、仕事が出来ない。
そのくせプライドだけは高く、努力を嫌う典型的なお嬢様だ。


「世間を学べ」と社長である父親に、この富川製作所の営業部へ放り込まれたらしいが、未だ効果なし…というか、人材的には損をしているんじゃないかというくらい、周囲が疲弊している。


言わずもがな全ては、出来ないのに出来るふりをして、帳尻を合わせる為に周囲に押し付ける沙也加が悪い。


社長も社長で何を考えているのか……。
親バカの考える事はよく分からない。


「私見たんです。昨日、及川さんのこと階段で突き飛ばしたの富川さんですよね?しらばっくれてもダメなんですから!私以外にも富川さんの声と、及川さんがのを見てるんですから!」


泣きながら叫ぶように話す内容に、唖然とする。え?今及川さんって?ってどういうこと?


話が見えず訳が分からないので、近くにいる子に声を掛ける。


「ごめん、ちょっといい?これってどういう事?」


「昨日もいつも通り富川さんが、及川さんのこと虐めててたみたいで…資料が入った箱を持たせて最上階まで行かせたみたいです。同期の子が、手伝おうと思ってそのあとを追いかけて行ったらしいんですけど、その時に…」


言い争いのような声が聞こえて、そのあと螺旋階段の隙間を縫うように及川さんがらしい。


「で、及川さんは?」


肝心の及川さんのことが分からず、聞くと…


「昨日、病院に救急搬送されたらしいけど、そのあとは……」


病院に搬送された以降の事は聞いていないという彼女に礼を言って、人事部に向かおうとしたところで、仙川に声を掛けられる。


「おい、どこ行くんだ」


無視して進もうとする俺を押し留め、会議室に入る。


「人事部に行く気だったんだろ?」


俺の行動を読んだような事を言う。


「及川さん、K大病院に運ばれたらしいぞ。ちなみに…意識不明の重体だ」


身内でもないお前が行っても、面会出来ないぞという仙川の忠告も聞かず、足は病院に向く。


「わりっ、今日は有給出しといてくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...